概要

 不動産の譲渡所得は、土地や建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。よって、譲渡費用があれば、それだけ譲渡所得が少なくなり、結果、納税する所得税・住民税が少なくなります。

 不動産における譲渡費用とは、譲渡を実現するために直接かつ通常必要な費用のことをいいます。

譲渡費用になるもの、ならないもの

譲渡費用になるもの(資産の取得費とされるものは除かれる)

〇不動産を売るために支払った仲介手数料(所基通33-7(1))

〇不動産を売るために支払った登記費用

〇印紙税で売主が負担したもの

〇貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料(所基通33-7(2))

 立退料を借入金で支払った場合の支払利子は、譲渡費用となる立退料と直接関連のあるものと認められますから、譲渡費用になります。ただし、この場合の譲渡費用に算入する利子の額は、借入れの日から、その借入金の返済の日又はその譲渡代金により返済が可能となった日のいずれか早い日までの期間に対応する利子の額となります(国税庁HP質疑応答事例「借家人を立ち退かせるための立退料を借入金で支払った場合の支払利子と譲渡費用」)。

〇土地を売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用とその建物の損失額(所基通33-7(2))

 売買契約書や仲介業者との媒介契約書などで建物の取壊しが売買の条件となっている必要があります(令和3年2月25日裁決・関裁(所)令2第16号)。

〇資産の譲渡に関連する資産損失(所基通33-8)

 建物を取り壊し、更地にして土地を売却した場合の譲渡費用には、建物の取り壊し費用の他、資産損失の金額(建物の未償却残高相当額)も含まれます。

〇既に売買契約を締結している資産をさらに有利な条件で売るために支払った違約金(所基通33-7(2))

 不動産を売る契約をした後、その不動産をより高い価額で他に売却するために既契約者との契約解除に伴い支出した違約金のことです。例えば、受領した手付金50万円の倍返し(手付金の返還部分50万円と違約金部分50万円の計100万円)により当初の売買契約を解除した場合は、違約金部分の50万円は譲渡費用となります。

 違約金に係る借入金利子の額は、譲渡費用になります(昭和56年6月17日裁決・裁事22集37頁)。

〇借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など

〇農地転用許可等は停止条件となっている土地改良区内の農地の売買契約において、その転用に伴い法令等の規定に基づき土地改良区へ支払った農地転用決済金等(平成19年6月22日付国税庁個別通達(課資3-7・課審6-13)

譲渡費用にならないもの

〇譲渡した不動産の修繕費や固定資産税などその資産の所有期間中における維持や管理のためにかかった費用(所基通33-7(注)、大阪地裁令和3年7月19日判決・税資271号-88(順号13590))

〇新しく購入した不動産への家財等の運搬費(引越費用)及び家財等の処分費用

〇不動産を売却する際に支払った抵当権抹消登記費用

 抵当権を抹消することが、不動産を売却する前提として事実上必要であったとしても、売買を実現するために直接要した費用でないため

〇譲渡代金の取立てのための費用(国税庁HP質疑応答事例「譲渡代金の取立てに要した弁護士費用等と譲渡費用」)

〇訴訟費用等(国税庁HP質疑応答事例「譲渡費用の範囲(訴訟費用)」)(大阪地裁昭和60年7月30日判決・訟月32巻5号1094頁、大阪高裁昭和61年6月26日判決・税資152号540頁、昭和62年6月18日裁決・裁事33集25頁、平成8年1月17日裁決・裁事51集139頁)

