キャバクラ

キャバ嬢・ホステスにとって、どう違ってくるのか?

 キャバ嬢等がお店から支払われるお金が給与所得であれば年末調整等で課税関係が終了しますが、事業所得の場合は、原則としてキャバ嬢等が自分自身で確定申告をする必要があるということになります(もちろん、申告業務を税理士に依頼することもできます)。

 なお、事業所得に該当する場合は、収入を稼ぐためにかかった直接の経費は必要経費となります。一方、給与所得の場合、必要経費は利用できません。ただし、給与所得控除というものがあり、給与収入そのものに税金がかかるというわけではありません。

 コロナ禍における持続化給付金を得るため、今まで確定申告をしてこなかったキャバ嬢等があえて事業所得として確定申告をしたという最近の流れがありました。

(1)開業届出

 キャバ嬢等により新たに事業所得が生ずることになった場合、事業開始があった日から1か月以内に「個人事業の開業届出書」を所轄の税務署(原則、キャバ嬢等の住所地が納税地)に提出する必要があることになっています。ただし、1か月を超えて遅れて提出しても受理されているのが実情です。

 また、青色申告特別控除(最高65万円)の利用のため等青色申告の承認を受ける場合には、「所得税の青色申告承認書」を所轄の税務署に提出する必要があることになっています。

 この場合、原則、承認を受けようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合には、開業の日から2か月以内)に提出する必要があり、提出期限までに提出できなければ、次年分からの適用となります。「個人事業の開業届出書」と違って、提出期限を厳密に守る必要があります。

 なお、青色申告特別控除等のメリットがありますが、青色申告の場合、経理処理など面倒なことが多く、経理処理など面倒なことはしたくないことで、あえて提出せずに、白色申告で確定申告をするキャバ嬢等は多いです(税理士に確定申告を依頼する場合は別)。

 また、お店からの支払いが報酬ではなく給料の場合は事業所得ではなく給与所得なので、「個人事業の開業届出書」や「所得税の青色申告承認書」を提出する必要がありません(提出したら間違い)。

(2) 支払調書

 キャバ嬢等が事業所得として確定申告をする場合、年間の報酬(収入)と年間に徴収された源泉所得税を把握する必要があります。それが、まず、初めの一歩となります。

 お店がすんなり「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を渡してくれれば、そこに、年間の報酬(収入)金額と源泉徴収税額が記載されているので簡単に把握できます。

 ただし、お店が支払調書を渡してくれないがどうしたらよいのかというキャバ嬢等の相談は、結構多いです。水商売の場合、真面目に税処理をしているお店もありますが、それ以上に、いい加減にしているお店の方が多いのが実情だと思います。 

 国税庁は、毎年、税務調査による不正発見割合の高い10業種を公表していますが、水商売は、毎年、上位にあげられている常連業種です。

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2020/hojin_chosa/pdf/hojin_chosa.pdf

 よって、 支払調書が、お店から貰えない可能性があるので、少なくとも、自分の報酬、源泉徴収額額を日誌やメモとして保存をしておいていたほうがよいでしょう。

 そもそも、支払調書は確定申告書に添付する義務はありません(もちろん、添付しても構いません)。

 なお、支払調書をお店が出してくれたが、記載されている源泉徴収額額が違っているという相談をされることも多いです。報酬金額の10.21%が源泉徴収されていたはずなのに、支払調書の記載金額はかなり少ない金額となっているという相談です。

 例えば、年間100万円の報酬で、お店から源泉徴収として合計10万2,100円が徴収されたのだが、支払調書の報酬金額は100万円で正しいが、源泉徴収税額が0円になっていたというようなことです。

 キャバ嬢等の報酬金額そのままから10.21%を差し引いているお店はありますが、それは正しい処理ではありません。正しい処理は下記の「お店側(キャバクラ店・クラブ)にとって、どう違ってくるのか?(1)源泉所得税 」で説明している通りです。

 ですから、キャバ嬢等の報酬金額そのままから10.21%を差し引いているお店は、キャバ嬢等から多めに源泉徴収をしているが、源泉所得税を税務署に納める際は正しい金額で納付しているため、差額は、お店の利益となっていることが多いです。

