概要
上場株式等の取得価額が不明な場合の取得価額の確認方法として以下の4つの方法が国税庁ホームページにおいて示されています(国税庁HP「上場株式等の取得価額の確認方法」)。
(イ)証券会社などの金融商品取引業者等から送られてくる取引報告書で確認
取引報告書以外に、口座を開設する金融商品取引業者等が交付する取引残高報告書(上場株式等の取引がある場合に交付)、月次報告書、受渡計算書などの書類で確認できる場合があります。
(ロ)取引した金融商品取引業者等の「顧客勘定元帳」で確認
過去10年以内に購入したものであれば、その金融商品取引業者等(証券会社等)で確認できます。
(ハ)取得者本人の手控え
日記帳や預金通帳などの手控えによって取得価額が分かれば、その額によります。日記帳などの手控えで取得時期のみが確認できる場合には、その取得時期を基に取得価額を算定しても差し支えありません。
(ニ)名義書換日を調べて取得時期を把握し、その時期の相場を基に取得価額を算定
例えば、発行会社(株式の発行会社が証券代行会社に名義書換業務を委託している場合にはその証券代行会社)の株主名簿・複本・株式異動証明書などの資料を手がかりに株式等の取得時期(名義書換時期)を把握し、その時期の相場を基にして取得費(取得価額)を計算することができます。
令和元年11月28日裁決(裁事117集)は、「有償取得されたことを前提に、名義書換日の相場(終値)で取得価額を算定することも明確かつ簡便な推定方法として合理性を有する取得価額の把握方法であると解される」と判断しています。
よって、上記方法(ニ)でいう相場とは、「終値」と考えられます。
そして、「有償取得されたこと」を前提に、名義書換日の相場(終値)で取得価額を算定することも明確かつ簡便な推定方法として合理性を有する取得価額の把握方法であると解されているため、例えば、相続による被相続人から相続人への名義書換といった場合には利用できないと考えるべきです。
また、稀に、株式異動証明書などの名義書換日が休日といった相場(終値)がない日が記載されている場合があります。この場合はどうするかといった問題があります。
相続税の時の財産評価であれば「前後の直近の終値(直近の終値が2つある場合は平均)」という取り扱い(評基通171)が定められていますが、所得税では、そのような取り扱いの規定がありません。
よって、規定されていない以上、納税者が合理的だと思う値をとればよいかと思います(保守的にとらえて、前後の直近の終値の低い値の方を取得価額とすれば、税務署は否認しないでしょうが)。
なお、株式異動証明書などに実質通知(実質株主通知)と記載されている場合があります。実質通知とは、証券保管振替機構名義となっている株主の本当の所有者が誰であるのかを発行会社に伝達する制度であるため、通常、実質通知の日を名義書換日とすることはできないと考えられます。
その他、上記の方法でも取得費の額が不明な場合は、取得費の額を売却代金の5%相当額とすることが認められています。また、従業員持株会を通じて取得した株式で取得価額不明の場合も確認方法はあります。株式等の譲渡による所得が譲渡所得にあたる場合で、昭和27年12月31日以前から引続き所有している上場株式等であれば昭和27年12月中の平均終値により取得費とすることができます(所法61④、所令173)。
大阪国税局資産課税課、資産課税関係誤りやすい事例(株式等譲渡所得関係 令和5年分用)より
(誤った取扱い)
取引報告書を無くしてしまい、取得価額が分からないので0円とした。
(正しい取扱い)
次の方法によって算定した取得価額によることができる。
1 取引報告書を保存していない場合で、過去10年間に証券業者で購入したものは、その証券業者で確認の上、取得価額を算定する。
2 取引報告書又は1の方法により確認できない場合で、日記帳、預金通帳などの本人の手控えにより取得価額が分かればそれによる。
3 2によっても確認できない場合には、その上場株式等の名義書換時期を調べてその時の相場により取得価額を算定する。
なお、譲渡価額の5%の方が有利な場合は、これを取得費として計算して差し支えない(措通37の10・37の11共-13)。