概要

 法人は保有している有価証券を「売買目的有価証券」と「売買目的外有価証券」に区分します(法法61の3①)。さらに、売買目的外有価証券は、「満期保有目的等有価証券」又は「その他有価証券」に区分します(法令119の2②)。

売買目的有価証券、満期保有目的等有価証券及びその他有価証券の定義

売買目的有価証券の定義(法令119の12)

① 短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的(以下「短期売買目的」という。)で行う取引に専ら従事する者が短期売買目的でその取得の取引を行つた有価証券(以下「専担者売買有価証券」という。)

② 取得日において短期売買目的で取得したものである旨を財務省令で定めるところにより帳簿書類に記載した有価証券

③ 金銭の信託のうち、信託財産となる金銭を支出した日において、その信託財産として短期売買目的の有価証券を取得する旨を財務省令で定めるところにより帳簿書類に記載したもののその信託財産に属する有価証券

④ 適格合併、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配により被合併法人、分割法人、現物出資法人又は現物分配法人(以下この号において「被合併法人等」という。)から移転を受けた有価証券のうち、その移転の直前に当該被合併法人等において①~③、⑤のいずれかとされていた有価証券

⑤ 合併、分割型分割、株式分配、株式交換又は株式移転(以下この号において「合併等」という。)により交付を受けた当該合併等に係る合併法人、分割承継法人、株式分配完全子法人、株式交換完全親法人又は株式移転完全親法人の株式(出資を含む。)で、その交付の基因となつた当該合併等に係る被合併法人、分割法人、現物分配法人、株式交換完全子法人又は株式移転完全子法人の株式が上記①~④のいずれかとされていたもの

 なお、中小企業における売買目的有価証券は、上記②に該当するものが多いです。

 短期売買目的で取得したものである旨の記載とは、有価証券の取得に関する帳簿書類において、短期売買目的で取得した有価証券の勘定科目をその目的以外の目的で取得した有価証券の勘定科目と区分することにより行います(法規27の5①)。

 短期的に売買し、又は大量に売買を行っていると認められる場合の有価証券であっても、区分していないものは、短期売買有価証券に該当しません(法基通2-3-27(注))。

 なお、帳簿書類だけではなく、法人税申告時に添付する「有価証券の内訳書」の「区分」には、「売買目的有価証券」、「満期保有目的等有価証券」又は「その他有価証券」の別に「売買」、「満期」又は「その他」として、記入する必要があります。

満期保有目的等有価証券の定義(法令119の2②、法規26の12①)

① 償還期限の定めのある有価証券(売買目的有価証券に該当するものを除く。)で、償還期限まで保有する目的で取得し、かつ、その取得の日においてその旨を財務省令で定めるところ(償還期限まで保有する目的で取得したものの勘定科目をその目的以外の目的で取得したものの勘定科目と区分する)により帳簿書類に記載したもの(適格合併、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配により被合併法人、分割法人、現物出資法人又は現物分配法人から移転を受けた有価証券で、これらの法人においてこの有価証券に該当する有価証券とされていたものを含む。)

② 法人の特殊関係株主等がその法人の発行済株式又は出資(その法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の20%以上を有する場合の特殊関係株主等の有するその法人の株式又は出資

その他有価証券の定義

 売買目的有価証券及び満期保有目的等有価証券以外の有価証券

事業年度末における評価

売買目的有価証券

 売買目的有価証券は、時価法(事業年度終了の時において有する有価証券を銘柄の異なるごとに区別し、その銘柄の同じものについて、その時における価額として政令で定めるところにより計算した金額をもつて当該有価証券のその時における評価額とする方法をいう。)により評価します(法法61の3①一)。

 売買目的有価証券に係る評価益又は評価損は、事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入します(法法61の3②)。そして、翌事業年度開始時に同額の金額を洗い替え計算します(法令119の15)。

当期の処理翌期の処理
評価益の益金算入評価益と同額を損金算入
評価損の損金算入評価損と同額を益金算入
(X1年度期末)
有価証券 〇円 / 有価証券運用損益 〇円
 
(X2年度期首)
有価証券運用損益 〇円 /  有価証券 〇円

〇売買目的有価証券の時価(法令119の13①)

有価証券の区分時価
① 取引所売買有価証券(その売買が主として金融商品取引所の開設する市場において行われている有価証券)金融商品取引所において公表された当該事業年度終了の日におけるその有価証券の最終売買価格(注)
② 店頭売買有価証券及び取扱有価証券認可協会により公表された当該事業年度終了の日におけるその有価証券の最終売買価格(注)
③ その他価格公表有価証券(①②以外の有価証券以外の有価証券のうち、価格公表者によつて公表された売買の価格又は気配相場の価格があるもの)価格公表者によつて公表された当該事業年度終了の日におけるその有価証券の最終売買価格
④ ①②③以外の有価証券(株式又は出資を除く。)その有価証券に類似する有価証券について公表がされた当該事業年度終了の日における最終の売買の価格又は利率その他の価格に影響を及ぼす指標に基づき合理的な方法により計算した金額
⑤ ①②③④以外の有価証券その有価証券の当該事業年度終了の時における帳簿価額

