利益配当に関する制限

 合同会社では有限責任社員しかいないため、債権者保護のため、特則が設けられ、利益配当に関する制限がされています(会社法628)。

 合同会社は、利益の配当額が配当をする日における利益額を超える場合には、利益の配当をすることはできないのですが、ここでいう利益額とは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額となります(会計規163)。

(イ)合同会社全体における利益額
 利益の配当をした日における利益剰余金の額

(ロ)請求をした社員ごとの利益額
 既に分配された利益の額-(既に分配された損失の額+既に利益配当された額)

 「(イ)合同会社全体における利益額(利益剰余金の額)」の制限があるのは、会社債権者を害することをないようにするためである。「(ロ)請求をした社員ごとの利益額」の制限があるのは、他の社員を害することをないようにするためです。

 なお、株式会社の配当のように純資産額が300万円を下回る場合には行えないという規定(会社法458)はなく、配当する場合における資本準備金又は利益準備金を計上する規定(会社法445④)もありません(そもそも、合同会社においては、準備金の制度は存在していません)。

具体例

 各社員の持分状況が以下であったとします。

社員名資本金 資本剰余金 利益剰余金合計
600万円600万円400万円1,600万円
300万円300万円200万円800万円
合計900万円900万円600万円2,400万円

 この場合に、Aが配当請求する場合、いくら請求できるかは次のようになります。

 「(イ)合同会社全体における利益額」は600万円であり、Aの「(ロ)請求をした社員ごとの利益額」は400万円であるため、少ない額である400万円までとなります。 仮に、Aが配当請求400万円をし、配当を受けたとします。そうすると、各社員の持分状況は以下のようになります。

社員名資本金 資本剰余金 利益剰余金合計
600万円600万円0円1,200万円
300万円300万円200万円800万円
合計900万円900万円200万円2,000万円

 次の事業年度において、損失210万円が生じ、Aに損失140万円、Bに損失70万円が分配され、各社員の持分状況が以下のようになったとします。

社員名資本金 資本剰余金 利益剰余金合計
600万円600万円△140万円1,060万円
300万円300万円130万円730万円
合計900万円900万円△10万円1,790万円

 この場合に、Bが配当請求する場合、いくら請求できるかは次のようになります。 Bの「(ロ)請求をした社員ごとの利益額」は130万円ですが、「(イ)合同会社全体における利益額」は△10万円であるため、少ない額は△10万円となり、結果、Bは配当請求をすることはできません。

社員別の資本持分管理

 「純資産の部」が変動した時は、その時点で、以下のような「社員資本持分管理表」 を作成しておきましょう。例えば、Bが過去に利益の配当を請求していて、自分の持分である利益剰余金が0円の場合は、Bは配当の請求をすることができないということが一目でわかります。一方、Aは配当の請求をすることができるということがわかります。

合同会社 〇 〇 社員資本持分管理表 令和〇年〇月〇日作成( 〇回目 ) 

社員名資本金 資本剰余金 利益剰余金合計
200万円0 円40万円240万円
100万円0 円0円100万円
合計300万円0 円40万円340万円

違法配当

 合同会社における違法配当の問題は、「(イ)合同会社全体における利益額」を超えて配当する場合の問題と「(ロ)請求をした社員ごとの利益額」を超えて配当する場合の問題という2つの問題があります。

 合同会社が社員に違法配当をした場合には、その配当に関する業務を執行した社員は、合同会社に対し、配当を受けた社員と連帯して、配当額に相当する金銭を支払う義務を負います(会社法629①)。

 ただし、業務を執行した社員がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、義務を負いません(会社法629①但し書き)。

 この支払義務は、基本的に、総社員の同意がある場合は免除されますが、「(イ)合同会社全体における利益額」を超える部分については、総社員の同意があっても免除することはできません(会社法629②)。

 また、違法配当を受けた社員は、合同会社に対し、連帯して、配当額に相当する金銭を支払う義務を負います(会社法623①)。なお、ここにおける「連帯して」とは、違法配当を受けた社員が複数存する場合における連帯責任についてです。

 違法配当を受けた社員が会社に対し配当額に相当する金銭を支払った場合には、結果的に、合同会社における分配される利益の額が増加することになります。

 このような場合には、金銭を支払った社員だけに分配される利益の額が増加され、他の社員の分配される利益の額には影響しないこととなるでしょう。

法令

会社法621条(利益の配当)

 社員は、持分会社に対し、利益の配当を請求することができる。
2 持分会社は、利益の配当を請求する方法その他の利益の配当に関する事項を定款で定めることができる。
3 社員の持分の差押えは、利益の配当を請求する権利に対しても、その効力を有する。

会社法623条(有限責任社員の利益の配当に関する責任)

 持分会社が利益の配当により有限責任社員に対して交付した金銭等の帳簿価額(以下この項において「配当額」という。)が当該利益の配当をする日における利益額(持分会社の利益の額として法務省令で定める方法により算定される額をいう。以下この章において同じ。)を超える場合には、当該利益の配当を受けた有限責任社員は、当該持分会社に対し、連帯して、当該配当額に相当する金銭を支払う義務を負う。
2 前項に規定する場合における同項の利益の配当を受けた有限責任社員についての第580条第2項の規定の適用については、同項中「を限度として」とあるのは、「及び第623条第1項の配当額が同項の利益額を超過する額(同項の義務を履行した額を除く。)の合計額を限度として」とする。

会社法628条(利益の配当の制限)

 合同会社は、利益の配当により社員に対して交付する金銭等の帳簿価額(以下この款において「配当額」という。)が当該利益の配当をする日における利益額を超える場合には、当該利益の配当をすることができない。この場合においては、合同会社は、第621条第1項の規定による請求を拒むことができる。

会社計算規則163条(利益額)

 法第623条第1項に規定する法務省令で定める方法は、持分会社の利益額を次に掲げる額のうちいずれか少ない額(法第629条第2項ただし書に規定する利益額にあっては、第1号に掲げる額)とする方法とする。
一 法第621条第1項の規定による請求に応じて利益の配当をした日における利益剰余金の額
二 イに掲げる額からロ及びハに掲げる額の合計額を減じて得た額
イ 法第622条の規定により当該請求をした社員に対して既に分配された利益の額(第32条第1項第3号に定める額がある場合にあっては、当該額を含む。)
ロ 法第622条の規定により当該請求をした社員に対して既に分配された損失の額(第32条第2項第4号に定める額がある場合にあっては、当該額を含む。)
ハ 当該請求をした社員に対して既に利益の配当により交付された金銭等の帳簿価額