事業的規模であるのか否かの判定

 不動産所得が事業的規模であるのか否かにより所得税法上の取扱いに差異があります。

 事業的規模で行われているか否かの判定は、その実質に基づき判定されるのですが、次の事実のいずれかに該当する場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとされます(所基通26-9)。

(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

 不動産が2人以上の者の共有である場合であっても、按分せずに、当該不動産の全体の貸付けの規模で判定します。

 なお、所得税基本通達には明らかにされていないのですが、駐車場の場合、車両5台分の収容単位で貸室1室と換算して、事業的規模を判定しているようです(事例集 所得税・消費税誤りやすい事例集/令和5年12月 東京国税局)。

 つまり、50台保管していれば、一応の目安として、事業的規模と認めて差し支えないとしているようです。

 いわゆる「5棟10室基準」といわれている基準ですが、あくまでも目安であり、それが絶対というものではありませんが、それに固執する調査官がいるのは事実です。

 なお、平成16年9月27日裁決(裁事68集59頁)では、①営利性・有償性の有無、②継続性・反復性の有無、③自己の危険と計算における事業遂行性の有無、④取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、⑤人的・物的設備の有無、⑥取引の目的、⑦事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況などから総合判断するとしています(後述)。

所得税基本通達26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)

 建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

アパートが2人以上の共有である場合の貸付けの規模の誤りやすい事例

(誤りやすい事例)
 アパートが2人以上の共有である場合、貸付けの規模を共有持分であん分した後で判定している。

(解説)
 貸付け用不動産が2人以上の者の共有である場合であっても、当該不動産貸付けが事業的規模か業務的規模かは、当該不動産の全体の貸付けの規模で判定する。

東京国税局 所得税消費税誤りやすい事例集(令和5年12月)より

貸地がある場合の事業的規模かどうかの判定の誤りやすい事例

(誤りやすい事例)
 貸室8室と貸地10件がある場合、事業的規模かどうかの判定を貸室のみでしている。

(解説)
 1室の貸付けに相当する土地の貸付件数を「おおむね5」としてその貸付けが事業的規模か業務的規模かを判定する。

東京国税局 所得税消費税誤りやすい事例集(令和5年12月)より

事業的規模であるのか否かによる所得税法上の取扱いの差異

事業的規模である 事業的規模でない
資産損失(取壊し、除却、滅失等)損失の金額(原価ベース)を損失の生じた年分の必要経費に算入します(所法51①、所令142、143、所基通51-2)。損失の金額(原価ベース)を損失の生じた年分の不動産所得の金額(資産損失を控除する前の所得金額)を限度として必要経費に算入します(所法51④、所令142、143、所基通51-2)。 (注1)
あくまでも資産損失であるため、例えば、取壊し費用は、資産損失とならないため、原則として全額必要経費となります(所法37)。
貸倒損失賃貸料等の貸倒れによる損失は、貸倒れが生じた年分の必要経費に算入します(所法51②)。賃貸料等の回収不能による損失は、その収入が生じた年分にさかのぼって収入金額がなかったものとみなします(所法51②、所法64①)。(注2)
なお、この場合は、貸倒損失が発生した日の翌日から2か月以内に更正の請求をすることができます(所法152)。
青色申告特別控除一定の要件を満たす場合には、最高65万円の控除が受けられます(措法25の2③④⑥)。(注3)最高10万円の控除となります(措法25の2①)。
青色事業専従者給与青色事業専従者へ支払った給与のうち労務の対価として相当なものは、その年分の必要経費に算入します(所法57①)。適用なし
事業専従者控除専従者1人につき最高50万円(配偶者である専従者については最高86万円)を必要経費に算入します(所法57③)。適用なし

