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上場株式等の取得費がわからないときは?4つの確認方法と名義書換日の注意点

上場株式等の取得費がわからないときは?4つの確認方法と名義書換日の注意点

取得費がわからなくても、すぐに0円や売却代金の5%にする必要はありません

 古くから保有している株式や相続した株式では、購入時の取引報告書が見つからず、取得費がわからないことがあります。

 しかし、取引報告書がないからといって、直ちに取得費を0円としたり、売却代金の5%で申告したりする必要はありません。証券会社の記録や株式異動証明書などから、取得価額を確認・推定できる場合があります。

 株式の譲渡所得等の金額は、基本的に「売却代金-取得費-売却手数料等」で計算します。購入した株式の取得費には、購入代金だけでなく、購入手数料や購入時の名義書換料なども含まれます(所法38①、所令109①五、措通37の10・37の11共-10)。

 以下では、日本の居住者である個人が、主に一般口座等で保有する上場株式を売却する場合を説明します。特定口座内で売却した株式は証券会社が取得費等を計算する仕組みであり、後述する5%の概算取得費の取扱いにも違いがあります。

上場株式等の取得価額を確認する4つの方法

 国税庁は、取得価額の確認方法として、次の4つを案内しています(国税庁「上場株式等の取得価額の確認方法」)。

1.取引報告書などで確認する

 購入時に証券会社などから交付された取引報告書を確認します。取引残高報告書、月次報告書、受渡計算書などでも、取得価額が確認できる場合があります。

 書面だけでなく、電子交付された書類や過去に保存した取引データも探してみましょう。

2.証券会社の顧客勘定元帳で確認する

 手元に資料がない場合は、購入した証券会社に、顧客勘定元帳などの記録が残っていないか問い合わせます。

 国税庁の案内では、過去10年以内に購入したものであれば、その証券会社などで確認できるとされています。また、10年より前の取引情報が任意に保存されている場合もあります。購入から10年を超えているという理由だけで、確認を諦める必要はありません。

 他の証券会社から移管した株式であれば、移管前の証券会社の記録も確認対象になります。

3.本人の手控えで確認する

 日記帳、手帳、預金通帳などの記録によって取得価額がわかれば、その記録を基に計算できます。

 また、取得価額そのものがわからなくても、日記帳などから取得時期を確認できる場合には、その時期を基に取得価額を算定する方法も国税庁から示されています。記録の日付、銘柄、株数、支払額などの対応関係を整理しておくことが大切です。

4.名義書換日と当時の株価(終値)から推定する

 上記の資料で確認できない場合は、発行会社や株主名簿管理人である信託銀行等に、株主名簿・複本・株式異動証明書などを確認します。株券電子化後も手元に残っている古い株券の裏面が、手掛かりになる場合もあります。

 これらの資料から名義書換日を調べて取得時期を把握し、その時期の相場を基に取得価額を算定します。国税庁の資料のフローチャートでは、証券会社のデータベースや当時の新聞記事等による「終値」の確認が示されています。

 この方法は、取得価額を直接確認できない場合に、取得時期の手掛かりと当時の株価を使って推定するものです。どの名義書換日でも、その日の株価を取得価額にできるわけではありません。

 令和元年11月28日裁決(裁事117集)は、「有償取得されたことを前提に、名義書換日の相場(終値)で取得価額を算定することも明確かつ簡便な推定方法として合理性を有する取得価額の把握方法であると解される」と判断しています。

名義書換日の終値による推定を認めた裁決

 令和元年11月28日裁決では、相続した上場株式の取得費について、被相続人への名義書換日とその日の終値を使った推定の合理性が認められました(裁事117集)。

 この事案では、課税庁は、取得価額が判明しない株式について、売却代金の5%相当額である概算取得費を用いて更正処分をしました。これに対し、納税者は、名義書換日とその時期の終値を基に、総平均法に準ずる方法で取得費を算定すべきであると主張しました。

 審判所は、被相続人がその株式を有償で取得したものと推認し、顧客勘定元帳、有価証券明細簿、名義書換代理人からの回答等を検討しました。その上で、名義書換日が判明した銘柄については、その日の終値を基に取得価額を算定する方法にも合理性があると判断しました。

