二世帯住宅

概要

 二世帯住宅(建物)が区分所有登記されているか否か、また、相続したものが配偶者か子供なのかを分けて考える必要があります。

 下記の前提は、以下となります。
 被相続人 父
 相続人 母、子供
 父と子供は生計別
 土地の所有者は父
 1階に父・母居住、2階に子供居住 

二世帯住宅(建物)が区分所有登記されていない

二世帯住宅(建物)が区分登記されていない
  • 子供が居住の用に供されていた部分についても「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」に含まれることになります。
  • 平成26年1月1日以後は、玄関別、建物内部で行き来が出来ない構造であっても、区分所有登記がされていない建物であれば、子供は同居しているものとして特例対象となります。
  • 母が相続した場合は、母が相続した部分が特例対象となります。
  • 子供(同居親族として扱います)が相続し、10ヶ月間(申告期限まで)居住し所有し続けた場合は、子供が相続した部分について特例対象となります。同居親族として扱われますので、子供が父と生計を一にしていた場合でも、生計を別にしていた場合でも、特例対象となります。
  • 建物の名義(所有)が、被相続人や生計一親族、生計別親族の場合、地代や家賃を支払っておらず、使用貸借の場合には、貸付事業用に該当しないため、他の要件を満たすことにより、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の対象となります(被相続人や親族以外の第三者所有の家屋は対象外)。

二世帯住宅(建物)が区分所有登記されている

二世帯住宅(建物)が区分登記されている
  • 1階と2階で区分登記された建物は、1階と2階を別の建物と考えます。よって、子供が居住の用に供されていた部分については「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」に該当しません。
  • 1階部分の敷地は、「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」であり、母が相続した場合、母が取得した部分が特例対象になります。子供は父の同居親族ではなく、「家なき子」でもないため、子供が取得した場合は特例の対象とはなりません。
  • 2階部分の敷地は、子供が父と生計を別にしていた場合には、「生計別の親族の居住用宅地等」に該当するため、特例の対象とはなりません。

区分所有登記の解消

 数十万円の費用があれば、登記の変更ができるので、相続前に区分所有登記を解消して単独や共有の登記に変更している案件は、それなりにあるといえます。

 ただし、構造上の変更がないのに、特例の適用を受けるためのみの目的で相続開始直前に区分所有登記を変更したとしても、一棟の建物に構造上区分された部分で独立して住居等の用途に供することができるものであることは明らかである場合は、調査で問題になる場合もありえると思われます。

令和3年6月21日裁決(東裁(諸)令2第95号)(棄却)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 被相続人Fは、平成13年1月、土地上に2階建ての一棟の建物(以下「本件建物」という。)を新築し、1階部分(以下「本件建物1階部分」といい、本件建物1階部分の敷地権を「本件敷地権」という。)及び2階部分(以下「本件建物2階部分」という。)をそれぞれ区分所有建物である旨の登記をした。
 本件建物は、本件建物1階部分及び本件建物2階部分それぞれに玄関、リビング、寝室、台所、洗面所、風呂場及びトイレがあり、本件建物の内部では本件建物1階部分及び本件建物2階部分間で行き来することができず、外階段によって行き来することができる構造である。
 本件建物の新築からFの死亡に至るまで、本件建物1階部分にはXとその子が居住し、本件建物2階部分にはFとその妻であるMが居住していた。
 本件建物の電気、ガス及び水道のメーターは本件建物1階部分及び本件建物2階部分とでそれぞれ分かれており、Fが死亡するまでの間、本件建物1階部分についてはXが契約して使用料を支払っており、本件建物2階部分についてはFが契約して使用料を支払っていた。

② Fは、平成22年8月、遺言公正証書により、本件建物1階部分をXに相続させる旨、本件建物2階部分をMに相続させる旨、また、預貯金等の一部をXに遺贈する旨などの遺言をした。

③ Fは、〇年〇月に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続に係る共同相続人は、M、本件被相続人の長男であるX、同じく長女であるT及び同じく二男であるJの4名である。
 本件建物1階部分及び本件建物2階部分は、本件相続により、上記の遺言のとおり、それぞれX及びMが取得した。本件敷地権は、Xが相続により取得した。

④ Xらは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、法定申告期限までに申告した。Xらは、当該申告において、本件敷地権と本件建物2階部分の敷地権の課税価格に算入する各価額について、いずれも小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下「本件特例」という。)を適用して計算していた。

⑤ 原処分庁は、本件敷地権について本件特例の適用は認められないとして相続税の各更正処分等をしたのに対し、Xらがその全部の取消しを求めた

(XとFの生活状況)
 F及びMは、通常、本件建物2階部分で食事をし、たまには、Xらの家族の分も作り、本件建物1階部分で共に食事をすることもあった。
 Mは、食材等について、車を運転して一人でスーパーマーケット等へ行き、F及びMの分を購入していた。
 F及びMは、本件建物2階部分で入浴や洗濯を行い、本件建物1階部分でこれを行うことはなかった。
 F及びMは、本件建物2階部分に居住していたところ、そのようにしたのは、2階の方が、日当たりや風通し、眺望が良く、Xらの子供の足音も気にならないためであった。
 F及びM並びにXらの生活の拠点となる建物は、本件建物の建築後、本件建物以外にはなかった。

(2)本件の主な争点

① 本件敷地権は、措置法69条の4第1項が規定するFの居住の用に供されていた宅地等に該当するか否かである(争点1)。

② Xらは、措置法69条の4第1項が規定するFと生計を一にしていた親族に該当するか否かである(争点2)。

(3)裁決要旨(棄却)