 実際に納めた源泉所得税の金額ベースで支払調書を作成しないと、後で、お店に税務調査に入った際にまずいため、キャバ嬢等が差し引かれていた源泉徴収税額より少ない金額(本来の納税額)が支払調書に記載されているということです。

(3)必要経費

 キャバ嬢等としての収入を稼ぐために直接にかかった経費は必要経費となります。

(経費になる・ならない)

  • 出勤前のヘアメイク代を自分で出す場合は経費になります。
  • コスメ代はキャバ嬢等をしなくてもかかるようなものであるため、通常、経費になりません。仕事専門のコスメがあり、それについて立証できるのであれば経費になります。
  • お店でしか着ないドレス代は経費になりますが、普段、街中でも着れるような服は経費になりません。
  • お店への行き帰りの交通費を自分で出す場合は経費になります。深夜営業終わりで帰宅する場合、店が用意した送りの車での帰宅が多いでしょうが、タクシーで帰る場合、自分でタクシー代を出す場合は経費になります。なお、お店側がタクシー代を出す場合、その金額自体もキャバ嬢等の報酬に含めないといけないので、その場合も経費とすることができます。
  • 仕事専門のスマホ代は経費となります。プライベートと仕事用が同じスマホでしている場合は、経費の按分計算が必要となります。
  • 店側が用意した名刺ではなく、自腹で名刺を作成した場合は経費となります。
  • 常連のお客さんに対してプレゼントを渡す場合の品物購入代は経費となります。
  • エステ代は経費になりません。
  • お客さんとの会話を合わせるためといって、Hulu等の動画配信サービスを契約しても経費となりません。
  • 自宅でも、お客さんにスマホを使って営業しているといっても、家賃の経費按分はできません。キャバ嬢等としての収入を稼ぐための場所は、あくまでも、お店です。

 必要経費になるかならないのかで、一番重要なことは同業のキャバ嬢等に聞かないことです。そのキャバ嬢等の判断は、税の素人の一個人の経験でしかないので、まず、間違いなく間違っています。税務署も忙しいので、全部が全部に調査に入って正しく指導できるというわけではないからです。

 なお、税務調査に入られたことのあるキャバ嬢等の意見は、ある程度、参考になる部分があると思います。

(4)副業でキャバ嬢をしている場合

 本業はOLだが、副業でキャバ嬢をしている方も多いでしょう。本業が他にあり、副業でキャバ嬢をしている場合、一般的には、事業所得とはならず雑所得となります。

 事業所得と雑所得の違いはいくつかあるのですが、雑所得の場合、青色申告特別控除(最高65万円)が受けられることはありません。

 ただし、所得の計算自体は、お店から支払われる年間の報酬(税引き前)から必要経費を差し引いたものが所得となるので、資産損失の必要経費算入額(所法51)等若干の違いがありますが、基本的に、キャバ嬢の場合は事業所得か雑所得かで大きな違いはでません。

 なお、お店から支払われるものが報酬の場合が事業所得か雑所得となるのであって、お店から支払われるものが給料の場合は給与所得となります。

 副業でキャバ嬢をしていることを本業の勤め先にばれたくないということで、副業からの分の住民税を特別徴収(主たる給与の支払を受けている本業の勤務先が給与から差し引いて徴収)ではなく、普通徴収(自分で納付)を選択したい人が多いでしょうが、お店から支払われるものが給料(給与所得)の場合は、全て本業の勤務先の給与から特別徴収されます。

  地方税法の規定では、「給与と公的年金以外の所得に係る税額を普通徴収にすることができる。」とされているためです。逆に、お店から支払われるものが報酬(事業所得or雑所得)の場合、普通徴収(自分で納付)を選択できるため、住民税から、本業の勤務先に副業をしていることがばれないということになります。

 副業でキャバ嬢をしようとしている方は、お店からの支払いが報酬(雑所得)なのか、給料(給与所得)なのかを確認してから、勤めるのが良いでしょう。

(5)学生でキャバ嬢をしている場合

 学生の場合、親から「扶養から外れないようにバイトして」と言われることが多いでしょう。よく103万円といわれていますが、それは給料としてバイト代をもらう場合です。

 以下の(3)合計所得金額が48万円以下であれば、親の扶養内になり、また、ご自身の確定申告は不要になります。ただし、45万円を超えると住民税の申告は必要です(国民健康保険料の算定等自治体によっては45万円以下でも、申告が求められる場合があります)。