 ただし、5%の概算取得費の方が高くなる銘柄や、最初の名義書換日が判明しなかった銘柄については、概算取得費を用いています。取得費を再計算した結果、更正処分等の一部が取り消されました。

 この裁決は、相続した株式でも、被相続人の取得時期に遡って資料を確認すれば、取得費を推定できる場合があることを示しています。一方、相続人への名義書換日の株価を取得費に置き換えることを認めたものではありません。

名義書換日を使う前に確認したい注意点

相続・贈与による名義書換日と、有償取得時の名義書換日を区別する

 通常の相続・遺贈・贈与により取得した株式の取得費は、原則として、被相続人や贈与者の取得費を引き継ぎます。相続税・贈与税の申告に使った評価額が、そのまま売却時の取得費になるわけではありません(所法60①一)。

 したがって、相続人や受贈者に名義を書き換えた日の株価を、そのことだけを理由に取得費とすることはできません。確認するのは、原則として、被相続人や贈与者がその株式を取得した際の資料です。

 なお、限定承認に係る相続等や、NISA口座から相続により払い出された株式等には別の取扱いがあります。例えば、被相続人のNISA口座から相続により払い出された上場株式等は、原則として、相続開始日の終値に相当する金額で取得したものとみなされます(所法60④、措法37の14、国税庁「No.1464 譲渡した株式等の取得費」)。

実質株主通知・総株主通知の日を、購入日と取り違えない

 古い株式異動証明書などには、「実質通知」「実質株主通知」と記載されていることがあります。これは、旧保管振替制度で、基準日等の実質的な株主を発行会社に知らせるために行われていた通知です。

 現在の振替制度でも、総株主通知に基づいて、基準日等の株主名簿が作成されます。こうした通知は、一定の日の保有状況を示すものであり、その日が実際の購入日であることを当然に示すものではありません。

 通知日や株主名簿に記録された日だけで取得時期を決めず、株数が増減した理由や、その前後の取引・保有記録も確認しましょう。

名義書換日が休日で終値がない場合

 名義書換日とされる日が休日などに当たり、その日の終値がない場合があります。

 相続税・贈与税の上場株式の評価では、課税時期に終値がない場合の取扱いが定められています。しかし、これは相続税等の評価のための定めであり、所得税の取得価額の推定に、そのまま適用できるとは限りません(評基通171)。

 この場合は、まず証明書の日付や異動理由を確認し、取得の経緯、前後の株価、株式分割等の有無を踏まえて、採用する価格とその理由を説明できるようにします。判断が難しいときは、資料と計算案を整理して、所轄税務署等に確認することが考えられます。

 前後の終値のうち低い方を採用すれば必ず認められる、という取扱いはありません。

取得費を確認できない場合は、売却代金の5%を使う方法もあります

 一般口座等の株式について、取得費がわからない場合には、同一銘柄の株式等ごとに、売却代金の5%相当額を取得費とすることが認められています。これを概算取得費といいます(措通37の10・37の11共-13)。

 また、この取扱いは、取得費が不明な場合だけに限られません。実際の取得費が売却代金の5%相当額を下回る場合にも、5%相当額を取得費として計算できます。

 例えば、一般口座のある銘柄の株式を300万円で売却し、取得費が不明で、売却手数料が2万円だった場合は、次のように計算します。

項目金額
売却代金300万円
概算取得費(300万円×5%)15万円
売却手数料2万円
譲渡所得等の金額(300万円-15万円-2万円)283万円

 5%の概算取得費を使う場合でも、売却手数料等は別途差し引きます。一方、購入手数料など取得費を構成する費用を、概算取得費に重ねて加算することはできません。

 詳しくは、株式の概算取得費(5%)と更正の請求に関する記事をご覧ください。

特定口座内で売却した株式には、5%の概算取得費を使えません

 特定口座内で売却した上場株式等の取得費等は、証券会社が特定口座の記録に基づいて計算します。納税者が確定申告をする際に、有利だからという理由で5%の概算取得費に置き換えることはできません(措法37の11の3①、措通37の11の3-14)。

