概要
非上場株式を法人が個人へ適正時価より低額で譲渡した場合には、譲受人側の個人には、譲渡価額と適正時価との差額について経済的利益とされ所得税がかかります(所基通36-15(1))。
法人と個人間に雇用関係等(従業員・役員)があれば「給与所得」(名古屋地裁平成4年4月6日判決・税資189号24頁)になり、雇用関係がなければ「一時所得」となります。
また、譲渡した会社については、それに係る源泉徴収義務を負うことになります。
ここでの、ポイントは適正時価とはいくらなのかです。
適正時価
所得税法36条(収入金額)1項は、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その経済的利益の価額をその年において収入すべき金額とし、それを総収入金額に算入すべき金額とする旨規定しています。
次に、所得税法36条2項は、同条1項所定の「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額」について、「当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額」とする旨を規定しているところ、ここでいう「当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額」とは、その取得又は享受の時における当該物又は権利その他経済的な利益の客観的交換価値をいうものと解されています。
もっとも、客観的交換価値であると解されるとしても、非上場株式の時価の算定は極めて困難であるため、実務においては、国税庁が定めた通達の取扱いに依存することになります。
使用者である法人が役員又は従業員に対して支給する有価証券については、その支給時の価額(時価)により評価するとされています(所基通36-36)が、この場合における支給時の価額は、所得税基本通達(以下「所基通」という。)23~35共-9及び評価通達の8章2節の取扱いに準じて評価することになっています。
所基通23~35共-9(4)のニでは、非上場株式につき適正な売買実例等がないときには、当該株式の発行法人の「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」により評価することとされています。
しかし、当該「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」の算定が困難であるため、所基通59-6では、4つの条件を付した上で、原則として評価通達の例により算定することを認めています。
なお、本来、所基通59-6は、株式等を法人に贈与・低額譲渡した個人の譲渡所得で問題になる「その時における価額」において適用される規定ですが、所基通36-36の規定の適用が問題になる場面においても、所基通59-6に準じた一定の条件を付した上で、評価通達178から189-7までに定める例によるべきとすることにも合理性があると考えられています(ただし、下記記載の「同族株主」等(支配関係)の判定に注意)。
よって、その評価方法によって算定された価額をもって、所基通23~35共-9(4)のニ所定の「その株式の発行会社の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に該当するものとして取り扱います。
この点につき、東京地裁令和4年2月14日判決(税資272号順号13670)では、以下のように判示しています。
| (所得税)基本通達36-36の規定の適用が問題になる場面においても、基本通達59-6に準じた一定の条件を付した上で、評価通達178から189-7までに定める例によるべきとすることにも合理性があるし、その評価方法によって算定された価額をもって、基本通達23~35共-9(4)ニ所定の「その株式の発行会社の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に該当するものと取り扱うのが相当である。 |
このような評価方法によって算定された価額は、その評価方法によっては客観的交換価値を適正に算定することができない特別の事情がある場合でない限り、適正なものであると考えられています。
「同族株主」等(支配関係)の判定
個人から法人へ非上場株式(取引相場のない株式)を適正時価の2分の1未満の価額で譲渡をした場合は、実際の譲渡対価ではなく、譲渡人は適正時価で譲渡したとみなされ課税されますが、ここにおける適正時価は、所基通59-6が適用されます。
この所基通59-6は、一定の条件の下に評価通達を準用できることとされていますが、評価通達に定める「同族株主」等(支配関係)の判定については評価通達規定の読替えが行われ、譲渡段階で行うとし、相続税や贈与税の取得段階で行うことと取扱いは異にしています。
一方、本記事における非上場株式を法人が個人へ低額譲渡した場合における譲受人側個人の適正時価の場合は所基通36-36が適用されますが、「同族株主」等(支配関係)の判定については以下のように考えます(東京地裁令和4年2月14日判決・税資272号順号13670)。
