概要
法人が、建物とその敷地ともに取得して、すぐに建物を取り壊すケースは多いです。立地が良く、法人として利用したいため購入したが、建物が自社には合わない(古い)ため建物を取り壊し、新たな自社ビルを建てるということがよく行われています。
法人が建物の敷地(借地権を含む。)を建物とともに取得した場合で、その取得後おおむね1年以内に当該建物の取壊しに着手するなど、初めからその建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかな場合には、その建物の取壊しのときの帳簿価額と取壊費用の合計額(廃材の処分によって得た金額があるときは、それを控除した金額)は、その土地の取得価額に算入することとされています(法基通7-3-6)。
つまり、法人が土地建物を購入した理由が、その土地の上に新たな自社ビルを建てることが明らかであるような場合は、その土地のみ欲しいということであり、建物の取壊し時の帳簿価額(取壊しまでの間に建物を事業の用に供している場合は、償却は認められます)と取壊費用の合計額は、土地の取得価額に算入されるということです。
なお、「取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手する等」とは、単なる例示にすぎません。「当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるとき」は、取得後1年以内かどうかにかかわらず、適用されるべきと考えられています。
土地建物を取得した後、約1年4か月にわたり建物を賃貸して使用していたが、建物の固定資産除却損を土地の取得価額に算入すべきと判断した令和3年6月23日裁決(金裁(法)令2第4号)があります。なお、本裁決では、「当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められる」かどうかの判断基準時は、土地建物の引渡日とするのが相当と判断しています。
つまり、取得後1年以上経過した後に取り壊した場合であっても、当初から土地だけを利用することが明らかである場合には、帳簿価額及び取壊費用の損金算入は認められず、土地の取得価額に算入すべきということになります。
また、1年以内に取り壊した場合であっても、取得の当初において取壊しが予定されていなかった場合であれば、帳簿価額や取壊費用の損金算入が認められるケースもあるでしょう。
例えば、初めは建物を事業に使用する目的で取得したが、その後、災害の発生があった等やむを得ない理由が生じたことにより、その使用をあきらめなければならないような場合には、その取得後おおむね1年以内にその建物を取り壊したときであっても、その建物の帳簿価額と取壊費用の合計額は、土地の取得価額に含めないで、取り壊したときの損金の額に算入することができると考えられます。
当初から建物を取り壊して土地を利用する目的であるとし、建物の帳簿価額は土地の取得価額に算入することが相当とされた事例-令和3年6月23日裁決(金裁(法)令2第4号)(棄却)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 内国法人である審査請求人Xは、平成28年3月30日、売主をA、買主をXとする、C市にある土地(以下「本件土地」という。)及び本件土地上に所在する建物(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件土地建物」という。)を売買代金52億5,520万円(本件土地33億1,120万円、本件建物18億円及び消費税等1億4,400万円)で売買する不動産売買契約(以下「本件売買契約」といい、この契約日を「本件契約日」という。)を締結した。なお、本件売買契約に関する不動産売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)が作成された。
また、Xは、本件売買契約の仲介業者から本件土地建物に関する重要事項説明書(以下「本件重要事項説明書」という。)を受領した。
〇本件売買契約書には、要旨次の定めがある。 (イ)第4条《決済・引渡し・所有権移転登記申請》 本件土地建物の引渡し及び所有権移転登記申請の手続は、平成28年9月末日又は売主買主間で別途合意する日にこれを行い、上記引渡し及び登記申請と同時に買主は売買代金から手付金を差し引いた残代金42億416万円を売主指定口座へ支払う。 (ロ)第5条《所有権の移転》 本件土地建物の所有権は、売買代金完済と同時に売主から買主に移転する。 (ハ)第13条《定期建物賃貸借契約》 売主及び買主は、第4条に定める引渡し日までに本件建物について、売主を賃借人、買主を賃貸人とする定期建物賃貸借契約を別途締結する。 契約期間は、本件土地建物の引渡し日以降平成29年12月末日まで、月額賃料は、723万円余(税別)とする。 〇本件重要事項説明書には、要旨次の記載がある。 本件建物は、昭和39年に新築された築50年以上経過している建物で、経年劣化による老朽化及び機能低下がみられる。 |
② Xは、平成28年9月30日、本件売買契約書第4条に定める本件土地建物の売買代金に係る残代金42億416万円を支払い、同日、本件土地建物の引渡しを受け、所有権移転登記を行った(以下、この引渡しの日を「本件引渡日」という。)。
Xは、本件土地建物の購入に際し、本件引渡日に54億円の融資(以下「本件融資」という。)を受けた。Xは、本件融資を受けるに際し、平成28年4月28日及び同年6月24日のいずれにおいても本件土地上に建物を新築することを前提とした事業計画書を提出していた。
③ Xは、平成28年9月30日、本件売買契約書第13条の定めに基づき、Aを賃借人、Xを賃貸人、賃貸借期間を本件引渡日から平成29年12月末日までとする、本件建物に係る定期建物賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。
なお、本件賃貸借契約は、期間満了日である平成29年12月末日で終了した。
④ Xは、平成28年9月30日付で、新築工事提案要綱(以下「本件提案要綱」という。)を作成し、設計業者に交付した。本件提案要綱には、本件建物を解体することを前提にした新築工事に係るものであり、同要綱には、本件土地建物の現況として、「既存ビル使用中(平成29年12月末明け渡し予定、その後解体工事)」と記載されていた。
