概要

 更正、決定の除斥期間については、原則として5年である(通法70①)。ただし、贈与税については、国税通則法70条(国税の更正、決定等の期間制限)の規定にかかわらず、更正、決定に係る申告書の提出期限から6年を経過する日まで、更正、決定をすることができるとされています(相法37①)。

 つまり、申告期限から6年を経過すれば、贈与の証拠を税務署が仮に見つけても、課税することができないということになります。

 平成15年度税制改正により、相続税精算課税制度の導入と同時に、更正等の期間制限が6年に延長されました。

 なお、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の贈与税額を免れた場合は、6年ではなく7年となります(相法37④)。

 東京地裁令和7年1月16日判決(令和5年(行ウ)488号)において、相続税精算課税制度を選択した原告らは、借地権相当額の贈与に係る贈与税に対する更正決定等の除斥期間は既に経過していたから、同贈与税について課税当局による課税権限の行使は不可能であり、借地権相当額は、相続税の課税価格に加算することができない旨主張しましたが、原告らの主張を裏付ける規定や見解は見当たらないと判示されました。

 つまり、相続税精算課税制度を選択した場合には、その選択をした年分以降の特定贈与者からの贈与については、除斥期間や申告の有無に関係なく全て把握し相続税の申告をする必要があるということです。

 特に、みなし贈与財産については、納税者自身は贈与の認識がない場合があるので、注意が必要です。特定贈与者から後継者が相続時精算課税制度で同族会社株式の贈与を受けていたが、特定贈与者が亡くなる前にその同族会社に債権放棄して発生した株価上昇分が後継者へのみなし贈与とされ、相続財産への加算対象額に含まれるとされた令和4年3月16日裁決(大裁(所・諸)令3第37号)があります。

相続時精算課税適用財産は、贈与税の除斥期間の経過により贈与税の課税権が消滅している場合であっても、相続税の課税価格に加算されるべきとされた事例-東京地裁令和7年1月16日判決(令和5年(行ウ)488号)(棄却)(控訴)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xらは、丙(以下「亡丙」という。)の子である。令和元年5月31日に亡丙が死亡したことにより、Xらを相続人とする相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
② Xらは、平成21年7月25日、亡丙が所有する土地(以下「本件土地」という。)上に建物を建築するため、建築工事請負契約を締結した。Xらは、平成21年中に、亡丙との間で、本件土地についてXらのために借地権(以下「本件借地権」という。)を設定する旨の契約を締結した。
 本件土地は、借地権の取引慣行(例えば、借地権設定の対価として権利金その他の一時金を支払うこと)がある地域に所在している。しかし、Xらは、亡丙に対し、権利金等の対価を支払うことなく、地代として毎月各4万円(平成25年頃から毎月各2万円に減額された。)を支払ったにとどまり、これにより、亡丙から本件借地権相当額2,343万円余の経済的利益を受けた。
③ Xらは、平成21年11月27日、亡丙からそれぞれ現金610万円(以下「本件現金」という。)の贈与を受けた。
 Xらは、平成22年3月9日、所轄税務署長Yに対し、本件現金の贈与について相続時精算課税を選択するため、(イ)課税価格を610万円、納付すべき税額を0円と記載した平成21年分の贈与税の申告書、(ロ)相続時精算課税選択届出書をそれぞれ提出した。Xらは、これにより、平成21年分以後に亡丙から贈与により取得する財産について、相続時精算課税の適用を受けることとなった。
④ 亡丙は令和元年5月31日に死亡し、Xらは、令和2年3月26日、Yに対し、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書を共同で提出したが、課税価格に、相続時精算課税適用財産を加算していなかった。
⑤ Yは、本件相続税の調査において、平成21年分以後、亡丙からXらに対し、本件現金以外の財産(本件借地権相当額2,343万円余、満期保険金510万円余及び現金110万円)がそれぞれ贈与されたことを把握した。
 そこで、Yは、Xらに対し、上記各財産の価額を相続時精算課税適用財産として本件相続税の課税価格に加算する必要がある旨指摘し、修正申告を勧奨した。
⑥ Xらは、令和4年7月27日、Yに対し、本件相続税の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を共同で提出したが、本件相続税の課税価格に、相続時精算課税適用財産として本件借地権相当額を加算しなかった。
⑦ Yは、令和4年11月7日付けで、Xらに対し、本件借地権相当額をXらそれぞれの本件相続税の課税価格に加算した各更正処分等(以下「本件各更正処分等」という。)をした。これに対し、Xらは、令和5年12月14日、本件訴えを提起した。

(2)本件の主な争点

 贈与税の申告をしていない相続時精算課税の適用を受ける借地権について、贈与税の除斥期間を経過している場合であっても、その価額を相続税の課税価格に加算すべきか否かである。