| (所得税)基本通達59-6の規定の適用が問題になる(略)場面では、(略)株式を譲渡した譲渡人(略)に対する課税が問題になるのに対し、(所得税)基本通達36-36の規定の適用が問題になる(略)場面では、当該株式を取得した譲受人(略)に対する課税が問題になることから、後者の場面では、前者の場面で問題になる評価通達188の規定の読替え(評価通達188の規定における「取得した株式」などの文言を「有する株式」などの文言に読み替えること)をする必要はないものと解される。 |
つまり、「同族株主」等(支配関係)の判定について、評価通達規定の読替えが行われません。
関連記事
法令等
所得税法36条(収入金額)
その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
2 前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。
3 (略)
所得税基本通達36-15(経済的利益)
法第36条第1項かっこ内に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」(以下36-50までにおいて「経済的利益」という。)には、次に掲げるような利益が含まれる。
(1) 物品その他の資産の譲渡を無償又は低い対価で受けた場合におけるその資産のその時における価額又はその価額とその対価の額との差額に相当する利益
(2)~(5) (略)
所得税基本通達36-36(有価証券の評価)
使用者が役員又は使用人に対して支給する有価証券(令第84条第3項各号に掲げる権利で同項の規定の適用を受けるもの及び株主等として発行法人から与えられた株式(これに準ずるものを含む。)を取得する権利を除く。)については、その支給時の価額により評価する。この場合における支給時の価額については、23~35共-9及び昭和39年4月25日付直資56ほか1課共同「財産評価基本通達」の第8章第2節《公社債》の取扱いに準じて評価する。
取引相場のない株式について、純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を参酌した価額と取引価額の差額に相当する金額を経済的利益として一時所得と認定された事例-平成15年11月20日裁決(裁事66集155頁)(棄却)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 自動車電装部品製造業を営む株式会社E社の代表取締役である審査請求人Xは、平成12年7月4日(以下「課税時期」という。)にE社の株式2,400株(以下「本件株式」という。)を株式会社F社から、1株当たり500円、総額120万円で取得した(以下、この取引及びこの取引における取引価額を、それぞれ「本件取引」及び「本件取引価額」という。)。
本件株式の額面金額は500円である。
課税時期において、E社は、資本金4,000万円、発行済株式総数8万株の同族会社である。
② Xは、平成12年分の所得税について、法定申告期限までに申告した。
③ 平成13年10月19日、原処分庁は、Xは本件取引において、本件株式の1株当たりの取得価額500円と時価14,593円(相続税評価額によって計算した金額であり、課税時期現在の1株当たりの純資産価額)との差額を経済的利益として享受したとし、この所得は一時所得に該当するとして更正処分等(以下「本件更正処分等」という。)をした。
(2)本件の主な争点
XがE社の株式を取得したことにより、経済的な利益を享受したか否かである。
(3)判断要旨(棄却)
① 所得税法36条(収入金額)1項は、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益(以下「経済的利益」という。)をもって収入する場合には、その経済的利益の価額をその年において収入すべき金額とし、それを総収入金額に算入すべき金額とする旨規定している。
この経済的利益には、資産を低い対価で譲り受けた場合におけるその資産のその時における価額、すなわち時価とその対価の額との差額に相当する利益が含まれると解される。
そうすると、本件株式を取得したことによる経済的利益の享受の有無については、本件株式の時価がその対価の額、すなわち1株当たり500円を上回っているか否かによる。
そこで、本件株式の時価が問題となるところ、時価とは、その時点における客観的交換価値を指すものと解すべきであり、この交換価値とは、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であって、いわゆる市場価格をいうものと解される。
ところが、当審判所の調査によれば、E社の株式は、証券取引所に上場されておらず、また、店頭市場でも売買されていないことから、取引相場のない株式であることが認められる。
② 取引相場のない株式については、そもそも自由な取引市場に投入されていないため、市場価格がなく、自由な取引を前提とする客観的交換価値の把握は極めて困難であり、できる限り合理的な方法でこれを算定するほかないと解される。ところが、所得税法には時価の算定方法を定めた規定はない。
ただ、所得税基本通達23~35共-9(株式等を取得する権利の価額)は、株式等の価額の算定に当たり、取引相場のない株式等については、(イ)売買実例のあるものは、最近における売買の行われたもののうち適正と認められる価額、(ロ)売買実例のないもので類似法人の株式等の価額のあるものは、当該価額に比準して推定した価額、(ハ)いずれにも該当しないものは、当該取引日に最も近い日におけるその株式等を発行した法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額とする旨定めている。
