FX取引に係る必要経費
FX取引に係る所得が雑所得に区分される場合、その雑所得の金額は、総収入金額から所得税法37条に規定する必要経費を控除して計算します。
なお、現在、一定のFX取引による所得は「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税されますが、この「先物取引に係る雑所得等」には、一定の先物取引による事業所得、譲渡所得及び雑所得が含まれます(所法35、37①、措法41の14、国税庁タックスアンサーNo.1521「外国為替証拠金取引(FX)の課税関係」)。
先物取引に限定した投資助言に係る年会費や、その助言に基づく取引利益に応じて支払う成功報酬は、必要経費に算入できるとされています(所法35②二、37、措法41の14、国税庁質疑応答事例「投資顧問会社に支払う年会費及び成功報酬」)。なお、この国税庁質疑応答事例は、投資助言が先物取引に限定されていること等の照会事実関係を前提としたものです。
また、売買手数料、パソコン代(取得価額等に応じて、一時に必要経費に算入する金額又は減価償却費として必要経費に算入する金額)、通信費、書籍代、セミナー参加費等についても必要経費となる場合がありますが、一律に必要経費となるものではありません。
所得税法37条上の必要経費に該当するかどうかは、FX取引に係る所得の性質、当該支出とFX取引との関連性・必要性、支出事実の立証、家事関連費に該当する場合の区分等を個別に検討する必要があります。
特に「その他雑所得」に該当する場合には、総収入金額を得るため直接要した費用であるかどうかが重要となります(所法35、37①、45①一、所令96、所基通35-1・35-2、45-1・45-2、国税庁タックスアンサーNo.1500・No.2210)。
なお、FXそのものの取扱いを示した資料ではありませんが、同じ所得税法37条の必要経費の考え方を検討する際には、国税庁の暗号資産FAQも参考になります(国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」2-3)。
なお、FX取引の売買損益や年間取引報告書等の金額に既に反映されている売買手数料やスプレッド相当額を、さらに必要経費として控除することはできません。
平成20年12月18日裁決(裁事76集42頁)では、平成18年分のFX取引について、交通費、通信費、パソコンに係る減価償却費、書籍購入費等を含む必要経費の額を原処分庁主張額と同額と認定しています。ただし、これら各費目の必要経費該当性が個別に主争点とされた裁決ではありません。
他方、取引価格に既に織り込まれて売買損益の計算に反映されているスプレッド相当額については、再度必要経費として控除することを否定しています(国税不服審判所平20.12.18裁決・裁決事例集No.76・42頁)。
平成25年3月7日裁決(大裁(所)平24第58号)では、FX取引に係る雑所得の金額の計算上、パソコン購入費、通信費、交通費は必要経費に算入できるのか争われました(他に、FX取引に係る雑所得の金額の計算上、建玉に係る含み損の額を控除すべきか否かも争点)。
結果的に、必要経費に算入できない旨判断されましたが、その理由としては、「①支出の事実又は内容が確認できないこと」、「②家事関連費に該当し、業務の遂行上必要である部分を明らかに区分できないこと」、「③業務との関連性が明らかではないこと」のいずれかに該当することを挙げています。
なお、請求人X(納税者)は、本件各支出について、本件FX取引に係るものと家事費に係るものとに区分しておらず、また、区分することもできない旨答述しています。
平成25年3月7日裁決から学べることは、FXに係る必要経費については、税務調査の際にその支出の事実やFX取引との関連性を説明できるよう、領収書、請求書、利用明細、取引記録等を保存しておくことが重要です。なお、所得区分が雑所得となる場合、雑所得そのものに青色申告・白色申告という区分はありません。
また、FXによる所得が「業務に係る雑所得」に該当し、その年の前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超える場合には、現金預金取引等関係書類を5年間保存する必要があります(所法232、所規102、国税庁タックスアンサーNo.2080)。
なお、FXによる所得が「業務に係る雑所得」に該当するかどうかは、申告分離課税か総合課税かという課税方式のみで決まるものではありません。営利を目的として継続的に行う業務であるか等、その取引態様を踏まえて判断します。
また、その活動が社会通念上事業と称するに至る程度で行われている場合には、事業所得に該当する可能性があります(所法27、35、所基通35-2、国税庁タックスアンサーNo.1500・No.1521)。FXの事業所得該当性については、国税不服審判所平成22年2月16日裁決(裁事79集)も参考になります。
また、税務調査が入った場合に否認されないように「(家事関連費については、)業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できるもの」を必要経費にしておくということです(所法45、所令96一、所基通45-1・45-2)。
