必要経費

FX取引に係る必要経費

 FX取引に係る雑所得の金額の計算上、必要経費は控除できることになっています。売買手数料(支払い手数料)、パソコン購入費(減価償却分)、プロバイダ使用料(通信費)、関連雑誌代(図書費)、セミナー参加費などFX取引での利益(雑所得)を得るために生じた費用は、必要経費として計上することができると一般的に考えられています。

 平成25年3月7日裁決(大裁(所)平24第58号)では、FX取引に係る雑所得の金額の計算上、パソコン購入費、通信費、交通費は必要経費に算入できるのか争われました(他に、FX取引に係る雑所得の金額の計算上、建玉に係る含み損の額を控除すべきか否かも争点)。

 結果的に、必要経費に算入できない旨判断されましたが、その理由としては、「①支出の事実又は内容が確認できないこと」、「②家事関連費に該当し、業務の遂行上必要である部分を明らかに区分できないこと」、「③業務との関連性が明らかではないこと」のいずれかに該当することを挙げています。

 なお、請求人X(納税者)は、本件各支出について、本件FX取引に係るものと家事費に係るものとに区分しておらず、また、区分することもできない旨答述しています。

 この裁決から学べることは、FX取引に係る雑所得の金額の計算上、パソコン購入費、通信費、交通費等を必要経費に算入する場合は、領収書などの証憑書類の保存をちゃんとするということです。

 例えば、領収書の場合、青色申告の場合は7年(ただし、前々年分所得が300万円以下の方は5年)、白色申告の場合は5年の保存期間となっています。

 また、税務調査が入った場合に否認されないように「(家事関連費については、)業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できるもの」を必要経費にしておくということです(所法45、所令96一、所基通45-1)。

 ただ、そうは言っても、それはそれで難しいものがあるでしょう。例えば、パソコンを私的な利用と業務の遂行上必要である部分を明らかに区分できる納税者なんて、はたして「どのくらいいるの?」ということです(業務専用のパソコンは別)。

 なお、本事例について補足すると、この納税者は無申告であり、その意味でも徹底的にやられたのかなという気もします。

 そもそも、ちゃんと申告さえしていれば、ある程度の必要経費は認められていたんじゃないのかなと思ったりします。一般的な納税者であれば、常識的な割合、かつ、その割合を毎年継続適用していれば、さほど焦る必要もないかと思います。

仮想通貨に係る必要経費

 上記で、FX取引についての必要経費について書いてきたのですが、仮想通貨の必要経費についても同じようなことが言えます。国税庁の「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)令和4年12月22日改訂版」14頁によれば、暗号資産の売却による所得の計算上、必要経費となるものには、例えば次の費用があると書かれています。

・ その暗号資産の譲渡原価
・ 売却の際に支払った手数料
 このほか、インターネットやスマートフォン等の回線利用料、パソコン等の購入費用などについても、暗号資産の売却のために直接必要な支出であると認められる部分の金額に限り、必要経費に算入することができます。

 令和4年12月22日改訂版の1つ前の令和3年12月22日改訂版の時には、「必要な支出であると認められる部分の金額に限り」と記載されており、「直接」という記載はありませんでした。「直接」と書かれているのがポイントです。

 また、以下のことも書かれています。

「インターネットやスマートフォン等の回線利用料については、一般的に、暗号資産取引に係る利用料とそれ以外の利用料を一括で支払うこととなりますが、このような支出については、暗号資産取引に係る利用料を明確に区分できる場合に限り、その明確に区分された金額を必要経費に算入することができます。」

 つまり、一つの支出が家事上と業務上の両方に関わりがある費用(こうした費用を「家事関連費」といいます。)については、暗号資産取引業務の遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合に限り、その区分した金額を必要経費に算入することができるということです。

 ようするに、FX取引に係る必要経費と同じような考え方だということです。

平成25年3月7日裁決(大裁(所)平24第58号)の判断(要旨)

法令解釈
 所得税法37条1項、同法45条1項1号及び所得税法施行令96条1号の各規定の趣旨からすると、ある費用が必要経費に当たるといえるためには、当該支出が所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものであることが要件とされ、この判断は、単に業務を行う者の主観的な判断によるのではなく、当該業務の内容や、当該支出の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行われなければならないと解される。
 また、所得税法45条及び所得税法施行令96条1号の各規定からすれば、家事関連費については、当該費用が業務と何らかの関連があるというだけでは足りず、それが所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合に限り、その部分が必要経費に算入されると解される。

