残高連動手数料(レベルフィー)とは

 大和証券は2020年10月、投資信託を買う際の手数料をゼロとする代わりに、投資家が持つ投資信託の評価額に応じて「残高フィー」をもらう商品を発売しました。

 また、2022年(令和4年)4月1日、野村證券は、預かり資産残高の時価評価額に連動した残高手数料契約(レベルフィー)の取扱開始を発表しました。

 この契約の場合、投資家(富裕層)は、預かり資産残高の時価評価額に連動して「残高手数料」を支払う手数料体系であるため、有価証券を購入、売却される際の手数料が原則としてかかりません。

 なお、従来型の、株式売買等の都度徴収される手数料(都度手数料)をとる料金体系も残されており、投資家はどちらかを選べるようになっています。

 損失を出しても負担が生じる従来型の手数料体系に投資家は不満を持っており、また、売買する必要がないのに手数料のために売買を勧める証券マンがいる等により、今後、残高手数料契約は増えることが予想されます。

〇野村證券HP「野村のレベルフィー(残高手数料契約)の取扱いを開始」
https://www.nomuraholdings.com/jp/news/nr/nsc/20220401/20220401_a.html

残高連動手数料(レベルフィー)の所得税法上の取扱い

譲渡所得

 現時点では、この残高連動手数料は、特定口座での損益計算や税額計算の対象となっていません。

 そのため、特定口座を利用している投資家であっても、この残高連動手数料をコストとしたい場合は、確定申告をすることになりますが、問題は、残高連動手数料の所得税法上の位置づけとなります。

 一般的には、株式等の譲渡益は、譲渡所得に該当し、株式等の売却損益(譲渡所得等)は、「譲渡収入―取得価額―譲渡費用」により計算します。

 譲渡費用(資産の譲渡に要した費用)とは、「資産の譲渡のため直接に必要な経費であ(る)」(租税法/金子宏著)、「譲渡を実現するために必要な経費に限られ(る)」(大阪高裁昭和61年6月26日判決・税資152号540頁)と、学説、裁判例共に限定的に解釈されています。

 よって、従来型の、株式譲渡の都度徴収される手数料(都度手数料)は、この譲渡費用に該当しますが、残高連動手数料は譲渡費用といえないと思われます。

雑所得

 上述したように、一般的には、株式等の譲渡益は譲渡所得に該当しますが、場合によっては、雑所得とすることができます。

 株式等の譲渡益が譲渡所得ではなく雑所得の場合、株式等の売却損益は、「譲渡収入―取得価額―必要経費(取得価額を除く)」により計算します。

 残高連動手数料を譲渡費用とするのは難しいと思われますが、必要経費であると考えるのは自然といえます。

 なお、投資一任口座における上場株式等の売買から生じる所得区分は、雑所得に該当すると考えられています。その理由は次のとおりです(国税庁HP質疑応答事例「投資一任口座(ラップ口座)における株取引の所得区分」)。
 ・投資一任契約は、所有期間1年以下の上場株式等の売買を行うものであること。
 ・投資家が報酬を支払って、有価証券の投資判断とその執行を証券会社に一任し、契約期間中に営利を目的として継続的に上場株式等の売買を行っていると認められること。

 問題は、残高手数料契約(レベルフィー)の場合、雑所得となると考えていいのかということです。雑所得とするには、上記のように、それなりの理由が必要であると考えられます。

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残高連動手数料(レベルフィー)を取得価額とすることはできないのか?

 品川芳宣先生は、「税のしるべ(令和4年10月17日)」において、残高連動手数料(レベルフィー)を「取得費(取得価額)」として扱えると考えられるとしています(あくまでも先生の個人的見解です)。

 先生の考え方によれば、残高連動手数料(レベルフィー)は、譲渡所得の場合の「譲渡時用」や、雑所得の場合の「必要経費」ではなく、取得価額を構成することになり、所得計算において自ずと控除できるということになります。

 東京高裁昭和54年6月26日判決(行裁例集30巻6号1167頁)は、借入金によって土地を取得し、当該土地を使用しないで3年後に譲渡した場合に、当該所有期間中に支払った当該借入金に係る支払利子を譲渡所得の金額の計算における「資産の取得費」に当たるとして原判決(東京地裁昭和52年8月10日判決・訟務月報23巻11号1961頁)を取り消しました。

 この東京高裁判決以前の多くの判決において、そのような支払利子を「資産の取得費」に当たらないとした課税処分が適法と認められていたにもかかわらず、課税庁は上告を断念して関係取扱い通達を改正しました。現行の所得税基本通達38-8(取得費等に算入する借入金の利子等)です。

 所得税法38条1項に定める取得費に該当するための「資産の取得に要した金額」の解釈に関わることであり、単純に解釈すれば、所有中に発生する借入金利子は取得費に該当しないようにも読めますが、東京高裁判決がいう相当因果関係論(下記判決要旨参照)により「取得に要した金額」に含めるべきものと解してなんら不合理はないということになりました。

 この東京高裁判決がいう相当因果関係論からすると、当該事案の借入金利子と同様、当該証券の「取得費」として控除できるものと考えられるということです。

東京高裁昭和54年6月26日判決(行裁例集30巻6号1167頁)要旨

 当該資産を交換取得する場合に反対給付物を他から入手するのに要した相当額の対価支払は、交換取得との間に相当因果関係があるとして、右対価を「取得に要した金額」に含めるべきものと解するのが相当であると同様に、有償取得の通常手段である買受代金支払に引き当てるべき金額を入手するための対価としての相当額の支出もまた資産取得との間に相当因果関係が認められるところ、右金額を他から借り入れた場合に支払われる相当額の借入金利子は正に右金額獲得の対価としての支出金額と見ることができるから、これを当該資産の「取得に要した金額」に含めるべきものと解してなんら不合理はない。

 資産取得のための出費が右取得との間に相当因果関係をもつといえるか否かは、当該取得のための支出の必要性の度合を考慮し、かつ、その出費額を取得金額から控除することが当該租税負担の合理性、衡平性の観点から相当であるか否かを考慮して決せられるべきことがらであつて、取得と出費との間に被控訴人(S税務署長)主張のように直接因果関係の存する場合に限定しなければならない理由は見出し難い。

私の個人的見解

 あくまでも、個人的見解ですが、残高手数料契約(レベルフィー)の経費性を否認されることはないと思います。

 なぜなら、投資家は実際に手数料としてコストがかかっており、また、投資家の方で勝手に手数料の金額を簡単に操作できるものでもありません。

 また、従来型の都度手数料方式だけでなく、残高連動手数料(レベルフィー)方式も選択できることを望む投資家は相当数いると思われます。

 もし、税務調査等で残高連動手数料(レベルフィー)の経費性を否認するようなことが行われるならば、この残高連動手数料(レベルフィー)方式は広まらないことになります。

 そのようなことは金融庁も望まないでしょう。ですから、残高手数料契約(レベルフィー)の経費性を否認されることはないと思います(あくまでも、個人的見解ですが)。

 課税庁による公的見解を望みます。