外貨預金の利子
国内銀行に外貨預金を行った場合は、円での預金と同様に、利子に20.315%(所得税等15.315%、住民税5%)の源泉分離課税が行われ、申告は不要です。納税手続きを銀行が行い、そこで終了します。
ただし、国外で支払われ国内で源泉徴収されない預金利子は、利子所得として総合課税の対象となります(なお、所得税法上の非永住者については、国外源泉所得の課税範囲が異なります)。
為替差損益
円貨から外貨預金に預け入れた場合は、為替差損益を認識する必要がありません。ただし、将来、また円貨にする場合もあると思いますので、その預入時のレート(原則TTM、電信売買相場の仲値)による金額を控えておく必要があります。
例えば、1ドル100円の時に、100万円を1万ドルにした段階では、為替差損益を認識する必要がありません。その後、1ドル130円の時に、その1万ドルを130万円とした場合に、(130円-100円)×1万ドル=30万円の為替差益を認識する必要があります。
レートは、原則として、取引日においてのTTM(電信売買相場の仲値)で換算します(所基通57の3―2)。
このように、一般の個人が外貨預金を円貨に交換(円転)した場合には、為替差損益を所得として認識する必要があり、その為替差損益は原則として「雑所得(その他)」に含まれ、総合課税の対象となります(国税庁HP「こんな収入の申告漏れにご注意」)。
この為替差損益は、納税者自身で計算する必要があります。為替差損によって総合課税の雑所得に赤字が生じた場合には、雑所得の金額の計算上、他の総合課税の雑所得の黒字と内部通算することができます。
ただし、その赤字を給与所得、事業所得など他の所得区分から控除する所得税法69条の「損益通算」はできません。また、申告分離課税とされる雑所得等とは別に計算します。
円貨に交換した時の為替レートが、外貨の取得時よりも円安になっていれば為替差益となり、円高になっていれば為替差損が生じるということです。
例えば、外貨建預金を払い出し、その外貨で外国株式を購入した場合にも、その外貨について為替差損益を認識する必要があります(最高裁令和8年6月16日第三小法廷判決・令和5年(行ヒ)366号)が、一般の個人について、このような為替差損益は原則として雑所得となります(東京地裁令和5年3月9日判決・税資273号・順号13827)。
外国株式の売買を頻繁に行う場合には、外貨資金を外貨預金、外貨建MMFその他の金融商品のいずれで保有するかによって、所得区分や損益計算の方法が異なることがあります。
商品選択に当たっては、それぞれの課税関係や商品性等を踏まえて判断する必要があります。
なお、すでに保有している含み益のある外貨預金から外貨建MMFへ切り替える場合には、その切替時点で外貨預金に係る為替差損益を認識する必要があります(国税庁HP質疑応答事例「預け入れていた外貨建預貯金を払い出して外貨建MMFに投資した場合の為替差損益の取扱い」)。
雑所得となる問題点
為替差損益が雑所得(総合課税)となる場合、国内FXの雑所得(分離課税)と違って、税務上、非常に厳しい取り扱いとなっています。
プラスがでれば総合課税により、他の所得(給与所得、事業所得、不動産所得等)と合算されて税金がかかりますが、総合課税の税率は累進税率の為、プラスがでればでるほど、税負担率が重くなります。
一方、マイナスとなった場合は、他の雑所得のプラスとは相殺できますが、他の所得(給与所得、事業所得、不動産所得等)とは相殺(損益通算)できません。また、そのマイナスを翌年に繰り越すようなこともできません。
外貨取引自体による為替差損益が事業所得に該当することが難しい理由
一般の個人の方の外貨取引自体による為替差損益は、原則として、雑所得となりますが、個人事業主が決済するため等事業の遂行上保有している外貨建預金を円貨に交換することによって生じた為替差損益は事業所得の計算上総収入金額または必要経費に算入します(下記の方で説明しています)。
なお、外貨取引自体による為替差損益も、事業とよべる規模で行っていれば、事業所得となる可能性はありますが、暗号資産の取引が事業所得と認められることが難しいのと同様に、外貨取引自体による為替差損益を事業所得とするのは、相当、ハードルが高いといえます。
外貨取引自体が事業所得に該当するかは、取引量や継続性、営利性、人的・物的設備、当該取引に費やす労力、他の職業・所得との関係、生活状況等を総合し、社会通念上事業と称する程度で行われているかによって個別に判定されます。
令和2年3月10日裁決(東裁(所)令元第84号)では、以下のように判断しています。
「請求人は、資金調達手段や情報収集のための特別な機構を有することなく、また特別の人的・物的設備を整えることもなく本件外貨取引を行っていたといえる。また、請求人は、個人事業主として、その後会社を設立して給与により、多額の所得を得ているのに対し、外貨預金口座からの払出しの回数は少なく、本件外貨取引による利益も得ていないことからすれば、請求人は、客観的にみれば、本件事業又は本件会社を営み、これらによる安定した収入を得て生活費を賄いつつ、その傍らで、本件外貨取引を行っていたものというほかない。これに加え、本件外貨取引は、その実態を踏まえると、相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性も乏しいものといえるから、本件外貨取引は、社会通念に照らして、対価を得て継続的に行う事業に該当するということはできない。したがって本件為替差損に係る所得は、事業所得に該当せず、雑所得に該当する。」
