概要
老齢基礎年金(国民年金)に係る未支給年金請求権については、当該死亡した受給権者に係る遺族が、当該未支給年金を自己の固有の権利として請求するものであり、当該死亡した受給権者に係る相続税の課税対象にはなりません(国税庁HP質疑応答事例「未支給の国民年金に係る相続税の課税関係」、最高裁第三小法廷平成7年11月7日判決・民集49巻9号1829頁)。
なお、遺族が支給を受けた当該未支給年金は、当該遺族の一時所得に該当します(所基通34-2)。
国民年金法の取り扱い
老齢基礎年金(国民年金)の給付は、原則として、毎年2月、4月、6月、8月、10月及び12月の6期に、それぞれの前月までの分が支払われます(国年法18③)。
年金の定期支払月の支払日は15日です。ただし、15日が土曜日、日曜日又は休日に当たる場合は、その直前の平日となります。
例えば、4月15日が日曜日の場合は、4月13日の金曜日が支払日となります。
次に、年金給付の支給は、これを支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始め、権利が消滅した日の属する月で終わります(国年法18①)。そして、老齢基礎年金の受給権は、受給権者が死亡したときは、消滅します(国年法29)。つまり、死亡した月の分まで支給されることとなっています。
以上のことから、未支給の年金は生じることになります。
例えば、老齢基礎年金の受給権者が6月26日に死亡したとします。この場合、6月15に年金を受給していますが、その年金は前月までの分となりますので、4月、5月分ということになります。
よって、この老齢基礎年金の受給権者は、支給されていない6月分の年金(未支給年金)がある状態となります。
このように、老齢基礎年金(国民年金)の給付の受給権者が死亡した場合に、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給されていない年金(未支給年金)があるときには、その者の配偶者(内縁の配偶者を含む。)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の3親等内の親族であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものが、その未支給の年金の支給を、自己の名で請求することができることとされています(国年法19①)。
未支給年金には以下のように、3つのポイントがあります。
配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の3親等内の親族
未支給年金の支給請求することのできる者の範囲及び順位について民法の規定する相続人の範囲及び順位決定の原則とは異なった定め方がされており、相続人に限っていません。
未支給の年金を受けるべき者の順位は、死亡した者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹及びこれらの者以外の三親等内の親族の順序となっています(国年法19④、国年令4の3の2)。
未支給の年金を受けるべき同順位者が2人以上あるときは、その1人のした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなされます(国年法19⑤)。
最高裁第三小法廷平成7年11月7日判決(民集49巻9号1829頁)においても、国民年金法に基づく未支給年金請求権は、相続性が否定されました。
生計を同じくしていたもの
被保険者の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とした立場から未支給の年金給付の支給を一定の遺族に対して認めたものと解されています。
ですから、生計を同じくしていたものである必要があります。
自己の名で請求
未支給年金請求権については、死亡した受給権者に係る遺族が、未支給年金を自己の固有の権利として請求します。よって、死亡した受給権者に係る相続税の課税対象(本来の相続財産又はみなし相続財産)にはなりません。
自己の名で請求した遺族が支給を受けた未支給年金は、当該遺族の一時所得に該当します(所基通34-2)。
老齢基礎年金(国民年金)以外の未支給年金等
国民年金基金
国民年金基金が支給する年金については、国民年金の未支給年金に関する規定(国年法19)を準用するとされています(国年法133)。
よって、国民年金基金が支給する死亡した者に係る年金の未支給分についても、国民年金と同様、その遺族が自己の固有の権利として請求するものであり、相続財産には当たらず当該死亡した受給権者に係る相続税の課税対象にはならないと解されています。
老齢厚生年金(厚生年金)
未支給の年金の支給の請求は、老齢基礎年金の受給権者が同時に老齢厚生年金の受給権を有していた場合であって、未支給の年金の支給の請求を行う者が当該受給権者の死亡について厚生年金保険法37条1項(未支給の保険給付)の請求を行うことができる者であるときは、その請求に併せて行わなければならないことになっています(国年規25③)。
この老齢厚生年金(厚生年金)の未支給年金(未支給の保険給付、厚年法37①)も、上記の老齢基礎年金(国民年金)と同じような取り扱いとなります。
自己の名で請求した遺族が支給を受けた未支給年金は、当該遺族の一時所得に該当します(所基通34-2)。
遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金)と障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)
老齢基礎年金(国年法15一)及び付加年金(国年法15四)以外の給付に対しては租税等を課さない旨規定されています。(国年法25)。
また、老齢厚生年金(厚年法32一)以外の保険給付に対しては租税等を課さない旨規定されています(厚年法41②)。
よって、未支給の遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金)と障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)は、相続税も所得税も課税されません。
労災法の保険給付
保険給付に対しては租税等を課さない旨規定されています(労災法12の6)。
よって、未支給の労災法の保険給付(労災法11①)は、相続税も所得税も課税されません。