
金地金の売買による所得区分
金地金を売却して生じた所得は、原則、譲渡所得として総合課税の対象となります。
ただし、営利を目的として継続的に行われる金地金の譲渡に該当する場合は、その譲渡による所得は、事業所得又は雑所得に該当して総合課税の対象になります(所法33①、②)。
営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に該当するかどうかは、譲渡者の売買回数、数量、金額、譲渡資産の取得及び保有状況、売買を行うための施設の有無、譲渡者の職業及び譲渡者の税務申告の状況などから総合的に判断するとされています。
また、事業所得に該当するような場合とは、事業的規模で金地金の売買をし、その儲けで生活をしているような方ですので、ほとんどの方は該当しないと思います。
よって、金地金の売却による所得の多くは、譲渡所得に該当するというのが実情です。
金地金の売買による所得計算
取得価額(取得費又は必要経費)
譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とされているため(所法38①)、譲渡所得の起因となる資産の譲渡により、譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、原則として、譲渡した資産の個別の取得価額によることとなります。
よって、複数回にわたって取得した場合の金地金の取得費の計算は有価証券のように総平均法に準じた方法は採用できず、不動産と同様に個別法により取得費の計算を行います(金定額購入システムの場合は別)。
また、雑所得(及び事業所得)の金額の計算上控除する必要経費についても、別段の定めがあるものを除き、総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とされているため(所法37①)、雑所得の対象となる資産の譲渡により、雑所得の金額の計算上必要経費算入する金額としては、譲渡所得の場合と同様、原則として、譲渡した資産の個別の取得価額によることとなります。
取得日
金地金等の譲渡が譲渡所得に該当する場合には、短期譲渡所得に該当するか、長期譲渡所得に該当するかを判定することになりますが、その判定は、個々の金地金等ごとの所有期間に応じて判定することになります。
つまり、取得日も取得価額同様に個別に判断し下記の譲渡所得の計算において、所有期間が5年超か否かを判断します。
譲渡所得の計算方法
金地金の売却に係る譲渡所得の計算は、特別控除(最高50万円)の適用があるほか、所有期間が5年超の場合には課税対象が1/2となります。
なお、総合課税の譲渡所得のため、所有期間が5年超かどうかは譲渡日で判定します(所法33③一)。土地に係る分離課税の譲渡所得(措法31①、32①)のように、譲渡した年の1月1日で判定しません。
① 所有期間5年以内(短期譲渡所得)の場合
課税される譲渡所得の金額
={売却収入-(取得費+譲渡費用)}-特別控除(最高50万円)
② 所有期間5年超(長期譲渡所得)の場合
課税される譲渡所得の金額
=[{売却収入-(取得費+譲渡費用)}-特別控除(最高50万円)]×1/2
(注) 譲渡所得の特別控除の額は、その年の金地金の譲渡益とそれ以外の総合課税の譲渡益の合計額に対して50万円です。これらの譲渡益の合計額が50万円以下のときはその金額までしか控除できません。
また、①と②の両方の譲渡益がある場合には、特別控除額は両方合せて50万円が限度で、①の譲渡益から先に控除します。
総合課税の譲渡所得は、所得金額の計算上、特別控除額50万円を控除することとされており、年間50万円を超えない限り、確定申告をする必要はありません。
なお、確定申告書を提出する場合は、「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)【総合譲渡用】」を添付します。
一時所得がある場合の課税される所得金額は、①+(②+一時所得)×1/2となります。
事業所得または雑所得の計算方法
所得の金額=総収入金額-必要経費
譲渡所得の場合のように、短期譲渡に該当するか、長期譲渡に該当するかで所得計算を分けません。
金地金の売買による損失(損益通算)
金地金の売買による損失については、その所得区分に応じ、次のように取り扱われます(所法69)。
イ 譲渡所得に該当する場合
金地金は生活に通常必要でない資産に該当するものと考えられますので、その売買による損失を他の所得(給与所得など)と損益通算することはできません(所法69②、所令178①二)
ただし、同じ所得である譲渡所得に属する他の資産の譲渡益(他に譲渡所得の基因となる資産の譲渡による利益。例えば、キャンピングカー、ゴルフ会員権や絵画などの売却による所得)から控除することができます。
ロ 事業所得に該当する場合
他の所得と損益通算をすることができます。
ハ 雑所得に該当する場合
他の所得と損益通算をすることはできませんが、雑所得内においては他の黒字の雑所得と通算することができます。
金地金の取得価額
金地金の取得価額の証明
金地金の取得価額について、税務署と争いになった場合は、納税者自身が取得価額の証明をする必要があります。
この点につき、大阪地裁平成28年10月13日判決(税資266号-137(順号12915))は、以下のように判示しています。
課税処分の取消訴訟においては、原則として、被告(課税庁)がその課税要件事実について主張立証責任を負い、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費(所得税法38条1項)についても、被告がその主張立証責任を負うものと解される。しかし、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、不動産所得や事業所得における必要経費等と同様、所得算定の減算要素であって納税者に有利な事柄である上、資産の取得は納税者の支配領域内の出来事であるから、取得費の額の主張立証は、通常、納税者たる原告の方が被告よりも容易である(特に、登記又は登録制度がない資産の場合には、被告によるこの点の主張立証は通常極めて困難である。)。したがって、被告が主張する額を超える資産の取得費が存在することを原告が積極的に主張立証しない場合には、上記の額を超える資産の取得費が存在しないことが事実上推認されるものと解するのが相当である。 そして、所得税基本通達38-16は、土地建物以外の資産の譲渡による譲渡所得の計算上、当該資産の取得費が不明の場合には、本来は当該資産の取得費が存在しないものとして計算せざるを得ないところ、その不都合から納税者を救済するため、多くの種類の資産に共通する概算取得費として、長期所有資産である土地建物等との均衡(租税特別措置法31条の4第1項参照)を考慮し、収入金額の5%相当額を資産の取得費とすることを認める趣旨のものと解され、このような取扱いは、納税者に有利な取扱いであり、簡便な計算方法として合理性を有するものと解される。 |
