概要

 個人から法人へ非上場株式(取引相場のない株式)を適正時価の2分の1未満の価額で譲渡をした場合は、実際の譲渡対価ではなく、譲渡人は適正時価で譲渡したとみなされ課税されます。

 ここでの、ポイントは適正時価とはいくらなのかです。

適正時価

 譲渡人である個人は譲渡価額を譲渡収入とし、取得費・譲渡費用を差し引いた所得である「一般株式等に係る譲渡所得」(措法37の10)が所得税等の対象となりますが、法人に対し著しく低い価額の対価として「政令で定める額」による譲渡により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、「その時における価額」に相当する金額により、株式の資産の譲渡があったものとみなされます(所法59①二)。

「政令で定める額」とは、譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額と規定されています(所令169)。ただし、2分の1以上の対価による譲渡であっても、その譲渡が同族会社等の行為又は計算の否認の規定(所法157)に該当する場合には、税務署長の認めるところによって、当該資産の時価に相当する金額により譲渡所得の金額が計算されます(所基通59-3)。

 次に、「その時における価額」とは、当該譲渡の時における客観的交換価値、すなわち、それぞれの資産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいうものと解されています(大分地裁平成13年9月25日判決・税資251号順号8982、東京地裁平成29年8月30日判決・税資267号-96順号13045等)。

 もっとも、客観的交換価値であると解されるとしても、非上場株式の時価の算定は極めて困難であるため、実務においては、国税庁が定めた通達の取扱いに依存することになります。

 所得税基本通達(以下「所基通」という。)23~35共-9(4)のニでは、非上場株式につき適正な売買実例等がないときには、当該株式の発行法人の「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」により評価することとされています。

 しかし、当該「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」の算定が困難であるため、所基通59-6では、4つの条件を付した上で、原則として評価通達の例により算定することを認めています。

 このような所基通59-6が定める評価方法によって算定された価額は、その評価方法によっては客観的交換価値を適正に算定することができない特別の事情がある場合でない限り、所得税法59条1項にいう「その時における価額」として適正なものであると考えられています。

「同族株主」等(支配関係)の判定

 所基通59-6は、一定の条件の下に評価通達を準用できることとされていますが、評価通達に定める「同族株主」等(支配関係)の判定については、譲渡段階で行うとし、相続税や贈与税の取得段階で行うことと取扱いは異にしています。

 最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決(税資270号-44順号13404)を受け、同通達の文言整備(明確化)が行われています(令和2年8月28日付課資4-2、課審7-13)。

譲受人側の税金

 上記で解説したことは、譲渡人側の個人の税金(所得税等)でした。では、譲受人側の法人の税金は、どうなるかというと以下のように考えます。

 個人が法人に対し、時価より低い価額の対価で非上場株式(評価通達上の「取引相場のない株式」)の譲渡をした場合は、当該株式の譲受人である法人は受贈益が生じ課税されます(法法22)。

 また、同族会社の株式の価額が「会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合」によって増加した場合は、当該会社の株主が増加した部分に相当する金額を、当該財産の譲渡をした者から贈与によって取得したものとされます(相基通9-2(4))。

所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)

 法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権(新投資口予約権を含む。以下この項において同じ。)及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」は、23~35共-9に準じて算定した価額による。この場合、23~35共-9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」については、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とする。

(1) 財産評価基本通達178、188、188-6、189-2、189-3及び189-4中「取得した株式」とあるのは「譲渡又は贈与した株式」と、同通達185、189-2、189-3及び189-4中「株式の取得者」とあるのは「株式を譲渡又は贈与した個人」と、同通達188中「株式取得後」とあるのは「株式の譲渡又は贈与直前」とそれぞれ読み替えるほか、読み替えた後の同通達185ただし書、189-2、189-3又は189-4において株式を譲渡又は贈与した個人とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価する会社の議決権総数の50%以下である場合に該当するかどうか及び読み替えた後の同通達188の(1)から(4)までに定める株式に該当するかどうかは、株式の譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。
(2) 当該株式の価額につき財産評価基本通達 179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該株式を譲渡又は贈与した個人が当該譲渡又は贈与直前に当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
(3) 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。
(4) 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