東京地裁令和4年8月31日判決(税資272号・順号13749)では、以下のように判示しています。
「(ア) 事業所得は、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得であるところ〔最高裁昭和52年(行ツ)第12号同56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁〕、所得を生じた原因が上記の業務に該当するかどうかについては、納税者自身が当該業務の内容を企画してこれを遂行したといえる実態の有無及び程度、業務の遂行に当たって納税者が担っていた役割や負担の内容のほか、その者の社会的地位等を総合的に考慮し、社会通念によって判断すべきである。
(イ) 本件各取引は、本件外国銀行が、本件投資一任契約に基づき、原告の投資戦略及び具体的投資指図の範囲内で、自らの絶対的な裁量の下で行ったものであり、個別の取引内容は、いずれも本件外国銀行の投資判断により決定されたものといえる(略)。また、原告の投資戦略といっても、本件外国銀行が提示した三つの基本的な投資戦術のパッケージの中から「収益型」が選択されたものであるし(略)、原告の具体的投資指図といっても、中国や発展途上国のリスクにさらされないという抽象的なものにとどまっていること(略)からして、原告の知識や経験が本件各取引の内容を決定するに際して具体的に活用された形跡はうかがわれない。しかも、本件各年において、原告は、J社又はK社から生計を維持するのに十分な給与所得を得ていたのであるから(略)、本件投資一任契約は、原告の余剰資金の増殖を目的としたものであったということができる。
(ウ) これらのことからすると、本件各取引の内容について、原告自らが企画遂行していたという実態は存在せず、本件各取引の遂行に当たっての原告が担っていた役割や負担は、基本的に余剰資金の提供にとどまっていたということができるから、本件各取引は、原告によって、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であるということはできない。
(エ) そのため、本件各取引に係る為替差損益から生ずる所得が事業所得に該当することもない。」
為替差損益が譲渡所得に該当しない理由
東京地裁令和5年3月9日判決(税資273号・順号13827)では、以下のように判示しています。
「譲渡所得とは、ある資産の所有期間中に生じた増加益を清算して課税する趣旨のものである以上、譲渡所得の課税対象となる資産とは、その価値の増加益を観念できるものを指すものというべきである。
ここで、貨幣とは、商品の価値尺度や交換手段として社会に流通するものを指すところ、その性質に照らせば、貨幣自体の価値の増加又は減少を観念することはできない(そして、この理解は、その貨幣が日本で強制通用力を有する円貨であるか、外貨であるかを問わず妥当する)ものというべきである。この点、貨幣と同じく価値尺度としての側面を有する暗号資産につき、その譲渡原価等の計算及びその評価の方法を定める法48条の2において、暗号資産の譲渡により生じた利益が事業所得又は雑所得に該当することを前提にその必要経費に算入する金額を定める旨定めているのも、かかる理解に基づくものと解することができる(なお、同条の制定時の国会審議の際に、政府参考人は、外貨も価値尺度たる貨幣であることから、当該外貨自体の値上がり益を考慮することはできない旨の発言をしている。(略))。
そうすると、為替差損益、すなわち外貨と円貨の交換により生じた損益も、当該外貨自体の価値の増減によるものではないこととなるから、譲渡所得の対象となる資産には該当せず、他の類型の所得にも該当しないため雑所得に区分されることとなる。」
第198回国会 参議院 財政金融委員会 第3号 平成31年3月14日で、当時の国税庁次長であった並木稔氏は以下のように説明しています。
「今おっしゃいましたところの譲渡所得の起因となる資産とは、一般的にその経済的価値が認められて取引の対象とされまして、増加益が生じるような全ての資産が含まれるものと解されているところでございますけれども、その増加益が資産の価値の増加益とは異なる性質を持つ資産については譲渡所得の起因となる資産には該当しないというふうに考えております。
御指摘のいわゆる暗号資産については、先ほど申し述べたところでございますけれども、資金決済法上、対価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値と規定されておりますし、消費税法上も支払手段に類するものとして位置付けられていることから、外国通貨と同様に、その譲渡益等は資産の値上がりによる譲渡所得とは性質を異にするものであると考えております。
したがいまして、国税当局としては、いわゆる暗号資産の譲渡による所得は一般的に譲渡所得には該当せず、雑所得に該当するものと取り扱っているところでございまして、いわゆる暗号資産は譲渡所得の起因となる資産には該当しないものと考えております。」
https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=119814370X00320190314
総平均法に準ずる方法