当審判所においても、この通達の定めには合理性があると認められ、他に合理的な評価方法の定めもないことから、取引相場のない株式の価額の算定については、この通達に準じて行うのが相当と認められる。
そして、「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、評価基本通達178(取引相場のない株式の評価上の区分)以下の例により算定した価額とするのが相当であると解される。
③ これを本件についてみると、本件株式は取引相場がない株式であり、かつ、適正と認められる売買実例及び類似法人で株式等の価額がある株式とは認められないので、所得税基本通達23~35共-9により純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額を算定するのが相当である。
そして、通常取引されると認められる価額の具体的な算定に当たっては、評価基本通達178以下の例により評価するのが相当である。
④ 本件株式は、評価基本通達189-3により、純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価することとなる。
そして、本件株式の1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を算定すると、14,593円となる。なお、この金額は、原処分庁が主張する金額と同額である。
⑤ 以上のとおり、1株当たりの本件株式の時価は、上記④により算定した14,593円であるのに対し、本件取引価額は500円であるから、Xは本件株式を時価より低額で取得したものと認められる。
そうすると、Xは、本件取引において、1株当たりの時価14,593円と本件取引価額500円との差額に相当する金額を経済的利益として享受したものと認めるのが相当である。
⑥ なお、この経済的利益に係る所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得のいずれにも該当せず、かつ、営利を目的とする継続的な行為から生じた所得以外の一時の所得であって、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであるから、所得税法34条1項に規定する一時所得に該当する。
同族会社である発行会社から代表取締役へ自己株式を低額譲渡した場合、代表取締役には経済的利益(給与等)が認定され、同族会社は給与等の源泉徴収義務を負うとされた事例-東京地裁令和4年2月14日判決(税資272号順号13670)、東京高裁令和4年9月28日判決(税資272号順号13759)、最高裁第二小法廷令和5年3月24日決定(税資273号順号13837)(棄却・却下・不受理)(確定)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 平成25年8月22日、同族会社である発行会社A社(原告、控訴人、上告人)から代表取締役X(原告、控訴人、上告人)へ自己株式7498株を1株当たり3000円で譲渡(以下「本件取引」という。)した。
② Xは、平成25年分の所得税等について、その法定申告期限内に、確定申告書を提出した。
③ 所轄税務署長Yが、本件取引は廉価でされたものであり、それによって享受した経済的な利益は所得税法28条1項所定の「給与等」に該当するなどとして、本件更正処分等をしたことから、Xは、その取消しを求めた。
また、Yが、上記の経済的な利益は所得税法28条1項所定の「給与等」に該当するため、A社はそれに係る源泉徴収義務(同法183条1項の規定による源泉徴収義務のこと。以下同じ。)を負うことになるなどとして、本件納税告知処分等をしたことから、Aが、その取消しを求めた。
(2)本件の主な争点
本件取引によって享受した経済的な利益が同法28条1項所定の「給与等」に該当するか否かである。
(3)一審判決要旨(棄却)(控訴)
① 所得税法36条2項は、同条1項所定の「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額」について、「当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額」とする旨を規定しているところ、ここでいう「当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額」とは、その取得又は享受の時における当該物又は権利その他経済的な利益の客観的交換価値をいうものと解される。そして、この点につき、基本通達36-36は、使用者が役員又は使用人に対して支給する有価証券については、その支給時の価額により評価するとした上で、この場合における支給時の価額は、基本通達23~35共-9及び評価通達の第8章第2節の取扱いに準じて評価する旨を規定している。
