概要

 原則として、上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じても、その損失の金額は生じなかったものとみなされます(措法37の11①後段)が、その例外として、一定の手続的要件を満たした場合、その年分の上場株式等に係る配当所得等の金額と損益通算(措法37の12の2①)ができ、また、損益通算してもなお控除しきれない損失の金額については、翌年以後3年間にわたり繰り越し、確定申告により、その繰り越された年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得等の金額を限度として、その上場株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得等の金額の計算上控除できます(措法37の12の2⑤)。

 配当所得等の金額と損益通算してもなお控除しきれない譲渡損失の金額があり、翌年以後にその譲渡損失の金額を繰り越し、繰越控除する場合の一定の手続的要件を満たす場合とは、居住者等が、①上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の所得税につき、その上場株式等に係る譲渡損失の金額の計算に関する明細書等の一定の書類の添付がある確定申告書を提出し、かつ、②その後において連続して確定申告書を提出している場合(連年提出要件)であって、③この繰越控除を受けようとする年分の所得税につき、明細書等の一定の書類を添付した確定申告書を提出する場合です(措法37の12の2⑦)。

 繰越控除を適用しないで確定申告書を提出していた場合は、連続して確定申告書を提出していたことにならないので、繰越控除の適用はできません。

 この特例は、期限後申告自体は所得税的には問題ないのですが、いわゆる宥恕規定は設けられていないので、連続(連年)提出要件には注意が必要であり、繰越控除を適用する場合は、例え、上場株式等の譲渡がなかった年も、譲渡損失を翌年へ繰り越すための申告が必要です。

 更正の請求による更正により上場株式等に係る譲渡損失の金額があることとなった場合(措通37の12の2-5)でも、先に次年度以降の申告書を提出してしまうと納税者は救われないので、その点も注意が必要です。

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大阪地裁令和元年10月18日判決(税資269号-104(順号13327))(棄却)(確定)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① Xは、平成24年中に、1336万円余の上場株式等に係る譲渡損失の金額(以下「本件譲渡損失額」という。)があったところ、平成24年分所得税の確定申告書を平成25年3月15日に提出したが、当該確定申告書に、本件譲渡損失額を記載せず、損失発生年分添付書類の添付もしなかった。

② Xは、平成25年分の所得税等の確定申告書を平成26年3月17日に提出したが、当該確定申告書には、本件譲渡損失額の記載はなく、控除年分添付書類の添付もしなかった。また、Xは、平成26年分の所得税等の確定申告書を期限内に提出しなかった。

③ Xは、平成27年中に、998万円余の上場株式等に係る譲渡所得の金額(以下「本件譲渡所得額」という。)があったが、平成28年2月29日に提出した平成27年分確定申告書には、本件譲渡所得額及び本件譲渡損失額の記載はなく、控除年分添付書類の添付もなかった。

④ Xは、所轄税務署の調査担当職員から、平成27年分所得税等に係る所得税等について本件譲渡所得額の申告漏れの指摘を受け、平成28年12月5日、修正申告をした。

⑤ Xは、平成29年4月10日、平成24年分所得税並びに平成25年分及び平成27年分所得税等につき、本件譲渡損失額の申告漏れを理由として、更正の請求をした。当該更正の請求書には、平成24年分につき損失発生年分添付書類が、平成25年分及び平成27年分につき、控除年分添付書類がそれぞれ添付されていた。また、Xは、同日、平成26年分の所得税等につき期限後申告をした。当該期限後申告に係る申告書には、控除年分添付書類が添付されていた。

⑥ 所轄税務署長は、平成29年6月29日、次のとおり、各処分を行った。
 平成24年分更正請求に対し、本件譲渡損失の金額を翌年以後に繰り越す旨の更正処分をしたが、平成25年分更正請求に対し、平成25年分確定申告書において本件譲渡損失の金額について記載されていないことを理由として、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 平成26年分所得税等について、平成25年分確定申告において本件譲渡損失の金額を翌年以後へ繰り越す旨の申告等をしていなかったことから、翌年以後に繰り越される株式等に係る譲渡損失の金額は0円であるとして更正処分をし、平成27年分更正請求に対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。

⑦ Xは、上記各処分を不服として、本訴を提起した。

(2)本件の主な争点

 本件各年分の所得税において、本件譲渡損失額につき本件特例の適用を受けるためには、連続申告要件を要するか否かである。

(3)判決要旨(棄却)(確定)

