EB債

個人(所得税の取扱い)

 EB債(イービー債:Exchangeable Bond)とは、「他社株転換可能債」といわれる複合金融商品で、債券であるにもかかわらず、償還日までの株価変動(ノックイン等)によっては、満期日に額面金額100%の金銭(償還金)が支払われる代わりに、当該債券の発行者とは異なる会社の株式(他社株式)が交付される場合もあります。

 ノックインとは、あらかじめ定められた株価等の水準(ノックイン判定水準)以下となることをいいます。

利子の課税の取り扱い

 利子については、特定公社債、一般公社債のどちらであっても支払時に20.315%の税率で源泉徴収されます。

 特定公社債の利子であれば、申告不要(源泉徴収のみで納税が完了)とすることができます。なお、確定申告をする場合には、税率20.315%の申告分離課税の対象となり、上場株式等グループの売却損や償還差損と損益通算できます。ただし、上場株式等の配当等と異なり、総合課税として確定申告することはできません。

 一般公社債の利子であれば、支払時に20.315%の税率で源泉徴収され、それにより納税が完結するため、確定申告の対象外となります(源泉分離課税)。

償還の課税の取り扱い

 一般的なEB債は、対象株式の評価日(償還日の数日前)の株価が一定の転換価格よりも高い場合には発行価額に相当する金銭で社債元本が償還されますが、評価日の株価が転換価格よりも低い場合には金銭による償還に代えて当該株式で社債元本が償還される仕組みとなっています。

 なお、株式で償還を受ける場合には、償還日における対象株式の終値が償還を受けた株式の取得価額とされます。そのため、EB債の取得価額と償還された株式の取得価額の差額は償還差損益となり、税率20.315%の申告分離課税の対象となります。

 また、その償還された株式を将来譲渡した際の譲渡損益は税率20.315%の申告分離課税の対象となります。その場合の譲渡損益は、譲渡価額と償還日の対象株式の株価との差額となります。

特定口座への受け入れ

 EB債の償還により取得する上場株式等は、一定の方法により特定口座へ受け入れることができます(措令25の10の2⑭十三)。

(1)対象となるもの
 特定口座を開設する金融商品取引業者等の行う有価証券の募集により、又は当該金融商品取引業者等から取得をした上場株式等償還特約付社債(社債であつて、上場株式等に係る株価指数又はその社債を発行する者以外の者の発行した上場株式等の価格があらかじめ定められた条件を満たした場合にその社債の償還がその社債の額面金額に相当する金銭又はその上場株式等で行われる旨の特約が付されたものをいう。いわゆるEB債)でその取得の日の翌日から引き続きその金融商品取引業者等に開設されている口座に係る振替口座簿に記載若しくは記録がされ、又は保管の委託がされているものの償還により取得する上場株式等で、その受入れを、振替口座簿に記載若しくは記録をし、又は保管の委託をする方法により行うもの

(2)取得日
 償還日

(3)取得に要した金額
 償還日における金融商品取引市場の最終価格(終値)

国税庁課税部資産課税課情報「株式譲渡益課税のあらましQ&A」(平成31年1月)問26「上場株式等償還特約付社債(EB債)の償還により取得した株式等の取得価額」

 措置法施行令第25条の10の2第14項第13号に規定する上場株式等償還特約付社債(EB債)の償還により取得した上場株式等の取得価額は、当該社債の償還の日における当該上場株式等の価額によるものとし、その価額については、次のとおり、所基通23~35共-9に定める方法と同様の方法により求めた価額とする(措通37の10・37の11共-9の2)。

1 当該上場株式等が取引所売買株式等の場合
(1)償還日に金融商品取引法第130条の規定により公表された最終価格がある場合
 金融商品取引所における最終価格(2以上の金融商品取引所に最終価格があるときは、その価格のうち最も高い価格)による。
(2)償還日に金融商品取引法第130条の規定により公表された最終価格がない場合
 同日前の同日に最も近い日における上記(1)の価格による。

2 当該上場株式等が店頭売買株式等の場合
 金融商品取引法第67条の19の規定により公表された償還日の最終価格(同日に公表された最終価格がない場合は、同日前の同日に最も近い日における最終価格)による。

法人(法人税の取扱い)

 法人税法上、EB債は、デリバティブ取引が組み合わされた「複合有価証券等」に区分されるものと考えられます。

期末時

 EB債の期末時の処理については、税務上はデリバティブを区分しないで一体として処理することが原則となっていますが、継続適用を条件に、債券と組込デリバティブの区分処理の適用も認められています(法基通2-3-42)。

 ただし、中小企業がEB債を保有している場合、債券と組込デリバティブを区分せず、一体として処理することが一般的となっています。そして、一体として処理する場合の期末評価は、原価法と時価法があります。 

(1)原価法
 帳簿価額のままで期末処理はしません。

(2)時価法
 時価評価額と帳簿価額との差額が評価損益となって、それを益金又は損金に算入します。そして、翌期首に洗替えします。

償還時

 償還される場合には、償還対象となる株式とEB債の帳簿価額との差額は、償還差損益として益金、損金となります。

 なお、償還時における償還対象株式の取得価額は、「金融商品会計に関する実務指針」に従い、株式による償還が決定する償還方法決定日の時価で計算します(法法22④)。

 ただし、実務上、償還日の時価で計算するという考え方もあります(法法61の5③、法令119①二十七、法基通2-3-42)。

 法人税基本通達逐条解説(税務研究会出版局刊・十訂版)の2-3-42の解説文(401ページ)において、以下のように解説されています。
「例えば、他社株転換社債(社債元本の償還に代えてその社債の発行体以外の法人の株式を引き渡すオプションが組み込まれた社債)を取得し、組み込まれたオプション取引を区分することとした場合において、他社株に転換される条件が成就したときは、その条件成就の日に当該他社株を取得したことになるので、この時点でデリバティブ取引に係る契約に基づく資産の取得又は譲渡による損益を認識することになる。
 また、この場合の当該他社株の取得価額は、その取得の時(条件成就日)における当該他社株の取得のために通常要する価額となる(令119①二十七)」

仕訳

購入時

有価証券   20,000,000円  未払金(OR預け金) 20,000,000円

EB債が金銭により償還された場合

未収金(OR預け金) 20,000,000円     有価証券  20,000,000円

未収金(OR預け金)   675,160円    受取利息   797,260円
法人税等         122,100円 

EB債が株式により償還された場合

有価証券(株式)  16,000,000円     有価証券(EB債)  20,000,000円
有価証券償還損    4,000,000円

未収金(OR預け金)   675,160円    受取利息   797,260円
法人税等         122,100円 

法人税法22条4項

 第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

金融商品会計に関するQ&A

Q7:他社株転換社債の転換によって株式を取得した場合、当該株式の取得価額はどのように計算されますか。

A:実務指針第29項によれば、金融資産の当初認識は、当該金融資産の時価により測定するとありますので、当該償還条項によって取得した株式の取得価額は、株式による償還が確定した日における時価になると考えられます。なお、他社株転換社債は保有者にとって複合金融商品のうち組込デリバティブのリスクが社債元本に及ぶ可能性があると考えられますので、区分処理が要求されます。したがって、区分処理後の他社株転換社債及び区分処理されたデリバティブの帳簿価額の合計額と株式の取得価額との差額は株式取得時における純損益として処理されます。