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同族会社の株式を別法人に譲渡した際の株式の時価は、売買実例価額によるべきとされた事例-大分地裁平成13年9月25日判決(税資251号順号8982)(全部取消し)(確定)(納税者勝訴)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 株式会社甲社は自動車販売業を営み、原告Xが代表者となっている。発行済株式総数12万株であるが、そのうち8,000株を有限会社乙社が所有し、残りをX一族が所有していた。
 乙社は、当初、Xらが全額出資して財産管理会社として設立されたものであるが、その後、Xらがその持分の75%を甲社の役員らに譲渡したため、甲社の役員、従業員等の持株会の受皿的会社となっている。
② Xは所有している甲社の株式(取引相場のない株式)を、乙社に以下のように譲渡した。
(イ)平成4年1月28日、Xは乙社に対し、甲社株式1万2,000株を、1株当たり2,500円の代金3,000万円で売却した(以下「取引1」という。)。
(ロ)同年10月6日、Xは乙社に対し、甲社株式5,000株を1株当たり2,500円の代金1,250万円で売却した(以下「取引2」という。)。
(ハ)平成5年4月6日、Xは乙社に対し、甲社株式2,300株を1株当たり2,500円の代金575万円で売却した(以下「取引3」といい、取引1から取引3までを併せて「本件各取引」という。)。
 本件各取引後、乙社の甲社株式所有は2万7,300株となった。
③ Xは、本件各取引の各売却代金をもって譲渡所得の収入金額として、平成4年分及び平成5年分の所得税の期限内申告をした。
④ 平成8年2月27日、所轄税務署長Yは本件各取引当時の甲社の価額(時価)を財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)上の類似業種比準方式により算定し、本件各取引はいずれも時価の2分の1に満たない価額での取引であったとして、所得税法59条1項2号、同施行令169条を適用して、更正処分等(以下「本件更正処分等」という。)をした。
 取引1は1株あたり1万4,742円、取引2は1株あたり1万1,357円、取引3は1株あたり1万8,885円と認定した。
⑤ 本件各取引の比準すべき価額として、以下が挙げられる。
(イ)平成2年12月25日、甲社の元従業員(役員)A及びBが乙社に対して甲社株式各2,000株を1株当たり2,500円で譲渡している(以下「A・B事例」という。)。
(ロ)平成3年3月29日、Xの親族Cが関係会社に対し甲社株式4,200株を1株当たり1万7,927円で譲渡している(以下「C事例」という。)。
(ハ)甲社の純資産価額方式による評価額は、1株あたり4万1,136円ないし4万3,477円である。
(ニ)甲社の配当還元方式による評価額は、1株あたり750円(15%配当)である。

(2)本件の主な争点

 本件更正処分等における本件株式の時価算定の合理性があるか否かである。

(3)判決要旨(全部取消し)(確定)(納税者勝訴)

