非居住者の株式と暗号資産(仮想通貨)取引上の税金
下記では、日本に恒久的施設を有していない一般的な非居住者に対する税金について解説しています。
日本の所得税では、居住者は全世界で稼得した所得が課税対象となり、非居住者は日本で発生した所得(国内源泉所得)のみが課税対象となります(所法5②一、同法161①)。
そのうえで、国内源泉所得の対象となる資産の譲渡に係る所得(恒久的施設に帰属する所得を除きます。)は、次に掲げるものなどに限定されています。
① 国内にある不動産の譲渡による所得
② 国内にある不動産の上に存する権利等の譲渡による所得
③ 国内にある山林の伐採又は譲渡による所得
④ 内国法人の発行する株式等の譲渡による所得で一定のもの
⑤ 不動産関連法人の株式等の譲渡による所得
⑥ 非居住者が国内に滞在する間に行う国内にある資産の譲渡による所得
⑦ 日本の国債、地方債、内国法人の発行した社債の利子、国内の営業所に預けられた預貯金の利子等
⑧ 内国法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配等
非居住者の株式譲渡課税
非居住者の株式売却については、次の所得が国内源泉所得として課税対象となります。
①から⑤は「上場株式等に係る譲渡所得等の金額」と「一般株式等に係る譲渡所得等の金額」に区分し所得税等15.315%の税率により申告分離課税となり、⑥は総合課税の対象となります(原則として非居住者には住民税が課税されません)。なお、これらに該当する場合は確定申告が必要です。
① 日本国内に滞在する間に行う日本の会社の株式の売却による所得
② 日本の会社の株券等の買集めをし、これをその日本の会社等に対して売却することによる所得
③ 日本の会社の特殊関係株主等である非居住者が行う、その日本の会社の株式の売却による所得
④ 税制適格ストック・オプションの権利行使により取得した特定株式等の売却による所得
⑤ 特定の不動産関連法人の株式の売却による所得
⑥ 日本国内にあるゴルフ場の株式形態のゴルフ会員権の売却による所得
ただし、上記に該当する場合であっても租税条約により日本で課税されないことがあります。
非居住者に対する配当課税
証券会社等を常任代理人(非居住者に代わって、 配当金の受領や、名義書換請求権の行使等を行う日本国内における代理人のこと)とすれば、株主が海外居住の場合は住民税は課税対象外となり、かかりません。そのため、上場株式の配当等は所得税等15.315%の源泉分離課税(源泉徴収のみで課税関係が完結する方式)となります。
ただし、海外移住者の移住地国と日本が租税条約を締結していれば、税率の軽減措置が受けられる可能性があります。例えば、米国の場合、配当について10%の制限税率になりますので、租税条約の適用を受けるほうが有利です。
非居住者は、「租税条約に関する届出書」を配当所得の支払者である源泉徴収義務者ごとに正副2部作成し、最初にその所得の支払を受ける日の前日までに、支払者を経由して支払者の納税地の所轄税務署長に提出します。
国税庁HP「No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)」
非居住者の投資信託解約課税
居住者が公募株式投資信託を解約した場合、株式譲渡と同じように取り扱われるのですが、非居住者が公募株式投資信託を解約した場合、配当として取り扱われます(所法24、所令58、措法37の11④)。よって、所得税等が課されます。
非居住者の暗号資産(仮想通貨)課税
非居住者が国外において行った暗号資産の取引により生じた利益は国内源泉所得に該当しないため課税されません。非居住者が国内に滞在する間に行う国内にある資産の譲渡による所得を除き、課税の対象とされないからです(所法161①三、所令281①八)。
非居住者が日本の暗号資産交換業者に保有する暗号資産を譲渡することにより生ずる所得は、源泉徴収の対象でもないですし、所得税の課税対象にもされていません(国税庁HP「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)令和4年12月22日改定」1-7 非居住者又は外国法人が行う暗号資産取引)。
国外転出時課税制度
国外転出時課税制度は、時価1億円以上の「対象資産」を有する居住者が、出国した場合等に、みなし売却益に対して所得税が課される制度です(所法60の2)(ただし、納税猶予制度あり)。
「対象資産」とは、公社債、株式、投資信託、匿名組合契約の出資持分、未決済デリバティブ取引、未決済の信用取引、発行日取引です。また、対象資産の時価が合計1億円以上であるかどうかは、原則、出国日などの時価で判断します。
対象者が出国する場合、出国日に時価で有価証券等を売却したものとみなして「みなし売却益」に15.315%の所得税等が課税されます。納税管理人の届出をしない場合は、出国日までに準確定申告をして納付します。納税管理人の届出をする場合は、出国の翌年3月の確定申告期限までに、確定申告をして納税します。
なお、暗号資産は「対象資産」に含まれないことから、 国外転出時課税制度の対象とされません。
