概要
住宅(家屋)の床面積が50平方メートル以上(一定の場合は40平方メートル以上50平方メートル未満でも可)であり、かつ、床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していることが、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用要件となっています(措法41①、措令26①)。
よって、床面積について正しく理解しておく必要があります。
なお、直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税非課税制度の場合は、床面積240平方メートル以下という上限がありますが、住宅ローン控除の場合は、現在、床面積の上限はありません(平成11年度の税制改正により撤廃)。
床面積の判定
登記簿表示
住宅の床面積は、登記簿(登記事項証明書)に表示されている床面積(水平投影面積)により判断します(措通41-10、41-11、東京地裁平成10年2月26日判決・税資230号819頁、東京高裁平成10年10月22日判決・税資238号801頁、東京地裁令和4年7月22日判決)。
不動産登記規則115条(建物の床面積)によれば、建物の床面積は、各階ごとに壁その他の区画の中心線(区分建物にあっては、壁その他の区画の内側線)で囲まれた部分の水平投影面積により、平方メートルを単位として定め、一平方メートルの百分の一未満の端数は、切り捨てるものとされています。
1戸建ての家屋が「中心線」で囲まれた部分の面積であり、マンションなどの区分所有されている場合は「内側線」で囲まれた部分の面積という違いがありますが、登記簿に表示されている床面積で判断します。
東京地裁平成10年2月26日判決(税資230号819頁)は、区分所有されている場合について、「内側線」で囲まれた部分の面積とする理由について、以下のように判示しています。
「境界壁その他の境界部分の中心線までが専有部分に含まれると解する考え方があるが、このように解すると、建物区分所有法6条1項の制約があるとはいえ、境界壁の中心線まで各区分所有者による変更行為を認めることになり、建物全体の維持管理上支障が生ずることを避け難く、他方、境界壁その他の境界部分をすべて共用部分と解すると、区分所有者がその区分所有建物の内装工事を自由に行うことをも否定しなければならず、区分所有建物の利用の実情に合致しないことになる。
このような点にかんがみると、区分所有建物相互間の境界壁その他の境界部分の所有関係については、境界壁その他の境界部分のうち、その上塗り部分ないし表面の被覆部分は専有部分に含まれるが、その余の部分は共用部分になると解するのが、区分所有建物の維持管理上支障がなく、かつ、区分所有建物の利用の実情にもかなうものとして最も合理的なものと考えられる。」
マンションの場合
マンションの場合は、共同で使用している部分(共有部分)については床面積に含めず、登記簿上の専有部分の床面積で判断します(措通41-11(注))。
専有部分の床面積には、数個の専有部分に通ずる廊下、階段室、エレベーター室、共用の便所及び洗面所、屋上等の部分の面積は含まれません。
店舗や事務所などと併用
店舗や事務所などと併用になっている住宅の場合は、店舗や事務所などの部分も含めた建物全体の床面積によって判断します(措通41-12(注)(1)、昭和49年3月11日裁決・裁事9集35頁、平成6年12月21日裁決・裁事48集147頁)。
共有物件
夫婦や親子などで共有する住宅の場合は、床面積に共有持分を乗じて判断するのではなく、ほかの人の共有持分を含めた建物全体の床面積によって判断します(措通41-12(注)(2)、昭和48年12月26日裁決・裁事)。
持分割合による共有建物は区分所有には当たらないから床面積は全体で判断します。一方、マンションのように建物の一部を区分所有している住宅の場合は、その区分所有する部分(専有部分)の床面積によって判断します。
平成6年12月21日裁決(裁事48集147頁)判断要旨
審査請求人は、本件家屋について、その居住の用に供する部分の床面積をもつて、措置法施行令26条1項1号に規定する「一棟の家屋で床面積が240平方メートル以下(編注、当時)」の判定をすべきであると主張するが、事務所等兼用住宅について、住宅取得等特別控除の対象となる家屋に該当するためには、その家屋の床面積の2分の1以上の部分が専ら居住の用に供されている必要があることのほか、事務所等の部分を含めたところの一棟の家屋全体の床面積が240平方メートル以下で、かつ、50平方メートル以上であることが必要であると解するのが相当である。
住宅ローン控除の適用対象となる居住用家屋の床面積要件を登記簿上の床面積により判定することを定めた通達の取扱いは、措置法等の趣旨に照らして合理性が認められるとされた事例-東京地裁令和4年7月22日判決(棄却)(控訴)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① X(納税者)は、金融機関から融資を受けて、2階建ての居住用家屋(本件住宅)を新築し、令和元年、本件住宅において居住を開始した。
なお、本件住宅に係る床面積について、建築基準法に基づき交付された検査済証には、延べ床面積が52.9平方メートルと記載され、不動産登記法に基づく表題登記には、床面積が48.8平方メートルとされていたが、両者の差異は、1階テラス部分が床面積(延べ床面積)の算定に含まれるか否かの違いにより生じたものであった。
② Xは、本件住宅には措置法41条1項に規定する住宅借入金等特別控除(本件特別控除)が適用されるとして所得税等の確定申告を行ったところ、Y(課税庁)は、本件住宅が措置法施行令26条1項1号に規定する「1棟の家屋で床面積が50平方メートル以上であるもの」との要件(床面積要件)を満たしておらず、本件特別控除は適用できないとして、更正処分(本件各更正処分)を行った。
③ Xは、床面積要件の判定は検査済証の延べ床面積によるべきであり、登記簿上表示される床面積によることを定めた通達(措置法通達41-10)を改正しなかったことなどが国家賠償法(国賠法)上違法であるとして、本訴を提起した。
なお、Xは本件各更正処分の取消しを求める訴訟は提起していない。
(2)本件の主な争点