金地金の取得価額が不明の場合
取得価額が不明の場合、売却収入の5%を取得価額(所基通38-16)として申告する方法があります。
ただし、田中貴金属工業様のHPから以下のことが分かります。
2025年9月1日時点における金の1gあたりの店頭小売価格(税込)18,001円、店頭買取価格(税込)17,809円であることがわかります。現時点で取得価額が不明の金を売却しようとすると、17,809円の5%である891円を取得価額とすることになります。
ただし、1974以降、現時点までの金の最低価格は、1999年9月17日の店頭小売価格(税込)962円です。つまり、1974以降、金が891円で取引されたことがないのです。
よって、取得価額が不明の場合、売却収入の5%を取得価額とせずに、最低価格であった1999年9月17日の店頭小売価格を用いて申告する人がいます。
また、地金番号で、いつ製造・出荷したかが分かりますので、それ以降で一番最低価格であった小売価格を用いて申告する人もいます。
ただし、同じように申告しようと思っている人がいて、その結果、税務署に否認されても、当事務所では一切の責任を負いません。
金定額購入システム(純金積立、金積立口座)で取得した金地金を譲渡した場合
(1) 所有期間の判定について
金地金の所得区分が譲渡所得に該当する場合、所有期間が5年以内なのか5年超なのかで税額計算が変わってきますが、以下のように考えます。
譲渡した金地金の所得区分が譲渡所得に該当する場合において、その所有期間は、所得税基本通達33-6の4の取扱いに準じ、預り口座において先に取得したものから順次譲渡したもの(先入先出)により判定します。
仮に、純金積立した金額が200万円あり、5年超の金額が100万円、5年以内の金額が100万円の場合で、100万円分(売価ではなく取得費)売ったとしても、先入先出により、全額、所有期間5年超(長期譲渡所得)で譲渡所得を計算します。
なお、所有期間の判定については先入先出で考えますが、取得費については、下記のように総平均法に準ずる方法により算出します。
(2) 取得費等について
譲渡した金地金の所得区分が雑所得又は譲渡所得に該当する場合において、雑所得又は譲渡所得の金額の計算に際して総収入金額から控除される必要経費又は取得費については、所得税法48条3項及び所得税法施行令118条の規定に準じ、有価証券の評価方法である総平均法に準ずる方法により算出します。
(3)所得区分
金積立口座による金を売却した際の利益については、通常の金地金の売買による所得区分と同じです。
購入自体が毎月購入(積立)となっていても、売却が数年に1回程度であれば、一般的には譲渡所得として取り扱われています。
(4)参考
国税庁HP「東京国税局文書回答事例-金定額購入システムで取得した金地金を譲渡した場合の課税上の取扱いについて」
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/shotoku/19/01.htm
サラリーマンが金地金を売って利益を得た場合、確定申告が必要か?
給与所得者(給与年収2,000万円以下の年末調整対象者に限る)で給与所得以外の所得金額の合計額が20万円以下の場合に該当するときは、所得税においては申告不要とすることができますが、住民税においては申告しなければなりません。
ここでいう、20万円とは特別控除(最高50万円)を差し引いた金額で考えます。
消費税
消費税の課税対象となるのは、個人事業主及び法人です。したがって消費税の課税事業者を除く個人の場合には消費税の納税義務はありません。
この考え方が基本であり、ほとんどの方は消費税の申告や納税をする必要がないでしょう。
ただし、継続的に営利目的で金の売買を行っている場合は注意が必要です。
消費税は、国内において事業者が「事業」として対価を得て行われる資産の譲渡等を課税の対象としており、この場合の「事業」とは、所得税法上の所得区分にかかわらず、「同種の行為を反復、継続かつ独立して遂行すること」をいい、規模を問わないのが基本的な考え方です。
よって、所得税で雑所得として確定申告していたとしても、対価を得て反復、継続かつ独立して資産の譲渡等を行い、かつ、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば、消費税法上の課税事業者に該当します(消法2①八、消基通5-1-1)。
支払調書
一度の取引で200万円を超える金地金を売却した場合、買取業者は「金地金等の譲渡の対価の支払調書」を税務署に提出することになります(所法225①十四、所法224の6、所令350の7)。
その支払調書には、住所(居所)、氏名、個人番号、数量、金額等が記載されます。よって、200万円以内に抑えて売却する人は結構いるそうです(どうしてでしょうかね?)。
なお、200万円とは売却益ではなく、売却価額(手数料等を差し引く前の金額)のことです。
金融類似商品
銀行や証券会社等の金融機関が扱う「金投資口座」や「金貯蓄口座」などからの利益は金地金の現物の譲渡とは異なり、実態は金融取引に近いことから、金融類似商品の収益として一律20.315%(所得税及び復興所得税15.315%、地方税5%)の税率による源泉分離課税となります。
この分離課税は、源泉徴収だけで課税関係が終了しますので、他の所得と合算して確定申告をすることはできません。
なお、「金投資口座」や「金貯蓄口座」は、金融機関から売り戻し条件付で金を購入するもの(購入時に買戻し金額及び差金が確定)で、上述した「金積立口座」とは異なる商品です。