遺産分割確定前

 相続財産である不動産について遺産分割が確定していない場合、その不動産は各共同相続人の共有に属するものとされ、その不動産から生ずる収入(所得)は、各共同相続人にその相続分に応じて帰属するものとなります。

 したがって、遺産分割協議が整わないため、共同相続人のうちの特定の人がその収益を管理しているような場合であっても、遺産分割が確定するまでは、共同相続人がその法定相続分に応じて申告することとなります。

遺産分割確定後

 遺産分割確定日以後の不動産収入については、その遺産分割による相続分により申告することとなります。

 なお、遺産分割協議が整い、分割が確定した場合であっても、その効果は未分割期間中の所得の帰属に影響を及ぼすものではないので、分割の確定を理由とする更正の請求又は修正申告を行うことはできません。

 つまり、未分割の相続財産である不動産から生ずる収入(未分割遺産から生じる法定果実)は、遺産とは別個のものであって、共同相続人各人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものですから、その帰属につき、事後の遺産分割の影響を受けることはないということです。

 また、遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じますが、第三者である課税庁の権利を害することはできません。

相続放棄があった場合

 民法938、939条に基づいて行われる相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされるので、相続財産である賃貸不動産から生じる相続開始後の賃料の全てが帰属しないものと考えられます。

民法

909条(遺産の分割の効力)
 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

938条(相続の放棄の方式)
 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

939条(相続の放棄の効力)
 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

最高裁判所第一小法廷平成17年9月8日判決(民集59巻7号1931頁)要旨

 遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。

神戸地裁平成3年1月28日判決(税資182号84頁)要旨

 納税者は、被相続人の賃貸人としての地位を相続によつて相続分の割合によつて承継したものというべきであるから、右賃料の所得をもつて不動産所得(所得税法26条1項)があつたことになるというべきで、相続人間で右賃貸借の対象物件を含む相続財産の帰属についての争いが未決着であることを理由に所得税の課税を保留することは納税者の恣意を許容し、課税の公平を著しく害することになるから、 許されないと解すべきである。