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上場株式を相対取引で売却したときの税金|譲渡損失の通算・繰越控除の違い

上場株式を相対取引で売却したときの税金|譲渡損失の通算・繰越控除の違い

概要

 上場株式を、証券会社に売却を委託せず、個人間などの相対取引で売却して損失が生じた場合でも、同じ年の他の上場株式等の売却益から差し引けることがあります。

 一方、その損失を上場株式等の配当・利子と損益通算したり、翌年以後に繰り越したりすることはできません。同じ年の売却損益を合算する計算と、配当等との損益通算・繰越控除の特例は、区別して考える必要があります(措法37の11①、37の12の2①②⑤⑥、措令25の9①)。

 この記事では、金融商品取引業者等への売委託や金融商品取引業者への売却など、法令で定める特例対象の譲渡に該当しない、個人間等の直接売買を「相対取引」として説明します。

相対取引でも「上場株式等」の譲渡に該当する

 上場株式を相対取引で売却したからといって、その株式が「一般株式等」に変わるわけではありません。売却時に上場株式等に該当する株式であれば、相対取引による売却損益も「上場株式等に係る譲渡所得等」の計算に含めます(措法37の11①②)。

 そのため、相対取引による上場株式の売却損失は、同じ年の他の上場株式等の売却益から差し引くことができます。一般に「株内通算」と呼ばれる、同じ課税区分内での損益の合算です(措法37の11①、措令25の9①)。

 ここでいう「上場株式等」には、上場株式のほか、公募株式投資信託や特定公社債なども含まれます。したがって、相対取引による上場株式の売却損失を、同じ年の公募株式投資信託の売却益や特定公社債の譲渡益等から差し引ける場合もあります(措法37の11②)。

 なお、上場廃止後の株式を売却した場合は、原則として一般株式等の譲渡となります。売却の方法に加えて、売却時の株式の区分も確認する必要があります(措法37の10①、37の11②)。

相対取引の売却損失は、何から差し引けるのか

 課税対象となる相対取引による上場株式の売却損失は、次のように扱われます。著しい低額譲渡などにより、損失自体が認められない場合は除きます。

差し引く相手・利用方法相対取引の売却損失の取扱い
同じ年の他の上場株式等の売却益等同じ課税区分内で差し引ける
上場株式等の配当・特定公社債等の利子損益通算できない
翌年以後への損失の繰越し繰越控除の対象にならない
給与所得・事業所得など、株式等の譲渡による所得以外の所得損益通算できない
一般株式等の売却益差し引けない

 上場株式等の配当・利子との損益通算や、翌年以後3年間の繰越控除は、一定の方法による譲渡で生じた損失を対象とする特例です。上場株式の売却で損失が生じたというだけでは、この特例の対象になりません(措法37の11①、37の12の2①②⑤⑥)。

 また、NISA口座内の売却損失は、税務上なかったものとされ、同じ年の他の上場株式等の売却益から差し引くこともできません。この記事で説明している課税対象の相対取引による損失とは、取扱いが異なります(措法37の14、37の14の2)。

配当等との損益通算・繰越控除の対象となる譲渡

 特例の対象となるのは、主に次のような方法による上場株式等の譲渡です。

主な譲渡の方法留意点
証券会社等への売委託による売却第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者又は登録金融機関への売委託が対象
証券会社等の金融商品取引業者自身に対する売却第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者に対する譲渡が対象
登録金融機関又は投資信託委託会社に対する一定の売却法令で定める譲渡に該当することが必要
公募投資信託等の解約・償還、特定公社債の償還などみなし譲渡等として法令で対象とされるもの
発行会社への単元未満株式の買取請求による売却など会社法に基づく買取請求等、法令で定めるもの

 このほか、課税対象となる一定の株式交換・株式移転や、株式併合等に伴う1株未満の端数の処分なども対象となります(措法37の12の2②、措令25の11の2)。

 したがって、「取引所の市場外で売ったから、すべて対象外」と判断することはできません。証券会社自身に売却する取引は、市場外の取引でも特例の対象となり得ます(措法37の12の2②二)。

 また、「売委託」には、売買の媒介・取次ぎ・代理等を委託する場合が含まれます。金融機関が株式の口座振替や代金決済だけに関与している場合には、売買の媒介等を委託しているかを、契約書や取引報告書などで確認する必要があります(措通37の12の2-1)。

 なお、対象となる方法で売却した場合でも、その損失の全額が直ちに配当等との損益通算や繰越控除の対象になるわけではありません。同じ年の上場株式等の売却損益を合算し、法令に従って特例の対象となる損失額を計算します(措法37の12の2②⑥、措令25の11の2①~③)。

設例1:相対取引の損失400万円と、証券会社経由の利益100万円

 甲が、同じ年に次の取引を行ったものとします。いずれも売却時まで上場している課税対象の株式で、所得区分は譲渡所得とし、売却手数料等は考慮しません。また、証券会社経由の取引も確定申告に含めるものとします。

銘柄売却方法取得費売却価額売却損益
上場株式A個人乙に相対取引で売却600万円200万円△400万円
上場株式B証券会社への売委託により売却400万円500万円100万円

 上場株式Aの売却時の時価は200万円とし、著しい低額譲渡には該当しないものとします。

同じ年の上場株式等の売却損益は合算できる

 上場株式A・Bは、いずれも上場株式等に該当します。そのため、上場株式Aの損失400万円を、上場株式Bの利益100万円から差し引きます(措法37の11①、措令25の9①)。

