法人税法施行令72の3

 使用人(従業員)に対して支給する賞与は、原則として、その支払をした日の属する事業年度の損金の額に算入します(法令72の3三)。

 ただし、以下に該当する未払賞与の場合は、例外として、それぞれの事業年度の損金の額に算入します。

(1)資金繰りが悪化している等の事情による未払賞与(法令72の3一)
 労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与(使用人にその支給額が通知されているもので、かつ、その支給予定日又はその通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理したものに限ります。)

→その支給予定日又はその通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度

(2)未払決算賞与(法令72の3二)
 次に掲げる要件の全てを満たす賞与
イ その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。
ロ イの通知をした金額を通知した全ての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日(決算期末)の翌日から1か月以内に支払っていること。
ハ その支給額につきイの通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。

→使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度

使用人兼務役員に対して支給する使用人賞与

 使用人兼務役員に対して支給する使用人賞与も上記と同じと考えて問題ありません。

 ただし、他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給された場合には過大な役員給与として損金に算入することはできません(法令70三)。

平成22年9月2日裁決(裁事80集)要旨

 本件施行令は、使用人賞与については、原則として、実際に支給をした日の属する事業年度の損金の額に算入する(第3号賞与)こととしつつ、その例外として、法人が資金繰りが悪化している等の事情で賞与が未払状態になっている場合には、たとい未払いであっても損金の額に算入することとし(第1号賞与)、また、一般に、賞与はその支給額を通知するとほぼ同時に支給されるのが慣例になっているものの、事業年度終了の日において各人別に支給額が通知され、たまたま支給が遅れているような場合にまで一切損金算入を認めないのは適当ではないことから、一定範囲で通知をした日の属する事業年度においても損金の額に算入することを認めた上で、取扱いの統一性を確保しし意性を排除する観点から、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して支給額を通知していること、1月以内の支給及び損金経理を要件として規定した(第2号賞与)ものと解される。

 使用人賞与については、本件施行令の規定に従って損金算入時期を判断することになるところ、本件各決算賞与は、労働協約又は就業規則で定められた支給予定日が到来しているとは認められず、また、本件各事業年度終了の日の翌日から1月以内に使用人へ支払われていないことから、本件施行令の第3号に規定する賞与として、実際に支払われた日の属する事業年度において損金の額に算入されることとなる。

未払決算賞与

 未払決算賞与は、税務調査の際にはもめることが多いポイントとなっています。

支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること

 要件の1つである「支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること」は、以下の注意点があります。

  • 法人が就業規則等において「支給日に在職する使用人のみ」に賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、ここでいう「通知」には該当しません(法基通9-2-43)。
     このように取り扱う理由は、支給対象が「支給日に在職する使用人のみ」であるとすると、支給日にならないと賞与支給金額が確定せず、決算期末ではその金額が確定しないため、債務確定基準(法基通2-2-12)を満たさないからです。
     ただし、法人税法上、会社に在籍するすべての使用人に賞与を支給することまでは要求していませんので、翌月退職予定者や長期休職者を除いた使用人を対象にするといったようなことは認められるのではないかという考え方もあります。

 なお、賞与を「支給日に在職する使用人のみ」に対して支給する旨の就業規則の規定は有効です。

最高裁第一小法廷昭和57年10月7日判決(集民137号297頁)要旨

 就業規則の「賞与は決算期毎の業績により各決算期につき一回支給する。」との定めが「賞与は決算期毎の業績により支給日に在籍している者に対し各決算期につき一回支給する。」と改訂された場合において、右改訂前から、年二回の決算期の中間時点を支給日と定めて当該支給日に在籍している者に対してのみ右決算期を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在し、右就業規則の改訂は単に従業員組合の要請によつて右慣行を明文化したにとどまるものであつて、その内容においても合理性を有するときは、賞与の支給日前に退職した者は当該賞与の受給権を有しない。
  • 法人が、その使用人に対する賞与の支給について、いわゆるパートタイマー又は臨時雇い等の身分で雇用している者(雇用関係が継続的なものであって、他の使用人と同様に賞与の支給の対象としている者を除きます。)とその他の使用人を区分している場合には、その区分ごとに支給額の通知を行ったかどうかを判定することができます(法基通9-2-44)。

賞与支給通知書等の作成

 通知の方法は規定されていないので口頭による通知でもよいということになります。ただし、税務調査において、通知をしていることがポイントとなるため、証拠として、賞与支給通知書等を作成する法人は多いです。

 通知をした日の属する事業年度に損金をするということですので、例えば、3月決算の会社であれば、3月末までの日付である通知書等であり、4月末までに支給すれば3月末の損金に計上できるということになります。

 なお、この辺のことを悪用し、実際には4月中に通知書等を作成しているのに、日付はバックデートして3月中として通知書等を作成している会社(3月決算の場合)があります。

 決算処理である程度の数字が把握できたのが4月に入ってからであり、通知書等をバックデートして作成しても、従業員も賞与を貰えるので、税務調査が入ってもばらさないだろうと考える中小企業経営者もいるでしょう。

 しかし、税務署職員も、当然、そんなことはわかっており、税務調査の際には、通知書等のデジタルデータ作成日をチェックしたりします。

 例えば、ワードファイルで印刷した通知書等の日付が3月某日となっていても、パソコンを見れば、そのワードファイルで作成した通知書等の実際の作成日はわかってしまいます。

 実際の作成日が4月であれば、その時点でアウトです。偽装したということで重加算税もかけられる場合があります。

 なお、書面に代えて社内メールにて通知する方法などもありますが、その場合はデータ保存をする必要があります。

大阪地裁平成21年1月30日判決(判タ1298号140頁)要旨

 原告は平成16年5月31日(事業年度末)までにその使用人に対する各人別の賞与支給額を決定してはいたものの、実際に本件賞与を支給したのは、本件事業年度終了後の同年7月16日であり、しかも、原告は、本件賞与の支給前には、本件賞与の各人別の支給金額について、各人別に、かつ同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知してはいなかったというのであるから、本件賞与を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。

関連記事