概算取得費

 土地を譲渡した場合における分離譲渡所得の金額は、土地を譲渡した金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。しかし、譲渡した土地が先祖伝来のものであるとか、購入した時期が古いなどのため取得費の額がわからない場合があります。このような場合には、取得費の額を譲渡収入金額の5%相当額(概算取得費)とすることができます(措法31の4①、措通31の4-1)。

 概算取得費が実額取得費に満たないことが証明された場合には、分離譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の額は、実額取得費とします(措法31の4ただし書き)。

 なお、譲渡所得の取得費の計算を実際の取得費によるべきか、概算取得費よるべきかは、納税者が個々の譲渡資産ごとにそのいずれか有利な方を選択して差し支えないことになっています。

 よって、譲渡資産ごとに、実際の取得費によるべきか、概算取得費よるべきか選択できますので、「建物Aとその敷地B」を甲に譲渡して、「建物Cとその敷地D」を乙に譲渡したような場合、A、B、C、Dごとに、それぞれ、実際の取得費によるか、概算取得費によるかを選択できるということです。

 なお、一筆の土地の共有持分を別個の時期に相続と売買により取得し当該土地の単独所有者となった方が当該土地を譲渡した場合における譲渡所得の取得費の計算においては、共有持分に応じて概算取得費と実額による取得費を適用することは可能となっています。

名古屋国税局文書回答事例
https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/bunshokaito/joto-sanrin/121211/index.htm

概算取得費、実額取得費、推定取得費による更正の請求

 更正の請求の理由については、「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」(通法23①)と規定されており、税法の適用において選択を誤ったことはその理由に当たらないものと解されています。

 平成29年12月13日裁決(裁事109集)では、納税者が譲渡した土地の取得費を概算取得費で確定申告をした後、地価公示価格を基に推計した金額を当該土地の取得費とすべきであるなどとして更正の請求をしたことに対し、取得費の金額は推計したものにすぎないから採用することはできないと判断しました。

 なお、当初申告では概算取得費により計算したが、実額取得費の方が高いことが証明された場合には、選択の誤りではなく、取得費の計算の誤りということとなりますので、実額取得費による更正の請求は可能であると考えられています(措法31の4ただし書き)。 

 また、当初申告では実額取得費により計算したが、その後、概算取得費より実額取得費の方が低いことが判明した場合には、概算取得費による更正の請求はできるかについては以下の2つの説があります。

(1)当初申告自体は正しく行われているため、概算取得費による更正の請求は認められない(有力説)。
  実際、更正の請求が取下げとなったケースを聞いたことがあります。

(2)概算取得費と実額取得費とは選択の関係にあるものではないと考えられ、実額取得費の方が低いことが判明したときには、概算取得費による更正の請求は可能である。

概算取得費を実際の取得費の金額にすることを求める更正の請求の可否-大阪国税局 資産課税課「資産税関係質疑応答事例集」(平成23年6月24日)

(質疑事項)
 土地を譲渡したことによる譲渡所得の申告に当たり、その取得費が不明であったことから、譲渡価額の5%を取得費として譲渡所得を計算して確定申告したが、法定申告期限後になって実際の取得費を明らかにする資料が見つかり、その実際の取得費で計算した方が有利となることが判明した。
 この場合、譲渡所得の金額の計算上控除する取得費を実際の取得費の金額とする更正の請求が認められるのか。

(回答)
 更正の請求は認められる。

(理由)
1 昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の取得費は、所得税法38条及び61条の規定にかかわらず、その譲渡に係る収入金額の5%相当額(以下「概算取得費」という。)とするとされている。ただし、その金額が実際の取得費に満たない場合で、かつ、その実際の取得費が証明された場合には、実際の取得費とするとされている(措法31の4①)。
 このように、譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、概算取得費と証明された実際の取得費のいずれか多い金額とするものであって、どちらかを選択するというものではなく、また、概算取得費の控除は確定申告を要件とするものでもない。
 なお、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、租税特別措置法31条の4第1項の規定に準じて計算して差し支えないものとするとされている(措通31の4-1)。