(1)給与所得
 収入金額 - 給与所得控除額55万円 = 給与所得金額
(2)雑所得
 収入金額 - 必要経費 = 雑所得金額
(3)(1)+(2)= 合計所得金額

 例えば、給料としてバイト代を年間103万円(税引き前)を稼いだとします。この場合、他に所得がなければ、給与所得控除額55万円を差し引いた金額が48万円となりますので、親の扶養から外れません。これが、年間104万円(税引き前)を稼いだとすると、給与所得控除額55万円を差し引いた金額が49万円となりますので、親の扶養から外れます。

 親の立場からすると扶養控除を利用できなくなるので、税金が高くなってしまうということであり、「扶養から外れないようにバイトして」と言ってくるというわけです。

 なお、今まで説明したのは、あくまでも給料としてもらった場合の話です。お店から支払われるものが報酬の場合は雑所得となるのであって、お店から支払われる報酬(税引き前)から必要経費を差し引いたものが48万円以下でないと、親の扶養から外れることになります。

 ですから、学生でキャバ嬢をしようとしている方は、お店からの支払いが報酬(雑所得)なのか、給料(給与所得)なのかを確認してから、勤めるのが良いでしょう。

 そして、扶養から外れる場合には、あらかじめ、親に「税金上、扶養から外れる」と伝えておいた方が良いでしょう。ただし、何で扶養から外れるのかを、親が詮索してくることもあるでしょうが。

(6)お客さんからのプレゼント

 お客さんからのプレゼントをもらった場合、ちょっとしたものであれば、実務上、問題となりません。ただし、高額であり、年間110万円を超える時価相当のものをもらうと贈与税がかかります

 また、お客さんから貰ったものがいらないもので、質屋やフリマで売却した場合、別途、所得税の問題が生じる可能性があります。

お店側(キャバクラ店・クラブ)にとって、どう違ってくるのか?

(1)報酬に関する源泉所得税

 お店がキャバ嬢等に報酬(キャバ嬢等からすると事業所得)として支払うときは、源泉徴収すべき所得税等の額は、報酬の額から同一人に対し1回に支払われる金額について、5千円にその報酬の「計算期間の日数」を乗じて計算した金額を差し引いた残額に10.21%の税率を乗じて算出します。求めた税額に1円未満の端数があるときは、これを切り捨てます。

(例) キャバ嬢の報酬の支払金額の計算の基礎期間4月1日から4月30日(30日間)、お店の営業日数24日間、キャバ嬢の出勤日数15日間、4月分の報酬60万円を支払う場合
 (60万円―15万円 ※ )×10.21%=4万5945円
 ※15万円=5千円×30日間
 よって、源泉徴収すべき所得税等の額は4万5945円になります。

 上記の「計算期間の日数」とは、「お店の営業日数( 24日間 )」又は「キャバ嬢等の出勤日数( 15日間 )」ではなく、報酬の支払金額の計算の基礎となった期間の初日から末日までの全日数(30日間)となります。

 ホステス報酬源泉徴収事件として有名な最高裁第三小法廷平成22年3月2日判決(民集64巻2号420頁)では、「計算期間の日数」の考え方について、お店側が主張する「集計期間の全日数」と課税庁側が主張する「ホステスの実際の出勤日数」で争われましたが、 お店側の主張が認められ、その結果、現在の課税実務では上記の考え方がとられています。

 例えば、OLが6月にアルバイト感覚でキャバクラで5日間働き15万円の収入を得たとします。この場合、その収入が報酬であれば源泉徴収される所得税等は0円となります。しかし、それが報酬ではなく給与だった場合、乙欄により源泉徴収されるので、8700円が徴収されるということになります。

 つまり、税務署からすると、キャバ嬢等に対する支払いが報酬ではなく給与とした方が税金が取れるということになるため、お店に税務調査が入った場合は、給与であると否認してくる傾向にあります。