また、地上24階建の建物が新築され、令和2年春に開業予定である旨の新聞広告(以下「本件新聞広告」という。)をした。
⑤ Xは、平成29年11月30日、本件建物の解体工事について、Dとの間で、着工を平成30年1月9日、完成及び引渡日を平成30年7月30日として工事請負契約を締結し、本件建物は、当該契約に基づき取り壊された。
令和2年7月7日、本件土地上に、鉄骨造陸屋根20階建ての建物が新築された。
⑥ Xは、平成29年5月1日から平成30年4月30日までの事業年度(以下「平成30年4月期」という。)の法人税等について法定申告期限までに申告した。
Xは、平成29年11月30日時点の本件建物の帳簿価額16億6,797万円余を固定資産除却損として損金経理したが、平成30年4月末までに本件建物の解体工事が完了せず、平成30年4月期の法人税の確定申告書において同額を固定資産除却損否認として益金の額に算入した。
⑦ Xは、平成30年5月1日から平成31年4月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税等について法定申告期限までに申告した。
Xは、本件建物の解体工事の完了に伴い、本件事業年度の法人税の確定申告書において、上記⑥の平成30年4月期の固定資産除却否認額16億6,797万円余を損金の額に算入した。
⑧ Xは、令和2年6月22日、平成30年4月期及び本件事業年度の法人税等の各修正申告書を提出した。
Xは、平成30年4月期の修正申告書において、本件建物の平成29年12月分の減価償却費に相当する2,210万円余を損金の額に算入し、同額を除去損過大額として益金の額に算入した。
⑨ 原処分庁が、当初から当該建物を取り壊して土地を利用する目的で取得したことが明らかであることから、本件建物の固定資産除却損16億6,797万円余と上記⑧の減価償却費相当額(除却損過大額)2,210万円余との差額16億4,587万円余(以下「本件帳簿価額」という。)は、本件土地の取得価額に算入すべきであり、損金の額に算入されないとして、令和2年7月28日付で、法人税等の更正処分等を行った。これに対し、Xが、売買契約時には当該建物を改装して利用する目的も有していたほか、賃貸事業のために利用していたことなどから、当初から当該建物を取り壊して土地を利用する目的で取得したものではないとして、原処分の全部の取消しを求めた。
(2)本件の主な争点
本件帳簿価額は、本件土地の取得価額に算入すべきか否かについて、
(争点1)「当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められる」かどうかの判断基準時(以下「本件判断基準時」という。)はいつかである。
(争点2)本件建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるか否かである。
(3)裁決要旨(棄却)
(争点1)
① 法人税基本通達7-3-6《土地とともに取得した建物等の取壊費等》(以下「本件通達」という。)の例のような場合、建物の取壊しの時における帳簿価額及び取壊費用が、法人税法施行令54条1項1号に規定する当該資産を事業の用に供するために直接要した費用と同様のものに該当するとして、土地の取得価額に含める旨を定めるものであり、合理的な内容であるといえるから、本件通達は当審判所においても相当であると認められる。また、本件通達が、土地の取得価額についての定めであることから、建物を取り壊して土地を利用する目的であったか否かについては土地及び建物の取得時の事情をもとに判断されるべきであって、同通達の「当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であること」とは、土地及び建物の取得当初からそのような目的である場合を意味するものと解され、本件判断基準時は、建物等とともに土地を取得したときであり、また、一般には「取得」とは「所有権取得」と解するのが相当である。
② 上記のとおり、本件判断基準時は、本件土地建物の所有権を取得したときと解するのが相当であるところ、Xは、本件売買契約書第5条に基づき、本件引渡日に本件土地建物の売買代金に係る手付金を差し引いた残代金を支払い、本件土地建物の引渡しを受け、所有権移転登記を行っているから、Xが本件土地建物を取得したときは本件引渡日であると認められる。
したがって、本件判断基準時は、本件引渡日とするのが相当である。
(争点2)
③ 「当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるとき」といえるかどうかについては、当該建物を取得するに至る経緯、取得時の当該建物の客観的状態(建物の建築年数、現況、老朽度や利用価値)、建物の取壊時期や経緯、取壊目的等の諸事実を総合勘案して判断すべきである。
④ Xは、再利用する価値に乏しく老朽化した本件建物について、契約日から一貫して建物を取り壊す目的を有し、建物を取り壊すことを前提にした事業計画に基づき、資金調達や外部広告を行うほか、設計業者に土地上の新築建物を設計させ、賃貸借契約の期間満了後、速やかに本件建物を取り壊し、その後、建物を新築していることが認められる。一方、当審判所の調査によっても、Xに契約日から建物の解体までの間、本件建物を改装するための行動があったことをうかがわせる証拠は見当たらない。これら諸事実を総合勘案すれば、Xにおいて、当初から本件建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められる。
したがって、本件帳簿価額は、土地の取得価額に算入することが相当である。
⑤ 本件帳簿価額は、本件土地の取得価額に算入されることとなり、本件帳簿価額を本件事業年度の法人税の所得の計算上損金の額に算入することはできない。
その他裁判例
- 土地建物の購入代金は、建物を取り壊してその敷地のみを使用する意図で取得したと認められるから、すべて土地の取得価額を構成するとされた東京地裁昭和57年5月20日判決(昭和52年(行ウ)341号)
- 借地上の建物を取得した後1年以内に右建物を取壊した場合、当初から土地(借地権)を利用するために建物を取得したものとして、建物の代金相当額は借地権の取得価額に加算すべきものとされた鳥取地裁昭和57年6月24日判決(昭和53年(行ウ)3号)