概要

 権利を取得することによって収入を得た場合において、ある年分の各種所得の金額の計算上、当該収入に関し、収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、当該権利の取得時点における価額となります(所法36①、②)。

 その取得した権利が「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合」における当該株式を取得する権利に該当し、かつ、譲渡制限その他特別の条件が付されている場合には、当該権利の取得時点における価額は、当該権利に基づく株式の払込日における価額から払込価額等を控除した金額となります(所令84③三)。

 取得した権利に譲渡制限その他特別の条件がある場合は、権利付与時においては担税力があるとはいえないため、付与時課税とはなっていません。

 なお、上記の経済的利益(所得)が生じていたとすれば、同所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であって、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものに該当するから、その所得区分は原則として、一時所得になります(所法34①、所基通23~35共-6)。

 ただし、発行法人の役員又は従業員に対しその地位又は職務等に関連して株式を取得する権利が与えられたと認められるときは給与所得となり、これらの者の退職に基因して当該株式を取得する権利が与えられたと認められるときは退職所得となります(所基通23~35共-6(2)ただし書き)。

 取得した権利が「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合」とは、払込価額決定日の現況におけるその発行法人の株式の価額(決定日現況価額)に比して社会通念上相当と認められる価額を下る金額である場合(所基通23~35共-7)をいい、社会通念上相当と認められる金額を下る金額であるかどうかは、決定日現況価額と当該株式の払込価額との差額が当該株式の決定日現況価額のおおむね10%相当額以上であるかどうかにより判定します(所基通23~35共-7(注)1)。

 ここでいう株式等の決定日現況価額とは、払込価額決定日における株式の価額(以下「決定日価額」という。)のみをいうのではなく、決定日前1月間の平均株価等、払込価額を決定するための基礎として相当と認められる価額をいいます(所基通23~35共-7(注)2)。

 次に、所得税法施行令84条3項3号に掲げる権利に基づく払込日における価額(払込日価額)についてですが、これらの権利の行使により取得する株式が金融商品取引所に上場されている場合には、当該株式の終値によることとされています(所基通23~35共-9(1))。

 つまり、権利の行使により取得する株式が上場株式の場合、「払込価額決定日」におけるその株式の終値や同日前1か月間におけるその平均終値で、株式の払込価額が「有利な金額」であるか否かをまず判定し、「有利な金額」となった場合は、「払込日」におけるその株式の終値と払込価額等との差額が、原則として一時所得として課税されます。

 取引相場のない株式の払込日価額にあっては、(1)適正価額の売買実例がある場合はそれにより、(2)売買実例がない場合でも法人の事業の種類、規模及び収益の状況が類似する会社の取引価格がある場合はそれにより、(3)これらの価額がない場合には、純資産価額によって評価した価額を斟酌し通常取引されると認められる価額、にそれぞれよることとされています(所基通23~35共-9(4))。

第三者割当が「有利な発行価額による発行」に該当とされた事例-令和4年12月21日判決(令和3年(行ウ)140号)(棄却)(控訴)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① C社はいわゆる上場会社だが、平成24年7月期に43億円超の債務超過に陥り、平成25年7月期末までに債務超過を解消することができなかった場合には、株式の上場が廃止されること(以下「上場廃止」という。)を余儀なくされる状況でいた。
② C社は、上場廃止を回避するため、原告Xに追加の資金提供を求め、平成25年7月3日、C社がC社株式895万5224株(以下「本件株式」という。)を第三者割当の方法により発行(以下「本件発行」という。)してXがこれを引き受ける株式引受契約(以下「本件株式引受契約」という。)を締結した。
 Xは、既にC社株式の保有数が第三位の株主であるが、本件株式を取得する権利(以下「本件権利」という。)を行使して本件株式を取得すれば、C社の株主総会における議決権割合を約28.93%から約56.09%に増加させ、C社を単独で完全に支配することができる立場であった。
 なお、XとC社とは、本件株式引受契約において、相手方の事前の書面による同意なくして、本契約上の地位及び権利義務の全部又は一部について、第三者に譲渡その他の処分をせず、又は承継させないものとする旨を合意した。
 C社とXは、Z報告書における算定価格(市場株価法により平成25年5月31日から6か月遡った期間の平均株価である252.61円とDCF法により算定した価格16.21円との中間値)の下限である1株134円をもって、本件発行における1株当たりの払込価額とすることとした。
③ Xは、平成25年7月31日、本件株式を1株134円で取得した。
 1株134円という払込価額は、株式と引換えに払い込むべき額(払込価額)の決定日(払込価額決定日)の終値(金融商品取引法130条の規定により金融商品取引所が各営業日に公表する最終の価格)及び同日前の1か月間の終値の平均値〔X主張の取締役決議日(平成25年7月3日)基準で約398円、国主張の臨時株主総会決議日(同月30日)基準で414.25円〕よりも低額な金額であった。
④ C社は、平成25年7月期において債務超過を解消することができたことから、上場廃止を回避することができた。
⑤ 所轄税務署長から、1株134円という払込価額は決定日現況価額よりも「有利な金額」に該当するとして、払込日における終値である414円との差額をもって本件株式の取得による一時所得とすることなどを内容とする更正処分等(以下「本件処分」という。)を受けたことから、Xが本件処分には一時所得の収入金額の算定に係る法令の適用を誤った違法があると主張して、本件処分の一部の取消しを求める事案である。

