副業

 副業が事業所得であり赤字であれば、損益通算にて給与所得から赤字分を差し引くことができるので、結果的に、本業の給与所得で源泉徴収されていた所得税等が減少、還付されるということになります。

 ただし、一般的な副業程度ですと、雑所得と認定され、雑所得は他の所得と損益通算ができません。なお、副業が絶対に事業所得と認められないというわけではありませんが、事業性を認定するうえで重要な要素となります。

事業所得、雑所得(公的年金等に係るものを除く。)の所得金額の計算方法の違い

 事業所得、雑所得(公的年金等に係るものを除く。)の所得金額の計算方法は、ともに「総収入金額-必要経費」であり、大きな違いはありません(所法27②、35②二)。

 ただし、所得(総収入金額-必要経費)の金額の計算上、損失となった場合に違いが生じます。事業所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、給与所得など他の所得と損益通算(所法69①)できますが、雑所得ではできません。あくまでも、雑所得内での通算しかできません。

 「雑所得」の分類は、シャウプ勧告に基づく昭和25年の改正で設けられたのですが、当時は、雑所得の計算上生じた損失については、特に制限がなく他の所得との通算が認められていました。

 しかし、昭和43年に、雑所得の計算上生じた損失については他の所得との損益通算を認められないとされたのですが、これは、「雑所得の必要経費の支出内容には家事関連費的な支出が多いこと、必要経費が収入を上回る場合があまり考えられず、損益通算を存置する実益が少ないこと」(武田昌輔「DHCコンメンタール所得税法」2674頁)などの理由からとされています。

 「必要経費が収入を上回る場合があまり考えられず、損益通算を存置する実益が少ないこと」を理由として損益通算を認められないとされたといいますが、事業所得なのか雑所得なのかで争われた裁判例・裁決例の多くが、納税者が行っている本業以外の取引等で連年継続して損失が生じており、給与所得などと損益通算しているケースです。

 そして、争いのほとんどが事業所得とは認められず雑所得に該当すると判断がされています。

 なお、そのほか、事業所得と雑所得の間には、資産損失の必要経費算入額(所法51)にも違いがあり、さらに、事業所得について青色申告制度を適用すれば、青色申告特別控除(措法25の2)、青色事業専従者給与(所法57)、純損失の繰越しと繰戻し(所法70、140)、中小事業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例(措法28の2)等の点で税制優遇が受けられます。

 ただし、サラリーマンの副業が事業所得なのか雑所得なのかで争われる最大の理由は、損益通算ができるか否かです。例えば、事業所得で年間20~30万円の所得があるが、青色申告特別控除額の範囲内なので、結果的に副業による納税0円といったケースも、本来、過去の裁判例・裁決例の判断基準に当てはめれば、雑所得になるというのがほとんだと思います。

 ただし、そのようなケースで争われた裁判例・裁決例は、私が調べた範囲ではありません。つまり、副業が赤字で給与所得や主たる事業所得と相殺しているようなケースが狙い撃ちされて税務調査に入られ、結果的に、裁判例・裁決例になるようなものが出てくるということです。

 納税者が行っている本業以外の取引(経済活動)等が事業所得か雑所得で争われた裁判例・裁決例の多くが、その取引等で連年継続して損失が生じており、給与所得などと損益通算しているケースです。そして、ほとんどが事業所得とは認められず雑所得に該当すると判断がされています。

裁判例からわかる事業所得、雑所得か否かの判断基準

 1つ目の裁判例は、事業所得に該当するか否かを判断するうえで極めて有名な弁護士顧問料事件(最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁)です。弁護士が複数の会社から受け取った顧問料収入を給与所得であると確定申告をしたところ、課税庁は事業所得であるとし更正処分等をしたことにより争われたのですが、本判決では、事業所得について、以下のように判示しています。

「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意志と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。」

 2つ目の裁判例は、納税者が商品先物取引による損失を事業所得計算上の損失として、各年分の給与所得と損益通算をして確定申告をしたが、課税庁は、雑所得計算上の損失であるとし更正処分等をしたことにより争われた名古屋地裁昭和60年4月26日判決(行集36巻4号589頁)です。本判決では、「対価を得て継続的に行なう事業」に該当するか否かについて、具体的に、以下のように判示しています。

「一定の経済的行為が右(編注:所得税法施行令63条12号)に該当するか否かは、当該経済的行為の営利性、有償性の有無、継続性、反覆性の有無のほか、自己の危険と計算による企画遂行性の有無、当該経済的行為に費やした精神的、肉体的労力の程度、人的、物的設備の有無、当該経済的行為をなす資金の調達方法、その者の職業、経歴及び社会的地位、生活状況及び当該経済的行為をなすことにより相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性が存するか否か等の諸要素を総合的に検討して社会通念に照らしてこれを判断すべきものと解される。」

 つまり、事業所得を発生させる事業とは社会通念上事業といえるものかどうかだということであり、下記のような諸要素を総合考慮して判断する必要があるということになります。

(1)営利性、有償性及び反復継続性の有無
(2)自己の危険と計画による企画遂行性の有無
(3)その者が費やした精神的及び肉体的労力の程度
(4)人的設備及び物的設備の有無
(5)資金の調達方法(△)
(6)その者の職業・経験、社会的地位、生活状況
(7)相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性(◎)

 上記で、「(5)資金の調達方法(△)」としている理由は、最近の事例では、あまり、重要視されていないからです。一方、「(7)相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性(◎)」としている理由は、どの事例においても、最重要とされているからです。

