概算

 例えば、相続人甲がA宅地とB宅地を相続したとします。

 A宅地とB宅地のどちらの宅地も小規模宅地等の特例が利用できるのだが、甲はA宅地を選択特例対象宅地等として相続税の申告をしたとします。

 ただし、その後、B宅地を選択特例対象宅地等とした方が納税上有利であることが判明したとします。

 この場合、更正の請求ができるのかというとできません。

 同様に、他に申告漏れ財産があることが判明したことによる修正申告の際に、A宅地に替えてB宅地を選択特例対象宅地等とすることもできません。

令和3年7月13日裁決(熊裁(諸)令3第1号)(棄却)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人X及びY(以下「Xら」という。)の母である甲が死亡し、甲に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
 なお、本件相続に係る相続人は、Xら2名である。

② Xらは、本件相続によって、甲及びXらが居住の用に供していたA宅地248.5平方メートル(以下「本件居住用宅地」という。)、甲が貸付の用に供していたB宅地358.09平方メートル(以下「本件貸付用宅地」という。)及び本件居住用宅地の上に存する家屋を、それぞれ2分の1の割合で取得した。

③ Xらは、平成29年2月、原処分庁に対し、本件相続に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を共同で提出した。
 なお、本件申告書には、措置法69条の4第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)について、本件居住用宅地のうち各持分に応ずる面積である124.25平方メートルの部分を特定居住用宅地等である小規模宅地等として選択して適用する旨がそれぞれ記載され、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類が添付されていた。

④ Xらは、令和2年7月、原処分庁に対し、本件貸付用宅地のうち各持分に応ずる面積である179.045平方メートルの部分が貸付事業用宅地等である小規模宅地等に該当するから、本件特例の適用を本件居住用宅地から本件貸付用宅地へ変更するとして、更正の請求(以下「本件各更正請求」という。)をした。

⑤ 原処分庁は、令和2年9月、Xらに対して、本件各更正請求について更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をした。

(2)本件の主な争点

 本件各更正請求は、国税通則法(以下「通則法」という。)23条1項1号に規定する更正の請求ができる場合に該当するか否かである。

(3)裁決要旨(棄却)

① 通則法23条1項1号に規定する更正の請求ができる事由は、納税申告書の提出により確定している納付すべき税額が過大であることのみでは、その事由とはならず、当該過大となったことが、課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことに基づいている場合に限定されている。
 したがって、課税標準等の計算の特例又は減免等の規定において、納税者に一定事項の申告及び選択等を条件としてその規定の適用を受けることを委ねている場合には、一旦、自由な意思でこれらの規定に従い、かつ、適法な計算に基づいて申告書を提出し税額を確定させた場合、後日、その一定事項の申告及び選択等の内容を変更することを理由に更正の請求をすることはできないと解される。

② Xらは、本件特例の規定に従って、本件居住用宅地に本件特例を適用することを選択して本件申告書を提出しているところ、本件居住用宅地は本件特例の適用要件を充足しており、その申告手続は適法に行われ、本件申告書に記載された課税標準等又は税額等はいずれも適法に計算されていると認められることから、本件申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が、国税に関する法律の規定に従っていなかった又は当該計算に誤りがあったとは認められない。
 したがって、本件各更正請求は、通則法23条1項1号の規定による更正の請求ができる場合に該当しない。

③ Xらは、本件貸付用宅地の面積の各持分割合に応ずる部分を貸付事業用宅地等である小規模宅地等として本件特例を適用して相続税の計算をすべきであったことから、本件申告書には計算誤りがあり、相続税が過大に計算されているから、通則法23条1項1号に規定する更正の請求ができる場合に該当する旨主張する。
 しかしながら、Xらは、本件特例の適用を受けるために、一旦、本件居住用宅地を適法に選択して申告した以上、後日、その選択した内容の変更を理由に更正の請求をすることは認められないから、Xらの主張は採用できない。