 なお、上記の最高裁の判例が出るまでは、水商売の課税の実務では、「計算期間の日数」については課税庁側が主張していた「ホステスの実際の出勤日数」が用いられることが多かったのです。例えば、5日間働き15万円の収入の場合、(15万円― 5千円×5日間 )×10.21%= 12762円が源泉徴収される所得税等となり、あえて、給与であると否認する旨味は税務署側になかったということです。

(2)契約金に関する源泉所得税

 売れっ子キャバ嬢、ホステスやクラブママ等に自分のお店に来てもらいたい場合、お店側が契約金を支払う場合があります。この場合の源泉徴収すべき所得税額および復興特別所得税の額は、支払金額により次のようになります。

支払金額(=A)税額
100万円以下A×10.21%
100万円超(A-100万円)×20.42%+102,100円

 上記をみてもらうとわかりますが、100万円を超える支払金額となると源泉所得税等の金額があがる仕組みとなっています。売れっ子キャバ嬢等に対して、移籍金といえる契約金を支払う場合、100万円を超えることはザラにあるでしょう。

 そして、最大のポイントは、キャバ嬢等の方は契約金を貰う場合、通常、税引き前の金額がいくらかではなく、税引き後の手取り額でいくら貰えるのかに興味があるということです。

 お店側として支払額を抑えたい場合は、1回の支払金額を100万円以下とし、契約金を分割払すればよいということになります。例えば、手取り(契約金から源泉所得税を差し引いた後の金額)1000万円をキャバ嬢に支払うとします。

 その場合、1回あたりの支払金額を100万円以下として分割払いした場合のお店側の負担額は、約1114万円となります。一方、契約金を一括で支払う場合のお店側の負担額は、約1244万円となります。

 契約金の分割払いをしたほうがお店側の負担が少なくて済みますが、水商売の世界では、以下の理由で、契約金の分割払いは難しいのが現状です。

①水商売ではホステスに対する契約金は一括で支払うのが慣習になっていて契約金を分割払する店はない、②ホステスは一度に大金を欲しがり分割ならば契約してくれるホステスなどいない、③契約金を分割払するようではホステスから信頼されず、店の経営状態が悪いのではないかと風評が立ってしまう。

 このため、契約金を分割払したほうがお店側の負担額が少なくなるとわかっていても、契約金を一括で支払うということが一般的です。

 なお、建前的に契約書上、契約金を分割払いとしても、実際は一括で支払う合意があったならば、それは一括払いということになります。参考の事例として、平成30年10月10日裁決(東裁(諸)平30第43号)があります。

(3)消費税

 お店側がキャバ嬢等に報酬として支払うとき(キャバ嬢等からすると事業所得)は、その報酬等の支払をするお店側の消費税額等の計算上は、報酬を仕入税額控除の対象とすることができるということになります。

 一方、給与として支払った場合は、 お店側の消費税額等の計算上は、 仕入税額控除の対象にならないということになります。

 15万円が報酬であれば、仕入税額控除の対象となり、お店側の消費税の納税額が13636円減るということになります。一方、15万円が給与であれば、お店側の消費税の納税額に変化はありません。

 キャバ嬢等全体に対する年間の支払いが数億円、数千万円となるお店側にとって、無視できない実情があるということになります。

 なお、キャバ嬢等が受領する報酬が事業所得に該当する場合は、所得税の確定申告をすることになりますが、当のキャバ嬢等が確定申告をしているかどうかは、課税仕入れの判定に何ら影響しません。

(4)まとめ(報酬なのか、それとも給与なのか)