① 租税特別措置法(以下「措置法」という。)37条の12の2第8項は、同条6項に規定する居住者が、(イ)損失発生年分の所得税につき損失発生年分添付書類の添付がある確定申告書を提出し(損失発生年分申告要件)、かつ、(ロ)その後において連続して確定申告書を提出している場合(連続申告要件)であって、(ハ)同項の確定申告書に控除年分添付書類の添付がある場合(控除年分申告要件)に限り、本件特例を適用する旨を規定する。そして、同条8項が「連続して確定申告書を提出している」と定めていることに鑑みれば、その文理上、本件特例の適用を受けるためには、控除年分の確定申告書の提出をした時点において、損失発生年分の所得税につき損失発生年分添付書類の添付がある確定申告書を提出した上、その後の年分について、連続した確定申告書の提出を完了していることを要することとしたものと解される。このことに加えて、同条6項は、その年の前年以前3年内の各年において生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額を有する場合に限って本件特例が適用される旨を規定しており、控除年分の前年以前において既に控除された上場株式等に係る譲渡損失の金額については、控除年分において控除する上場株式等に係る譲渡損失の金額の対象から除外していることも併せ鑑みれば、同条6項及び8項は、損失発生年分の所得税に係る確定申告書の提出後に、その後の年分の所得税につき、順次、当該年分の確定申告書を提出することを通じて、上場株式等に係る譲渡損失の金額がある場合には、措置法37条の10条1項に規定する株式等に係る譲渡所得等の金額等からこれを控除することを予定しているものと解される。

② 連続申告要件が設けられた趣旨は、所得税は、納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とする申告納税方式による国税であること(通則法16条1項1号)から、他の所得と区分して所得税が課される株式等に係る譲渡所得等の金額についても、連続した申告によって、その年ごとに、本件特例に基づく繰越控除の計算をし、これを確定する必要があることによるものと解される。すなわち、本件特例の適用を受けることとした場合、控除年分において本件特例に基づく繰越控除の計算をし、所得税が課される株式等に係る譲渡所得等の金額を確定させるためには、控除年分の前年以前3年内の各年において生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額が確定している必要があることから、措置法37条の12の2第8項は、損失発生年分の所得税につき損失発生年分添付書類の添付がある確定申告書を提出すること(損失発生年分申告要件)とは別に連続申告要件を設け、控除年分の確定申告書において必要な事項(措置法施行令25条の11の2第11項)を記載して翌年以後において本件特例の適用を受ける旨が明らかにされ、翌年以後において株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除することができる上場株式等に係る譲渡損失の金額が確定している場合に限って、本件特例の適用を認めたものと解される。

③ 他方で、措置法37条の12の2第8項は、本件特例の適用要件として、損失発生年分の所得税につき損失発生年分添付書類の添付がある確定申告書を提出すること(損失発生年分申告要件)を定めているところ、損失発生年分申告要件が設けられた趣旨は、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の対象となるのは、上場株式等に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額に限られることから、当該損失の金額を申告上明らかにさせておく必要があるためであると解される。このような趣旨に鑑み、措置法通達は、損失発生年分の確定申告書に損失発生年分添付書類の添付がない場合であっても、更正の請求において当該損失の金額が明らかにされた場合には、確定申告書に損失発生年分添付書類が添付された場合と同様に取り扱う旨の運用を定めたものということができる。

④ 本件において、平成24年分の所得税につき損失発生年分添付書類の添付がある確定申告書の提出(損失発生年分申告要件の充足)があった日は、同年分の所得税の更正の請求をした平成29年4月10日であるのに対し、Xは、平成26年3月17日には、既に平成25年分の所得税等の確定申告書を提出している。そうすると、Xは、本件各年分のいずれについても、損失発生年分(平成24年分)の所得税につき損失発生年分添付書類の添付がある確定申告書を提出(本件では、前記更正の請求をしたことがこれに該当する。)した後において、損失発生年分の後の年分の所得税につき、順次、当該年分の確定申告書を提出していないから、本件各年分の所得税については、連続申告要件を充足しておらず、本件特例の適用はないというべきである。

令和3年5月20日裁決(広裁(所)令2第10号)(棄却)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 平成29年分の確定申告
 審査請求人Xは、平成30年3月15日、原処分庁に対して、平成29年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告書(以下「本件29年分確定申告書」という)を提出した。
 その際、Xは、本件29年分確定申告書に、譲渡損失計算明細書として、「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」(以下「本件29年分確定申告書付表」という。)を添付した。確定申告書付表の「本年分の損益通算後の上場株式等に係る譲渡損失の金額」欄には零円と記載した。

② 平成30年分の確定申告
 Xは、平成31年3月14日、原処分庁に対して、平成30年分の所得税等の確定申告書(以下「本件30年分確定申告書」という。)を提出した。
 その際、Xは、本件30年分確定申告書に、「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」を添付しなかった。

③ 平成29年分及び平成30年分の各更正の請求等(第一次)
 Xは、令和元年11月18日、原処分庁に対して、平成29年分及び平成30年分の所得税等につき、いずれも雑所得の金額が過大であったとして、国税通則法(以下「通則法」という。)23条1項の規定に基づき、各更正の請求書を提出した。
 原処分庁は、上記の各更正の請求に対して、令和元年11月21日付で、いずれも更正すべき理由があるとして各更正処分をした。