 計算結果は、△400万円+100万円=△300万円です。

残った300万円は、配当等との損益通算・繰越控除に使えない

 この設例では、特例の対象となる譲渡方法によって生じた損失はありません。損失が生じているのは、相対取引による上場株式Aだけだからです。

 したがって、残った損失300万円を、上場株式の配当金などと損益通算したり、翌年以後に繰り越したりすることはできません。この300万円は、所得税法等の適用上、生じなかったものとみなされます(措法37の11①後段、37の12の2②⑥)。

 同じ年の利益100万円から損失を差し引くところまでは認められますが、差し引いた後に残る300万円については、特例を利用できないということです。

設例2:証券会社経由の損失もある場合

 次に、同じ年に、相対取引による上場株式の損失400万円に加え、証券会社への売委託による上場株式の損失100万円が生じた場合を考えます。その他の条件は設例1と同じとします。

取引売却損益特例の対象となる譲渡方法か
相対取引による売却△400万円対象外
証券会社への売委託による売却△100万円対象
合計△500万円特例の対象額は別に計算

 この場合、同じ年の上場株式等の売却損失の合計は500万円ですが、配当等との損益通算の対象となる損失額は、証券会社への売委託による損失100万円です(措法37の12の2②、措令25の11の2①~③)。

 例えば、申告分離課税の対象となる上場株式等の配当所得等が30万円ある場合には、100万円のうち30万円をその配当所得等から控除し、残る70万円を、所定の申告要件を満たすことにより翌年以後3年間の繰越控除の対象とすることができます(措法37の12の2①⑤⑥⑦)。

 相対取引による損失400万円は、この配当等との損益通算・繰越控除の対象には含まれません。

相対取引の利益から、過年度の繰越損失を控除できるか

 相対取引で売却損失が生じた場合と、相対取引で売却益が生じた場合とでは、繰越控除の取扱いが異なります。

 過年度に証券会社への売委託などによって生じ、適法に繰り越されている上場株式等の譲渡損失は、当年の相対取引による上場株式の売却益から控除することができます。控除を受ける年の売却益についてまで、証券会社への売委託等によることが求められているわけではありません(措法37の11①、37の12の2⑤)。

 例えば、過年度から繰り越した対象損失が200万円あり、当年の相対取引による上場株式の売却益が100万円である場合、所定の申告要件を満たせば、その利益100万円から繰越損失100万円を控除できます。

 なお、控除しきれずに残った損失の繰越期間は、当初その損失が生じた年の翌年以後3年間です。相対取引の利益から控除したことによって、新たに3年間の繰越期間が始まるわけではありません(措法37の12の2⑤)。

相対取引を行う場合の実務上の注意点

個人への著しい低額譲渡では、損失自体が認められないことがある

 譲渡所得の基因となる株式を、個人に対し、売却時の時価の2分の1未満の対価で譲渡し、その対価が取得費と譲渡費用の合計額に満たない場合には、その不足額は、所得の計算上なかったものとみなされます。この場合は、同じ年の他の上場株式等の売却益からも、その損失を差し引けません(所法59②、所令169)。

 この「2分の1」は、購入時の取得価額ではなく、売却時の時価と比較して判定します。設例1では、取得費600万円に対して売却価額が200万円ですが、売却時の時価も200万円であるため、著しい低額譲渡には該当しません。

 また、譲渡所得の基因となる株式を法人に対して時価の2分の1未満で譲渡した場合には、原則として時価で譲渡したものとして所得を計算します(所法59①二、所令169)。

特定口座の利益と合算するには、確定申告での対応が必要

 相対取引による売却損益は、証券会社の特定口座内の売却損益に自動で合算されるものではありません。

 源泉徴収ありの特定口座で生じた売却益と、相対取引による上場株式の売却損失とを合算する場合には、その特定口座の売却益を確定申告に含める必要があります。相対取引の売買契約書、取得費の資料、特定口座年間取引報告書などに基づき、上場株式等に係る譲渡所得等の金額を計算します(措法37の11の5①、措通37の11の5-3)。

 また、相対取引で売却益が生じた場合には、特定口座の源泉徴収だけで課税関係を終えることはできません。所得税の確定申告の要否は、他の所得や申告不要の要件も含めて判定します(所法120・121、措法37の11の5①)。

海外の証券会社への売委託にも注意する

 日本で金融商品取引業者としての登録を受けていない外国証券会社に、個人が直接売却を委託して生じた外国上場株式の損失は、通常、配当等との損益通算・繰越控除の対象となる譲渡方法に該当しません。

 ただし、国内にある信託会社等の営業所に信託されている上場株式等を、その営業所を通じて外国証券業者に売却する場合など、法令上の対象となる譲渡もあります。外国証券会社が関与したという理由だけで、一律に対象外と判断することはできません(措法37の12の2②一・九・十)。

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主な根拠・参考資料

  • 租税特別措置法37の11、37の11の5、37の12の2
  • 租税特別措置法施行令25の9、25の11の2
  • 所得税法59、所得税法施行令169
  • 国税庁「No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い」
  • 国税庁「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」
  • 国税庁「措置法第37条の12の2関係」
  • 国税庁「令和7年分 株式等の譲渡所得等の申告のしかた」36~37頁

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