概要
被相続人甲は米ドル建ての生命保険契約に加入し保険料を負担してきたが、その死亡により保険金受取人である相続人乙が生命保険金40万ドルを取得することになったとします(契約者及び被保険者を甲、死亡保険金の受取人を乙)。
なお、この米ドル建ての生命保険契約は、乙からの死亡保険金請求書面が生命保険会社に到着した日における為替レートにより米ドルを円に換算し、円により支払を行うという円貨支払特約が付されていたとします。
そして、乙が取得する保険金は40万ドルであるが、為替レートは以下であったとします。
相続開始日 1ドル150円
特約により米ドルを円に換算する日 1ドル155円
この場合、受け取った生命保険金の評価額がいくらになるかについては、以下の2つの考え方がありました。
(1)米ドル建ての保険金額を相続開始日(甲の死亡の日)の為替レートにより換算した金額(40万ドル×150円=6,000万円)を評価額とする
(2)乙が円貨支払特約に基づき日本円で受領した当該金額(40万ドル×155円=6,200万円)を評価額とする。
東京国税局によれば、(1)の考え方が正しいとのことであり、理由は下記です(東京国税局 課税第一部 資産課税課 資産評価官 資産課税課情報 第7号 「資産税質疑事例集」 令和7年6月作成)。
| 本件保険金は甲の死亡という事由が生じたことを条件として支払われるものであることから、甲の死亡の日に乙は本件保険金を取得しており、その取得は相続税法第3条第1項第1号の規定により相続又は遺贈により取得したとみなされる。 ところで、本件保険契約には本件特約が付されているところ、その内容は、①本件保険金の支払は円に換算して行うこと(以下「本件特約①」という。)、②円に換算するレートは被相続人の相続開始の日ではなく本件請求書面がA生命保険株式会社に到着した日のものを使用する(以下「本件特約②」という。)というものである。 そうすると、甲の死亡の日における本件保険契約は、本件特約①により円で保険金が支払われる保険と認められることから、相続又は遺贈により取得したとみなされる本件保険金の価額は、本件特約②に基づき支払われる円の価額(本件請求書面がA生命保険株式会社に到着した日における為替レートにより計算した価額)とするのが相当とも考えられる。 しかしながら、相続税法第22条《評価の原則》は、財産の価額はその取得の時における時価とする旨規定しているところ、仮に、本件保険金の価額を支払われる円の価額とした場合、その額は甲の死亡の日において確定せず、乙が本件保険金の支払請求を行った日により変動することになるため相当ではない。 したがって、甲の死亡により乙が取得した本件保険金の価額は、上記支払の基礎となる外貨の額を相続税法第22条の規定及び財産評価基本通達4-3《邦貨換算》の定めに基づき相続開始の日における為替レートにより計算した価額となる。 なお、甲の死亡の日から本件請求書面がA生命保険会社に到着した日までの為替レートの変動による差額は、為替差損益として乙の雑所得の対象となる。 |
外貨建て財産の邦貨換算に当たっては、原則として、納税義務者の取引金融機関が公表する当該財産を取得した課税時期(課税時期に相場がない場合には、課税時期前の最も近い日)における対顧客直物電信買相場(TTB)によることとされています(評基通4-3)。
死亡保険金の受取人が相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません)である場合は、一定の金額が非課税となります(相法3、12)。
なお、甲の死亡の日から本件請求書面がA生命保険会社に到着した日までの為替レートの変動による差額は、為替差損益として乙の雑所得の対象となります。
40万ドル×(155円-150円)=200万円
財産評価基本通達4-3(邦貨換算)
外貨建てによる財産及び国外にある財産の邦貨換算は、原則として、納税義務者の取引金融機関(外貨預金等、取引金融機関が特定されている場合は、その取引金融機関)が公表する課税時期における最終の為替相場(邦貨換算を行なう場合の外国為替の売買相場のうち、いわゆる対顧客直物電信買相場又はこれに準ずる相場をいう。また、課税時期に当該相場がない場合には、課税時期前の当該相場のうち、課税時期に最も近い日の当該相場とする。)による。
なお、先物外国為替契約(課税時期において選択権を行使していない選択権付為替予約を除く。)を締結していることによりその財産についての為替相場が確定している場合には、当該先物外国為替契約により確定している為替相場による。
(注) 外貨建てによる債務を邦貨換算する場合には、この項の「対顧客直物電信買相場」を「対顧客直物電信売相場」と読み替えて適用することに留意する。