① 所得税法36条1項、2項は、各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、権利をもって収入する場合には、当該権利を取得する時における当該権利の「価額」と定め、また、同法59条1項2号は、法人に対し、著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における「価額」に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす旨を定めているところ、「価額」とは、いずれも、譲渡所得の基因となる資産の移転の事由が生じた時点における時価、すなわち、その時点における当該資産等の客観的交換価値を指すものと解するべきであり、右交換価値とは、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であって、いわゆる市場価格をいうものと解するのが相当である。
② A・B事例は、本件各取引より約1年1か月ないし2年5か月前になされたものであるが、甲社のような同族会社においては、そもそも株式の取引事例が乏しいのが通常であり、また、上場されておらず、投機目的の取引がないため、上場株式のように価格が小刻みに大きく変動することもないから、この程度の時間的間隔をもって直ちに時価算定の参考にならないということはできない。
 また、X一族が乙社を支配していたとは認められず、他に、A・B事例の取引価額が適正と認められないとする証拠はない。
 なお、C事例は、譲受人が乙社と異なってX一族の支配下にある同族会社であって、本件と比較することは相当でない。
③ 本件各取引当時の乙社のX一族の持分は全体の14パーセントに当たる28口に過ぎず、元従業員及び現従業員らが残りの持分を有し、社員総会が親睦会を兼ねていたなど、当時の乙社には従業員持株会的様相が窺われること、その他A・B事例の事情も照らせば、未だXが乙社を支配したとまでは認められず、他に本件各取引を時価より低額で行う事情があったと認めるべき証拠はない。
④ 本件のように、同族株主のいる会社における非同族株主で少数株主となる者が譲受人となる場合には、その者は、会社の支配権を有するわけではなく、ただ配当期待権を有するのみであるから、配当金額から大幅にかけ離れた金額で取引するとはおよそ考えられず、売買代金額の決定には、配当金額が主たる要素となると考えられるから、当該株式の時価の算定に当たっては、むしろ配当状況に着目した配当還元方式によるのが合理的であるといえる。
⑤ 以上を総合すれば、前記の本件各取引の事情や売買実例が存するところ、純資産価額方式及び類似業種比準方式は、それ自体一応の合理性を有する評価方法ではあるが、本件各取引は、同族会社の株式を少数株主が取得する場合であり、譲受人は配当期待権以上のものを有しないと考えられるから、必ずしも前記各方法が妥当するとはいえない。
 また、純資産価額方式及び類似業種比準方式によった場合に、売買実例価額ないし配当還元方式によった場合と著しい差異が生じるのに前者に依拠した本件算定はおよそ合理的であるとは認められず、他にXの各申告額を超える所得を認めるに足りる証拠もないから、本件更正処分等は適法であるということができない。

法人に非上場株式を譲渡した際の株式評価における株主区分は譲渡前の議決権割合によるべきであるとされた事例-東京地裁平成29年8月30日判決(税資267号-96順号13045)、東京高裁平成30年7月19日判決(税資268号-67順号13172)、最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決(税資270号-44順号13404)(上告人国)(原判決破棄)(差戻し)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 株式会社A社の代表取締役であった甲が、自身の有していたA社の株式のうち72万5,000株を、平成19年8月1日、関連会社の有限会社B社に対して1株当たり75円(配当還元価額、合計5,437万円)で譲渡(以下「本件株式譲渡」という。)した。
 A社は、昭和25年9月に設立された、金属製品等の製造及び販売等を業とする資本金4億6,000万円、売上金額は約236億円、従業員数449人の株式会社である。本件株式譲渡の時点において、A社は、評価通達178に規定する「大会社」に、A社の株式は、所得税基本通達23~35共-9の(4)ニの株式及び評価通達における「取引相場のない株式」に、それぞれ該当する。
 B社は、平成16年2月に金銭の貸付業等を目的として設立された会社であるが、A社持株会の補完的機能を有している。
 本件株式譲渡前、甲は、A社の株式の議決権の15.88%を有し、同族関係者らと合計22.79%を有していた。
② 甲は平成19年12月に死亡し、X(原告、控訴人、被上告人)が相続した(以下、甲を被相続人とする相続を「本件相続」という。)。
③ 平成20年3月13日、Xは、本件株式譲渡の売却代金(譲渡対価)をもって譲渡所得の収入金額として、甲の平成19年分の所得税について準確定申告をした。
④ 所轄のT税務署長が、本件株式譲渡の譲渡対価はその時におけるA社株式の価額(類似業種比準方式により算定した価額、1株当たり2,505円)の2分の1に満たないから、本件株式譲渡は所得税法59条1項2号の低額譲渡に当たるとして、Xに対し、更正処分等(以下「本件更正処分等」という。)をした。
⑤ Xは、本件更正処分等を不服として、国(被告、被控訴人、上告人)に対し、その取消しを求めて本訴を提起した。
 なお、本件に関しては、本件相続に係る相続税におけるA社株式の価額が争われた相続税事案(国は類似業種比準価額を主張)では、本件の一審判決と同日、同じ裁判官が配当還元価額でよい旨判示している(東京地裁平成29年8月30日判決(税資267号-97順号13046)。