 令和6年4月22日裁決でも、源泉徴収ありの特定口座内で売却した株式について、申告時に概算取得費を使うことは認められませんでした(裁事135集)。

複数回の購入・株式分割・従業員持株会にも注意

同じ銘柄を複数回取得している場合

 同一銘柄の株式等を複数回取得し、その一部を売却した場合は、原則として、総平均法に準ずる方法で1株当たりの取得価額を計算します。購入履歴の一部だけを取り出して、任意の取得単価を使うことはできません(所法48③、所令118①)。

 また、同じ銘柄でも、特定口座内の株式と特定口座外の株式は、取得費の計算を区分します(措通37の11の3-1)。

 詳しくは、同一銘柄の株式を複数回取得した場合の取得費の記事をご覧ください。

株式分割・併合や合併などがあった場合

 古い資料の株数と現在の株数が違う場合は、株式分割・併合や合併等の履歴も確認します。これらにより、1株当たりの取得価額の調整が必要になることがあります。

 過去の株価を調べる際は、表示されている株価が当時の実際の価格なのか、株式分割等を反映した調整後の価格なのかも確認し、計算に使う株数と対応させましょう。

従業員持株会を通じて取得した株式

 従業員持株会を通じて取得した株式は、投資等報告書や退会・引出精算書などに記載された簿価単価を基に取得費を計算できます。これらの資料がない場合などには、名義書換日の終値を基に計算する方法も国税庁から示されています(国税庁「従業員持株会を通じて取得した株式の取得費等」)。

 詳しくは、従業員持株会等を通じて取得した株式の取得費等の記事をご覧ください。

昭和27年以前に取得した非常に古い株式

 譲渡所得の取得費の計算の基礎に、昭和27年12月31日以前に取得した有価証券の取得に要した金額が含まれる場合には、特別な計算規定があります。

 当時の上場株式等については、昭和27年12月中の公表最終価格等の平均額を基礎として計算します。ただし、その金額より実際の取得に要した金額の方が高いことを証明できる場合には、その実際の金額を使います(所法61④、所令173)。

 また、昭和47年以前の相続・贈与等を経ている場合には、当時の取得費の引継ぎに関する規定も確認する必要があります(所基通60-1)。

申告のために残しておきたい資料

 取得価額を確認・推定した場合は、使用した資料と計算の過程を一緒に保存しておきましょう。

  • 証券会社の取引記録、顧客勘定元帳、本人の手控え
  • 株式異動証明書など、名義書換日と異動理由がわかる資料
  • 当時の終値を確認した株価資料と、その価格を採用した理由
  • 購入・売却・株式分割等の履歴と、取得費の計算明細
  • 相続・贈与の場合は、被相続人や贈与者の取得を確認できる資料

参考資料・根拠

  • 国税庁「上場株式等の取得価額の確認方法」
  • 国税庁「No.1464 譲渡した株式等の取得費」
  • 国税庁「No.1476 特定口座制度」
  • 国税庁措通37の10・37の11共-10、共-13、措通37の11の3-1、37の11の3-14
  • 令和元年11月28日裁決(裁事117集)
  • 令和6年4月22日裁決(裁事135集)
  • 国税庁評基通171、所基通60-1
  • 国税庁「従業員持株会を通じて取得した株式の取得費等」
  • 参考:大阪国税局資産課税課「資産課税関係 誤りやすい事例(株式等譲渡所得関係 令和7年分用)」2頁・事例2-3〔国税内部資料〕

 ※2026年11月3日時点で確認した法令・公表資料等に基づいています。

大阪国税局資産課税課、資産課税関係誤りやすい事例(株式等譲渡所得関係 令和7年分用)より

(誤った取扱い)
 取引報告書を無くしてしまい、取得価額が分からないので0円とした。

(正しい取扱い)
 次の方法によって算定した取得価額によることができる。
1 取引報告書を保存していない場合で、過去10年間に証券業者で購入したものは、その証券業者で確認の上、取得価額を算定する。
2 取引報告書又は1の方法により確認できない場合で、日記帳、預金通帳などの本人の手控えにより取得価額が分かればそれによる。
3 2によっても確認できない場合には、その上場株式等の名義書換時期を調べてその時の相場により取得価額を算定する。
 なお、譲渡価額の5%の方が有利な場合は、これを取得費として計算して差し支えない(措通37の10・37の11共-13)。

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