概要

 税法上、「生計を一」という要件は多くの規定に適用されており、実務的には非常に重要な要件となっています。ただし、そうであるにもかかわらず、「生計を一」ということについては、法律として明文化されておらず、通達においてのみしか示されていません(国税通則法基本通達46条関係9、所得税基本通達2-47、法人税基本通達1-3-4)。

 なお、相続税法及び租税特別措置法において、「生計を一」について明確な解釈はありませんが、小規模宅地等の特例における「生計を一」について争われた平成20年6月26日の裁決(裁事75集645頁)では、以下のように判断しています。

『「生計を一」の意義について、相続税法及び措置法上の解釈が明確にされていなくとも、所得税法等他の法律で定義された解釈と別異に解釈するのは相当ではない。』

法令・通達

〇国税通則法基本通達46条関係9(生計を一にする)
 この条第2項第2号の「生計を一にする」とは、納税者と有無相助けて日常生活の資を共通にしていることをいい、納税者がその親族と起居を共にしていない場合においても、常に生活費、学資金、療養費等を支出して扶養している場合が含まれる。
 なお、親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

〇所得税基本通達2-47(生計を一にするの意義)
 法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。
(1) 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
 イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
 ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

〇法人税基本通達1-3-4(生計を一にすること)
 令第4条第1項第5号《同族関係者の範囲》に規定する「生計を一にする」こととは、有無相助けて日常生活の資を共通にしていることをいうのであるから、必ずしも同居していることを必要としない。

被相続人と「生計を一にしていた」親族に該当しないとして、小規模宅地等の特例を適用することはできないとされた事例-平成30年8月22日裁決(東裁(諸)平30第28号)(棄却)

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人X(被相続人の長男)らが、相続により取得した宅地(本件宅地)について、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(本件特例)を適用して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、Xは被相続人と生計を一にしていた親族に該当せず、当該宅地に当該特例の適用はないとして相続税の更正処分等をしたのに対し、Xらがその全部の取消しを求めた事案である。

(2)裁決要旨(棄却)

① 本件特例は、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地のうち、一定面積以下のいわゆる小規模宅地等は、相続人等の生活基盤の維持のために欠くことのできないものであって、相続人等において事業の用又は居住の用を廃してこれを処分することに相当の制約があるのが通常であることに鑑み、相続税の課税上特別の配慮を加えることとしたものであると解される。かかる趣旨から、租税特別措置法69条の4第3項1号ロは、本件特例が適用される「特定事業用宅地等」を、被相続人と「生計を一にしていた」当該被相続人の親族が取得した宅地等に限定しているところ、ここにいう「生計を一にしていた」とは、同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、あるいは日常生活の資を共通にしていたことをいい、また、「生計」とは、暮らしを立てるための手立てであって、通常、日常生活の経済的側面を指すものと解される。

② これによれば、被相続人と同居していた親族は、明らかにそれぞれが独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、通常は、「生計を一にしていた」と認められるものと考えられるが、他方、被相続人と同居していなかった親族が「生計を一にしていた」と認められるためには、当該親族が被相続人と日常生活の資を共通にしていたと認められることを要し、そのように認められるためには、少なくとも、居住費、食費、光熱費その他日常の生活に係る費用の主要な部分を共通にしていた関係にあったことを要するものと解するのが相当である。

③ 本件の場合、Xと被相続人は、同居しておらず、Xは、被相続人に係る食費、訪問介護費、日用品費及び医療費等について、被相続人名義の預貯金口座から出金した金銭等により支払っており、被相続人の居宅に係るガス、水道及び電気の使用料金も被相続人名義の預金口座から支払われていることからすれば、Xと被相続人の間で、居住費、食費、光熱費その他日常の生活に係る費用の主要な部分を共通にしていた関係にはなかったといわざるを得ず、他に日常生活に係る費用の主要な部分を共通にしていたことを示す事実も認められない。したがって、Xは、被相続人と「生計を一にしていた」親族ではないと認められる。したがって、本件宅地について本件特例は適用できない。