概要

 生命保険契約を法人から役員・従業員個人に名義変更することがあります。役員等の退職の際に、法人加入であった保険を引き継がせる等の場合です(役員・従業員以外の法人に関係のない第三者である個人への名義変更は通常行われないため、以下、役員・従業員個人に名義変更する場合です)。

被保険者        個人
契約者(保険料支払)  法人 → 個人
保険金受取人      法人 → 個人

 法人名義の保険契約等を役員等個人の名義に変更した場合、法人が役員等に保険契約等の権利を譲渡したことになります。

 よって、名義変更(譲渡)をする場合は個人から法人へ適正な金額を支払う必要があり、適正な金額を下回る価額(無償の場合を含む)で取引をした場合は個人側に給与課税の問題が生じます。

 例えば、本来、法人から個人へ名義変更をする際に、適正な金額200万円を個人が法人へ支払わなくてはいけないのに、50万円しか支払わなかった場合は150万円(200万円-50万円)の給与課税の問題が生じます。

 また、法人側の処理としては給与(賞与)となり、名義変更者が役員である場合は臨時的な給与であるため役員給与の損金不算入の問題が生じます。

 よって、通常、法人から個人に無償で名義変更をするのは、法人が個人に退職金として支払う場合が多いです。

譲渡価額法人側個人側
適正な金額課税なし課税なし
適正な金額を下回る価額
(無償の場合を含む)
給与
(退職金)
給与課税
(退職給与課税)

 給与課税等の問題があるため、生命保険契約を法人から役員等個人に名義変更する場合は、「適正な金額」とは何ぞやということを把握しておく必要があります。

名義変更する場合の「適正な金額」

 令和3年6月30日までの名義変更であれば、全ての生命保険について「名義変更時の解約返戻金の額」が「適正な金額」でした。

 しかし、令和3年7月1日以降の名義変更については、一定の低解約返戻金型保険等についてはその権利の評価方法が見直され、以下のような取り扱いとなりました(所基通36-37)。

保険等適正な金額
(1) (2)(3)以外の保険等名義変更時の解約返戻金の額
(2) 一定の低解約返戻金型生命保険名義変更時の資産計上額
(3) 復旧することのできる払済保険等名義変更時の資産計上額+ 法基通9-3-7の2の取扱いによる損金算入額

(1) (2)(3)以外の保険等

 養老保険、終身保険、最高解約返戻率が50%以下の定期保険(法人税基本通達9-3-5の2の適用外)など下記(2)(3)以外の保険等の名義変更の場合は、従来通り、「名義変更時の解約返戻金の額」が「適正な金額」となります。これが、原則的な取り扱いとなります。

 ただし、今後において、改正される可能性は十分あります。

「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(保険契約等に関する権利の評価)に対する意見公募の結果について(令和3年6月18日)

御意見の概要
〇 一部の介護保険について、解約返戻金がないものではあるが、今回の対象の保険と同様に第三者への名義変更が行われているケースが散見されるが見直しを行わないのか。
〇 低解約型の終身保険を利用した節税スキームも想定されるが、これに関してはどのように対応するのか。
〇 今回の通達適用が法人税基本通達9-3-5の2に限定しているが、対象外の終身保険や養老保険で低解約タイプの商品開発がされてまた販売が過熱することは容易に想像が出来るので、全契約を対象にすべきではないか。

御意見に対する国税庁の考え方
 今回の見直しの対象は、法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける保険契約等に関する権利としていますが、法人税基本通達の他の取扱いにより保険料の一部を前払保険料に計上する「解約返戻率の低い定期保険等」及び「養老保険」などについては、保険商品の設計などを調査したうえで、見直しの要否を検討することとしています。

(2) 一定の低解約返戻金型生命保険(法基通9-3-5の2の適用を受ける定期保険等)

 低解約返戻金型生命保険とは、契約から一定期間(以下「低解約返戻金期間」という)の「解約返戻金」が低額に設定されている一方で、その低解約返戻金期間経過後については「解約返戻金」が高額になる生命保険です。