(2)本件の主な争点

 本件株式譲渡が所得税法59条1項2号の低額譲渡に当たるか否かであるが、具体的には、所得税基本通達59-6が評価通達を準用するに当たり、同族株主等の判定につき、議決権数の算定を本件譲渡前によってすべきか、譲渡後によってすべきかである。

(3)一審判決要旨(却下・棄却)(控訴)

① 所得税法59条1項は、同項2号の低額譲渡、すなわち、譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額(所得税法施行令169条)による法人に対する資産の譲渡があった場合には、その譲渡した者の譲渡所得等の金額の計算については、その譲渡があった時に、その時における価額に相当する金額により、当該資産の譲渡があったものとみなす旨を定めており、ここにいう「その時における価額」とは、当該譲渡の時における当該資産の客観的交換価値をいうものと解される。
 そして、所得税基本通達59-6は、所得税法59条1項の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が評価通達における取引相場のない株式に相当する株式であって売買実例のある株式等に該当しないもの(所得税基本通達23~35共-9の(4)ニの株式)である場合の「その時における価額」とは、原則として、一定の条件の下に、評価通達の178から189-7までの例により算定した価額とする旨を定めている。
② 取引相場のない株式について、所得税基本通達59-6が定める条件の下に適用される評価通達に定められた評価方法が、取引相場のない株式の譲渡に係る譲渡所得の収入金額の計算において当該株式のその譲渡の時における客観的交換価値を算定する方法として一般的な合理性を有するものであれば、その評価方法によってはその客観的交換価値を適正に算定することができない特別な事情がある場合でない限り、その評価方法によって算定された価額は、当該譲渡に係る取引相場のない株式についての所得税法59条1項にいう「その時における価額」として適正なものであると認めるのが相当である。
③ 所得税基本通達59-6が評価通達に定められた取引相場のない株式の評価方法を適用する際の一定の条件として規定した内容の合理性について検討すると、そもそもそのような一定の条件を設けたのは、評価通達が本来的には相続税や贈与税の課税価格の計算の基礎となる財産の評価に関する基本的な取扱いを定めたものであって、譲渡所得の収入金額の計算とは適用場面が異なることから、評価通達を譲渡所得の収入金額の計算の趣旨に則して用いることを可能にするためであると解される。
④ 相続税や贈与税が、相続や贈与による財産の移転があった場合にその財産の価額を課税価格としてその財産を取得した者に課される税であるのに対し、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益(キャピタル・ゲイン)を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算してその譲渡人である元の所有者に課税する趣旨のものと解されるのであって〔最高裁昭和41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁、最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁参照〕、そのような課税の趣旨からすれば、譲渡所得の基因となる資産についての低額譲渡の判定をする場合の計算の基礎となる当該資産の価額は、当該資産を譲渡した後の譲受人にとっての価値ではなく、その譲渡直前において元の所有者が所有している状態における当該所有者(譲渡人)にとっての価値により評価するのが相当であるから、評価通達188の(1)~(4)の定めを取引相場のない株式の譲渡に係る譲渡所得の収入金額の計算上当該株式のその譲渡の時における価額の算定に適用する場合には、各定め中「(株主の)取得した株式」とあるのを「(株主の)有していた株式で譲渡に供されたもの」と読み替えるのが相当であり、また、各定め中のそれぞれの議決権の数も当該株式の譲渡直前の議決権の数によることが相当であると解される。
⑤ 所得税基本通達59-6の(1)が、評価通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡した個人の当該譲渡直前の議決権の数により判定する旨を定めているのは、譲渡所得課税の趣旨に鑑み「同族株主」の判定について確認的に規定したものであり、上記の読替え等をした上で評価通達188の(1)~(4)の定めを適用すべきであることを当然の前提とするものと解されるから、この規定もまた一般的な合理性を有すると認められる。
⑥ 本件株式譲渡直前の時点において、A社には合計して30%以上の議決権を有する株主及びその同族関係者がおらず、A社は「同族株主のいない会社」に当たるから、A社株式は評価通達188の(1)及び(2)の株式には該当しない。また、株式譲渡直前の時点において、譲渡人である甲及びその同族関係者である親族らは、合計して15%以上の議決権を有し、甲個人も5%以上の議決権を有していたから、A社株式は、評価通達188の(3)及び(4)の株式にも該当しない。よって、A社株式は、評価通達178本文、179の(1)により類似業種比準方式により評価すべきこととなる。そして、その評価額は1株当たり2,505円となることが認められる。
 もっとも、類似業種比準方式によっては本件株式の客観的交換価値を適正に算定することができない特別な事情がある場合には、この限りでない。
⑦ 本件株式譲渡の経緯や実態等に鑑みると、本件株式譲渡をXらのいう利害相反する第三者間の取引(正常な株式の売買)とみることはできず、その対価をもって本件株式の時価(客観的交換価値)ということはできない。
 その他、本件の全証拠によっても、類似業種比準方式によっては本件株式の客観的交換価値を適正に算定することができない特別な事情があるとは認められない。