 なお、学説は以下のように、種々のファクターを参考とし、社会通念によって決定するとしています(金子宏「租税法」23版239頁)。

「事業と非事業との区分の基準は必ずしも明確ではなく、ある活動が事業に該当するかどうかは、活動の規模と態様、相手方の範囲等、種々のファクターを参考として判断すべきであり、最終的には社会通念によって決定するほかはない」

副業であることは事業所得か否かの判断で不利な要素となっている

 事業所得であるか否かを判断する要素の1つである「副業」について、小豆先物取引が所得税法上の事業であるとする納税者の主張が排斥された京都地裁昭和59年9月6日判決(税資139号511頁)では、以下のように判示しています。

「『対価を得て継続的に行なう事業』に該当するといえるかどうかは、法27条1項、法施行令63条に規定する具体的業種を参照したうえ、諸般の事情を考慮したうえ、社会通念上、営利を目的として継続的に行なわれる事業と認められるかどうかによってきめられるべきであると解するのが相当である。そして、右の意味での事業性を認定するについて、事業所の設置、人的物的要素が結合した経済的組織体の存在することは、必ずしも必要ではないし、また、その者の本来の業務、職業としてなされている場合であると、副業としてなされている場合であるとを問わない。

「しかしながら、営利を目的として継続的に行われる事業であると認められるためには、通例、事業所が設置され、人的物的要素が結合した経済的組織体を有し、また、主として本業として営まれるものであるから、他に特別の事情がない限り、事業所や経済的組織体の有無、本業であるかどうかは、事業性を認定するうえで重要な要素となることはいうまでもないし、継続的な営利事業というためには、継続的に相当程度安定した収益が得られる可能性があることが必要であることも、当然のことに属する。」

 前段では、事業所得となるには本業、副業を問わないといいながら、後段では、本業であるかどうかは重要な要素といっています。つまり、副業であることは、事業所得か否かの判断をするに当たって、不利な要素となっているということです。

平成26年9月1日裁決(裁事96集)判断要旨

 所得税法第27条第1項は、事業所得について、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得である旨規定し、その委任を受けた所得税法施行令第63条において、事業所得の事業に当たるものとして、11項目にわたり業種を例示するとともに、その他対価を得て継続的に行う事業がこれに当たる旨規定している。
 このように、所得税法第27条第1項及び所得税法施行令第63条に規定する「事業」については、その意義自体について一般的な定義規定を置いていないところ、その意味するところは、自己の危険と計算において独立して行う業務であり、営利性・有償性を有し、かつ、反復継続して業務を遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるものであると解される。
 そして、ある所得が事業所得に当たるか否かを判断するに当たっては、当該所得が社会通念上「事業」といえる程度の規模・態様においてなされる営利性、有償性、反復継続性をもった活動によって生じる所得か否かによって判断すべきであり、この場合において「事業」といえる程度の規模・態様においてなされる活動といえるかどうかは、自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無、その者の精神的肉体的労務の投入の有無、人的・物的設備の有無、その者の職業・経験及び社会的地位等を総合的に勘案して判断すべきである。

横浜地裁令和3年3月24日判決(tains:Z888-2410(棄却)(控訴)

事件の概要

1 X(納税者)は、医療法人社団の理事長であり、同社団が経営するクリニックの医師として勤務して多額の給与所得を得ていたほか、本件制作販売等による収入も得ていた。
2 Xは、本件制作販売等に関し、一日平均4、5時間を洋画等の制作に費やしているとし、年に数回個展を開催して作品を販売するほか、画集の出版、制作・保管用アトリエの賃借、美術雑誌等への自費掲載、HPの開設を行う等していたことから、本件制作販売等から生じた所得(損失)は事業所得に該当するとして、当該損失を損益通算して各年分の所得税等の確定申告をした。
3 本件制作販売等に係る収支状況は、各年分とも、収入金額が数千円ないし数十万円であるのに対し、必要経費の額は1,000万円を超えており、いずれの年分も多額の損失が生じていた。なお、当該必要経費や自己の生活費等は、医療法人社団からの給与等で賄われていた。
4 Y(課税庁)は、本件制作販売等から生じた所得(損失)は事業所得には該当しないため損益通算できないとして各年分の更正処分等を行ったところ、Xが当該各更正処分等の取消しを求めて本訴を提起した。

本件の争点

本件制作販売等から生ずる所得(損失)は、事業所得に該当するか否か。

裁判所の判断

1 事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうが(最判昭和56年4月24日)、具体的に特定の経済的活動により生じた所得がこれに該当するといえるかは、当該経済的活動の営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無のほか、自己の危険と計画による企画遂行性の有無、当該経済的行為に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的、物的設備の有無、当該経済的行為をなす資金の調達方法、その者の職業、経歴、社会的地位及び生活状況並びに当該経済的活動をすることにより相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性が存するかどうか等の諸般の事情を総合的に検討して、社会通念に照らして判断すべきである。
2 本件制作販売等は、有償性、継続性、反復性、Xの計算と危険における企画遂行性を有し、物的設備を備え、さらに、Xが相当の精神的・肉体的労力を費やして行っていた活動であるといえるものの、これらの活動に要する資金は、専らXが医師として診療行為を行うことにより得た給与所得及び資産から調達されており、しかも、各年分における客観的収支状況や販売実績に照らせば、多額の資金を投じる一方で、収益は全く上がっておらず、およそ相当程度の期間継続して安定した収益が得られる見込みがあったとはいえず、客観的にみて営利を目的として行われたものともいえないことからすれば、社会通念上、本件制作販売等が、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であるとはいえず、事業に該当しない。
3 以上より、本件制作販売等から生ずる所得は、事業所得に該当せず、雑所得に該当する。