(注1)災害等による損害は、選択により雑損控除の対象とすることができます。
(注2)収入がなかったものとみなされる金額は、次のうち最も低い金額となります(所令180②、所基通64-2の2)。
 ①回収不能金額、②総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額、③不動産所得の金額から、回収不能額に相当する総収入金額がなかったものとした場合に計算される不動産所得の金額を控除した残額
 上記③の金額は「控除した残額」と規定されているので、「不動産所得の金額」及び「回収不能額に相当する総収入金額がなかったものとした場合に計算される不動産所得の金額」はそれぞれ黒字の場合を前提としており、これらの金額が赤字の場合はそれぞれ0円として計算します。したがって、当初申告において「不動産所得の金額」が赤字の場合には、なかったものとみなされる金額は生じないことから、更正の請求をすることはできません。
(注3)e-taxによる申告(電子申告)又は電子帳簿保存を行うと、最高65万円の青色申告特別控除を適用することができるのであって、電子申告等でなければ、最高55万円となります。

不動産所得の他に事業所得がある場合

 事業的規模でなくても、他に事業所得を有する場合(黒字、赤字を問わない)には、他の要件を満たすことで65万円(55万円)の青色申告特別控除を適用できます。この場合、青色申告特別控除は、まず不動産所得から差し引きます(措法25の2③④⑤)。 

損益通算

 不動産貸付が事業的規模か否かは問われず、不動産所得の赤字の金額は他の所得と損益通算できます(所法69①、所令198)。

 ただし、不動産所得の金額の計算上生じた損失のうち、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額については、損失が生じなかったものとされ、当該部分については損益通算の対象にはなりません(措法41の4、措令26の6)。

事業的規模であるのか否かによる相続税法上の取扱いの差異

 「特定事業用宅地等(400㎡まで80%減額)」における事業からは、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業が除かれており、建物の貸付けが事業的規模で行われていたとしても、「特定事業用宅地等」には該当せず、「貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)」に該当します(措法69の4③一、四、措令40の2)。

 なお、平成30年4月1日以後の相続開始の場合、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は、「貸付事業用宅地等」の対象から除かれています(経過措置あり)が、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地であっても、被相続人の貸付事業が3年を超えて事業的規模で行われていた場合は、「特定貸付事業(貸付事業のうち準事業以外のもの)」の用に供されていた宅地等として「貸付事業用宅地等」の特例対象となります(措法69の4③四、措令40の2⑲、措通69の4-24の4)。

判決・裁決要旨

昭和52年1月27日裁決(裁事13集1頁)要旨

 貸付不動産は遠隔地に散在し、賃貸料についても固定資産税、管理費、減価償却費等所要の経費を賄ってなお相当の利益が生ずるようになっており、賃貸料の集金、名義書換え及び契約更新の交渉等についても長年の経験と知識をもって専従者(母)が行っており、かつ、毎月収支明細表を作成し、資金の収支を整然めいりょうに記載する等財産的管理が十分に行われている状況からみて、不動産の貸付けが事業として行われているとみるのが相当である。
 したがって、請求人の不動産所得の金額の計算上、青色事業専従者給与の金額の必要経費算入を否認した原処分は取り消すべきである。

昭和54年9月26日裁決(裁事18集51頁)要旨

 請求人は、某会社に勤務しながらアパートを所有し、その賃貸に係る不動産所得について青色申告書の提出をしているが、1)本件アパートは、請求人の住居と同一の敷地内にあり、その規模は独立した部屋数が4で、入居契約者も3名程度の小規模な貸付であること、2)その貸付から生ずる賃貸料は、固定資産税、管理費、減価償却費等所要の経費にも満たない金額であること、3)請求人は某会社に勤務して安定収入を得、生活費の資の大部分は給与収入によってまかなっており、本件アパートの貸付は、社会通念上事業と称するに至る程度の規模とは認められず、従って、本件アパートの貸付による不動産所得の計算上、請求人が青色事業専従者として請求人の妻に支払ったとする給与の額は、所得税法57条の規定による青色事業専従者給与の額に該当せず、必要経費に算入することはできない。