(4)控訴審判決要旨(原判決変更・却下・全部取消し)(納税者勝訴)(国上告受理申立て)

① 国は、譲渡所得に対する課税の趣旨から、評価通達188の(2)から(4)までに係る株主区分の判定についても、譲渡人の株式譲渡直前の議決権割合により判定する旨を主張している。しかし、所得税基本通達59-6の(1)のような読み替えの規定はなく、評価通達188の(2)及び(4)には、「株式取得後」と、同(2)から(4)までには「取得した株式」との文言があり、その文理からすると、株式譲渡後の譲受人の議決権割合を述べていることが明らかである。
② 本件においては、A社株式が評価通達188の(3)の株式に該当するかどうかが争われているところ、所得税基本通達59-6の(1)が、評価通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかについて株式を譲渡した個人の当該譲渡直前の議決権の数により判定する旨を定める一方で、同(2)から(4)までについて何ら触れていないことからすれば、同(3)の「同族株主のいない会社」に当たるかどうかの判定(会社区分の判定)については、それが同(1)の「同族株主のいる会社」の対概念として定められていることに照らし、所得税基本通達59-6の(1)により株式譲渡直前の議決権の数により行われるものと解されるとしても、「課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式」に該当するかどうかの判定(株主区分の判定)については、その文言どおり、株式の取得者の取得後の議決権割合により判定されるものと解するのが相当である。
③ A社の株式は、評価通達における「取引相場のない株式」に当たり、かつ、同社には、本件株式譲渡の直前において、議決権総数の30%以上の議決権を有する株主及びその同族関係者は存在しなかったから、同社は「同族株主のいない会社」に当たる。そして、B社の本件株式取得後の議決権割合は7.88%であり、B社には同族関係者がおらず、その議決権割合はA社の議決権総数の15%未満にとどまる。したがって、A社株式は、評価通達188の(3)の株式に該当するから、所得税基本通達59-6、評価通達188-2に従い、配当還元方式によって評価すべきこととなる。
④ 以上のとおりであるから、本件株式譲渡は所得税法59条1項2号の低額譲渡に当たらないにもかかわらず、これに当たるとしてされた本件各更正処分等は違法である。

