贈与による財産取得の時期の原則

 贈与による財産の取得の時期は、書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時となります(相基通1の3・1の4共-8)。

 書面による贈与は、売買と同じく一方的に取り消すことが許されません。それに対し、書面によらない贈与は、既に履行の終つた部分を除き、各当事者はこれを取り消すことができることになつています(民法550)。そのため、書面によらない贈与契約については、その贈与が確定的になる履行の時を財産の取得時期としています。

 上場株式の贈与の場合は、契約書があれば契約の効力の発生した時、契約書がなければ名義書換日(振替日、移管日)に、贈与があったものとされます。もっとも、契約日と振替日の間の日数が常識的な範囲といえないような場合は、契約書があっても振替日に贈与があったとみなされる可能性はあると思います。

東京地裁昭和55年5月20日判決(昭和45年(行ウ)190号)要旨

株式の贈与の日時について
 書面によらない贈与はその履行が終らないうちは取り消されることがあるから、相続税法19条にいう「相続の開始前3年以内に贈与により財産を取得したことがある」かどうかは、書面によらない贈与にあつては、贈与の履行が終わつた時を基準として判断すべきであり、特に、親子間の書面によらない贈与のような場合には、贈与の事実が外形的客観的に明らかとなり、かつ、その効力が生じた時、即ち受贈者自ら独立の占有を取得した時によると解すべきである。本件の株式の贈与については名義書換日がこれに該当するというべきである。

贈与による財産取得の時期の特例

 所有権等の移転の登記又は登録の目的となる財産(例えば、不動産贈与登記、自動車所有登録等)について贈与の時期を判定する場合において、その贈与の時期が明確でないときは、特に反証のない限りその登記又は登録があった時に贈与があったものとして取り扱います(相基通1の3・1の4共-11) 。

 親から、土地建物について公正証書による贈与を受けた者が、8年後(課税の時効が到来後)に贈与登記をしたことに対し、課税庁が贈与登記時の贈与として課税処分をし、受贈者は「書面による贈与」であるから、贈与の時期は8年前であったとして争われた名古屋地裁平成10年9月11日判決(訟月46巻6号3042頁)があります。

 受贈者の主張を退けられ、控訴審(名古屋高裁平成10年12月25日判決・税資239号1153頁)、上告審(最高裁第一小法廷平成11年6月24日決定・税資243号734頁)においても棄却されています。

停止条件付贈与による財産取得の時期

 停止条件付贈与による財産取得の時期は、その条件が成就した時となります(相基通1の3・1の4共-9)。

 民法127条1項において、「停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。」と規定されていることから、贈与税の取扱いにおいても、これと同様とするためです。

農地等の贈与による財産取得の時期

 農地等の贈与による財産取得の時期は、農地法の規定による許可又は届出の効力が生じた時とされています(相基通1の3・1の4共-10)。

 ただし、次の要件の全てに該当する農地の贈与については、上記通達にかかわらず農地法の許可又は届出に関する書類を農業委員会に提出した日に贈与があったものとして取り扱って差し支えないとされています(相続税関係個別通達「贈与による農地の取得の時期について」/昭48直資2-62)。

① 所有権移転の許可等の効力が、農業委員会に申請書等を提出した日の属する年の翌年1月1日から3月15日までの間に生じていること。
② 贈与税の申告書が、所有権移転の許可等の効力が生じた日からその年の3月15日までの間に提出されていること。

「みなし贈与」の場合における贈与時期

 主な「みなし贈与」の場合における贈与時期については、次のとおりです。

みなし贈与の種類贈与により取得したとみなされる財産贈与の時期
生命保険金満期等により取得した生命保険金保険事故が発生した時
定期金給付事由の発生により取得した定期金の受給権定期金給付事由が発生した時
低額譲受け低額譲受けにより受けた利益財産を譲り受けた時
債務免除等債務の免除、引受け等により受けた利益債務の免除があった時
その他利益の享受その他の理由により受けた経済的な利益利益を受けた時
信託に関する権利委託者以外のものを受益者とする信託の効力が
生じた場合等の信託に関する権利又は利益
信託の効力が生じた時等