金地金の売買による所得区分
金地金を売却して生じた所得は、原則、譲渡所得として総合課税の対象となります。
ただし、営利を目的として継続的に行われる金地金の譲渡に該当する場合は、その譲渡による所得は、事業所得又は雑所得に該当して総合課税の対象になります(所法33①、②)。
営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に該当するかどうかは、譲渡者の売買回数、数量、金額、譲渡資産の取得及び保有状況、売買を行うための施設の有無、譲渡者の職業及び譲渡者の税務申告の状況などから総合的に判断するとされています。
また、事業所得に該当するかは、営利性、反復継続性、取引規模、人的・物的設備、資金調達、職業・生活状況等を総合して社会通念上判断されます。
一般的には、金地金の売却による所得の多くは、譲渡所得に該当するというのが実情です。
金地金と生活用動産の非課税(30万円基準)
所得税法9条1項9号および所得税法施行令25条による生活用動産の非課税は、その資産が「生活に通常必要な動産」に該当することが前提です(所法9①九、所令25)。
所得税法施行令25条の30万円基準は、30万円以下の貴金属を一律に「生活に通常必要な動産」とする規定ではありません。まず、その資産が生活に通常必要な動産に該当することが前提となります。
したがって、投資目的で保有する金地金(インゴット、純金コイン等)については、1個又は1組の価額が30万円以下であることのみを理由として非課税になるとは考えられません。
なお、本記事における金地金(インゴットや純金コインなど)の譲渡所得の記載は、原則として投資目的で保有する金地金を前提とし、所得税法9条1項9号の生活用動産に係る非課税規定は適用されないものとして記載しています。
所得税法施行令第25条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)
法第9条第1項第9号(非課税所得)に規定する政令で定める資産は、生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(1個又は1組の価額が30万円を超えるものに限る。)以外のものとする。
一 貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品
二 書画、こつとう及び美術工芸品
金地金の売買による所得計算
金地金の取得価額(取得費又は必要経費)
譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とされているため(所法38①)、譲渡所得の起因となる資産の譲渡により、譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、原則として、譲渡した資産の個別の取得価額によることとなります。
よって、複数回にわたって取得した場合の金地金の取得費の計算は有価証券のように総平均法に準じた方法は採用できず、不動産と同様に個別法により取得費の計算を行います(金定額購入システムの場合は別)。
また、雑所得の金額の計算上控除する必要経費についても、別段の定めがあるものを除き、総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とされているため(所法37①)、雑所得の対象となる資産の譲渡により、雑所得の金額の計算上必要経費算入する金額としては、譲渡所得の場合と同様、原則として、譲渡した資産の個別の取得価額によることとなります。
なお、事業所得に該当し金地金が棚卸資産となる場合には、所得税法47条及び所得税法施行令99条以下の棚卸資産の評価方法によることになります。
金地金の取得日
金地金等の譲渡が譲渡所得に該当する場合には、短期譲渡所得に該当するか、長期譲渡所得に該当するかを判定することになりますが、その判定は、個々の金地金等ごとの所有期間に応じて判定することになります。
つまり、取得日も取得価額同様に個別に判断し下記の譲渡所得の計算において、所有期間が5年超か否かを判断します。
金地金の譲渡所得の計算方法
金地金の売却に係る譲渡所得の計算は、特別控除(最高50万円)の適用があるほか、所有期間が5年超の場合には課税対象が1/2となります。
なお、総合課税の譲渡所得のため、所有期間が5年超かどうかは譲渡日で判定します(所法33③一)。土地に係る分離課税の譲渡所得(措法31①、32①)のように、譲渡した年の1月1日で判定しません。
① 所有期間5年以内(短期譲渡所得)の場合
課税される譲渡所得の金額
={売却収入-(取得費+譲渡費用)}-特別控除(最高50万円)
② 所有期間5年超(長期譲渡所得)の場合
課税される譲渡所得の金額
=[{売却収入-(取得費+譲渡費用)}-特別控除(最高50万円)]×1/2
(注) 譲渡所得の特別控除の額は、その年の金地金の譲渡益とそれ以外の総合課税の譲渡益の合計額に対して50万円です。これらの譲渡益の合計額が50万円以下のときはその金額までしか控除できません。
また、①と②の両方の譲渡益がある場合には、特別控除額は両方合せて50万円が限度で、①の譲渡益から先に控除します。
総合課税の譲渡所得は、譲渡益から特別控除額(最高50万円)を控除して所得金額を計算します。