(5)上告審判決要旨(上告人国)(原判決破棄)(差戻し)

① 譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものである〔最高裁昭和41年(行ツ)第8号同43年10月31日第一小法廷判決・裁判集民事92号797頁、最高裁同41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁等参照〕。すなわち、譲渡所得に対する課税においては、資産の譲渡は課税の機会にすぎず、その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益に対して課税されることとなるところ、所得税法59条1項は、同項各号に掲げる事由により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合に当該資産についてその時点において生じている増加益の全部又は一部に対して課税できなくなる事態を防止するため、「その時における価額」に相当する金額により資産の譲渡があったものとみなすこととしたものと解される。
② 所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき、所得税基本通達59-6は、譲渡所得の基因となった資産が取引相場のない株式である場合には、同通達59-6の(1)~(4)によることを条件に評価通達の例により算定した価額とする旨を定める。評価通達は、相続税及び贈与税の課税における財産の評価に関するものであるところ、取引相場のない株式の評価方法について、原則的な評価方法を定める一方、事業経営への影響の少ない同族株主の一部や従業員株主等においては、会社への支配力が乏しく、単に配当を期待するにとどまるという実情があることから、評価手続の簡便性をも考慮して、このような少数株主が取得した株式については、例外的に配当還元方式によるものとする。そして、評価通達は、株式を取得した株主の議決権の割合により配当還元方式を用いるか否かを判定するものとするが、これは、相続税や贈与税は、相続等により財産を取得した者に対し、取得した財産の価額を課税価格として課されるものであることから、株式を取得した株主の会社への支配力に着目したものということができる。
② これに対し、本件のような株式の譲渡に係る譲渡所得に対する課税においては、当該譲渡における譲受人の会社への支配力の程度は、譲渡人の下に生じている増加益の額に影響を及ぼすものではないのであって、前記の譲渡所得に対する課税の趣旨に照らせば、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきものと解される。
③ そうすると、譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の前記の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべきである。所得税基本通達59-6は、取引相場のない株式の評価につき、少数株主に該当するか否かの判断の前提となる「同族株主」に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に、評価通達の例により算定した価額とする旨を定めているところ、この定めは、上記のとおり、譲渡所得に対する課税と相続税等との性質の差異に応じた取扱いをすることとし、少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のものということができる。
④ ところが、原審は、本件株式の譲受人であるB社が評価通達188の(3)の少数株主に該当することを理由として、本件株式につき配当還元方式により算定した額が本件株式譲渡の時における価額であるとしたものであり、この原審の判断には、所得税法59条1項の解釈適用を誤った違法がある。
⑤ 以上によれば、原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。本件株式譲渡の時における本件株式の価額等について更に審理を尽くさせるため、上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 なお、裁判官宇賀克也、同宮崎裕子の各補足意見がある。

