概要

 一般的には、個人事業主が会社を設立する場合、その後は、会社運営に専念し、今までした個人事業を廃止します。

 しかし、最近は、個人事業主が会社を設立しても、個人事業を廃止せずに、個人事業主と会社を併用するケースが増えてきました。いわゆるマイクロ法人(小さな規模の会社で、規模の拡大を目的としていない法人)の活用といわれるものです。

社会保険料の削減

 利用されている最大の理由は、社会保険料の削減です。個人事業主の場合、国民健康保険料・国民年金保険料を払うことになりますが、国民年金保険料は定額(2022年4月から月額16,590円)であり、将来自分がもらう年金についてのことなのでさほど負担感はないかと思います。ただし、国民健康保険料について非常に高いと感じている個人事業主の方は多いと思います(所得が多いと年間100万円ぐらいとなる自治体も多い)。

 よって、会社を設立し、会社で安い役員給与をもらうことにより健康保険料・厚生年金保険料を抑えるというスキームです。会社を設立し、その会社の代表者となり役員給与をもらった場合は、社会保険の被保険者となります(報酬0円なら、被保険者になりませんが)。

 この場合、国民健康保険料・国民年金保険料を払うことはなくなり、健康保険料・厚生年金保険料を払うということになりますが、健康保険料・厚生年金保険料は、一般的には、役員報酬月額によって決まります。

 東京都の令和4年3月分からの健康保険料・厚生年金保険料の最低水準の金額は報酬月額63,000円未満の場合ですが、その報酬月額の場合の健康保険料は月額5,689.8円(40歳から64歳までの方は介護保険料も加わるので月額6,641)、厚生年金保険料は月額16,104円であり、それぞれ被保険者と会社で折半で負担することになります。また、そのほか、会社全額負担分の子ども・子育て拠出金が月額316円となっています。

〇「令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)」https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r4/ippan/r40213tokyo.pdf

 会社と折半で負担するといっても、一般のサラリーマンと違い、マイクロ法人の場合は、代表者が実質的には両方とも負担する感覚でしょう(法人と個人は別人格ですので、法的には明確に分ける必要はありますが)。

 ただし、会社負担分も合わせても、40歳以上の方で、月額約23,000円の負担で済んでしまいます。また、国民年金保険料月額16,590円に対し、厚生年金保険料月額16,104円と安いのに、将来、年金をもらう際には2階建て(国民年金+厚生年金)となり手厚くなります。

 社会保険料を最大に下げるポイントは、報酬月額63,000円未満であるということです。役員給与(報酬)額が高くなれば、当然、健康保険料・厚生年金保険料も高くなってしまうということです。

 このように、マイクロ法人を活用すれば、簡単に社会保険料を削減できるため、この意味で、会社を設立する方が増えてきている状態です。ただし、あまりにも簡単に社会保険料を削減できてしまうことと、これに対し問題視をしている方も当然にいるわけで、突然、法改正等によりこのスキームを利用できなくなる可能性はあるということを理解しておく必要があります。

税務リスク

 社会保険料の削減目的のためにマイクロ法人を設立するといっても、個人事業主と会社を併用することで、結果的に、税負担も削減になるということが多いです。よって、以下の税務リスクも検討する必要があります。

 1つ目は、個人事業主とマイクロ法人の事業目的は異なる必要があります。個人事業主とマイクロ法人の事業目的が同じですと、個人事業主としての売上なのか、マイクロ法人の売上なのかの客観的な線引きができません。つまり、売上の付け替えが簡単にでき、売上(利益)調整が簡単にできてしまいます。これでは、当然、税務調査が入った際にはもめることになるでしょう。

 なお、個人事業主と違う事業を法人でするといっても、実際はなかなか難しい場合もあるでしょう。そのような場合には、無理にマイクロ法人を設立することはお勧めできません。

 なお、マイクロ法人の設立で最近多く増えたなぁと感じるのは、株式や投資信託等の金融商品に関する取引(売買や配当等)を法人の事業目的としているケースです。ネット証券が増えてきて手数料が安くなっているのが原因の一つでしょう。もっとも、手持ち資金にある程度余裕がある方でないと難しいと思いますが。

 2つ目は、個人事業主とマイクロ法人の間で、外注費を支払うことは極力避けるということです。例えば、個人事業主が、自身が代表であるマイクロ法人に外注費の支払をすれば、利益調整が簡単にできてしまいます。これでは、当然、税務調査が入った際にはもめることになるでしょう。過去の税務裁判例等でも、個人事業としての必要経費として認められなかった例があります。

 個人事業主とマイクロ法人は別人格とはいえ、実質、二者間の取引はどうにでも調整できてしまうので、このような疑われやすい取引は極力避けるべきだと思います。

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