特別控除後の譲渡所得が0円であれば金地金の譲渡所得自体に課税は生じませんが、確定申告の要否は他の所得や申告不要制度等も含めて判定するため、「譲渡益が年間50万円以下なら一律に申告不要」ということではありません。
なお、確定申告書を提出する場合は、「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)【総合譲渡用】」を添付します。
一時所得がある場合の課税される所得金額は、①+②+(一時所得)×1/2となります。
金地金の事業所得または雑所得の計算方法
所得の金額=総収入金額-必要経費
譲渡所得の場合のように、短期譲渡に該当するか、長期譲渡に該当するかで所得計算を分けません。
金地金の所有期間の計算
上記のように、長期譲渡所得と短期譲渡所得で譲渡所得(及び税額)が変わりますが、長期譲渡所得となるのは所有期間が5年を超えている場合で、短期譲渡所得となるのは所有期間が5年以内の場合です(所法22、33)。
期間とは、ある時点から他の時点に至る継続した時の区分をいいますが、 国税に関する法律において、年をもって定める期間の計算は次により行います(通則法10①)。
(1)初日不算入
期間の初日は算入しないで、翌日を起算日とするのが原則です(通則法10①一本文)。
(2)暦による計算
期間が年をもって定められているときは、暦に従って計算します(通則法10①二)。暦に従うとは、1年を365日とかというように日に換算して計算することではなく、例えば、1年といった場合は、翌年における起算日に応当する日(以下「応当日」という。)の前日を、期間の末日として計算することをいいます(通則法10①三)。
(3)具体例
X1/4/5に金を購入したとします。
この場合、翌日のX1/4/6が起算日となります。
期間5年といった場合は、X6/4/6が応当日となり、その応当日の前日であるX6/4/5を期間の末日として計算します。
よって、X1/4/5に金を購入した場合は、譲渡日がX6/4/5までは所有期間5年以内(短期譲渡所得)となり、X6/4/6からは所有期間5年超(長期譲渡所得)となります。
国税通則法10条(期間の計算及び期限の特例)
国税に関する法律において日、月又は年をもつて定める期間の計算は、次に定めるところによる。
一 期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるとき、又は国税に関する法律に別段の定めがあるときは、この限りでない。
二 期間を定めるのに月又は年をもつてしたときは、暦に従う。
三 前号の場合において、月又は年の始めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、最後の月にその応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
2 国税に関する法律に定める申告、申請、請求、届出その他書類の提出、通知、納付又は徴収に関する期限(時をもつて定める期限その他の政令で定める期限を除く。)が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日その他一般の休日又は政令で定める日に当たるときは、これらの日の翌日をもつてその期限とみなす。
金地金の売買による損失(損益通算)
金地金の売買による損失については、その所得区分に応じ、次のように取り扱われます(所法69)。
イ 譲渡所得に該当する場合
金地金の譲渡所得について生じた損失は、給与所得など他の所得との損益通算はできません(所法69②。国税庁HP「こんな収入の申告漏れにご注意」)。
ただし、総合課税の譲渡所得の金額を計算する過程では、他の総合課税の譲渡益と差引計算されます。したがって、同じ年に他の総合課税の譲渡益がある場合には、その範囲で金地金の譲渡損を控除できます。
ロ 事業所得に該当する場合
事業所得の赤字は、所得税法69条の損益通算の対象となり、原則として他の総合課税の所得と損益通算できます。
ハ 雑所得に該当する場合
雑所得の赤字は、給与所得など他の所得とは損益通算できません。ただし、同じ総合課税の雑所得の範囲では、他の雑所得の黒字と差引計算できます。
金地金の取得価額の証明と不明の場合
金地金の取得費が課税庁との争点となった場合、課税処分取消訴訟では、取得費についても課税要件事実の一部として原則として課税庁が主張立証責任を負うと解されています。
ただし、取得に関する資料は通常、納税者側の支配領域にあるため、課税庁が認定した取得費を超える金額を主張する場合には、納税者側で領収書、取引報告書、通帳、購入時の契約書、シリアル番号との対応資料などを保存し、積極的に立証できるようにしておくことが実務上重要です。
この点につき、大阪地裁平成28年10月13日判決(税資266号-137(順号12915))は、以下のように判示しています。
