概要

 相続財産である宅地等が、相続の開始の直前において、被相続人等の貸付事業の用に供されていて、建物の敷地の用に供されているもの(措法69の4①)であって、被相続人の親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していることなどの要件を満たす「貸付事業用宅地等(200㎡を限度)」(措法69の4③四)に該当するときは、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下、「本件特例」という。)を適用することができます(3年以内貸付宅地等を除く。)。

 ただし、本件特例の適用を受けようとする宅地等のうちに被相続人等の事業の用以外の用に供されている部分があるときは、当該被相続人等の本件特例に規定する事業の用に供されていた部分に限ります(措令40の2④)。

 そして、貸付事業の用に供されていた宅地等であるか否かは、相続開始の時において、当該宅地等が現実に貸付事業の用に供されていたかどうかにより判定することを原則としつつ、貸付事業の用に供されていた宅地等には、貸付事業に係る建物のうちに相続開始の時において一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合には当該部分に係る宅地等の部分も含まれます(措通69の4-24の2)。

 なお、貸家建付地の評価においても、「一時的に賃貸されていなかったと認められる」場合には、空室部分の宅地等も含めて減額が認められています(評価通26(注)2)が、アパート等の一部に空室がある場合の一時的な空室部分が、「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる」部分に該当するかどうかは、その部分が、①各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか、②賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか、③空室の期間、他の用途に供されていないかどうか、④空室の期間が課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であったかどうか、⑤課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうかなどの事実関係から総合的に判断するとされています(国税庁HP質疑応答事例「貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲」)。

 一方、本件特例における「一時的に賃貸されていなかったと認められる部分」が貸付事業用宅地等に含まれる旨(措通69の4-24の2)は示されていますが、具体的な判断基準等は示されていません。

 ただし、貸家建付地と本件特例の「一時的に賃貸されていなかったと認められる部分」の考え方は、基本的には同様であると考えられているため、本件特例についても前述の事実関係から総合的に判断することが基本になります。

 令和5年4月12日裁決(裁事131集)では、「一時的に賃貸されていなかったと認められる部分」場合について、以下のように判断しています。

「賃貸借契約が相続開始の時に終了していたものの引き続き賃貸される具体的な見込みが客観的に存在し、現に賃貸借契約終了から近接した時期に新たな賃貸借契約が締結されたなど、相続開始の時の前後の賃貸状況等に照らし、実質的にみて相続開始の時に賃貸されていたのと同視し得るもの(略)。」

 また、国税庁HP「共同住宅の一部が空室となっていた場合(平成22年7月13日付情報)」では、以下のように記載されています。

「空室となった直後から不動産業者を通じて新規の入居者を募集しているなど、いつでも入居可能な状態に空室を管理している場合は相続開始時においても被相続人の貸付事業の用に供されているものと認められ、また、申告期限においても相続開始時と同様の状況にあれば被相続人の貸付事業は継続されているものと認められる。」

相続開始時に共同住宅の貸室の一部が空室であったことは、一時的に賃貸されていなかったものとは認められないため、その敷地の当該空室に対応する部分は、貸付事業用宅地等に該当せず、小規模宅地等の特例の適用はないとされた事例-令和5年4月12日裁決(裁事131集)(棄却)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 被相続人Gは、令和元年10月に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
 本件相続に係る共同相続人は、いずれもGの子であるH及び審査請求人Xの2名である。
② 本件相続に係る遺産分割協議は、令和2年3月に成立し、本件相続に係る相続財産のうち次表の順号1の土地(以下「本件宅地」という。)及び本件宅地の上に存する同表の順号2の建物(以下「本件共同住宅」という。)をXが取得し、Gの貸付事業を引き継いだ。

順号財産の種類地目又は種類(構造)地積又は床面積
1土地宅地181.85㎡
2建物共同住宅
(木造2階建全8部屋)
185.08㎡

③ Gは、平成20年5月、不動産業者Kとの間で、本件共同住宅に関して一般媒介契約を締結していた。なお、本件共同住宅に関して、GとKは上記契約以外の契約は締結しておらず、Kは本件共同住宅に係る集金業務及び管理業務を行っていない。
 本件共同住宅については、平成20年5月頃から本件申告書の提出期限(以下「本件申告期限」という。)に至るまで、複数の不動産業情報サイト(以下「本件各情報サイト」という。)に、問合せ先をKとして入居者の募集をする旨の広告が掲載されていた。
 なお、Kでは、オーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続しており、また、広告の掲載のみでは手数料を取らず、新たに入居者があるときに仲介手数料を取っている。
 Kは、平成20年5月にGと上記の一般媒介契約を締結してから、本件申告期限に至るまでの間、本件共同住宅に関して入居者を仲介した実績はない。
 また、Kは、1か月に1回程度、広告掲載の依頼者に入居の状況を確認しているところ、平成26年当時の本件共同住宅について、102号室、105号室、202号室、203号室及び205号室が空室であると把握していたが、Gと連絡が取れなかったことにより、平成27年以降の本件共同住宅の空室の状況を把握していない。なお、下記のとおり、平成26年当時の本件共同住宅の105号室は、実際には空室ではなく賃貸中であった。
 本件共同住宅は、木造2階建て全8部屋で構成されており、本件相続の開始の直前において、101号室、103号室及び105号室の3部屋が貸し付けられ(以下、当該3部屋を「本件各貸付部分」という。)、102号室、201号室、202号室、203号室及び205号室の5部屋が空室であった(以下、当該5部屋を「本件各空室部分」という。)。