(2)本件の主な争点

(争点1)本件権利が「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利」に該当するかである。
(争点2)本件権利の取得に係る一時所得の計算において総収入金額として算入されるべき経済的利益の価額がいくらであるかである。

(3)判決要旨(棄却)(控訴)

(争点1)
① 上場株式には、市場原理の下で不特定多数の市場参加者によって形成される終値があり、特段の事情がない限り、これが当該株式の価額として最も客観性のある数値であるといえるものの、上場株式の市場価格は、市場参加者のその時々の思惑や期待によって一時的に乱高下するなど異常な値動きをすることもあることを踏まえると、上場株式の払込価額についても、ある一時点の市場価格だけでなく、一定期間の市場価格の平均値を考慮するなどして、異常性を排除した通常の安定株価を算定し、これと払込価額を比較することにより、「有利な金額」であるか否かを判定することが相当な場合もある。これらのことからすれば、上場株式の払込価額についても、所得税基本通達23~35共-7の枠組みに従い、その決定日現況価額から払込価額を控除した差額が決定日現況価額の10%相当額以上であるか否かをもって「有利な金額」といえるか否かを判定することが所得税法施行令84条5号(編注、現行84条3項3号)の解釈として合理的なものであるといえる。
② 払込価額決定日における市場価格を重視する一方で、これが異常な値動きにより一時的に形成された価格である可能性があることを踏まえ、所得税基本通達23~35共-7において例示されている払込価額決定日前1か月間の平均株価も考慮して、両者のうちいずれか低い額と払込価額を比較し、少なくとも前者から後者を控除した差額が前者の10%相当額以上であれば、当該払込価額を「有利な金額」であると判定すること(以下「本件判定方法」という。)は、そこで用いられる市場価格(終値)が異常な値動きにより一時的に形成されたものであり、これを払込価額の決定の基礎とすることができない特段の事情がない限り、謙抑的な判定方法であるということができる。
③ 本件株式の払込価額決定日は、取締役会(以下「本件取締役会」という。)の決議日(平成25年7月3日)又は臨時株主総会(以下「本件臨時総会」という。)の決議日(同月30日)であり、そのいずれであるかについては、当事者間で争いがあるものの、本件取締役会決議日の前月の3日(同年6月3日)から本件臨時総会決議日である同年7月30日までの期間(以下「本件参照期間」という。)のC株式の終値について上記の特段の事情がなければ、いずれにしても、本件株式の払込価額決定日におけるC株式の終値や同日前1か月間におけるその平均終値について上記特段の事情はないことになるから、本件株式の払込価額が「有利な金額」であるか否かを判定するについて、本件判定方法によることができるというべきである。
④ 本件参照期間における株式市場において、C社が平成25年7月期末までに追加の出資を募るなどすることにより、債務超過を解消して上場廃止を回避することができ、平成26年7月期以降、積極的な経営方針に転ずるなどして、業績回復に向かう可能性が十分にあるという期待が形成されていたとしても、不合理であるとはいうことはできず、本件参照期間におけるC株式の市場価格は、株式市場で形成された合理的な期待を反映したものとしておよそ説明することができないほどに高騰していたということはできない。そうすると、本件参照期間におけるC株式の終値を本件株式の払込価額を決定するための基礎とすることができない特段の事情があるということはできないから、本件株式の払込価額が「有利な金額」であるか否かの判定に当たっては、本件判定方法によることができるというべきである。
⑤ 本件株式の払込価額決定日が本件取締役会決議日であるか本件臨時株主総会決議日であるかにかかわらず、本件株式の払込価額は「有利な金額」であるといえるから、本件株式を取得する権利(本件権利)は「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利」に該当することとなり、本件権利の取得について、Xには一時所得が生ずることになる。

(争点2)
⑥ 上場株式の終値は株式市場を通じた不特定多数の当事者間の自由な取引によって成立した客観的なものとして広く認識され利用されている価額であるといえる。これらのことからすれば、「株式と引換えに払い込む額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利」の取得に係る一時所得の計算において総収入金額として算入されるべき経済的利益の価額については、当該株式が上場株式であるときは、所得税基本通達23~35共-9(1)の定めのとおり算定することが、所得税法36条1項、2項の解釈として合理的なものであるということができる。
⑦ 本件権利の行使により取得した株式(本件株式)の払込日は平成25年7月31日であるところ、同日時点におけるC株式の終値は414円であるから、本件株式の払込日価額は、1株当たり414円である。したがって、本件権利の取得に係る一時所得の総収入金額として算入されるべき経済的利益の価額は、C株式の終値414円から本件株式の1株当たりの払込価額等134円を控除した280円に、本件株式数895万5224株を乗じた金額25億0746万2720円となる。

(4)その後

 本件は、Xにより控訴されたが、控訴審(東京高裁令和5年8月2日判決)でもXの主張は棄却され、Xは上告・上告受理申立てしている。