取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法第59条第1項の「その時における価額」につき、所得税基本通達59-6に定められた方法により算定した価額によることが相当であるとされた事例-令和7年9月10日裁決(裁事140集)(棄却)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① F社は、昭和36年10月に審査請求人Xの父によって設立された法人である。
 F社の代表取締役は、平成元年9月30日から平成27年12月17日までXの弟であるGが就任していたが、平成27年12月17日付で辞任し、同日付で同人の子(Xの甥)であるHが就任した。
 なお、Xは、昭和49年11月21日から平成8年9月28日まで及び平成26年12月2日から平成28年12月13日までの間においてF社の取締役を務めていた。
② F社は、平成27年12月末の時点で、X及びXの妹であるJ(以下、XとJを併せて「Xら」という。)並びにG及びその親族が発行済株式総数100,000株の全てを保有する同族会社であった。
 なお、F社は非公開会社であり、創業者であるXの父の親族以外に株式の譲渡が行われた事実はなかった。
③ K社は、平成23年12月に設立されたF社の関係法人である。なお、令和3年9月時点でのK社の代表取締役はGの子であるLであり、株主構成は設立以来、L及びHの2名のみである。
④ Xらは、平成28年1月26日付で、F社及びGを被告として、Xらが保有するF社の株主たる地位の確認等を求め、M地方裁判所に訴えを提起した。
 上記訴訟については、平成30年12月10日に、Xらがそれぞれ保有するF社の株式の一部(Xが20,700株、Jが11,500株)をGが合計○○○○円(1株当たり約○○○○円)で買い受けることなどを内容とする訴訟上の和解が成立し、Xらは、それぞれ株式の一部をGに譲渡した。
 なお、当該譲渡後におけるF社の発行済株式(100,000株)の保有の内訳は、Xが18,300株、Jが7,500株、Gが73,468株及びその他の親族が732株となった。
⑤ Xらは、平成31年3月23日付で、F社を被告として、F社の平成30年12月27日の定時株主総会における決議の取消しを求め、M地方裁判所に訴えを提起し、次いで、これと関連して、令和元年12月20日付で、F社の令和元年9月30日の臨時株主総会における決議の取消しを求め、同裁判所に訴えを提起した(以下、これら2件の訴えを併せて「本件訴訟」という)。
⑥ F社は、令和3年2月15日付で、M地方裁判所にF社の株式の価額の評価資料として相続税等の申告の際に用いる「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」を提出した。当該明細書には、令和2年9月末時点におけるF社の株式の1株当たりの価額について、評価通達に定める方法による計算等が記載され、同通達178の本文に定める規模区分は「大会社」、また、同通達180に定める「類似業種比準方式」により算出された金額○○○○円が記載されていた。
⑦ Xらは、上記⑥を受け、令和3年4月1日付で、Xらが保有するF社の株式の譲渡価額を1株当たり○○○○円とし、譲渡の相手方をF社の関係者である個人とすることを希望する旨の提案をした。
⑧ F社は、上記⑦を受け、令和3年5月28日付で、F社の株式の譲渡価額を1株当たり○○○○円とし、譲渡の相手先をK社とすることを条件に、Xらの株式の買取りを検討する旨を提案した。
⑨ Xらは、令和3年6月11日付で、上記⑧のF社が提示した1株当たり○○○○円による譲渡は、時価の2分の1未満であるとして、いわゆる「みなし譲渡課税」(所法59①二)の対象となる可能性があるため、譲渡価額を上記④の訴訟上の和解による株式譲渡の際の価額であった1株当たり○○○○円の2分の1を超える1株当たり○○○○円とすることを希望する旨を提案した。
⑩ 上記⑨の譲渡希望価額についてF社が拒否したことから、Xらは、令和3年8月18日、譲渡希望価額を1株当たり○○○○円とする旨を再度提案したところ、F社がこれを了承し、令和3年9月6日、本件訴訟における訴訟上の和解が成立した(以下、この和解を「本件和解」という。)。
⑪ Xらは、令和3年9月29日、本件和解を受け、保有するF社の株式の全て(X保有18,300株及びJ保有7,500株の計25,800株)を、1株当たり○○○○円でK社に譲渡した(以下、当該譲渡によりXがK社に譲渡した株式を「本件株式」といい、当該譲渡を「本件株式譲渡」という)。
⑫ Xは、令和3年分の所得税等について法定申告期限までに申告した。
⑬ 原処分庁は、上記⑫の申告に対し、本件株式譲渡は、所得税法59条1項2号及び所得税法施行令169条の規定により、譲渡所得の金額の計算上、時価による譲渡があったものとみなされるとして、令和6年6月24日付で、更正処分等(以下「本件更正処分等」という。)をした。
⑭ Xは、本件更正処分等を不服として令和6年9月18日に審査請求をした。

(2)本件の主な争点

 本件株式譲渡は、所得税法59条1項2号に規定する「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当するか否かである。

(3)判断要旨(棄却)