 解約返戻金が低額に設定されている期間に、契約者を法人から役員個人に名義変更をし、解約返戻金が高額になったら解約するという節税スキームで利用されていました。

 例えば、以下のような毎年100万円を支払う低解約返戻金型生命保険を法人が入っていて、低解約返戻金期間の最終年である4年目に法人から役員個人に名義変更したうえで、役員個人が返戻率のピークである5年目に同保険契約を解約するようなことが行われていました。

1年目2年目3年目4年目5年目6年目
保険料支払累計額(万円)100200300400500600
返戻率(%)0510209593
解約返戻金(万円)0103080475558

 この場合、従来は、「適正な金額」は「名義変更時の解約返戻金の額」であったため、上記の例であれば、役員個人は名義変更時(4年目)に法人に80万円を支払えばよかったのです。

 そして、5年目に役員個人が保険契約を解約すれば、一時金として解約返戻金475万円を受けとることができます。これは、役員個人の一時所得となりますが、以下のように計算します。

解約返戻金475万円-(法人への支払分80万円+役員個人の支払保険料分100万円)=295万円
(295万円-特別控除50万円)×1/2= 課税対象金額122.5万円

 役員は180万円の支払いで475万円を手に入れることができ、また、役員が法人から賞与として貰うより、断然、所得税の観点での節税メリットとなります。

 また、法人にとっても名義変更に係る多額の譲渡損失が計上でき、法人税の観点でも節税メリットとなります。

 4年間総額の保険料400万円に対して、80万円が戻るだけなので、法人はトータルで320万円の損金が計上できます。

 このようなことが行われていたため、所得税基本通達36-37(保険契約等に関する権利の評価)の改正となりました。所得税基本通達の解説(国税庁HP)では、改正理由を以下のように述べています。

『保険契約上の地位(権利)は、(省略)、「支給時解約返戻金の額」で評価することが原則であるが、「低解約返戻金型保険」など解約返戻金の額が著しく低いと認められる期間(以下「低解約返戻期間」という。)のある保険契約等については、第三者との通常の取引において低い解約返戻金の額で名義変更等を行うことは想定されないことから、低解約返戻期間の保険契約等については、「支給時解約返戻金の額」で評価することは適当でない。』

 上記の「支給時」とは、本件の記事に関していえば「名義変更時」のことをいいます。

 その結果、令和元年(2019年)7月8日以後に契約した定期保険等(法基通9-3-5の2の適用を受けるもの)で、令和3年7月1日以降に保険契約等に関する権利を名義変更した場合、名義変更時の解約返戻金の額が名義変更時の法人の資産計上額の70%に相当する金額未満である場合には、「適正な金額」は「名義変更時資産計上額」により評価するよう改正されました。

 裏を返せば、低解約返戻金型生命保険とよばれるものでも、①「令和元年7月7日以前に契約」、②「令和3年6月30日以前に名義変更」、③「最高解約返戻率が50%以下の定期保険等(法基通9-3-5の2の適用外)」、④「名義変更時の解約返戻金≧名義変更時の法人の資産計上額×70%」のいずれかに該当する場合の名義変更時の「適正な金額」は「名義変更時の解約返戻金の額」となります。

 なお、「名義変更時の法人の資産計上額」は、法人が支払った保険料の額のうち保険契約上の地位(権利)の支給時の直前において前払保険料として法人税基本通達の取扱いにより資産に計上すべき金額となります。

 法人が、前払保険料として資産に計上すべき金額については、年払保険料を期間対応で処理する場合と短期の前払保険料として処理する場合(法基通2-2-14)で金額が異なることとなりますが、名義変更時資産計上額は、法人が選択した経理方法によって資産に計上している金額として差し支えないこととなっています。

