暗号資産

暗号資産の譲渡

 暗号資産の売却(円転)、暗号資産での商品の購入又は暗号資産同士の交換を行う取引は、いずれも暗号資産の譲渡に該当します。

 譲渡した場合は、譲渡損益(所得)が生じます。

暗号資産の譲渡損益の計上時期

 暗号資産の譲渡等に係る契約をした日(約定日)の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入することになります(法法61①)。

暗号資産の譲渡所得金額の計算方法

 暗号資産の譲渡所得金額は、次のとおり計算します(法法61①、法令118の6)。

譲渡所得金額 = 暗号資産の譲渡により通常得べき対価の額 - 暗号資産の譲渡原価

暗号資産の譲渡原価

 暗号資産の譲渡原価は、次のとおり計算します(法法61①二、法令118の6①)。

譲渡原価 = 暗号資産の1単位当たりの帳簿価額 × その譲渡をした暗号資産の数量

 1単位当たりの帳簿価額の計算は、移動平均法又は総平均法により算出する(法法61⑩、法令118の6①③)こととされており、法定評価方法は移動平均法です(法法61①二カッコ書き、法令118の6⑦)。

移動平均法 同じ種類の暗号資産について、暗号資産を取得する都度、その取得時点において保有している暗号資産の簿価の総額をその時点で保有している暗号資産の数量で除して計算した価額を「取得時点の平均単価」とし、その年12月31日から最も近い日において算出された「取得時点の平均単価」を「年末時点での1単位当たりの取得価額」とする方法をいいます。
総平均法 同じ種類の暗号資産について、年初時点で保有する暗号資産の評価額とその年中に取得した暗号資産の取得価額との総額との合計額をこれらの暗号資産の総量で除して計算した価額を「年末時点での1単位当たりの取得価額」とする方法をいいます。

 総平均法を採用する場合には、暗号資産を取得した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までに、納税地の所轄税務署長に届出等をする必要があります(法令118の6④)。 なお、この算出方法は暗号資産の種類等ごとに選定することとされています。

〇短期売買商品等の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_53.htm

 既に取得していた暗号資産の種類等を同じくする暗号資産を取得した場合は、既に適用している算出方法で算出します。

 1単位当たりの帳簿価額の算出方法を変更する場合には、変更する事業年度開始の日の前日までに納税地の所轄税務署長に変更承認申請書の提出をする必要があります(法令118の6⑥、法規26の8)。

 変更前の評価方法を採用してから相当期間(特別の理由がない場合には3年)を経過していないときや、変更しようとする評価方法によっては所得金額の計算が適正に行われ難いと認められるときは、その申請が却下される場合があります(法基通2-3-64(2)、5-2-13)。

〇棚卸資産の評価方法・短期売買商品等の一単位当たりの帳簿価額の算出方法・有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の変更承認申請書
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_19.htm

暗号資産の法人税法上の期末時価評価

令和6年度税制改正

 令和5年度税制改正において、市場暗号資産であっても、以下の要件に該当する暗号資産は原価法となり、期末時価評価課税の対象から除外されていました。

➀ 自己が発行した暗号資産でその発行の時から継続して保有しているものであること。
➁ その暗号資産の発行の時から継続して次のいずれかにより譲渡制限が行われているものであること。
  (イ)他の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。
  (ロ)一定の要件を満たす信託の信託財産としていること。

 令和6年度税制改正では、法人が所有する市場暗号資産に該当する暗号資産で、譲渡制限その他の条件が付されている暗号資産(以下「譲渡制限の暗号資産」)の期末における評価額は、原価法・時価法のいずれかの評価方法を法人が選定できるようになります(評価方法を選定しなかった場合には、原価法となります。)。

 下記の要件に該当する暗号資産を、譲渡制限の暗号資産といいます。

① 他の者に移転できないようにする技術的措置がとられいていること等その暗号資産の譲渡についての一定の制限が付されていること。
② 上記①の制限が付されていることを認定資金決済事業者協会において公表させるため、暗号資産交換業者に対して上記①の制限が付されている旨の通知等をしていること。

 つまり、自己発行継続保有だけでない譲渡制限の暗号資産でも、原価法により評価できるということになりました。

市場暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産)

 法人が事業年度終了の時において有する活発な市場が存在する暗号資産(「市場暗号資産」といいます。)については、時価法により評価した金額(「時価評価金額」といいます。)をもって、その時における評価額とする必要があります(法法61②、法令118の7)。