そこで、基本通達23~35共-9の規定についてみると、基本通達23~35共-9の(4)は、基本通達23~35共-9の(1)から(3)までに掲げる場合以外の場合には、次に掲げる区分に応じて、それぞれ次に掲げる価額とするとした上で、基本通達23~35共-9の(4)ニにおいて、基本通達23~35共-9の(4)イからハまでに該当しないものは〔なお、本件では、本件全証拠を精査しても、基本通達23~35共-9の(4)イからハまでに該当する適正な売買実例等があるとする事情は見当たらない。〕、「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とする旨を規定しているが、このような抽象的な評価方法のみによっては、原告会社の株式のような取引相場のない株式の価額を一義的に確定することは困難である。
② ところで、評価通達178から189-7までは、相続税等の課税の場面における取引相場のない株式の価額の評価方法について規定しているところ、この評価方法が当該株式の客観的交換価値を算定する評価方法として一般的な合理性を有り、課税実務上も、そのように一般的な合理性を有するものとして定着している。そのため、所得税及び法人税の課税の場面においても、これと著しく異なる評価方法によって当該株式の価額を算定することは、大きな混乱を招くことになるから、基本通達59-6等の規定が設けられ、それぞれの課税の場面と相続税等の課税の場面との差異等に応じた一定の条件を付した上で、評価通達178から189-7までに定める例によって算定するという取扱いがされている。このような観点からすれば、基本通達36-36の規定の適用が問題になる場面においても、基本通達59-6に準じた一定の条件を付した上で、評価通達178から189-7までに定める例によるべきとすることにも合理性があるし、その評価方法によって算定された価額をもって、基本通達23~35共-9の(4)ニ所定の「その株式の発行会社の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に該当するものと取り扱うのが相当である。
③ なお、基本通達59-6の規定の適用が問題になる場面では、株式を譲渡した譲渡人に対する課税が問題になるのに対し、基本通達36-36の規定の適用が問題になる本件取引の場面では、当該株式を取得した譲受人(X)に対する課税が問題になることから、後者の場面では、前者の場面で問題になる評価通達188の規定の読替え(評価通達188の規定における「取得した株式」などの文言を「有する株式」などの文言に読み替えること)をする必要はないものと解される。
④ 上記で述べた評価方法(取引相場のない株式の価額につき、基本通達59-6に準じた一定の条件を付した上で、評価通達178から189-7までに定める例によって算定する評価方法)によって算定された価額については、特別の事情がある場合でない限り、当該株式の客観的交換価値を超えるものではないと推認するのが相当であるし、その金額が実際の対価の額を上回る場合には、その差額をもって、所得税法33条1項所定の「金銭以外の物又は権利その他の経済的利益の価額」と認めることができるものと解される。
⑤ 本件取引についてみると、Xは、本件取引によってA社の株式7498株を取得したものであるし、本件取引の時において、X及びその直系血族である訴外母の有する議決権の合計数は、A社の議決権総数の50%超であったことが認められる。そのため、Xは、評価通達188の(1)所定の「同族株主」に該当するとともに、評価通達188の(2)所定の「中心的な同族株主」にも該当することになるから、A社は、基本通達59-6の(2)に準じ、評価通達178所定の「小会社」に該当するものと認められる。これを前提として、評価通達178から189-7までに定める例によって本件取引の時における価額を算定すると、1株当たり2万5633円になるところ、本件全証拠を精査しても、特別の事情があるとする事情は見当たらないから、この金額と実際の対価の額(1株当たり3000円)との差額(1株当たり2万2633円)をもって、所得税法33条1項所定の「金銭以外の物又は権利その他の経済的利益の価額」と認めるのが相当である。
⑥ そして、本件取引に至る経緯等に鑑みると、本件取引については、XがA社の代表取締役としての地位に基づいてA社からその株式を取得したものと認められるから、それによりXが享受した上記⑤の差額に相当する経済的な利益についても、その地位に基づく労務の対価として支給されたものと解するのが相当であるし、その他に、本件全証拠を精査しても、これを覆すに足りる事情は見当たらない。そのため、この経済的な利益については、所得税法28条1項所定の「給与等」に該当するものと認められる〔なお、最高裁昭和36年(オ)第298号同37年8月10日第二小法廷判決・民集16巻8号1749貢は、「勤労者が勤労者たる地位にもとづいて使用者から受けた給付は、すべて(中略)給与所得を構成する収入と解すべ」きである旨を判示している。〕。
⑦ 以上で述べたところによれば、Xは、本件取引によって前記⑤の差額に相当する経済的な利益を享受したものであるし、この経済的な利益は所得税法28条1項所定の「給与等」に該当するものと認められるから、同項の規定を適用したことをもって、本件更正処分(X分)及び本件納税告知処分(A社分)が違法なものということはできない。
(4)控訴審判決要旨(棄却)(上告・上告受理申立て)
一審と同旨
(5)上告審決定要旨(棄却・却下・不受理)(確定)
本件を上告審として受理しない。