2 そうすると、実際の取得費が概算取得費を上回る場合において、譲渡所得の金額の計算上控除する取得費を概算取得費としていた場合は、国税通則法23条1項1号に規定する課税標準等又は税額等の金額の計算に誤りがあるということになる。
 したがって、本件のように、申告後に他の一方の金額で計算した方が有利となることが判明した場合には、通則法23条1項1号の規定による更正の請求をすることができる。

概算取得費により申告した後に実際の取得費が判明した場合の更正の請求の可否-東京国税局課税第一部 資産課税課 資産評価官(令和3年8月作成)

 甲は、令和2年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告において、土地に係る譲渡所得の計算に際し、昭和60年に土地を購入した際の書類等の所在が分からなかったため、当該土地の取得費について、租税特別措置法第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》第1項及び租税特別措置法通達第31の4-1《昭和28年以後に取得した資産についての適用》の規定等に基づき、譲渡収入金額の100分の5に相当する金額(以下「本件概算取得費」という。)により計算した。
 その後、当該土地を購入した時の書類が見付かり、それによって把握した実際の購入金額(以下「本件購入金額」という。)が本件概算取得費よりも高額であったことから、甲は本件購入金額に基づき取得費を計算する旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)を行った。
 この場合、本件更正の請求は認められるか。

答 本件更正の請求は認められる。

(理由)
 国税通則法第23条《更正の請求》第1項第1号は、更正をすべき旨の請求をすることができる場合として、納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときを定めている。
 この点、本事例では、租税特別措置法第31条の4第1項等の規定等に基づき取得費を計算していることから、本件更正の請求の請求事項は、「計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」に該当しないのではないかとの疑義が生ずる。
 しかしながら、租税特別措置法第31条の4第1項は、その本文で「取得費は、(中略)当該収入金額の百分の五に相当する金額とする」と規定しているものの、そのただし書において、「当該金額(=概算取得費)がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする」とし、その第1号において、「その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額」と規定している。
 すなわち、概算取得費は、その額が土地等の取得に要した金額に満たないことが証明されていない場合に適用するものであるから、このことが証明された本事例においては、本件概算取得費ではなく、土地等の取得に要した金額である本件購入金額により取得費を計算することとなる。
 したがって、本件更正の請求については、国税通則法第23条第1項の規定に基づくものとして、その請求を認容するのが相当である。

土地と建物を一括して譲渡し、そのいずれの取得価額も不明である場合の土地・建物の取得費を算定する方法

 平成12年11月16日裁決(裁事60集208頁)では、以下のように判断しています。

 土地と建物を一括して譲渡し、そのいずれの取得価額も不明である場合の土地・建物の取得費を算定する方法には、〔1〕租税特別措置法(以下「措置法」という。)第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》を適用する方法、〔2〕土地の取得価額は土地の取得時の売買実例から算定し、建物の取得価額は譲渡価額の総額から土地の譲渡時の売買実例価格を差し引いて算出された建物の譲渡価額から減価償却費を控除する方法、〔3〕土地と建物の固定資産税評価額を基に算定する方法及び〔4〕建物の取得価額を着工建築物構造別単価(以下「建築物単価」という。)から算定し、土地については市街地価格指数を基に算定する方法などが考えられる。
 しかし、〔1〕の方法によれば、本件物件の取得費が一定率で計算され実額等がまったく反映されないこと、〔2〕の方法によれば、土地の譲渡及び取得に係る売買実例がなく世情を反映した確実な指標とする合理的理由が見当たらないこと、〔3〕の方法によれば、画一的で個別事情が反映されず、実勢価額が形成されないことが考えられるなど、これらの方法を用いて算定することには合理的理由が見当たらない。
 そこで、〔4〕の方法によれば、取得費の算定の基になる建築物単価がN調査会(以下「調査会」という。)が公表した統計的な数値であることから、市場価格を反映したより近似値の取得費が計算できることになり、合理的であると言える。

 なお、市街地価格指数(住宅地)の割合を乗じて土地の取得費を算定する方法が万能というわけでなく、平成26年3月4日裁決(東裁(所)平25第91号)では、以下のように、市街地価格指数を基に算出した金額は取得費とすることはできないと判断しました。