| 課税処分の取消訴訟においては、原則として、被告(課税庁)がその課税要件事実について主張立証責任を負い、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費(所得税法38条1項)についても、被告がその主張立証責任を負うものと解される。しかし、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、不動産所得や事業所得における必要経費等と同様、所得算定の減算要素であって納税者に有利な事柄である上、資産の取得は納税者の支配領域内の出来事であるから、取得費の額の主張立証は、通常、納税者たる原告の方が被告よりも容易である(特に、登記又は登録制度がない資産の場合には、被告によるこの点の主張立証は通常極めて困難である。)。したがって、被告が主張する額を超える資産の取得費が存在することを原告が積極的に主張立証しない場合には、上記の額を超える資産の取得費が存在しないことが事実上推認されるものと解するのが相当である。 |
また、譲渡所得に該当する金地金については、所得税基本通達38-16により、土地・建物等以外の資産の取得費を譲渡収入金額の5%相当額として譲渡所得を計算している場合、その計算を認める取扱いがあります。
したがって、取得費が不明な場合にこの5%基準を用いることができます。通達の文言上は、取得費が不明な場合に限って適用される取扱いではありません。
上記大阪地裁判決も、所得税基本通達38-16による収入金額の5%相当額を取得費とする取扱いについて、納税者に有利な簡便計算として合理性を有する旨を以下のように判示しています。
| 所得税基本通達38-16は、土地建物以外の資産の譲渡による譲渡所得の計算上、当該資産の取得費が不明の場合には、本来は当該資産の取得費が存在しないものとして計算せざるを得ないところ、その不都合から納税者を救済するため、多くの種類の資産に共通する概算取得費として、長期所有資産である土地建物等との均衡(租税特別措置法31条の4第1項参照)を考慮し、収入金額の5%相当額を資産の取得費とすることを認める趣旨のものと解され、このような取扱いは、納税者に有利な取扱いであり、簡便な計算方法として合理性を有するものと解される。 |
実際の取得費を立証でき、その金額が譲渡収入金額の5%を上回る場合は、実額による方が通常は有利です。なお、所基通38-16は譲渡所得の取得費に関する取扱いであり、事業所得・雑所得の必要経費にそのまま適用される規定ではありません。
サラリーマンが金地金を売って利益を得た場合、確定申告が必要か?
給与を1か所から受け、給与の全部が源泉徴収の対象となる給与所得者(給与収入2,000万円以下)で、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下の場合は、原則として所得税の確定申告は不要です(所法121)。
ただし、還付申告等で確定申告をする場合は20万円以下の所得も申告します。また、この申告不要制度は個人住民税にはないため、個人住民税の申告が必要となることがあります。具体的な申告要否は住所地の自治体の案内を確認します。
ここでいう20万円の判定においては、短期譲渡所得については特別控除後の金額を、長期譲渡所得については特別控除後の金額の2分の1を、給与所得・退職所得以外の他の所得金額と合計して判定します。
消費税
消費税の課税対象となるのは、個人事業主及び法人です。したがって消費税の課税事業者を除く個人の場合には消費税の納税義務はありません。
この考え方が基本であり、ほとんどの方は消費税の申告や納税をする必要がないでしょう。
ただし、継続的に営利目的で金の売買を行っている場合は注意が必要です。
消費税は、国内において事業者が「事業」として対価を得て行われる資産の譲渡等を課税の対象としており、この場合の「事業」とは、所得税法上の所得区分にかかわらず、「同種の行為を反復、継続かつ独立して遂行すること」をいい、規模を問わないのが基本的な考え方です。
よって、所得税で雑所得として確定申告していたとしても、対価を得て反復、継続かつ独立して資産の譲渡等を行い、かつ、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば、消費税法上の課税事業者に該当します(消法2①八、消基通5-1-1)。
なお、基準期間が1,000万円以下であっても、特定期間の課税売上高等、インボイス登録その他の規定により課税事業者となる場合があります。
消費税法基本通達5-1-1(事業としての意義)
法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》に規定する「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう。
(注)
1 個人事業者が生活の用に供している資産を譲渡する場合の当該譲渡は、「事業として」には該当しない。
2 法人が行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供は、その全てが、「事業として」に該当する。
支払調書
一度の取引で200万円を超える金地金を売却した場合、買取業者は「金地金等の譲渡の対価の支払調書」を税務署に提出することになります(所法225①十四、所法224の6、所令350の7)。
その支払調書には、住所(居所)、氏名、個人番号、数量、金額等が記載されます。よって、200万円以内に抑えて売却する人は結構いるそうです(どうしてでしょうかね?)。
なお、200万円は売却益ではなく、買取業者が支払う金地金等の譲渡対価の額で判定します。