部屋
番号
賃貸状況《本件相続の開始の時の賃貸状況が次の場合》
賃貸中:賃貸借契約日
空室:空室時期(本件相続の開始の時までの期間)
本件相続
の開始の時
本件申告
期限
101賃貸中賃貸中平成13年6月9日契約
102空 室空 室平成27年4月以前から空室(4年6か月以上)
103賃貸中賃貸中平成15年4月30日契約
105賃貸中賃貸中平成25年5月15日契約
201空 室空 室令和元年8月から空室(約2か月)
202空 室空 室平成27年4月以前から空室(4年6か月以上)
203空 室空 室平成27年4月以前から空室(4年6か月以上)
205空 室空 室令和元年5月から空室(約5か月)

④ Xは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までにHと共同で提出した。
 相続開始の直前において、本件共同住宅の8部屋あるうち5部屋が空室(本件各空室部分)であったが、Gは、本件共同住宅を貸付事業以外の用に供さず維持管理を行い、インターネットサイトで本件各空室部分の入居者の募集をしていたことから、X及びHは、本件申告書において、本件宅地の全てが貸付事業の用に供されていたとして、本件宅地の全てに租税特別措置法69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》1項に規定する特例(本件特例)を適用した価額を課税価格に算入した。
⑤ 原処分庁が、当該宅地の一部は当該特例を適用することができないとして相続税の更正処分等をしたのに対し、Xが処分の取消しを求めた。

(2)本件の主な争点

 本件各空室部分に係る本件宅地の部分に本件特例の適用があるか否かである。

(3)裁決要旨(棄却)

① 本件相続の開始の直前において、本件宅地が貸付事業の用に供されていたと認められるのは、本件共同住宅のうち貸付事業の用に供されていた部分に係る本件宅地の部分に限られることとなり、その判定は、措置法通達69の4-24の2の定めによることが相当であるところ、本件共同住宅の賃貸の状況は、本件相続の開始の時において、本件各貸付部分と本件各空室部分があることから、それぞれの部分に係る本件宅地の部分について、貸付事業の用に供されていたと認められるか否かを検討する。
② 本件各貸付部分は、本件相続の開始の時において、各賃借人に貸し付けられていたから、本件各貸付部分に係る本件宅地の部分は、本件相続の開始の直前において、Gの貸付事業の用に供されていたと認められる。
③ 本件各空室部分については、本件相続の開始の時において、いずれも貸し付けられておらず空室であった。そこで、本件各空室部分が、一時的に賃貸されていなかったと認められるものであるか否かについて検討する。
 この点、本件各空室部分のうち102号室、202号室及び203号室については、平成27年4月以前から空室であり、本件相続の開始の時において少なくとも4年6か月以上の長期にわたって空室の状態が続いていたのであるから、客観的に空室であった期間だけみても、実質的にみて本件相続の開始の時に賃貸されていたのと同視し得る状況にはなかったというべきであるから、一時的に賃貸されていなかったものとは認められない。
 また、本件各空室部分のうち201号室及び205号室については、本件相続の開始の時から約2か月前又は約5か月前にそれぞれ入居者が退去しており、空室であった期間は長期にわたるものではない。しかしながら、これらの空室についても、本件相続の開始の時において一時的に賃貸されていなかったものとは認められない。Gは平成20年にKと一般媒介契約を締結し、本件各情報サイトには本件相続の開始の時においても本件共同住宅の入居者を募集する旨の広告が掲載されていたものの、Kが本件共同住宅に関して入居者を仲介した実績がないこと、KがGと連絡が取れなかったことにより平成27年以降の本件共同住宅の空室の状況を把握していなかったこと、Kではオーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続する扱いをしていたことからすれば、平成27年以降においては、Gが上記一般媒介契約及び上記広告を放置していたにすぎず、積極的に本件共同住宅の新たな入居者を募集していたとはいえない。現に、本件各空室部分のうち201号室及び205号室については、本件申告期限までの期間をみても、新たな入居者はなく、空室のままの状態であった。
 そうすると、本件各空室部分のうち201号室及び205号室についても、本件相続の開始の時の約2か月前又は約5か月前にそれぞれ入居者が退去した後は、賃貸される具体的な見込みがあったとはいえず、空室のままの状態にされていたというほかないから、実質的にみて本件相続の開始の時に賃貸されていたのと同視し得る状況にはなく、一時的に賃貸されていなかったものとは認められない。
 以上からすれば、本件各空室部分は、いずれも、一時的に賃貸されていなかったとは認められないから、本件相続の開始の直前において、本件各空室部分に係る本件宅地の部分は、Gの貸付事業の用に供されていたとは認められない。
④ 本件各貸付部分に係る本件宅地の部分は、Gの貸付事業の用に供されており、Xが本件相続の開始の時から本件申告期限までの間に本件宅地に係るGの貸付事業を引き継ぎ、本件申告期限まで引き続き本件宅地を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していると認められるから、措置法69条の4第3項4号に規定する「貸付事業用宅地等」に該当する。
 他方で、本件各空室部分に係る本件宅地の部分は、Gの貸付事業の用に供されていたとは認められず、また、Xが本件相続の開始の時から本件申告期限までの間に本件宅地に係るGの貸付事業を引き継ぎ、本件宅地を貸付事業の用に供していたとも認められないから、措置法69条の4第3項4号に規定する「貸付事業用宅地等」に該当しない。
 したがって、本件各空室部分に係る本件宅地の部分は、本件特例を適用することができない。