複数回にわたり取得した外貨預金の払出しに係る取得原価については、課税実務上『総平均法に準ずる方法』が用いられており、東京地裁令和5年3月9日判決(税資273号・順号13827)等過去のいくつかの裁判例・裁決例でも同方法による算定を合理的なものとして是認しています。
ただし、外貨の取得原価の計算方法を直接定めた所得税法上の規定はありません。
具体的な計算方法については、「外貨預金の払出しに伴って生じる為替差損益の具体的な算定方法(総平均法に準ずる方法)」のページまで。
外貨預金の円換算額(取得価額)が不明の場合
概算取得費とは、いわゆる5%規定であり、売却価額の5%を取得費とすることができる規定で譲渡所得の場合、利用できます。
土地建物等の取得費(措法31の4、措通31の4-1)、土地建物等以外の資産の取得費(所基通38-16)、株式等の取得価額(措通37の10・37の11共-13)、有価証券の取得価額(48-8)となっています。
また、為替差損益と同じ雑所得に該当する暗号資産の取得価額については、売却価額の5%相当額とすることが認められています(所基通48の2-4)が、外貨については株式や暗号資産等のような5%の概算取得費の明文上の取扱いはありません。
取得時の資料がない場合には、預金取引履歴、送金記録、給与明細その他の資料から取得時期・取得原価を可能な限り復元する必要があります。
資料不足により推計が必要となる場合の計算方法について、国税庁から一般的なセーフハーバーは示されていません。
国外在住の時から所有していた外貨預金から円貨にする
非居住者期間中から保有していた自国通貨を、日本の居住者となった後に円貨へ交換した場合について、公開された国税庁の質疑応答事例等では取得原価の取扱いが明確に示されていません。
特に、居住者となった時点以前から保有している外貨について、為替差損益計算上の取得原価をいかに設定するかは、所得税法上明文規定がなく、検討を要する問題です。
年度末換算
法人は外貨建資産等の区分や選定された期末換算方法等に従います。
しかし、個人では年度末での円換算行いません。所得税法は法人税法と異なり、外貨建資産負債に関する期末時換算の定めがないためです。
個人事業主の場合
為替差損益
個人事業主の場合も、原則として、上記までの考え方がベースとなりますが、若干、考え方が違う部分があります。
原則として、取引日においてTTM(電信売買相場の仲値)で換算しますが、継続適用を条件に、収益・資産はTTB(電信買相場)、費用・負債はTTS(電信売相場)を適用することも認められています(所基通57の3―2)。
また、取引ごとに換算をするのが原則ですが、多通貨での取引がある場合は、換算方法の原則を貫こうとすると所得計算が煩雑になります。
そのため、外貨建取引を取引発生時には外国通貨で記録し、各月末等一定の時点において日本円に換算するといういわゆる多通貨会計を採用している場合において、外貨建取引の換算に当たり、各月末等の一定時点で一括して日本円に換算することができます(所基通57の3―3)。
この方法では、各月末等において、1月以内の一定期間ごとの一定時点での為替相場か、一定期間の平均値をもって円換算します。つまり、取引ごとではなく、一定時点を外貨建取引の発生時として処理してよいということになります。
所得区分
事業上生じた為替差損益は、事業所得となります。例えば、事業の遂行上保有している外貨建預金を円貨に交換することによって生じた為替差損益は事業所得の計算上総収入金額または必要経費に算入します。
年度末換算
個人事業主の場合も、一般の個人と同じで年度末での円換算行いません。よって、為替差損益は生じないことになります。
ただし、国外で業務を行い外国通貨表示の損益計算書等を作成する一定の場合には、所得税基本通達57の3-6による換算の特例的取扱いがあります。
サラリーマンと年金受給者のいわゆる20 万円以下規定
以下に該当するときは、所得税においては申告不要とすることができます。
① 給与収入が2,000万円以下で、給与を1か所から受け、その全部が源泉徴収の対象となっている給与所得者について、給与所得及び退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下である場合(給与を2か所以上から受けている場合には別途判定が必要)
② 年金受給者(公的年金等の収入金額が 400万円以下の者に限る)で公的年金等に係る雑所得以外の所得金額の合計額が20万円以下の場合
よって、一定の給与所得者については、給与所得・退職所得以外の所得が20万円以下であれば所得税の確定申告を要しません。ただし、医療費控除等のため確定申告をする場合には、この20万円以下の所得も申告する必要があります。
なお、所得税の20万円以下の申告不要制度は住民税にはそのまま適用されないため、住民税の申告が必要となる場合があります。
また、上記に該当する年金受給者の方も同様です(源泉徴収対象外の一定の外国公的年金等を受給している場合は申告不要制度を利用できません)。
なお、公的年金は雑所得であるため、為替差損(雑所得のマイナス)が出た場合は、公的年金による雑所得のプラスと為替差損による雑所得のマイナスは相殺することができます。
年金受給者で税金を払っていて、かつ、為替差損が生じた場合は、相殺するために確定申告をするとよいでしょう。
支払調書
外貨預金の利子及び為替差益については、支払調書が提出されません。このことも、納税者が為替差益を自ら把握して申告する必要があることを認識しにくい一因と思われます。