 また、法人側における保険契約等の権利の評価は、所得税の取扱いに準じます。

(例1)「適正な金額」で名義変更する場合

① 前払保険料(法人資産計上額)500万円、解約返戻金相当額300万円の場合、譲渡適正金額500万円

(法人側処理)
 現金預金 500万円  前払保険料 500万円

② 前払保険料(法人資産計上額)500万円、解約返戻金相当額400万円の場合、譲渡適正金額400万円

(法人側処理)
 現金預金 400万円  前払保険料 500万円
 雑損失  100万円

(例2)「適正な金額」で退職金(1000万円)の一部として支払う場合

① 前払保険料(法人資産計上額)500万円、解約返戻金相当額300万円の場合、譲渡適正金額500万円

(法人側処理)
 退職金 1000万円  現金預金 500万円
           前払保険料 500万円

② 前払保険料(法人資産計上額)500万円、解約返戻金相当額400万円の場合、譲渡適正金額400万円

(法人側処理)
 退職金 1000万円  現金預金 600万円
 雑損失  100万円  前払保険料 500万円 

(3) 復旧することのできる払済保険等(元の契約が法基通9-3-5の2の適用を受ける定期保険等)

 保険契約においては、既契約の途中で保険料が支払えなくなったような場合に、保険料の払込を中止し、既払保険料に係る解約返戻金を利用して契約の存続を図る方法があり、これを一般に「払済保険」といいます。そして、この払済保険については、一定期間、元の契約に戻す(復旧する)ことができる場合があります。

 通常は、その変更が払込期間の中途で保険料の支払が困難になった場合に行われるものであることを想定されていたのですが、契約当初から払済保険への変更を予定して、これにより税負担の軽減を図る事例が見受けられました。

 例えば、同一種類の保険に充当するのではなく、定期保険等損金計上していたものを払済保険にすることで、本来、資産計上しないといけない終身保険へ変更(変更された終身部分は資産計上なし)をするようなことが行われていました。

 そのことを封じるため、法人税基本通達9-3-7の2(払済保険へ変更した場合)が新設されたということです。

 法人税基本通達9-3-7の2では、保険契約等を払済保険に変更した場合、資産計上額と解約返戻金の額との差額を益金の額又は損金の額に算入するとされており、法人の資産計上額が解約返戻金の額に洗替えされることとなります。

 しかしながら、この解約返戻金の額に洗替えされる処理方法は、法人から役員への名義変更の場合、悪用される可能性があります。

 本来、低解約返戻期間における保険契約等については、上述した「(2)一定の低解約返戻金型生命保険」のように、名義変更時の資産計上額で評価するとしています。

 しかし、復旧することのできる低解約返戻金型保険を低解約返戻期間に払済保険に変更して役員等に支給した場合、名義変更時資産計上額は低い解約返戻金の額に洗替えされているため、上記「(2)一定の低解約返戻金型生命保険」の取扱いの抜け穴となるおそれがあります。

 したがって、復旧することのできる払済保険その他これに類する保険契約等に関する権利を役員等に支給した場合には、名義変更時資産計上額に法人が法人税基本通達9-3-7の2の取扱いにより、損金に算入した金額を加算した金額(元の契約の資産計上額)で評価することとしています。

保険契約を解約した際の役員個人の一時所得の計算

 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額から、その収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、またはその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から、特別控除額(最高50万円)を控除した金額とするものとされています(所法34②)。

 {(収入金額-収入を得るために支出した金額)-特別控除額(最高50万円)}×1/2

 役員個人が保険契約を解約し、一時金として解約返戻金を受けとる場合の「収入金額」は「解約返戻金の額」となります。

 また、それに対する「収入を得るために支出した金額」は、その収入を得た個人自らが負担して支出したものであるため、「給与課税された金額」、「名義変更の際に法人へ払った対価金額」、「個人契約となった後に個人で支払った保険料の額」となります。

 なお、これ以外に、同一年に一時所得となるものがあれば、それらの「収入金額」「収入を得るために支出した金額」を足したうえで、特別控除額(最高50万円)を差引き、1/2とします。

支払調書

 平成27年度税制改正により、平成30年(2018年)1月1日以後の「生命保険契約等の一時金の支払調書」には、名義変更をする直前の契約者の氏名や住所、現契約者が支払った保険料額、契約者変更の回数などが記載されています。

 よって、納税者の申告内容が正しくない場合は、課税庁はすぐにわかるので、調査や行政指導が行われることが想定されます。

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