(イ) パソコン購入費について
A N製ノートバソコンの購入費について
 X(納税者)は、当該パソコン現物の裏面の写しを提出するのみで、領収書等当該パソコンの購入費を支出したことを裏付ける証拠の提出がなく、当審判所の調査においてもXは、領収書等は行方不明である旨答述するなど、その支出の事実を確認することができない。
 そうすると、Xが当該パソコンの購入費を支出したと認めることができないから、当該パソコン購入費を本件FX取引に係る雑所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。

B L製ノートパソコンについて
 平成21年4月15日付の伝票の写しによれば、パソコン本体等を購入した事実は認められるものの、Xは、当該パソコンを家事上の目的でも用いていたことが認められるから、当該パソコン購入費は、家事関連費に該当する。
 そして、Xは、当該パソコン購入費について、本件FX取引に起因する雑所得に係る業務の遂行上必要な部分を明らかにせず、また、当審判所の調査の結果によっても当該部分を合理的に区分することができる証拠は認められない。
 そうすると、仮に、Xが当該パソコンを本件FX取引のために用いていたとしても、当該パソコン購入費は家事関連費に該当し、これについて業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができないから、上記の法令解釈によれば、当該パソコン購入費は、本件FX取引に係る雑所得の金額の計算上その全額が必要経費に算入することができない。

(ロ) 通信費について
A 電話利用料金について
 通帳の写しによれば、X名義の普通預金口座から、平成20年に「電話」に関連して25,501円の引落しがあった事実は認められるものの、Xは、平成20年4月分及び同年6月分の電話利用料金内訳書の写ししか提出しておらず、平成20年4月分及び同年6月分を除いて、その内訳を確認することはできない。
 また、仮に、その全額が電話利用料金であったとしても、Xは電話を家事上の目的でも用いていたものと認められるから、Xが主張する当該電話利用料金は、家事関連費に該当する。
 そして、Xは、当該電話利用料金について、本件FX取引に起因する雑所得に係る業務の遂行上必要な部分を明らかにせず、また、当審判所の調査の結果によっても当該部分を合理的に区分することができる証拠は認められない。
 そうすると、仮に、Xが電話を本件FX取引のために用いていたとしても、その利用料金は家事関連費に該当し、これについて業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができないから、上記の法令解釈によれば、当該電話利用料金は、本件FX取引に係る雑所得の金額の計算上その全額が必要経費に算入することができない

B インターネット通信料について
 通帳の写しによれば、X名義の普通預金口座からインターネット通信料の引落しがあった事実は認められるものの、この引落し額は、Xが主張するインターネット通信料年額42,000円を下回っていることが認められるから、この引落し額を上回る部分については、その支出を裏付ける証拠はなく、当該部分の支出があったと認めることはできない上、この引落し額についても、Xは、その内訳が分かる証拠を一部しか提出せず、当審判所の調査によっても、この引落し額がインターネット通信料に係るものであると認めることはできない。
 また、仮に、Xが主張するとおり、インターネット通信料の支出がされていたとしても、Xはインターネットを家事上の目的でも用いていたものと認められるから、家事関連費に該当することになる。
 そして、Xは、当該通信料について、本件FX取引に起因する雑所得に係る業務の遂行上必要な部分を明らかにせず、また、当審判所の調査の結果によっても当該部分を合理的に区分することができる証拠は認められない。
 そうすると、Xがインターネットを本件FX取引のために用いていたとしても、その通信料は家事関連費に該当し、これについて業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができないから、上記の法令解釈によれば、当該通信料は、本件FX取引に係る雑所得の金額の計算上その全額が必要経費に算入することができない。
 したがって、いずれにせよ、インターネット通信料を本件FX取引に係る雑所得の金額の計算上必要経費として控除することはできない

(ハ) 交通費について
 カード利用代金明細書の写しによれば、Xが、平成20年8月27日にJR東海の運賃等10,780円の支払についてクレジットカードを利用し、同年9月20日にその請求を受けた事実は認められるものの、Xが主張する交通費の額は26,400円であって、その支出を裏付ける的確な証拠の提出はなく、当審判所の調査によっても、当該交通費の支出があったと認めることはできない。
 そもそも、Xは、東京で開催されたセミナーに出席したことを裏付ける証拠を提出せず、当審判所の調査によっても、請求人が本件セミナーに出席したと認めることはできないことから、当該交通費と雑所得に係る業務との関連性が明らかということはできず、客観的にみて、当該交通費が当該業務の遂行上必要なものということはできない。
 したがって、当該交通費を本件FX取引に係る雑所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。

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