国外転出時課税制度は、時価1億円以上の株式等を有する居住者が非居住者となり国外で株式を譲渡し、日本の所得税から逃れられないようにされている制度ですが、住民税はかからないという問題があります。譲渡した翌年の1月1日に、日本に住所がないためです。また、暗号資産といった新しい金融商品は「対象資産」でないため、所得税、住民税とも日本で税金をかけることができません。いずれ、この辺の問題点にメスが入るとは思いますが。
年の中途で国外転出となった場合
年の中途で国外転出となった年分の確定申告
(1)出国の時までに納税管理人を指定した場合
その年1月1日から出国する日までの間(以下「居住者期間」といいます。)に生じた全ての所得と、出国した日の翌日からその年12月31日までの間(以下「非居住者期間」といいます。)に生じた国内源泉所得を合計額について、翌年2月16日から3月15日までの間に納税管理人を通じて確定申告及び納税をする必要があります。
出国する者の納税地は、納税者が国内に住所を有しなくなった時に納税地とされていた場所等であり、納税管理人を定めた場合でも、納税管理人の住所地が納税地とはなりません(所法15三~六、所令53、54)。
(2)納税管理人を指定しないで出国する場合
居住者期間に生じた全ての所得について、出国の日までに確定申告(準確定申告)をする必要があります。出国後、納税管理人の届出書を提出したとしても、確定申告書は出国をする日までに提出しなければなりません。そして、この準確定申告をしたとしても、居住者期間に生じた全ての所得と非居住者期間に生じた国内源泉所得との合計額について、納税管理人を通じるなどして、翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告及び納税をする必要があります。
年の中途で国外転出となった場合の住民税
(1)株式の譲渡所得
年の中途で国外転出となった場合、翌年の1月1日時点で国内に居住していなければ住民税はかかりません。ただし、特定口座(源泉あり)内の株式譲渡所得については、譲渡対価の支払いを受ける年の1月1日時点で住所を有する者が納税義務者になるとされるため、特定口座(源泉あり)内の株式譲渡所得については納税義務が生じることとなります。なお、出国により非居住者になった場合には、証券会社等に対して、「特定口座廃止届出書」を提出したものとみなされ、特定口座は廃止されます。よって、出国後の株式の譲渡所得については、特定口座(源泉あり)内の株式譲渡所得ではなくなるため、翌年の1月1日時点で国内に居住していなければ住民税はかかりません。
(2)株式の配当
基準日(配当の支払を受けるべき日)に国内に居住していない時は、非居住者に該当します。ただし、特定口座(源泉あり)内の配当については、配当の支払いを受ける年の1月1日時点で住所を有する者が納税義務者になるとされるため、特定口座(源泉あり)内の配当については納税義務が生じることとなります。
(3) 暗号資産(仮想通貨)
年の中途で国外転出となった場合、翌年の1月1日時点で国内に居住していなければ住民税はかかりません。
年の中途で国外転入となった場合の住民税
(1)株式の譲渡所得
年の中途で国外転入となった場合、翌年の1月1日時点で国内に居住していれば住民税はかかります。ただし、特定口座(源泉あり)内の株式譲渡所得については、譲渡対価の支払いを受ける年の1月1日時点で住所を有する者が納税義務者になるとされるため、特定口座(源泉あり)内の株式譲渡所得については納税義務が生じないこととなります。なお、 特定口座(源泉あり)内の株式譲渡所得について住民税が徴収されている場合には、証券会社等から更正請求書を提出してもらい還付を受けることになります 。
(2)株式の配当
基準日(配当の支払を受けるべき日)に国内に居住していない時は、非居住に該当します。ただし、特定口座(源泉あり)内の配当については、配当の支払いを受ける年の1月1日時点で住所を有する者が納税義務者になるとされるため、特定口座(源泉あり)内の配当については納税義務が生じないこととなります。配当割(住民税)について還付を受ける場合は、特別徴収義務者(上場会社や銀行・証券会社等)から更正請求書を提出してもらうことになります。
(3) 暗号資産(仮想通貨)
年の中途で国外転入となった場合、翌年の1月1日時点で国内に居住していれば住民税はかかります。
(参考)東京都主税局HP 都民税配当割・株式等譲渡所得割Q&A11
Q11 国内に住所がないため還付を受けたいのですが、どのような手続きをすれば良いですか。
A11特別徴収義務者(上場会社や銀行・証券会社等)から更正請求書を提出してもらうことになりますので、特別徴収義務者にお問い合わせください。また、国外の居住期間が1年未満の場合は、1年を経過した後、更正請求の手続きが可能となります。
※配当割では、基準日(配当の支払を受けるべき日)を含めて1年以上国内に居住していない時、非居住に該当します。
※源泉徴収選択口座内配当割・株式等譲渡所得割では、課税基準日が配当割と異なり、「配当や譲渡対価の支払を受けるべき日の属する年の1月1日」を含めて1年以上国内に居住していない時、非居住に該当します。