ただ、そうは言っても、それはそれで難しいものがあるでしょう。例えば、パソコンを私的な利用と業務の遂行上必要である部分を明らかに区分できる納税者なんて、はたして「どのくらいいるの?」ということです(業務専用のパソコンは別)。
合理的な按分方法を設定し、その算定根拠となる利用記録等を保存しておくことが重要です。なお、毎年同じ割合を適用しているというだけで必要経費性が担保されるものではありません。
所得税基本通達
所得税基本通達45-1(主たる部分等の判定等)
令第96条第1号《家事関連費》に規定する「主たる部分」又は同条第2号に規定する「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。
所得税基本通達45-2(業務の遂行上必要な部分)
令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。
平成25年3月7日裁決(大裁(所)平24第58号)判断要旨
法令解釈
所得税法37条1項、同法45条1項1号及び所得税法施行令96条1号の各規定の趣旨からすると、ある費用が必要経費に当たるといえるためには、当該支出が所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものであることが要件とされ、この判断は、単に業務を行う者の主観的な判断によるのではなく、当該業務の内容や、当該支出の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行われなければならないと解される。
また、所得税法45条及び所得税法施行令96条1号の各規定からすれば、家事関連費については、当該費用が業務と何らかの関連があるというだけでは足りず、それが所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合に限り、その部分が必要経費に算入されると解される。
(イ) パソコン購入費について
A N製ノートパソコンの購入費について
X(納税者)は、当該パソコン現物の裏面の写しを提出するのみで、領収書等当該パソコンの購入費を支出したことを裏付ける証拠の提出がなく、当審判所の調査においてもXは、領収書等は行方不明である旨答述するなど、その支出の事実を確認することができない。
そうすると、Xが当該パソコンの購入費を支出したと認めることができないから、当該パソコン購入費を本件FX取引に係る雑所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
B L製ノートパソコンについて
平成21年4月15日付の伝票の写しによれば、パソコン本体等を購入した事実は認められるものの、Xは、当該パソコンを家事上の目的でも用いていたことが認められるから、当該パソコン購入費は、家事関連費に該当する。
そして、Xは、当該パソコン購入費について、本件FX取引に起因する雑所得に係る業務の遂行上必要な部分を明らかにせず、また、当審判所の調査の結果によっても当該部分を合理的に区分することができる証拠は認められない。
そうすると、仮に、Xが当該パソコンを本件FX取引のために用いていたとしても、当該パソコン購入費は家事関連費に該当し、これについて業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができないから、上記の法令解釈によれば、当該パソコン購入費は、本件FX取引に係る雑所得の金額の計算上その全額が必要経費に算入することができない。
(ロ) 通信費について
A 電話利用料金について
通帳の写しによれば、X名義の普通預金口座から、平成20年に「電話」に関連して25,501円の引落しがあった事実は認められるものの、Xは、平成20年4月分及び同年6月分の電話利用料金内訳書の写ししか提出しておらず、平成20年4月分及び同年6月分を除いて、その内訳を確認することはできない。
また、仮に、その全額が電話利用料金であったとしても、Xは電話を家事上の目的でも用いていたものと認められるから、Xが主張する当該電話利用料金は、家事関連費に該当する。
そして、Xは、当該電話利用料金について、本件FX取引に起因する雑所得に係る業務の遂行上必要な部分を明らかにせず、また、当審判所の調査の結果によっても当該部分を合理的に区分することができる証拠は認められない。
そうすると、仮に、Xが電話を本件FX取引のために用いていたとしても、その利用料金は家事関連費に該当し、これについて業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができないから、上記の法令解釈によれば、当該電話利用料金は、本件FX取引に係る雑所得の金額の計算上その全額が必要経費に算入することができない
。
B インターネット通信料について