④ 平成29年分の更正の請求(第二次)
 Xは、令和2年1月31日、原処分庁に対して、平成29年分の所得税等につき、本件29年分確定申告書で申告した譲渡以外に、上場株式等の譲渡損失の金額が生じていたとして、当該譲渡損失の金額を含めて計算した上場株式等に係る譲渡損失の金額を平成30年以後に繰り越すことなどを求めて、通則法23条1項の規定に基づき、更正の請求書を提出した(以下、当該更正の請求書による更正の請求を「本件29年分更正請求」という。)。
 その際、Xは、上記の更正の請求書に、「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」を添付した。

⑤ 平成30年分の更正の請求(第二次)
 Xは、令和2年3月25日、原処分庁に対して、平成30年分の所得税等につき、本件29年分更正請求により繰り越されることとなる上場株式等に係る譲渡損失の金額を令和元年以後に繰り越すこと及び不動産所得の金額の計算上事業税の額を必要経費に算入することを求めて、通則法23条1項の規定に基づき、更正の請求書を提出した。
 その際、Xは、上記の更正の請求書に、「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」を添付した。

⑥ 平成29年分の更正処分(第二次)
 原処分庁は、本件29年分更正請求に対して、令和2年6月9日付で、本件29年分更正請求に係る上場株式等の譲渡損失の金額に誤りがあることなどから、これらを是正した上で、上場株式等に係る譲渡損失の金額を平成30年以後に繰り越すことになるなどとして、更正処分をした。

⑦ 平成30年分の更正処分(第二次)
 原処分庁は、上記⑤の更正の請求に対して、令和2年6月9日付で、不動産所得の金額の計算上事業税の額を必要経費に算入することには更正すべき理由が認められるものの、上記⑥の更正処分により平成30年に繰り越された上場株式等に係る譲渡損失の金額については、Xが本件29年分更正請求の前に本件30年分確定申告書を提出していたから、令和元年以後に繰り越すことはできないとして、更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

⑧ 審査請求は、令和2年8月28日、本件更正処分を不服として審査請求をした。

(2)本件の主な争点

 Xが本件30年分確定申告書を提出したことについて、連続申告要件を満たすか否かである。

(2)裁決要旨(棄却)

① 措置法37条の12の2第5項の規定の適用は、同条6項に規定する上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の所得税につき同条7項に規定する確定申告書を提出し(損失発生年分要件)、その後において同項に規定する確定申告書を連続して提出している(連続申告要件)ことが要件とされるところ、この連続申告要件については、同項が「その後において連続して確定申告書を提出している場合」と規定している以上、損失発生年分要件を満たした後に、連続して確定申告書が提出されなければならないことは文理上明らかである。

② 措置法通達37の12の2-5(以下「本件通達」という。)は、損失発生年分要件を満たさない確定申告書が提出された場合であっても、通則法23条に規定する更正の請求に基づく更正により、新たに上場株式等に係る譲渡損失の金額があることとなったときは、損失発生年分要件を満たす旨定めているところ、措置法37条の12の2第5項の規定の対象が上場株式等の譲渡により生じた損失の金額に限られることから、当該損失の金額を確定申告上明らかにさせる必要があるという損失発生年分要件の趣旨に沿うものであり、当審判所も相当と認める。
 以上のことからすると、本件通達の定めが適用される場合であっても、上記更正の後に、その後の年分の確定申告書が順次連続して提出されない場合には、連続申告要件は満たされないと解される。

③ Xは、損失が発生した本件29年分確定申告書による申告に際し、本件29年分確定申告書付表の「翌年以後に繰り越される上場株式等に係る譲渡損失の金額」欄に零円と記載し、譲渡損失の金額を記載しなかったのであるから、Xが、本件29年分確定申告書に措置法施行規則18条の14の2第3項の規定による読替え後の同条2項1号が規定する譲渡損失計算明細書を添付したとは認められない。そうすると、Xが本件29年分確定申告書を提出したことについて、損失発生年分要件を満たしているとはいえない。
 そして、Xは、その後の令和2年6月9日付でされた更正処分(本件29年分更正請求に基づく更正)により、損失発生年分要件を満たすことになったところ、Xは、損失発生年分要件を満たす前の平成31年3月14日に本件30年分確定申告書を提出していたのであるから、Xが本件30年分確定申告書を提出したことについて、連続申告要件を満たしていないことは明らかである。

④ Xは、平成30年3月15日、措置法37条の12の2第6項に規定する上場株式等に係る譲渡損失の金額が零円である旨記載した本件29年分確定申告書付表を本件29年分確定申告書に添付して提出したから、同日、損失発生年分要件を満たした上で、その後において連続して本件30年分確定申告書を提出したから、連続申告要件を満たしている旨主張する。
 しかしながら、そもそも本件29年分確定申告書付表の添付がある本件29年分確定申告書を提出したことについて損失発生年分要件を満たしておらず、よって、本件30年分確定申告書を提出したことについて連続申告要件を満たしていない。

⑤ Xの平成30年分の所得税につき、連続申告要件を満たしておらず、更正処分により平成30年に繰り越された上場株式等に係る譲渡損失の金額を令和元年以後に繰り越すことはできない。