 お店側としては、上記の理由から、キャバ嬢等に対する支払いを給与ではなく報酬(キャバ嬢等からすると事業所得)としたがる傾向にあります。

 しかしながら、いざ、税務調査が入った場合は、お店側にとって厳しい結果がでている(給与と判断される)のが実情です。

 プロのホステスを主体としているのではなく、学生・OLがアルバイト感覚で働いているようなお店は要注意です。

 なお、 報酬なのか、それとも給与なのかについては、下記に参考事例として過去の裁決例・裁判例を挙げておきますが、ポイントは以下であり総合勘案により判断します。

判定項目給与報酬
ホステスとの契約が、雇用契約又はこれに準ずる契約等に基づいているかYESNO
ホステスが店側の指揮命令に服し、店側との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受けているか
・店長、黒服が出勤の可否を毎日確認しているのか
・店長等が作成したシフトに従って勤務しているのか
・ホステス各自が自由に出勤日を決めることができないのか
・タイムカード等を元に、店長等が勤務時間(出勤時間及び退勤時間)を管理しているのか
・無断欠勤や遅刻により罰金が科せられることがあるのか
・同業他店での勤務は禁止なのか
・接客方法や接客態度等に関する店側の詳細な決まりがあるのか
・ホステスが休むことができる日数には制限があるのか
YESNO
ホステスの業務が自己の計算と危険において、独立して営まれているか
・採用間もない一定期間であっても、ホステスに対して一定額の支給が保証されるようなことはないか
・ホステス自身が売掛金を回収する責任はあるのか
・ホステスへの支給額は接客時間等を基準に算出されていないか
・接客のためにホステスが費用負担をしているか
NOYES

(4)関連記事

裁決例・裁判例

(1)給与所得と判断されたホステス報酬-福岡地裁平成28年7月28日判決(税資266号-113(順号12891))、福岡高裁平成29年1月11日判決(税資267号-2(順号12951))

(1)福岡地裁(棄却)(控訴)
① 認定事実によれば、本件ホステスらの出勤日は各店舗のほかの従業員やホステスらとの間で調整して決められており、各自が自由に決めることができなかったこと、各店舗においては、始業前に朝礼への参加が義務付けられ、業務開始の準備、接客方法や接客態度等に関する詳細な決まりがあり、これらに基づいてホステスらに対し業務上の指導が行われることもあったことが認められる。これらの事実に照らせば、本件ホステスらは、原告(お店側)の業務上の指導の下で、接客等の業務を行っていたといえる。そして、ホステスらが顧客から受け取る金員は、原告の売上げとされ、ホステスらが受け取る金員は給与規定に基づき計算されたものに限られていたことからすると、本件支給金員は、ホステスらが提供する労務の対価であったといえる。

② 本件ホステスらの勤務時間は、タイムカード等によって管理されていなかったものの、出勤時間及び退勤時間は決まっており、これに違反した場合には罰金が科されていたこと、出勤日はホステスらの希望を踏まえて調整されていたものの、休むことができる日数には制限があった上、出勤が強制され、自由に休みを取ることができない場合があり、ホステスらが自由に決めることができなかった。このことからすると、本件ホステスらは、給与支給者である原告との間で、時間的な拘束を受けていたといえる。

③ 以上の事実に照らせば、本件支給金員は、原告とホステスらとの間で締結された、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、使用者からの指揮命令に服したことの対価として受領していたものといえるから、本件支給金員は、給与所得に当たり、所得税法204条1項6号は適用されず、本件告知期間の源泉徴収に係る所得税額は、法185条1項に従って算定されることとなる。

(2)福岡高裁(棄却)(上告・上告受理申立て)
① 本件各店舗が接客付き飲食店であり、本件ホステスらの業務が個々の客を接客するものであることからすれば、本件ホステスらが、それぞれの顧客情報を管理していたからといって、直ちに本件ホステスらが自己の計算と危険において独立して事業を営んでいたことが根拠付けられるものではない。

② 本件各店舗のマニュアル等において、顧客名簿の作成を促す記載がみられることや、本件支給金員はホステスらの出欠、遅刻の有無、同伴の有無、同伴者の氏名等を記載した管理表等を用いて計算されているため、ホステスらにおいて、その正確性を確認するため、顧客名簿との照合をせざるを得ないことからすれば、本件ホステスらがそれぞれ顧客情報を管理しているからといって、このことのみから直ちに本件ホステスらが自己の計算と危険において独立して業務を行っているものということはできない。

③ 控訴人(お店側)は、本件ホステスらが風営法2条13項所定の接客業務受託営業を営む者であることを前提に縷々主張する。しかし、本件支給金員の所得区分を判断する上で、本件ホステスらが風営法にいう接客業務受託営業者に当たるか否かは全く関係がなく、控訴人の主張は失当である。なお、同項は雇用契約による場合も予定しているというべきであるから、同項の規定から直ちに本件支給金員が当然に請負契約又は委任契約に基づく報酬であると認めることはできない。

(2)事業所得に該当するものと給与所得に該当するものがいるとされた事例-平成26年7月1日裁決(東裁(諸)平26第1号)

