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概要

 所得税的には、全く申告していなければ、期限後申告ということで損失の繰越や繰越控除をすることができます。確定申告書には期限後申告書を含むこととされています(措法2①十、所法2①三十七)。

 ただし、期限後申告をすることができる期間は、原則として、当該国税に係る法定納期限から5年間であると解されています(千葉地裁平成30年1月16日判決・税資268号-3(順号13108)、東京高裁平成30年8月1日判決・訟月65巻4号696頁)。

 そのため、期限後申告をすることができるのは、X0年分の法定納期限であるX1年3月15日から5年後のX6年3月15日までということになります。

 なお、新型コロナウイルス感染症への対応として、令和元年分については令和2年4月16日(令和2年3月6日国税庁告示1号)、令和2年分については令和3年4月15日(令和3年2月15日国税庁告示3号)に法定納期限はそれぞれ延長されています。

 したがって、期限後申告をすることができる期限は、令和元年分は令和7年4月16日、令和2年分は令和8年4月15日となります。

事例

X0年分X1年分
先物所得の金額△150万円100万円
申告日X1/4/15X2/3/15
添付書類ありあり

 X0年分については期限後申告ですが、X1年分の申告する前に申告をしているため、X0年分で生じた損失150万円を繰り越し、X1年分の益から繰越控除することができます。

 期限後申告をすることができる期間は、原則として、当該国税に係る法定納期限から5年間であると解されているため、X0年分の法定納期限であるX1年3月15日から5年後のX6年3月15日までということになります。

 なお、連年提出する必要があるため、X1年分の申告する前に、X0年分の申告をする必要があります。

住民税

 先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の住民税の取扱いは、所得税より厳しいものとなっています。

 上場株式等に係る譲渡損失については、令和6年度(令和5年分)以降は、確定申告書が提出されれば、納税通知書の送達後であっても、所得税と同様に住民税においても(損益通算・)繰越控除が適用されます。

 ただし、先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除は、依然として、納税通知書が送達されるまでに提出することが要件となっているので、注意が必要です(いずれ、法改正されると思いますが)。

 次の申告については、市民税・県民税の納税通知書が送達されるまでに、申告書を提出してください。

  • 当該年度に生じた先物取引の差金等決済に係る損失を、翌年度以降に繰り越すための申告
  • 前年度までに繰り越した先物取引の差金等決済に係る損失を、当該年度の先物取引にかかる雑所得等の金額から控除するための申告
  • 当該年度に先物取引がなかった場合において、前年度までに繰り越した先物取引の差金等決済に係る損失を翌年度以降に繰り越すためだけの申告

地方税法附則35条の4の2(先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除)

1 道府県民税の所得割の納税義務者の前年前三年内の各年に生じた先物取引の差金等決済に係る損失の金額(この項の規定により前年前において控除されたものを除く。)は、当該先物取引の差金等決済に係る損失の金額の生じた年の末日の属する年度の翌年度の道府県民税について先物取引の差金等決済に係る損失の金額の控除に関する事項を記載した第四十五条の二第一項又は第三項の規定による申告書(第四項において準用する同条第四項の規定による申告書を含む。以下この項において同じ。)を提出した場合(市町村長においてやむを得ない事情があると認める場合には、これらの申告書をその提出期限後において道府県民税の納税通知書が送達される時までに提出した場合を含む。)において、その後の年度分の道府県民税について連続してこれらの申告書(その提出期限後において道府県民税の納税通知書が送達される時までに提出されたものを含む。)を提出しているときに限り、前条第一項後段の規定にかかわらず、政令で定めるところにより、当該納税義務者の同項に規定する先物取引に係る雑所得等の金額を限度として、当該先物取引に係る雑所得等の金額の計算上控除する。

法定納期限から5年経過後の期限後申告の可否が争われた事例-千葉地裁平成30年1月16日判決(税資268号-3(順号13108))(棄却)(控訴)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xは、給与所得者であるが、給与所得以外に、先物取引に係る差金等決済による収入を得ている。Xの平成20年分~平成25年分の先物取引に係る差金等決済に係る損益の状況は、次のとおりであった(マイナスは損失を、その余は利益を表す。)。
  平成20年分 -2,116万円余
  平成21年分  1,331万円余
  平成22年分 -1,463万円余
  平成23年分  -834万円余
  平成24年分  1,289万円余
  平成25年分  2,363万円余
② 所得税等についての調査(平成26年11月18日)
 イ Xは、所轄税務署において、上席国税調査官Jと面談し、Jは、Xの平成21年分~平成25年分の所得税等について調査(以下「本件調査」という。)を行った。
 ロ Jは、本件調査の際、Xに対し、平成21年分~平成25年分の所得税等の期限後申告書を提示して、期限後申告について説明した。
 ハ 本件調査において、XがJに対し平成20年分の損失を翌年に繰り越したいと述べたところ、Jは、平成20年分の所得税は法定納期限から5年を経過していることから時効により期限後申告をすることはできず、同年分の所得税の期限後申告をして同年中の損失を平成21年に繰り越すことはできない旨を説明した。なお、平成20年分所得税の法定納期限は、平成21年3月16日(同年3月15日は日曜日)である。
 ニ Xは、平成22年分~平成25年分の所得税等の期限後申告をしたが、平成21年分の所得税の期限後申告はしなかった。
③ Yは、平成27年1月27日付けで、Xに対し、本件決定処分等を行った。

(2)判決要旨(棄却)(控訴)

① Xは、平成20年分所得税について、調査の時点では、国税通則法(以下「通則法」という。)25条の決定を受けていなかったから、期限後申告を行うことができた旨主張する。しかし、確定申告は、納税者自らの判断と責任においてその納税額を自ら確定させる行為であると解されるから、通則法25条の規定による決定がされない場合であっても、当該申告の対象となる国税の時効期間が経過し、抽象的な納税義務自体が消滅し、具体的な納税義務の内容をおよそ確定することができなくなったときには、期限後申告をすることはできなくなると解するほかはなく、したがって、納税者が期限後申告をすることができる期間は、原則として、当該国税に係る法定納期限から5年間であると解するのが相当である。
② そうすると、平成26年11月18日の本件調査時においては、平成20年分所得税の法定納期限(平成21年3月16日)から5年を経過し、Xの同所得税に関し通則法73条(時効の中止及び停止)3項所定の事情が存するとは認め難いから、Xは、同所得税の期限後申告をすることができなかったこととなる。