 市場暗号資産とは、法人が保有する暗号資産のうち次の要件の全てに該当するものをいいます(法令118の7)。

イ 継続的に売買価格等が公表され、かつ、その公表される売買価格等がその暗号資産の売買の価格又は交換の比率の決定に重要な影響を与えているものであること。
ロ 継続的に上記イの売買価格等の公表がされるために十分な数量及び頻度で取引が行われていること。
ハ 次の要件のいずれかに該当すること。
 (イ) 上記イの売買価格等の公表がその法人以外の者によりされていること。
 (ロ) 上記ロの取引が主としてその法人により自己の計算において行われた取引でないこと。

 法人が市場暗号資産をステーキングによる報酬を得るためにロックアップ(暗号資産を他に移転できないような仕組みを採用)を行っている場合や、使用料を得るために貸付けをしている場合も、法人税法上の期末時価評価の対象となり、評価額と帳簿価額との差額を益金の額又は損金の額に算入することとなります(国税庁HP「令和5年1月20日付、法人が保有する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いについて(情報 )」)。

 なお、時価評価金額は、暗号資産の種類ごとに次のいずれかにその暗号資産の数量を乗じて計算した金額とされています(法法61②、法令118の8)。

① 価格等公表者によって公表されたその事業年度終了の日における市場暗号資産の最終の売買の価格
② 価格等公表者によって公表されたその事業年度終了の日における市場暗号資産の最終の交換比率×その交換比率により交換される他の市場暗号資産に係る上記①の価格

 その市場暗号資産を自己の計算において有する場合には、その評価額と帳簿価額との差額(「評価損益」といいます。)は、その事業年度の益金の額又は損金の額に算入する必要があります(法法61③④)。

 また、この評価損益は翌事業年度で洗替処理をすることになります(法令118の9①④)。

当期の処理翌期の処理
評価益の益金算入評価益と同額を損金算入
評価損の損金算入評価損と同額を益金算入
(X1年度期末)
暗号資産 〇円 / 暗号資産運用損益 〇円
 
(X2年度期首)
暗号資産運用損益 〇円 /  暗号資産 〇円

活発な市場が存在しない暗号資産

 活発な市場が存在しない暗号資産は、原価法となります。

暗号資産信用取引

 暗号資産信用取引とは、「暗号資産交換業者(資金決済法2⑦)」から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいいます。

暗号資産信用取引の譲渡損益の計上時期

それぞれ次の日の属する事業年度に計上することになります。

暗号資産の売付けをし、その後に買付けをして決済するものその決済に係る買付けの契約をした日
暗号資産の買付けをし、その後に売付けをして決済するものその決済に係る売付けの契約をした日

暗号資産信用取引の譲渡所得金額の計算方法

 暗号資産の信用取引の譲渡所得金額は、次のとおり計算します(法法61⑨、法令118の6⑨)。

譲渡所得金額 = 売付け価額 - 買付け価額

 暗号資産信用取引の方法により暗号資産の売付け又は買付けを行った者が、当該暗号資産信用取引に関し、暗号資産交換業者に支払う又は暗号資産交換業者から支払を受ける次に掲げるものは、それぞれ次によります(法基通2-3-62)。

(1) 売付けを行った者が暗号資産交換業者から支払を受ける金利に相当する額は、売付けに係る対価の額に含めます。
(2) 売付けを行った者が暗号資産交換業者に支払う買委託手数料及びいわゆる品貸料の額は、買付けに係る対価の額に含めます。
(3) 買付けを行った者が暗号資産交換業者に支払う買委託手数料及び金利に相当する額は、買付けに係る対価の額に含めます。
(4) 買付けを行った者が暗号資産交換業者から支払を受けるいわゆる品貸料の額は、売付けに係る対価の額に含めます。

 ただし、売買委託手数料を除き、継続適用を条件として、その発生に応じて収益又は費用として益金の額又は損金の額に算入している場合は、それが認められます。

暗号資産信用取引の譲渡原価

 買付け価額の譲渡原価は、個別法により計算した金額となります。

暗号資産信用取引に係るみなし決済損益額

 法人が暗号資産信用取引を行った場合で、事業年度終了の時において決済されていないものがあるときは、事業年度終了の時に決済したものとみなして算出した利益の額又は損失の額に相当する金額(「みなし決済損益額」といいます。)をその事業年度の益金の額又は損金の額に算入します(法法61⑦⑧、法規26の10)。

 なお、みなし決済損益額を計上した場合は、翌事業年度で洗替処理をします(法令118の11①)。

消費税の取扱い

 国内の暗号資産交換業者を通じた暗号資産の譲渡には、消費税は課されません(消法30⑥、消令9④、48②一)。つまり、国内取引に係るものであっても、暗号資産の譲渡対価は課税売上割合の計算上資産の譲渡対価の額には含まれません。