(争点1)
① 本件特例の適用対象となる「被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等」とは、相続開始直前において、それらの者が現に居住の用に供していた宅地等に限られるものと解され、当該宅地等を敷地とする建物が現に存在し、これを現に居住の用に使用している場合がこれに当たると解される。そして、当該宅地等を敷地とする建物が現に存在し、これを現に居住の用に使用しているか否かについては、基本的には、それらの者が、当該建物に生活の拠点を置いていたかどうかにより判断すべきものと考えられ、その具体的な判断に当たっては、(イ)それらの者の日常生活の状況、(ロ)その建物への入居目的、(ハ)その建物の構造及び設備の状祝、(ニ)生活の拠点となるべき他の建物の有無その他の事実を総合勘案して、社会通念に照らして客観的に判断すべきであると解する。

② F及びMは本件建物2階部分に、Xらは本件建物1階部分に居住していたことが認められる。
 本件建物1階部分の敷地権(本件敷地権)がFの居住の用に供されていた宅地等に該当するか否かについては、具体的に、Fが1階部分に生活の拠点を置いていたか否かの問題であり、この点については、上記で述べた考慮すべき各事実に該当するFに係る事実関係を総合勘案して、社会通念に照らして客観的に判断すべきである。
 よって検討するに、(イ)F及びM並びにXらの日常生活の状況については、各々が現に独立した日常生活を送っていたと認められ、F及びMが、本件建物1階部分において、Xらと共に生活していた等の事実は認められない。また、(ロ)F及びMは本件建物2階部分に入居することを選択しており、本件建物1階部分に入居することも、Xらと生活を共にすることも目的としていなかったことがうかがえる。さらに、(ハ)本件建物1階部分並びに本件建物2階部分の設備及び構造の状況については、それぞれに玄関、リビング、寝室、台所、洗面所、風呂場及びトイレといった、日常生活を営むのに十分な設備を有しており、それぞれの区分ごとに独立して日常生活を送ることのできる構造であったと認められる。なお、(ニ)F及びMの生活の拠点となる建物については、本件建物以外にはなかったものである。これらの事実を総合勘案して、社会通念に照らして客観的に判断すると、F及びMは、本件建物2階部分に生活の拠点を置いていたと認められ、本件建物1階部分に生活の拠点を置いていたと認めることはできず、本件敷地権は、Fの居住の用に供されていた宅地等に該当するとは認められない。
 結局、F及びMは本件建物2階部分に、Xらは本件建物1階部分に、それぞれ生活の拠点を置いていたと認められる。なお、生活の拠点については、上記のとおり社会通念に照らして客観的に判断すべきであるから、F及びMの日常生活の中で、本件建物1階部分に居住するXらとの交流があり、例えば、Xらと本件建物1階部分で一緒に食事をした場合など、本件建物1階部分への往来や一時的な使用があったとしても、上記結論を左右しない。

③ 次に、本件建物は2階建ての一棟の建物であること及びXらは本件建物1階部分に居住していることが認められ、Xは本件被相続人の親族に当たることから、措置法施行令40条の2第4項括弧書きの規定の適用が認められる場合には、本件敷地権について、Fの居住の用に供されていた部分に含めることができる。よって、上記規定が適用されるか否かについて検討すると、本件建物は、区分所有建物である旨の登記がされている。したがって、本件建物は、一棟の建物と認められるものの、措置法施行令40条の2第4項括弧書きが規定する「区分所有建物」に該当することから、本件敷地権は、措置法施行令40条の2第4項括弧書きの規定の適用により、Fの居住の用に供されていた部分に含めることはできない。

④ 以上により、本件敷地権は、F自身の居住の用に供されていた宅地に当たらないとともに、一棟の建物に係るものとしてこれに含めることもできないため、措置法69条の4第1項が規定するFの居住の用に供されていた宅地等に該当しない。

(争点2)
⑤ 本件特例においては、被相続人の居住の用に供されていた宅地等のほかに、当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等についても、その適用の対象としている。ここでいう「生計」とは、暮らしを立てるための手立てであって、通常、日常生活の経済的側面を指すものと解すべきものである。したがって、一棟の建物において被相続人の居住の用に供されていた部分以外に居住していた親族が「生計」を一にしていたと認められるためには、当該親族が被相続人と日常生活の資を共通にしていたと認められることを要し、その判断は社会通念に照らして個々になされるところ、これが認められるためには、少なくとも、居住費、食費、光熱費その他日常の生活に係る費用の主要な部分を共通にしていた関係にあったことを要するものと解するのが相当である。

⑥ F及びMは、居住費、食費、光熱費その他日常の生活に係る費用の主要な部分について独立した資によっていたものと認められるから、Xらと日常生活の資を共通にしていた関係にあったと認めることはできない。よって、Xは、措置法69条の4第1項が規定するFと生計を一にしていた親族に該当しない。

(本件各更正処分の適法性)
⑦ 本件敷地権は、F自身の居住の用に供されていた宅地等に当たらないとともに、これに含めることもできず、また、XらはFと生計を一にしていた親族に当たらないことから、本件敷地権は、措置法69条の4第1項に規定する「被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等」に該当しないため、本件相続税の課税価格に算入する価額を計算するに当たって、本件特例を適用することはできない。これを前提として計算したXらの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額は、いずれも本件各更正処分におけるそれぞれの金額と同額となる。
 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

関連記事