① 措置法通達41-10の文言を改正しないことが国賠法上違法であるか
② 本件各更正処分が国賠法上違法であるか
(3)判決要旨(棄却)(控訴)
① 本件特別控除の制度趣旨、沿革等からすれば、本件特別控除が適用されるか否かは、政府の第三期住宅建設五箇年計画に定められた最低居住水準の考え方に整合するように判断される必要があるところ、同計画が、最低居住水準として、住居が生活に必要な機能を有することを求めていることからすると、本件特別控除が適用されるべき居住用家屋の面積の算定においては、生活に必要な部分の広さを算定できる指標によるべきものといえる。
② 不動産登記法における建物とは、屋根及び周壁その他これに類するものによって外気が分断され、かつ、建物としての用途に供されているもの(居宅の場合は生活空間がそこに形成されているもの)を指すと解されていることからすれば、居宅については、同法における建物の床面積は、生活空間としての建物の広さを表すものということができ、生活に必要な部分の広さを表す点で、本件特別控除の適用の可否に当たって指標とすべき床面積の考え方と整合するといえる。
他方、建築基準法における建築物の床面積には、一定の基準以下のバルコニーなども含まれると解されているところ、これらは必ずしも生活に必要な空間であるとはいえず、同法における建築物の床面積の定めは、最低居住水準の考え方と整合しないから、本件特別控除の適用要件である床面積を算定する指標として利用するのは相当ではない。
③ したがって、本件特別控除における床面積を不動産登記法に従って算定される床面積により判断することは、措置法等の趣旨に照らして合理性が認められるものであるから、これを前提とする措置法通達41-10を改正しないことが、国賠法上違法であるとはいえず、同通達に従って行った本件各更正処分は、Yにおいて職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく、漫然と行ったものとは認められず、国賠法上違法であるとはいえない。
令和5年2月20日裁決(広裁(所)令4第11号)(棄却)
(1)事案の概要
本件は、審査請求人が取得した区分所有に係る家屋(以下「本件家屋」という。)について、住宅借入金等特別控除の適用を受けることができるとして所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該家屋の床面積は登記簿上表示される壁その他の区画の「内側線」で囲まれた部分の水平投影面積により、50平方メートル以上であるものに該当しないから、住宅借入金等特別控除の適用を受けることができないとして更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該家屋の床面積は壁その他の区画の「中心線」で囲まれた部分の水平投影面積によるべきであり、それによれば50平方メートル以上であるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)本件の主な争点
本件家屋は、措置法施行令第26条第1項第2号に規定する「その者の区分所有する部分の床面積が50平方メートル以上であるもの」に該当するか否かである。
(3)判断要旨(棄却)
① 住宅借入金等特別控除の適用を受けることができるのは、本件家屋が、措置法第41条第1項に規定する既存住宅に該当すること、具体的には、措置法施行令第26条第1項第2号に規定する「その者の区分所有する部分の床面積が50平方メートル以上であるもの」に該当することが必要であるところ、措置法や措置法施行令には、「区分所有する部分」を定義する規定はなく、「床面積」に関する規定もない。そこで、措置法施行令第26条第1項第2号に規定する「区分所有する部分の床面積」について検討する。
② 一般に、租税法規が一般私法において使用されているのと同一の用語を使用している場合には、特に租税法規が明文をもって他の法規と異なる意義をもって使用することを明らかにしている場合又は租税法規の体系上他の法規と異なる意義をもって使用されていると解すべき実質的理由がない限り、私法上使用されているのと同一の意義を有する概念として使用されているものと解するのが相当であるから、「区分所有」とは、区分所有法が規定する区分所有と同様に解すべきである。
③ 区分所有法第2条第1項は、区分所有権とは、区分所有法第1条に規定する建物の部分、つまり1棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの(区分所有法第4条第2項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう旨規定し、区分所有法第2条第3項は、専有部分とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう旨規定していることからすると、区分所有権は専有部分を客体とする所有権といえ、「区分所有する部分」とは、区分所有法第2条第3項に規定する専有部分をいうものと解すべきである。
④ 区分所有権は、専有部分を客体とする所有権であり、「区分所有する部分」とは、区分所有法第2条第3項に規定する専有部分であることを踏まえれば、その「床面積」は、専有部分である壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積によることが相当であり、当該面積は、登記簿上表示された面積となる。
⑤ 以上のとおり、措置法施行令第26条第1項第2号に規定する「その者の区分所有する部分の床面積」は、区分所有法第2条第3項に規定する専有部分の床面積をいい、当該床面積は、登記簿上表示される壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積によるものとなる。なお、「その者の区分所有する部分の床面積」に係る解釈を示した措置法通達41-11《区分所有する部分の床面積》は、上記の趣旨に沿うものであるから、当審判所においても相当であると認められる。
⑥ 本件家屋の床面積は、登記簿上表示される専有部分の床面積である47.43平方メートルである。したがって、本件家屋は、措置法施行令第26条第1項第2号に規定する「その者の区分所有する部分の床面積が50平方メートル以上であるもの」に該当しない。