① F社の株式は、本件株式譲渡の直前において、評価通達168の(3)に定める取引相場のない株式である。
 本件株式譲渡の直前において、Xらはいずれも、Xらの属する同族関係者グループの議決権割合が100%であることから、評価通達188の(1)に定める「同族株主」であり、また、Xらの議決権割合が25.8%であることから、同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」である。
② 所得税法59条1項に規定する「その時における価額」とは、譲渡の時における客観的交換価値、すなわち、それぞれの資産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいうものと解される。
 これを検討すると、F社の株式は、上記①のとおり、取引相場のない株式であり、また、上記(1)事案の概要④の売買実例はあるものの、これは、本件株式譲渡の時から2年以上前に訴訟上の和解という個別の事情の下、同族関係者間で行われた取引であることから、所基通23~35共-9の(4)のイに定める適正と認められる価額による最近の売買実例のある株式には該当しない。そして、F社の株式は、同ロ及びハに定める公開途上にある株式や、類似する他の法人の株式の価額があるものに該当する事情も見当たらない。
 したがって、本件株式の所得税法59条1項に規定する「その時における価額」は、所基通23~35共-9の(4)のニの定めに従い、本件株式譲渡がされた日に最も近い日におけるF社の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額によることが相当であり、原則として、所基通59-6の(1)から(4)までによることを条件に、評価通達178から189-7までの例により算定した価額が「その時における価額」と認めることができる。
 そして、Xは、本件株式譲渡の直前において、上記①のとおり、F社における「中心的な同族株主」に該当することから、本件株式の「その時における価額」を算定する場合には、所基通59-6の(2)の定めにより、F社が評価通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によることとなる。
③ この点、Xらは、取引相場のない株式の評価に当たって、所基通59-6に従ったというだけでは適法な評価がなされたということはできず、評価通達によることができるのは、評価通達の定める評価方法が支配力の程度に応じた評価方法として妥当性を有する場合に限られるのであり、Xらは、F社の支配株主と厳しく対立し、F社を支配していたとはいえないのであるから、評価通達の定める評価方法で本件株式を評価することは妥当でない旨主張するところ、このXらの主張は、Xらは支配力を制限された「中心的な同族株主」であり、所基通59-6の定めによる評価方法では本件株式の客観的交換価値を適正に算定することのできない特別の事情があるから、当該評価方法によるべきではない旨の主張と解される。
 しかしながら、取引相場のない株式の発行会社の場合、会社によって株主間の経営権をめぐる対立状況、派閥の構成、個人的な思惑等は千差万別であるところ、ありとあらゆる事情を的確に把握して評価に反映させ、実質的に会社を支配している「同族株主」あるいは支配力を制限されていない「中心的な同族株主」に該当するかどうかを判断するということになれば、「同族株主」とするか否かの基準が極めて曖昧になるだけでなく、評価を行う者によって異なった評価がされるおそれがあり、その評価に決定権者の恣意が介入し、課税の公平を欠くおそれすらあるといえるのであって、これらの点を考慮すれば、評価通達が「同族株主」あるいは「中心的な同族株主」の範囲を形式的に支配従属関係が及ぶとされる一定の範囲のものとし、画一的に同族関係者の範囲を定めることとしているのは、課税の公平の観点からむしろ合理的であるというべきである。
 したがって、Xの主張する事情をもって、評価通達の定めに従った評価方法によっては本件株式の時価を適正に算定することのできない特別の事情と認めることはできない。
④ 以上を前提に、所基通59-6の各条件の下、評価通達に定められた評価方法により所得税法59条1項に規定する「その時における価額」を算定すると、本件株式譲渡における本件株式の1株当たりの譲渡価額は、本件株式の1株当たりの「その時における価額」に比し、2分の1に満たない金額により本件株式譲渡がされたこととなる。
 したがって、本件株式譲渡は、所得税法59条1項2号に規定する「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当する。
⑤ 本件更正処分等は適法である。