① 一般に、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない(最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決)。したがって、ある給付が給与等に当たるか否かについては、労務等の提供及び支払の具体的態様等を基に、客観的、実質的にみて上記の基準に該当するかどうかによって判断するのが相当である。

② 認定事実によれば、B及びCらは、出勤表や各タイムカードにより出勤日や入退店時間、従事時間、同伴、遅刻及び欠勤等を請求人(お店側)によって管理され、請求人の指揮命令に服して、空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務を提供し、その対価として、日給又は時間給を基本とし、これに、各人が接客業務を行ったか否かに関係なく得意客の飲食代金に応じ決定された金額とホステスチャージ・同伴の実績等に応じ決定された金額が加算された金員を、月払により支給されていたものというべきである。そうすると、請求人が、B及びCらに支払った金員は、いずれも所得税法28条1項に規定する給与等に該当すると認められる。

③ Aについては、本件店舗において接客業務に従事していたことにつき、請求人との関係において空間的、時間的な拘束を受け、請求人の指揮命令に服していたとまではいえない上、Aに対する金員は、Aの客の売上げの50%相当額に当該客のほとんどの者が支払っていたホステスチャージ及び同伴料等が加算される支払体系であったこと、及び接客のために費用負担をしていたことが推認されることからすると、所得税法28条1項に規定する給与等には該当しないと認められる。

(3)キャストに支払った金員は給与等に該当するとした事例-平成30年1月11日裁決(裁事110集)

① 請求人(お店側)は、請求人が営むキャバクラ店において接客業務に従事する女性(キャスト)は請求人から時間的、空間的な拘束を受けておらず、営業で必要な費用(携帯電話代金等)を負担しているから、キャストへの支給額(本件支給額)は所得税法第27条《事業所得》第1項に規定する事業所得に該当する旨主張する。

② しかしながら、キャストは接客業務に従事するに当たり、請求人との間で、給与体系、勤務時間及び店舗規則などの勤務条件について合意していたこと、請求人はキャストの勤務時間又は接客時間を管理していたこと、キャストは指名客以外の客に対しても店長の指示により接客していたことが認められるから、キャストは入店から退店までの間は請求人の管理下にあったと認められ、請求人から空間的、時間的な拘束を受け、継続的又は断続的に労務又は役務の提供をしていたとみることができる。そして、キャストが営業のために必要な費用の一部を負担しているとの請求人の主張を考慮しても、本件支給額は接客時間等を基準に各種手当て及びペナルティの有無を勘案して算出されていること、採用後1、2か月間は一定の時給が保証されていること、キャストは客に対する売掛金を回収する責任を負っていなかったことからすれば、キャストは自己の計算と危険において独立して事業を営んでいたものとみることはできない。以上によれば、本件支給額は、キャストと請求人との雇用契約に基づき、請求人の指揮命令に服して提供した労務の対価であるから、所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等に該当する。

(4)キャバクラ店のキャストに支払った業務の対価は給与等に該当とするとした事例-東京地裁令和2年9月1日判決(平成30年(行ウ)268号、平成31年(行ウ)第197号追加的併合)

ア 本件月払キャストについて
 本件月払キャストは、原告(キャバクラ店を営んでいた株式会社)から事前に勤務条件を説明された上で、それに合意して本件各店舗で勤務を開始したものである。
 また、勤務に際しては、仮に本件各店長が出勤の可否を毎日確認している実情があるとしても、本件各店長との間で、週の出勤日数や曜日について事前に取り決めをし、本件各店長が作成したシフトに従って勤務することが前提になっており、本件各店長において客が来ないと判断した場合に帰らせることがあるなど、退店についても本件各店長の指示を受けている。そして、本件各店長は、本件月払キャストについて、タイムカードによる入退店時刻を基礎として、休憩時間及び待機時間を差し引いて算出した接客時間をパソコンで管理し、採用後間もない本件月払キャストについては、接客時間が少なくなることから、入退店時刻による勤務時間を基に管理している。加えて、本件月払キャストは、無断欠勤等により罰金を科されることがあり、他のキャバクラ店での勤務も禁止されている。これらのことからすれば、本件月払キャストは、原告の指揮命令に服して空間的、時間的拘束を受けていたといえる。
 さらに、本件月払キャストは、あらかじめ決められた接客又は勤務1時間当たりの支給額に接客時間又は勤務時間を乗じて計算した金額に、各種手当の額を加算した額の支給を受けており、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供をし、その対価として金員の支給を受けていたものといえる。
 そして、本件月払キャストによるこのような業務の対価の支給の受け方に加え、本件月払キャストは採用後間もない期間においては勤務時間に応じた一定額の支給が保証されていたこと、本件各店舗における飲食料金等の支払方法は原則として現金又はクレジットカードによるとされており、本件月払キャストが客に対する売掛金を回収する責任を負うことはなかったことからすれば、本件月払キャストが自己の計算と危険において労務又は役務の提供をしていたということはできない。