通帳の写しによれば、X名義の普通預金口座からインターネット通信料の引落しがあった事実は認められるものの、この引落し額は、Xが主張するインターネット通信料年額42,000円を下回っていることが認められるから、この引落し額を上回る部分については、その支出を裏付ける証拠はなく、当該部分の支出があったと認めることはできない上、この引落し額についても、Xは、その内訳が分かる証拠を一部しか提出せず、当審判所の調査によっても、この引落し額がインターネット通信料に係るものであると認めることはできない。
また、仮に、Xが主張するとおり、インターネット通信料の支出がされていたとしても、Xはインターネットを家事上の目的でも用いていたものと認められるから、家事関連費に該当することになる。
そして、Xは、当該通信料について、本件FX取引に起因する雑所得に係る業務の遂行上必要な部分を明らかにせず、また、当審判所の調査の結果によっても当該部分を合理的に区分することができる証拠は認められない。
そうすると、Xがインターネットを本件FX取引のために用いていたとしても、その通信料は家事関連費に該当し、これについて業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができないから、上記の法令解釈によれば、当該通信料は、本件FX取引に係る雑所得の金額の計算上その全額が必要経費に算入することができない。
したがって、いずれにせよ、インターネット通信料を本件FX取引に係る雑所得の金額の計算上必要経費として控除することはできない
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(ハ) 交通費について
カード利用代金明細書の写しによれば、Xが、平成20年8月27日にJR東海の運賃等10,780円の支払についてクレジットカードを利用し、同年9月20日にその請求を受けた事実は認められるものの、Xが主張する交通費の額は26,400円であって、その支出を裏付ける的確な証拠の提出はなく、当審判所の調査によっても、当該交通費の支出があったと認めることはできない。
そもそも、Xは、東京で開催されたセミナーに出席したことを裏付ける証拠を提出せず、当審判所の調査によっても、請求人が本件セミナーに出席したと認めることはできないことから、当該交通費と雑所得に係る業務との関連性が明らかということはできず、客観的にみて、当該交通費が当該業務の遂行上必要なものということはできない。
したがって、当該交通費を本件FX取引に係る雑所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
(編注) 本裁決の対象となった取引は、現在のFX課税制度への統一前の年分を含む。ただし、必要経費及び家事関連費に関する所得税法37条・45条の考え方を検討する上では現在も参考になる。
また、所得税法37条1項の一般対応費について、東京高裁平成24年9月19日判決(平成23年(行コ)第298号、税務訴訟資料262号-190・順号12040、判例時報2170号20頁)は、「業務との直接関係」を「業務遂行上の必要性」とは別個の独立した要件として要求する国側の主張を退けている。
他方、東京高裁令和元年5月22日判決(平成30年(行コ)第295号、税務訴訟資料269号-49・順号13272)は、一般対応費について直接関連性を含む原審の判断を維持し、平成24年判決については「事案を異にする」としている。
なお、東京高裁令和元年5月22日判決については、最高裁第二小法廷令和2年6月26日決定により上告が棄却され、上告受理申立ても不受理となり確定している。ただし、同最高裁決定は、必要経費における「直接関連性」について実体的な法解釈を示したものではない(最高裁第二小法廷令2年6月26日決定、税務訴訟資料270号-62・順号13422)。
このため、必要経費における「直接関連性」の位置付けについては、裁判例・裁決例の表現や射程に差があることに注意が必要である。
令和5年2月17日裁決(東裁(所)令4第85号)判断要旨
請求人は、A社の代表者又は社員と会食した費用(本件各支出)は、購入した仮想通貨(本件仮想通貨)の情報収集のためのものであり、所得税法37条《必要経費》1項の「所得を生ずべき業務について生じた費用」として、雑所得の金額の計算上、必要経費に算入されるべきである旨主張する。
しかしながら、本件各支出がA社の代表者等との会食のために支出されたとは認められないし、仮にこれが認められるとしても、本件各支出に係るクレジットカードの使用日は、請求人がA社から本件仮想通貨の購入予約をした日とされる期間より後にされたものであるから、その会食が本件仮想通貨の購入のために行われたとはいえない。
したがって、本件各支出は、本件仮想通貨の取引に係る雑所得を生ずべき業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものであるとは認められず、請求人の雑所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
(編注) 本裁決の実在及び裁決要旨は、国税不服審判所の裁決要旨検索システムで確認することができる(国税不服審判所「裁決要旨検索システム」、令5年2月17日・東裁(所)令4-85)。