(3)判決要旨(棄却)(控訴)

① 相続税法21条の15第1項により相続税の課税価格に加算される相続時精算課税適用財産の範囲は、相続時精算課税選択届出書の提出に係る財産の贈与を受けた年以後の年に特定贈与者からの贈与により取得した財産として相続税精算課税の適用を受けるもののうち、同法21条の2第1項等により贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されるものである。
② Xらは、平成22年3月9日に提出した相続時精算課税選択届出書に係る財産の贈与を受けた平成21年以後の年である同年中に、対価を支払うことなく本件借地権相当額の経済的利益を受けたことにより、当該経済的利益を贈与により取得したものとみなされる(相法9)。そのため、本件借地権相当額は、特定贈与者である亡丙からの贈与により取得した財産として相続時精算課税の適用を受けるものであって、Xらの贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されるものに該当する。これに対し、その該当性を否定する規定は相続税法その他関連法令において見当たらない。したがって、本件借地権相当額は、相続税の課税価格に加算されるべきものである。
③ Xらは、本件借地権相当額の贈与に係る贈与税に対する更正決定等の除斥期間は既に経過していたから、同贈与税について課税当局による課税権限の行使は不可能であり、本件借地権相当額は、相続税の課税価格に加算することができない旨主張する。しかし、相続税法21条の15は、相続税の課税価格に加算される相続時精算課税適用財産の範囲について、相続税精算課税制度の適用を受ける財産のうち「当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの」と規定するにとどまり、これを超えて、納税者の申告や税務署長の更正決定等により贈与税の課税価格に算入されたものとは規定していない。そのほか、同法の規定や本件全証拠によっても、Xらの主張を裏付ける規定や見解は見当たらない。
④ したがって、本件借地権相当額は、贈与税の除斥期間の経過により、贈与税の課税権が消滅している場合であっても、相続税の課税価格に加算されるべきものである。

令和4年3月16日裁決(大裁(所・諸)令3第37号)(棄却)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人Xは、甲(以下「亡甲」という。)の子である。
② Xは、平成22年3月15日、亡甲から平成21年10月31日にA社(同族会社)の株式1万株(以下「本件株式」という。)などの贈与を受けたとして贈与税の申告をするとともに、亡甲を贈与者、Xを受贈者とする相続時精算課税選択届出書を所轄税務署に提出した。
③ 亡甲は、平成23年6月14日、A社に対し、亡甲がA社に対して有する貸付金債権合計5,552万円余を放棄する旨の意思表示をした(以下「本件債権放棄」という。)。
 A社は、平成22年7月1日から平成23年6月30日までの事業年度において、本件債権放棄に基づき債務免除益5,552万円余を収益に計上した。
④ 亡甲が死亡し、同人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
 Xは、平成28年11月21日、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書(以下「本件相続税申告書」という。)を所轄税務署に提出した。
 Xは、相続時精算課税適用財産である本件株式について、贈与時の価額で加算して相続税申告(以下「本件相続税申告」という。)をした。
⑤ 亡甲がした債権放棄(本件債権放棄)に伴って生じたX所有の本件株式の価額の増加分は、Xが亡甲から贈与により取得したとみなされること等を理由に更正処分等をした。

(2)本件の主な争点

 本件相続税申告において、相続時精算課税適用財産である本件株式は贈与時の価額で加算するのか、それとも債権放棄によって増加した株式の価値も加算するのかである。

(3)裁決要旨(棄却)

① 本件債権放棄は、亡甲が同族会社に対して対価を受けないでした債務の免除であるから、Xは、相続税法9条の規定により、対価を支払わないで、本件債権放棄の時において、亡甲から上記本件債権放棄による本件株式の評価差額2,381万円余を経済的利益として取得したものとみなされる。
② Xは、本件株式は、Xが亡甲から相続時精算課税の対象となる贈与によって取得したものであって、その贈与時の価額も確定しているから、本件債権放棄による本件株式の評価額の増加に相続税法9条の規定を適用することは、相続税法21条の15第1項の規定に照らして、許されない旨主張する。
③ しかしながら、相続時精算課税制度は、民法上の贈与契約のみならず、これに当たらない資産移転、経済的利益の付与であっても相続税法の規定により贈与とみなされて課税されるものは、全て適用の対象となる。本件株式の贈与と本件債権放棄は別個の行為であって、当該株式贈与に対する課税と本件債権放棄に対する課税は異なる課税原因に基づくものである。
 また、本件債権放棄による本件株式の評価額の増加は相続税法9条の規定の適用がある財産の増加というべきであって、相続税更正部分は、本件株式の単なる評価額の増加を対象としたものでない。したがって、本件債権放棄に伴う本件株式の評価額の増加に相続時精算課税制度を適用して、課税することは相当である。