平成7年5月30日裁決(裁事49集76頁)要旨

 請求人は、青色申告者で不動産貸付業及び理容業を営み、その妻が[1]不動産管理台帳の記載、[2]賃貸料の受領及び領収書の発行、[3]賃貸料未納者に対する督促及び集金、[4]現金領収した賃貸料の預金への預入れ、[5]賃借人との使用契約書の作成、[6]無断駐車の有無の見回り、[7]駐車場の草取り、[8]理容業用タオルの洗濯及び床清掃などの業務に従事しているから、その妻は青色事業専従者に該当する旨主張する。しかしながら、[1]駐車場の駐車可能台数(1月当たり多くても54台分)、[2]賃貸料の銀行振込みの数、[3]賃貸料の現金領収の数(平成3年分32.3台及び平成4年分15.8台)、[4]賃借人の交替した数(平成3年分が12人(13台分)、平成4年分が5人(15台分))、[5]無断駐車の見回りの回数(月5回程度行ったとしても、各駐車場が近所であるから時間的には短時間で済む)、[6]駐車場の路面の状況、[7]理容店の客数などからみると、その妻が請求人が主張するような業務に現に従事し、又は従事していたとしても、その事務量は僅少であると認められ、請求人の事業に専ら従事していたとはいえないから、その妻は青色事業専従者の要件を満たしていない。

平成8年7月31日裁決(裁事52集41頁)要旨

 請求人は、本件建物の貸付けは、賃借人は1社のみであるが、1,500万円以上の収入があり、当該建物の2階部分も賃貸すれば、3,000万円を超える収入を得られる可能性があり、2階部分の修復、維持管理のため等に従事している専従者に支払つた給与は必要経費に算入されるべきである旨主張する。
 しかしながら、1)貸付物件は、本件建物のみで、当該建物の貸付けに係る請求人等の役務の提供は極めて僅少であると認められること、2)本件建物の1階部分の修理等は賃借人が行つていること等を総合的に判断すると、賃貸料収入が1,500万円であつたとしても、社会通念上事業と称するに至る程度のものとは認められないとみるのが相当である。
 したがつて、本件建物の貸付けは、所得税法57条1項に規定する不動産所得を生ずべき「事業」に該当しないから、専従者給与の額を必要経費に算入することはできない。

平成16年9月27日裁決(裁事68集59頁)要旨

 事業性については、[1]営利性・有償性の有無、[2]継続性・反復性の有無、[3]自己の危険と計算における事業遂行性の有無、[4]取引に費やした精神的肉体的労力の程度、[5]人的・物的設備の有無、[6]取引の目的、[7]事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合勘案して判断されるべきところ、本件貸付けについては、不動産貸付けの目的、営利性、継続性などを部分部分としてみた場合においては、直ちに事業ではないということはできない要素も認められる。
 しかしながら、本件貸付けは、請求人が代表取締役社長を務める同族会社F社への専属的な貸付けのみであり、事務所の修理等は専ら賃借人である同社が主導的に行い、賃借料の決定は同社の業績が優先的に考慮されていることから、請求人における事業遂行上その企画性は乏しく、危険負担も少ないと認められる。また、事務所は、F社が利用しやすいようF社が所有する事務所の1階とワンフロアで一体的に利用できるよう改造されており、その構造からみて他に賃貸等が可能である等の汎用性がないなど、これらの点における請求人の自己の危険と計算における事業遂行性は希薄であると認められる。
 さらに、請求人の配偶者Gが大半の時間を費やして行っている清掃などには、本来F社がその業務として行うべきものが含まれており、GがF社の取締役に就任していることに照らすと、本件貸付けにおいて貸主として本来行うべき維持管理業務の程度は、実質的には相当低いことが認められる。
 これらの諸点を総合して勘案すると、本件貸付けは、社会通念上事業と称するに至る程度のものとは認められないと判断するのが相当である。