概要
令和7年度税制改正により、合計所得金額2,350万円以下の人について、所得税の基礎控除の本則部分が48万円から58万円に引き上げられました。居住者には所得に応じた特例の上乗せも設けられ、令和7年分の基礎控除額は最高95万円となりました(所法86、措法41の16の2)。
さらに、令和8年度税制改正により、本則部分は58万円から62万円に引き上げられました。特例も拡充され、令和8・9年分は合計所得金額489万円以下の居住者が104万円、489万円超655万円以下の居住者が67万円となります。この改正は令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税に適用されます。
上場株式等の配当や源泉徴収ありの特定口座内の譲渡益を確定申告すると、原則として合計所得金額に含まれます。申告不要制度を利用して申告しなければ含まれません。そのため、申告するかどうかによって基礎控除額が変わることがあります。一方、個人住民税の基礎控除額そのものは、所得税と同様の引上げがされていません。
〇基礎控除の金額
| 合計所得金額 | 所得税 | 個人住民税 | |||
| 令和6年分 | 令和7年分 | 令和8・9年分 | 令和10年分以後 | 改正なし | |
| 132万円以下 | 48万円 | 95万円 | 104万円 | 99万円 | 43万円 |
| 132万円超336万円以下 | 48万円 | 88万円 | 104万円 | 62万円 | 43万円 |
| 336万円超489万円以下 | 48万円 | 68万円 | 104万円 | 62万円 | 43万円 |
| 489万円超655万円以下 | 48万円 | 63万円 | 67万円 | 62万円 | 43万円 |
| 655万円超2,350万円以下 | 48万円 | 58万円 | 62万円 | 62万円 | 43万円 |
| 2,350万円超2,400万円以下 | 48万円 | 48万円 | 48万円 | 48万円 | 43万円 |
| 2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 | 32万円 | 32万円 | 32万円 | 29万円 |
| 2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 | 16万円 | 16万円 | 16万円 | 15万円 |
| 2,500万円超 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 |
上の所得税欄には、居住者に適用される特例の上乗せが含まれます。その年を通じて非居住者である人には上乗せがなく、合計所得金額2,350万円以下の場合、令和7年分は58万円、令和8年分以後は62万円です。令和10年分以後の金額は令和8年度改正後の現行法によるもので、今後の改正によって変わる可能性があります。個人住民税は、その年の所得を基に翌年度に課税されます。
なお、令和8年11月30日以前に提出する、死亡・出国に伴う令和8年分の準確定申告では、提出時点で改正前の基礎控除額を適用します。この場合、令和8年12月1日から令和13年12月1日までの更正の請求により、改正後の額を適用できます。法定申告期限前であれば訂正申告によることもできます。
合計所得金額
基礎控除額を判定する「合計所得金額」は、おおむね次の①と②の合計額に、退職所得金額、山林所得金額および申告分離課税となる所得金額を加えたものです。退職所得は、確定申告が不要な場合でも加えます。ただし、申告不要制度を利用して申告しなかった上場株式等の配当所得や源泉徴収口座内の譲渡所得等は含めません。
① 事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得および雑所得の合計額(損益通算後の金額)
② 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1
土地・建物等の長期・短期譲渡所得は、特別控除額を差し引く前の所得金額を加えます(所基通2-41)。また、次の繰越控除を受ける場合、合計所得金額は原則としてその適用前の金額で判定します。
●純損失や雑損失の繰越控除
●一定の居住用財産の譲渡損失の繰越控除
●上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
●特定投資株式に係る譲渡損失の繰越控除
●先物取引に係る損失の繰越控除
配当所得や特定口座(源泉徴収あり)内の譲渡益
大口株主等が受けるものなど一定の配当を除き、上場株式等の配当等は確定申告不要制度を利用できます。申告不要とした配当所得は合計所得金額に含まれませんが、総合課税または申告分離課税を選んで確定申告した配当所得は含まれます(措法8の4、8の5)。
源泉徴収ありの特定口座(源泉徴収選択口座)内の上場株式等の譲渡益も、口座ごとに申告不要とすれば合計所得金額に含まれません。他の口座の上場株式等の譲渡損失と通算するためなどに確定申告すれば、合計所得金額に含まれます(措法37の11の5、措通37の11の5-1)。
〇令和8年分の具体例
配当以外の合計所得金額が450万円で、申告不要にできる上場株式等の配当所得が50万円あるとします。他に調整すべき事項がなければ、配当を申告しない場合の基礎控除額は104万円です。配当を申告すると合計所得金額は500万円となり、基礎控除額は67万円に下がります。配当の申告によって基礎控除額が37万円減る例です。
譲渡損失と配当等の損益通算
上場株式等の配当所得について申告分離課税を選び、その年に生じた通算対象となる上場株式等の譲渡損失と通算する場合、合計所得金額に含めるのは通算後の金額です。総合課税を選んだ配当所得は、この損益通算の対象にはなりません。一方、前年以前から繰り越した譲渡損失の繰越控除を受ける場合は、その控除前の金額で合計所得金額を判定します(措法37の12の2)。
源泉徴収口座に上場株式等の利子等・配当等を受け入れている場合、口座内の譲渡損失との通算や源泉徴収税額の精算は、その口座内で行われます。ただし、その譲渡損失を確定申告するときは、同じ口座に受け入れた利子等・配当等を申告不要とすることはできず、併せて申告する必要があります(措法37の11の6⑩)。他の口座の上場株式等の譲渡益などと損失を通算する場合も、同じ口座の配当等の申告が基礎控除額に影響しないか確認が必要です。
住民税・社会保険料への影響
令和5年分の所得税・令和6年度分の個人住民税から、上場株式等の配当所得等について、所得税と住民税で異なる課税方式を選ぶことはできません。所得税で申告した配当所得や源泉徴収口座内の譲渡所得等は、住民税でも申告したものとして扱われ、住民税の合計所得金額等に算入されます。
このため、配偶者控除や家族の扶養判定、住民税の非課税判定、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料、介護保険料などに影響する場合があります。それぞれ判定に用いる所得の計算方法が異なるため、影響は個別に確認します。
申告・申告不要の選択は原則として変更できない
上場株式等の配当等や源泉徴収口座内の譲渡所得等について、当初の確定申告で申告するか申告不要とするかを選んだ後は、その申告を前提とする修正申告や更正の請求によって、原則として選択を変更できません(措法8の5、37の11の5、措通8の5-1、37の11の5-4)。
令和元年11月28日裁決でも、当初申告で源泉徴収選択口座内の譲渡損失と配当所得等を申告しなかった場合、その後の修正申告でこれらを算入できないと判断されています。なお、令和8年分の準確定申告について基礎控除の改正を反映する更正の請求と、株式等の申告・申告不要の選択変更は別の問題です。
所得税の還付額だけで判断せず、基礎控除、住民税、社会保険料等への影響も申告前に確認することが重要です。
主な根拠資料
●所得税法86条、租税特別措置法8条の4、8条の5、37条の11の3~37条の11の6、37条の12の2、41条の16の2
●所得税基本通達2-41、租税特別措置法関係通達8の5-1、37の11の5-1・37の11の5-4
●国税庁「No.1199 基礎控除」「No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」「No.1476 特定口座制度」
●国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」
●財務省『令和7年度税制改正の解説』78~83頁、『令和8年度税制改正の解説』90~96頁
●『令和8年版所得税基本通達逐条解説』34~35頁(所基通2-41関係)
●国税不服審判所「令和元年11月28日裁決」(公表裁決例)