イ 本件日払キャストについて
 本件日払キャストは、原告から事前に勤務条件を説明された上で、それに合意して勤務を開始したものである。
 また、本件日払キャストについて、主として本人の申出により出勤日が決まるものの、通常勤務する店舗においてキャストが余っているときは、原告が営む他の店舗において勤務することを依頼される場合もあり、本件各店長において客が来ないと判断した場合に帰らせることもあるなど、勤務する店舗や退店について本件各店長の指示を受けている。そして、本件各店長は、本件日払キャストについて、入店から退店までの時間から本件各店長に申し出て休憩したり、店外に出たりするなどしていた時間を差し引いた時間を勤務時間として管理している。これらのことからすれば、本件日払キャストは、入店から退店までの時間において、原告の指揮命令に服して、空間的、時間的な拘束を受けていたといえる。
 さらに、本件日払キャストは、あらかじめ決められた勤務1時間当たりの支給額に勤務時間を乗じて計算した金額に、各種手当の額を加算した額の支給を受けており、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供をし、その対価として金員の支給を受けていたということができる。
 そして、本件日払キャストによるこのような業務の対価の支給の受け方に加え、本件各店舗における飲食料金の支払方法が原則として現金又はクレジットカードによるとされており、本件日払キャストが客に対する売掛金を回収する責任を負うことはなかったことからすれば、本件日払キャストが自己の計算と危険において労務又は役務の提供をしていたということはできない。