(注)事業年度終了の日において公表された同日における最終売買価格がない場合には公表された同日における最終気配相場価格とします。さらに、その最終売買価格及びその最終気配相場価格のいずれもない場合には、事業年度終了の日に最も近い日において公表された最終売買価格又はその最終気配相場価格を基礎とした合理的な方法により計算した金額とします。
 なお、最終気配相場価格とは、その日における最終の売り気配と買い気配の仲値とされますが、当該売り気配又は買い気配のいずれか一方のみが公表されている場合には、当該公表されている最終の売り気配又は買い気配とします(法基通2-3-30)。

売買目的外有価証券(満期保有目的等有価証券又はその他有価証券)

 売買目的外有価証券は、取得価額(原価法)により評価します(法法61の3①二)。

 なお、満期保有目的等有価証券の場合は、償却原価法により評価します。償却原価法とは、一般的に、アモチゼーションまたはアキュムレーションといわれ、帳簿価額と償還金額との差額を取得時から償還時までの各期間に、定額法など一定の基準で配分し、その配分された後の金額が各事業年度における取得価額となります。

売買目的外有価証券(その他有価証券)

 会計処理(中小企業の会計に関する指針)が特殊な項目を除き決算時の為替相場により換算するのに対して、法人税法は外貨建資産等の期末換算に関して、外貨建資産等を一年基準により短期と長期とに分類した上で、期末換算の方法を規定しています。

 しかし、一部を除き、換算方法等を税務署長に届け出ることにより、中小企業の会計に関する指針の会計処理と法人税法上の取扱いを一致させることができます。

 一部とは、売買目的外有価証券のうち、償還期限及び償還金額のない株式であるが、会計と法人税法では以下の違いがあります。

会計法人税法
期末時価を決算時の為替相場により換算
(換算差額は純資産の部に計上)
発生時換算法

 ただし、この違いは会計上で全部純資産直入法(評価差額《税効果考慮後の額》の合計額を純資産の部に計上する方法)を用いている場合には、所得計算に影響を与えません。

 貸借対照表の「純資産の部」の「評価・換算差額等」の「その他有価証券評価差額金」となっているからです。

(X1年度期末)
投資有価証券 〇円 / その他有価証券評価差額金(BS) 〇円
            繰延税金負債          〇円
 
(X2年度期首)
その他有価証券評価差額金(BS) 〇円 / 投資有価証券 〇円
繰延税金負債          〇円

 税務上、期末時における為替相場により換算した金額をもって当該有価証券の当該期末時における円換算額とし、かつ、当該換算によって生じた換算差額の金額の全額をいわゆる洗替方式により純資産の部に計上している場合の当該換算の方法は、発生時換算法として取り扱うこととされています(法基通13の2-2-4)。

  つまり、会計上、期末時価を決算時の為替相場により換算を行った場合でも、そこから生じる換算差額の全額を純資産の部に計上し、益金損金算入していない場合には、税務上も認められることとなります。

有価証券の保有目的区分の変更

 下記のような変更事由が生じた場合は、区分変更が認められます。例えば、売買目的有価証券が企業支配株式に該当することとなつた場合に、売買目的有価証券から満期保有目的等有価証券に区分変更します。

 なお、有価証券の保有目的区分の変更時において「時価」で譲渡したものとみなしされる場合は、みなし譲渡となり、課税に影響があります(法令119の11)。また、その時の時価をもって新たな取得価額となります。

 一方、帳簿で価格で譲渡した場合は、譲渡課税が行われません。

変更事由区分変更時価額変更後の区分
① 売買目的有価証券が企業支配株式に該当することとなつた場合時価満期保有目的等有価証券
② 売買目的有価証券勘定(短期売買業務)の全部を廃止した場合時価満期保有目的等有価証券orその他有価証券
③ 満期保有目的等有価証券(企業支配株式に該当するものに限る。)が企業支配株式に該当しなくなつた場合帳簿価額売買目的有価証券orその他有価証券
④ その他有価証券が企業支配株式に該当することとなつた場合帳簿価額満期保有目的等有価証券
⑤ 法令の規定に従つて新たに短期売買業務を行うこととなつたことに伴い、当該その他有価証券を短期売買業務に使用することとなつた場合時価売買目的有価証券