 境界紛争解決の訴訟費用、建物撤去土地明渡訴訟費用等は紛争の解決による一定の利益が納税者にもたらされたことに対して支払われたものであるため、譲渡費用になりません。

大阪地裁昭和60年7月30日判決(訟月32巻5号1094頁)判示要旨

 資産の譲渡に要した費用とは、譲渡を実現するために必要な経費に限られ、当該資産の修繕費、固定資産税、その他当該資産の維持管理に要した費用はこれに含まれないと解すべく、したがつて例えば、譲渡のための仲介手数料、登記登録料、借家人を立退かせるための立退料等は、これに該当するが、譲渡資産に設定された抵当権を消滅させるために被担保債権を弁済した弁済金、山林所有権の帰属をめぐつて第三者との紛争があり、その所有権確認のために要した訴訟費用、遺産分割の処理のために要した弁護士報酬等は、いずれも資産の譲渡に要した費用には、当らないものと解すべきである(最高裁判所昭和36年10月13日判決民集15巻9号2332頁、同昭和50年7月17日判決・訟務月報21巻9号1966頁、東京地方裁判所昭和54年3月28日判決・行政事件裁判例集30巻3号654頁等各参照)。

媒介契約や売買契約の前提又は内容になっていなかった取壊費用は譲渡費用に該当しないとされた事例-令和3年2月25日裁決(関裁(所)令2第16号)(棄却)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人Xは、土地建物(建物は甲建物と乙建物)を所有していたが、解体業者に依頼して各建物の取壊し(以下「本件取壊し」という。)を平成25年3月31日までに完了し、本件取壊しに係る工事代金として329万円余を当該解体業者に支払った(以下「本件費用」という。)。
② Xは、平成26年11月21日、A社との間で、本件土地に関する売買に係る一般媒介契約(以下「本件媒介契約」という。)を締結した
③ Xは、平成30年8月2日、買主Kとの間で、本件土地を譲渡する旨の不動産売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、同月21日、本件土地を当該買主に引き渡した(以下、本件土地の譲渡を「本件譲渡」という。)。
 なお、Xは、本件媒介契約に基づき、平成30年9月1日までに、仲介手数料をA社に支払った。
④ Xは、平成30年分の所得税等の確定申告書を提出したが、当該申告書に添付された「譲渡所得の内訳書」には、本件費用を譲渡費用に該当するとして本件譲渡に係る譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)の金額が計算されていた。
⑤ 原処分庁が、当該費用は譲渡費用に該当しないとして更正処分等を行ったことから、Xが、原処分の全部の取消しを求めた。

(2)争点

 本件費用は、本件譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当するか否かである。

(3)裁決要旨(棄却)

① 資産の譲渡に当たって支出された費用が譲渡費用に当たるかどうかは、一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものである。そして、所得税基本通達33-7は、譲渡費用とは、当該譲渡に際して当該譲渡のために直接要した費用のほか、当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用をいう旨定めている。
② 甲建物には、取壊しの前から老朽化のために倒壊のおそれがあった上、乙建物も、長年にわたって1階の事務所部分以外には入居者もおらず、当該事務所部分の賃借人も、平成24年12月頃に車の衝突事故により事務所部分が損傷したために退去したことなどが認められるところ、その退去から間もない平成25年3月31日に取壊しが完了したことも併せ考慮すれば、本件取壊しは老朽化や車の衝突事故による損傷等に起因して行われたものとするのが合理的である。
③ 本件取壊しにより各建物は平成25年3月31日までに取り壊され、その後に締結された媒介契約及び売買契約の目的物は、本件土地のみとされていたのであり、当審判所に提出された証拠資料等を精査しても、本件取壊しは媒介契約や売買契約の前提又は内容になっていなかったというほかない。
④ 以上によれば、現実に行われた売買契約による譲渡を前提とすると、客観的に見て本件譲渡を実現するために取壊費用が必要であったとは認められないから、本件取壊費用は、譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当しない。
⑤ Xは、当初から解体業者等に土地の譲渡の意向があると述べていたこと及び更地にすれば土地の売買条件が有利になるなど利点が多いと考えて取壊しを行ったことなどを理由に、取壊費用が譲渡費用に該当する旨主張する。しかしながら、仮にXが主張するように当初から土地の譲渡の意向があると述べていたとしても、それは現実に行われた譲渡の当事者でも媒介業者でもない解体業者等に対するものにすぎないから、取壊費用が本件譲渡のために直接要した費用又は土地の譲渡価額を増加させるため支出した費用とはいえない。