 本件は、請求人らが、相続により取得した各土地を譲渡したことによる長期譲渡所得の金額の計算上、譲渡収入金額の100分の5に相当する金額(概算取得費)を当該各土地の取得費として、平成23年分所得税の確定申告をした後、一般財団法人日本不動産研究所が公表する市街地価格指数を基に算出した金額を当該各土地の取得費とすべきであったとして、更正の請求をしたのに対し、原処分庁が、請求人らは当該各土地の取得に要した実際の金額を証明していないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行った事案である。
 市街地価格指数は、都市内の宅地価格の平均的な変動状況を全国的・マクロ的に見ることや、地価の長期的変動の傾向を見ることに適しているものであって、そもそも個別の宅地価格の変動状況を直接的に示すものではない。このことからすると、本件各対象土地の譲渡価額に市街地価格指数を用いた割合を乗じることにより算定された金額である請求人ら主張額は、被相続人が本件各対象土地を取得した時の市場価格を常に適切に反映するものとまではいえない。
 請求人らが採用した六大都市市街地価格指数は、東京区部をはじめとする全国の主要大都市の宅地価格の推移を示す指標であるところ、①本件各対象土地の所在地はいずれも○○であって、上記六大都市には含まれていないこと、②被相続人が本件各対象土地を取得した当時の各対象土地の地目は、いずれも畑であって、宅地ではないこと(さらにいえば、畑と宅地では価格の変動状況が異なるのが通常であること)からすると、所在地や地目の異なる六大都市市街地価格指数を用いた割合が、本件各対象土地の地価の推移を適切に反映した割合であるということはできない。したがって、請求人ら主張額は、被相続人が本件各対象土地を取得した時の時価であるとは認められない。

措通35の2-9(土地等と建物等を一括取得した場合の土地等の取得価額の区分)

 土地等を建物等と一の契約により取得した場合における当該土地等の取得価額については、次によるものとする。
(1) 当該土地等及び建物等の価額が当事者間の契約において区分されており、かつ、その区分された価額が当該土地等及び建物等の当該取得の時の価額としておおむね適正なものであるときは、当該契約により明らかにされている当該土地等の価額による。
(2) 当該土地等及び建物等の価額が当事者間の契約において区分されていない場合であっても、例えば、当該土地等及び建物等が建設業者から取得したものであってその建設業者の帳簿書類に当該土地等及び建物等のそれぞれの価額が区分して記載されている等当該土地等及び建物等のそれぞれの価額がその取得先等において確認され、かつ、その区分された価額が当該土地等及び建物等の当該取得の時の価額としておおむね適正なものであるときは、当該確認された当該土地等の価額によることができる。
(3) (1)及び(2)により難いときは、当該一括して取得した土地等及び建物等の当該取得の時における価額の比によりあん分して計算した当該土地等の金額を、当該土地等の取得価額とする。

平成29年12月13日裁決(裁事109集)

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人Xが、相続により取得した土地の譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上、当該譲渡に係る収入金額の100分の5に相当する金額を当該土地の取得費として、平成25年分の所得税等の確定申告をした後、地価公示価格を基に推計した金額を当該土地の取得費とすべきであるなどとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、上記の推計した金額は当該土地の実額の取得費ではないなどとして更正処分をしたのに対し、Xが、当該処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2)争点

 本件譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の金額はいくらとなるか。

(3)判断要旨

 Xは、本件土地の譲渡に係る分離長期譲渡所得の計算上控除される本件土地の取得費は、地価公示価格から推計した金額によるべきである旨主張し、原処分庁は、本件土地の取得に要した金額の実額は不明であるから、本件土地の譲渡に係る収入金額の100分の5に相当する金額(概算取得費)を本件土地の取得費とすべきであると主張する。
 しかしながら、当審判所の調査により把握された、本件土地を被相続人が取得した際の売主が作成した土地台帳(本件土地台帳)の記載内容の信用性は高く、記載内容どおりの事実を認定することができるから、本件土地台帳に記載された金額を本件土地の取得費と認めるのが相当である。なお、Xの主張する本件土地の取得費の金額は推計したものに過ぎないことから採用することはできない 。

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