ウ 原告の主張について
(ア) 原告は、原告と本件各キャストの間の契約において、本件各キャストが自由意思により出動日、入店時刻及び退店時刻を決めることができ、本件各キャストは原告からの仕事依頼の指示に対する諾否の自由を有していた旨主張する。
 しかしながら、本件月払キャストについては、本件各店長との間で、週の勤務日数や曜日について事前に取り決めをし、本件各店長が作成したシフトに従って勤務することが前提になっており、無断欠勤等の場合は罰金が科されることになっていたものである。また、本件各キャストは、前記ア及びイのとおり、原告から退店等についての指示を受けることがあり、さらに、本件各キャストの勤務時間については、本件各店長が管理していたというのである。
 したがって、本件各キャストは、原告からの仕事依頼の指示に対する諾否の自由を有していたということはできない。
(イ) また、原告は、本件各キャストに対し、簡潔に本件各店舗の仕組みについて教えた後は一切指示をすることはなく、顔見知りが客として来た場合や過去に特定の顧客の接客をして不愉快な思いをした場合等には、本件各キャストは接客を断ることができるなど、本件各キャストが原告の指揮命令に服していない旨主張する。
 しかしながら、原告の主張するこれらの事情は、雇用契約の下において使用者の指揮命令に服している場合にもあり得るものであり、このような事情があるからといって、本件各キャストが原告の指揮命令に服していないということはできない。
(ウ) 原告は、①本件各キャスト同士を比較しても、同じ時間だけ接客をしても異なる所得を得ていること、②本件各店舗においては、席ごとの売上げを一定の割合で本件月払キャストに分配するシステムを採用しており、本件月払キャストに支給された金員は完全出来高方式に基づく報酬であること、③本件各キャストは、本件各店舗において、各種イベントを主催し、これに関し高額な報酬を受け取ることができることから、本件各キャスト支給額は、労務又は役務の提供との対価性を欠くものである旨主張する。
 しかしながら、①についてみると、本件各キャストによって接客又は勤務1時間当たりの支給額が異なるのは、客からの指名等の実績により支給額が決定されていたことによるものであり、業績への貢献等によって支給額が異なり得ることをもって、本件各キャスト支給額が労務又は役務の提供の対価ではないといえないことは明らかである。また、②についてみると、仮に本件月払キャスト支給額の算定方法が席ごとの売上げを一定の割合で本件月払キャストに分配することを意図して決定されたものであったとしても、本件月払キャストへの支給額は、接客又は勤務1時間当たりの支給額に接客時間又は勤務時間を乗じた額を基本として決定されるものであり、本件月払キャストが原告に対して提供した労務又は役務の提供の対価であることが否定されるものではない。さらに、③についてみると、本件各キャストがイベントを主催することにより高額の支給を得ることができたとしても、本件各キャスト支給額は、イベント開催日も含めて、接客又は勤務1時間当たりの支給額に接客時間又は勤務時間を乗じて各種手当の額を加算して決定されていたのであるから、これが労務又は役務の提供の対価であることが否定されるものとはいえない。
(エ) 原告は、①客との連絡は本件各キャストが管理し、本件各キャストが自身の収益の計算までしていること、②衣装代、整髪代、名刺代等の必要経費は本件各キャストの自己負担であり、本件各キャストは努力によって指名客が増えるほどその所得が増える一方、何もしなければ接客につくことができず所得を得ることができないという危険を抱えており、現に報酬が0円の日やマイナスになっている日がある者がいることなどから、本件各キャストは、自己の計算と危険において独立して業務を営んでいるといえる旨主張する。
 しかしながら、①については、このような事態は、雇用契約の下で、自己の計算と危険において業務を営んでいるわけではない場合にもあり得ることである。また、②についても、雇用契約の下で、自己の計算と危険において業務を営んでいるわけではない場合であっても、一定の必要経費を労働者が負担することはあり得ることであり、1日単位でみれば赤字となり得る日は生じ得るものである上、本件各キャストは、客から直接代金の支払を受けることはなく、売掛金の回収のリスクを負担することもないから、②の事情をもって、本件各キャストが自己の計算と危険において独立して業務を営んでいるということはできない。
(オ) 原告は、本件各キャストが原告において接客業務をして得た報酬を事業所得として確定申告をしていることや、本件各キャストが雇用保険及び労働者災害補償保険に加入していないことは、本件各キャストが個人事業者であることを裏付けるものである旨主張する。
 この点について、証拠によれば、本件月払キャストであるAは、原告から支給を受けた金員を事業所得として、平成28年分の所得税等に係る確定申告をしていたことが認められる。しかしながら、本件各キャストが原告から支給を受けた金員を事業所得として確定申告をしていたとしても、当該キャストが当該所得を事業所得として申告すべきものと考えていたにすぎず、これをもって当該所得が事業所得であることにはならない。また、本件各キャストが雇用保険や労働者災害補償保険に加入していないとしても、原告が加入手続をしていないにすぎないともいえるから、これをもって本件各キャストが個人事業者であることが裏付けられるとはいえない。
(カ) 原告は、本件各告知処分等は、所得税法204条1項6号の「ホステス」についてみだりに規定の文言を離れて解釈するものであって、課税要件明確主義に反し、また、本件各告知処分等においてのみホステスへ支払われた金銭を給与とするのは、租税法律主義に反する旨主張する。
 しかしながら、所得税法204条1項6号、2項1号によれば、ホステスの業務に関する報酬についても、同法28条1項に規定する給与等に該当することがあり得るのは明らかである。したがって、本件各告知処分等は、同法204条1項6号の「ホステス」についてみだりに規定の文言を離れて解釈するものではなく、課税要件明確主義に反するとはいえない。また、ホステスへ支払われた金銭を給与と認定することが租税法律主義に反するともいえない。
(キ) 原告は、以上の他にも本件各キャスト支給額が所得税法28条1項に規定する給与等に該当しない根拠を主張するが、これらはいずれも上記の給与等に該当しないことの根拠となるものとはいえない。

エ  以上によれば、本件各キャストは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供をしていたということができるから、本件各キャスト支給額は、所得税法28条1項に規定する給与等に該当するものと認められる。