概要

 納税者(居住者)が自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合には、その支払った金額について所得控除を受けることができます(所法74①)。これを社会保険料控除といいます(所法74③)。

手続き

 国民年金の保険料および国民年金基金の掛金に係る社会保険料控除の適用については、その保険料または掛金の金額を証する書類を、確定申告書または年末調整の際に提出する「給与所得者の保険料控除申告書」に添付するか、これらの申告書を提出する際に提示する必要があります(所法120③一、所令262①二)。

 国民健康保険の保険料または国民健康保険税について年間に支払った金額が記載されたハガキを、自治体が送ってくる場合がありますが、それについては確定申告等において添付不要です(添付してもよい)。

住民税

 個人の住民税における社会保険料控除は、所得税における社会保険料控除制度と同様であり、控除の対象となる社会保険料は、所得税法74条2項に規定する社会保険料(租税特別措置法41条の7第2項において社会保険料とみなされる金銭の額を含む。)と一緒です(地法34①三)。

社会保険料控除の金額

 控除できる金額は、その年に実際に支払った金額または給与や公的年金から差し引かれた金額の全額です。

 ですから、納付期日が到来した社会保険料であっても、実際に支払っていないものは含まれません(所基通74・75-1(1))。

前納した社会保険料等の特例

 前納した社会保険料については、次の算式により計算した金額が、その年において支払った金額となります(所基通74・75-1(2))。

〔算式〕
(前納した社会保険料の総額(前納により割引きされた場合にはその割引後の金額))×{(前納した社会保険料に係るその年中に到来する納付期日の回数)÷(前納した社会保険料に係る納付期日の総回数)}

 ただし、前納した期間が1年以内のものについては、本年分の社会保険料控除の対象として差し支えありません(所法74、所基通74・75-2)。

 また、法令に一定期間の社会保険料等を前納することができる旨の規定(2年分の国民年金保険料の前納等)がある場合における当該規定に基づき前納したものについては、その額をその支払った年分の社会保険料控除の対象として差し支えありません。

 ただし、全額を納めた年に控除(一括方式)ではなく、各年分の保険料に相当する額を各年に控除(分割方式)でもかまいません。つまり、いずれかの方式を選択することができるということです。

 なお、確定申告書を提出した後は、その後(申告期限後)において、一括方式から分割方式に変更又は分割方式から一括方式に変更する旨の更正の請求は認められません(令和2年1月7日裁決・大裁(所)令元第33号)。

過去の年分の国民年金保険料を一括して支払った場合の社会保険料控除の対象

 本年中に支払ったものであれば、過去の年分のものであっても本年分の社会保険料控除の対象になります(所法74)。なお、延滞金については、社会保険料控除の対象外です。

 社会保険料(国民年金保険料)控除証明書に記載されていなかったが、未納の国民年金保険料を12月までに納付した場合は、その年中に支払った社会保険料となるので、控除の対象となります。

 なお、確定申告書に添付又は提示する書類は、当該納付した国民年金保険料に係る領収書等でよいです(所法120③一、所令262①二)。

過去の年分の国民健康保険税(料)が還付された場合の社会保険料控除の対象

 「負担すべき社会保険料」とは、「正当に負担すべき社会保険料」をいうものと解されますから、還付された年分での国民健康保険税(料)から控除して確定申告をするのではなく、過去の年分での訂正、修正します。

妻の公的年金から特別徴収される介護保険料又は後期高齢者医療保険料

 介護保険料などの社会保険料が、妻の公的年金から特別徴収されている場合、その社会保険料を支払ったのは妻になります。したがって、夫が支払った社会保険料ではありませんから、夫の社会保険料控除の対象にはなりません。

 なお、夫が妻の保険料を支払った(普通徴収、夫の口座への口座振替)場合は、夫の社会保険料控除の対象になります。

妻の給与から天引きされている社会保険料

 夫が支払ったものではなく、妻が支払ったものですから、夫の控除の対象にはなりません。

非居住者であった期間内の社会保険料

 社会保険料控除は、居住者がその年に支払ったものが控除の対象となり(所法74①)、非居住者であった期間内の給与から控除した社会保険料は社会保険料控除の対象とはなりません(所令258③三)。

令和2年6月17日裁決(東裁(所)令元第107号)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 請求人Xは、国際連合教育科学文化機関(以下「ユネスコ」という。)に勤務し、平成20年4月以降、United Nations Joint Staff Pension Fund(国際連合及びその関係機関の職員が原則として加入し、一定の要件を満たす退職者等に対し年金の給付等を行う基金)の年金の受給資格に基づき、同Fundから年金を受給している(以下、請求人が同Fundから受給した年金を「本件年金」という。)。
② Xは、ユネスコが運営するMedical Benefits Fund(ユネスコ及び保険参加者が拠出した保険料を基にして、ユネスコの現役職員、退職者及びその家族に対する医療保険の給付を目的とする基金)に対する保険料を、本件年金の支給額から控除される方式で支払った(以下、Xが支払った当該保険料を「本件保険料」という。)。
③ Xが、本件年金から控除された保険料は社会保険料控除の対象であるとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたのに対し、その全部の取消しを求めた事案である。

(2)争点

 本件保険料は、社会保険料控除の対象となるか否か

(3)裁決要旨(棄却)

① 社会保険料控除は、我が国の社会保障制度の一環として、控除対象となる社会保険が原則として強制的加入であること等を考慮して認められているものであるところ、所得税法第74条第2項は、所得控除の対象となる社会保険料とは、同項各号に掲げるものその他これらに準ずるもので政令で定めるものをいう旨規定し、これを受けて、所得税法施行令第208条が、その各号において、これらに準ずるものを規定している。
② このように、社会保険料控除の対象となる社会保険料は、上記の法令において限定的に列挙されているのであるから、実特法第5条の2第1項の規定のように、居住者が支払った又は控除される保険料を所得税法第74条第2項に規定する社会保険料とみなす旨の特段の規定がある場合を除き、上記の法令において列挙されていない保険料は社会保険料控除の対象とならないものと解される。
③ 本件保険料は、上記の法令において列挙されておらず、また、本件保険料を所得税法第74条第2項に規定する社会保険料とみなす旨の特段の規定も存在しないことから、本件保険料が社会保険料控除の対象ではないことは明らかである。
④ Xは、本件保険料はユネスコ職員等の健康保険制度に対する支払であり、タックスアンサーに記載された「当該租税条約の相手国」を「国際連合」に置き換えれば、当該タックスアンサーの記載に準拠するものと解されることから、本件保険料は社会保険料控除の対象となる旨主張する。
⑤ 当該タックスアンサーの記載は、実特法第5条の2第1項の規定に基づくものであり、同項の規定は、所得税法第74条第2項に規定する社会保険料とみなす旨の特段の規定に該当する。しかしながら、実特法第5条の2第1項は、「租税条約の規定により、当該租税条約の相手国等の社会保障制度に対して支払われる」保険料をその対象と規定しているところ、我が国と、国際連合又は国際連合の各専門機関との間において、租税条約に当たるものは存在しないことから、本件保険料は、同項に規定する保険料には該当しない。また、同項の適用に当たって、「当該租税条約の相手国」を他に置き換える旨を定めた法令上の規定も存在しない。したがって、Xの主張には理由がない。