概要

 法定福利費として経理処理すべきものには、会社が保険料を負担することを法律で義務付けられている(狭義の)社会保険料と労働保険料があります。

(狭義の)社会保険料 は、健康保険料(介護保険料を含む)・厚生年金保険料・児童手当拠出金です。

 労働保険料は、労災保険料・雇用保険料・一般拠出金です。

 法定福利費として経理処理すべき社会保険料は、 全額ではなく、あくまでも、 会社負担分だけを法定福利費として経費処理をし、従業員負担分については給与から差し引きます。

分類詳細会社負担分
(広義の)
社会保険料
(狭義の)
社会保険料
健康保険料
(介護保険料を含む)
半額会社負担
厚生年金保険料
児童手当拠出金全額会社負担
労働保険料労災保険料
一般拠出金
雇用保険料一定割合会社負担

法定福利費(社会保険料)の仕訳例

(狭義の)社会保険料

 社会保険料(会社負担分+従業員負担分)は、当月分を翌月末までに払いますが、会社負担分は、今月末において今月分を未払計上をし、従業員負担分は、給与から控除します。
 
 ●2月末に、2月分の会社負担分社会保険料を未払計上した。
 法定福利費 ×××円   未払費用(社会保険の会社負担分) ×××円
 
 ●2月に、従業員に今月分の給与を支払った。
 給与  ×××円    現金預金 ×××円
             預り金(源泉所得税) ×××円
             預り金(社会保険の従業員負担分) ×××円
 
 ●3月末までに社会保険を支払った。
 預り金(社会保険の従業員負担分) ×××円    現金預金 ×××円
 未払費用(社会保険の会社負担分) ×××円
 
 ●3月末に、3月分の会社負担分社会保険料を未払計上した。
 法定福利費 ×××円   未払費用(社会保険の会社負担分) ×××円

労働保険料

 年度当初に、4/1からから翌年3/31までの1年分を概算保険料として払います。そして、翌年度の申告で確定保険料として精算します。
 
 ●R5年に、概算保険料(R6/3/31までの分)を支払った。
 立替金 (労働保険の従業員負担分) ×××円    現金預金 ×××円
 法定福利費(労働保険の会社負担分) ×××円
 
 ●従業員に今月分の給与を支払った。
 給与  ×××円    現金預金 ×××円
             預り金(源泉所得税) ×××円
             立替金(労働保険の従業員負担分) ×××円
 
 R6/5/15に申告で、R6/3/31までの不足分を確定保険料として精算した。また、R6/4/1からR7/3/31までの分を概算保険料として支払った。
 
 ●確定保険料(R6/3/31までの分)の不足額を精算した。
 法定福利費(労働保険の会社負担分) ×××円    現金預金 ×××円
   
 ●概算保険料(R6/4/1からR7/3/31までの分)を支払った。
 立替金 (労働保険の従業員負担分) ×××円    現金預金 ×××円
 法定福利費(労働保険の会社負担分) ×××円 

法定福利費(社会保険料)の法人税の取扱い

 会社負担分は、損金算入ができます。損金算入時期は以下のとおりです。

(狭義の)社会保険料(法基通9-3-2)

 保険料等の額の計算の対象となった月の末日(賞与に対する保険料は賞与を支払った日)に損金算入します。

 (狭義の)社会保険料の毎月の保険料は、原則として翌月末日までに納付することになっています(健保法164①、厚年法83①)ので、期末決算時に1か月分の(狭義の)社会保険料を未払計上することが可能です。

労働保険料(法基通9-3-3)

 ●概算保険料は、概算保険料の申告日または納付日に損金算入

 ●確定保険料
①概算保険料が確定保険料に満たなかった場合
 確定保険料の申告日または納付日に損金算入
 確定保険料の申告前に、決算がきて確定保険料の不足がある場合、未払金計上し損金算入可能。

②概算保険料が確定保険料を超える場合
 確定保険料の申告日に益金算入

法定福利費(社会保険料)の消費税の取扱い

 消費税の課税対象外取引ですから、仕入税額控除の対象にはなりません。

会社が国民健康保険料を負担した場合

 小さい会社の場合、社会保険は強制といいながらも、実際には、会社として社会保険に入ってない場合があります。そうした場合、従業員が国民健康保険に加入し、自らが保険料を払うことになります。

 では、国民健康保険料を、会社が負担した場合には、どうなるでしょうか。本来、国民健康保険料は、従業員自らが払うものであり、会社が払うものではありません。よって、法定福利費として処理することはできず、給与として処理することになります。

 税務上、給与課税の問題が生じることになりますので注意をしてください。

さかのぼって徴収される社会保険料

 年金事務所の調査が入った場合、悪質とみなされると過去2年間にさかのぼって社会保険料を納付しなくてはなりません(健保法193、厚年法92)。

 では、過去2年間分の社会保険料は、いつの事業年度の損金が妥当でしょうか。

 社会保険料は、保険料等の額の計算の対象となった月の末日の属する事業年度の損金の額に算入することができる(法基通9-3-2)としています。これだけを読むと、支払義務が発生した各月に損金算入をするため、過年度分については更正の請求が必要であると考えられます。

 ただし、実際に債務が確定した日は、年金事務所の調査により社会保険料の額が具体的に確定したときであると考えられます。また、法基通9-3-2は「すべき」ではなく、「できる」となっています。

 よって、さかのぼって徴収された社会保険料は、過去2年間の該当する各事業年度の損金として処理する必要はなく、社会保険料の額が具体的に確定した日の事業年度に全額を損金算入することができると考えられます。

社会保険料の延滞金

 法人税に係る延滞税等や地方税法に係る延滞金等は、損金不算入となります(法法38)。しかし、社会保険料は、その租税等には該当しません。ですから、社会保険料の延滞金は、損金算入することが認められることとなります。

未払決算賞与の社会保険料の損金計上時期

 平成24年7月5日東京地裁判決(税資262号-137(順号11987))では、1月決算法人が未払いの決算賞与(支払いは3月)及びこれらに係る法定福利費を損金の額に算入して確定申告を行い、所轄税務署と争われましたが、判決は以下のように判示をしています。

 法人が納付する健康保険の保険料及び厚生年金保険の保険料は、その保険料の額の計算の対象となった月の末日において、その時点で使用している被保険者(従業員等)に係るものについて、その納付義務が確定する性質と解されるものであるから、法人税基本通達9-3-2は、その納付告知又は実際の納付を待たずに、損金算入することができる旨を明らかにしている。そして、賞与に係る保険料は、被保険者が賞与を受けた月に、その受領額を基に標準賞与額を決定し、その標準賞与額に一般保険料率を乗じて計算されるのであるから、同通達に定める「保険料の額の計算の対象となった月の末日」とは、被保険者が賞与を受けた月(雇用者である法人側からみれば、賞与を支払った月)の末日をいうものと認められる。これを本件についてみると、本件各法定福利費は、未払費用として計上した本件各事業年度の翌事業年度の3月に支払われているため、上記通達の「保険料の額の計算の対象となった月の末日」、つまり本件各法定福利費の債務の確定する日は、本件各決算賞与を支払った3月末日ということになる。
 したがって、本件各法定福利費は、未払費用として計上した本件各事業年度の損金の額に算入することはできない。