概要

 夫婦が離婚をすると一方はその相手方に財産の分与を請求することができます(民法768)。

 財産分与請求権には、(1)婚姻中に夫婦が協力して蓄積、維持してきた財産の清算、(2)離婚後の生活扶助、(3)慰謝料などの性質があるとされています。

贈与税

 この離婚による財産の分与によって取得した財産には、原則として贈与税は課税されませんが、その財産の価額が、婚姻中の夫婦の協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお不当に多すぎると認められる場合の、その不当に多すぎる部分や、離婚を手段として贈与税や相続税を免れようとするためのものである場合には、その財産は贈与により取得したものとして贈与税が課税されます(相基通9-8)。

財産分与した側の譲渡所得

譲渡所得

 離婚に伴い、財産の分与として資産の譲渡があった場合には、その分与をした者に対して、そのときの時価により資産の譲渡があったものとして譲渡所得の課税が行われることとされています(所法33、36①②、所基通33ー1の4、最高裁昭和50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁、最高裁昭和53年2月16日第一小法廷判決・集民123号71頁、最高裁昭和53年7月10日第一小法廷判決・昭和53年(行ツ)38号)。つまり、分与した時の土地や建物などの時価が譲渡所得の収入金額となります。

 譲渡損失が生じた場合には、他の土地建物等の譲渡所得との損益の相殺が可能です。

最高裁昭和50年5月27日第三小法廷判決(民集29巻5号641頁)要旨

 夫婦が離婚したときは、その一方は、他方に対し、財産分与を請求することができる(民法768条、771条)、この財産分与の権利義務の内容は、当事者の協議、家庭裁判所の調停若しくは審判又は地方裁判所の判決をまつて具体的に確定されるが、右権利義務そのものは、離婚の成立によつて発生し、実体的権利義務として存在するに至り、右当事者の協議等は、単にその内容を具体的に確定するものであるにすぎない。そして、財産分与に関し右当事者の協議等が行われてその内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。したがつて、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによつて分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべく、譲渡資産について譲渡所得を生じ、課税の対象となる。

居住用財産の特例

 譲渡した資産が居住用財産である場合には、原則として、居住用財産の3000万円特別控除の特例の適用がありますが、この特別控除の特例は、その譲渡の相手方が、譲渡者の配偶者、直系血族その他特別関係者である場合には適用がないものとされています(措法35①、措令23②、20の3①)。

 つまり、離婚の成立前に夫から妻に財産分与した場合には、その譲渡が夫婦間で行われたものとして上記の特例を適用することはできません。

 特別関係者かどうかは、資産の譲渡をしたときの現況により判定するものとされていますので、離婚成立後に居住用財産を移転する財産分与の場合は、原則として特別関係者に該当しないことになります(措通31の3ー20)。

  また、特別関係者のうちの「当該個人から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの」とは、当該個人から給付を受ける金銭その他の財産又は給付を受けた金銭その他の財産の運用によって生ずる収入を日常生活の資の主要部分としている者をいうのですが、当該個人から離婚に伴う財産分与、損害賠償その他これらに類するものとして受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者は含まれないものとして取り扱うこととされています(措令20の3①四、23②、措通31の3ー23)。

 同様に、離婚による財産分与に係る譲渡損失であっても、離婚成立後に居住用財産を移転する財産分与の場合は、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措置法41の5の2)を適用することができます。また、長期居住用財産譲渡の軽減課税の適用対象になります(措法31の3)。

 譲渡資産が居住用財産であることが要件ですので、財産分与者(譲渡者)が、別居状態で当該譲渡資産に長期にわたって居住していなかったような場合には、居住用財産として取り扱うことはできないため、特例は利用できません。

財産分与を受けた側の譲渡所得

 分与を受けた人は、分与を受けた日にその時の時価で土地や建物などの資産を取得したことになります(所基通33-1の4(注)2、38-6)。

 したがって、将来、分与を受けた土地や建物を売った場合には、財産分与を受けた日を基に、長期譲渡になるか短期譲渡になるかを判定することになります。

 なお、弁護士費用等の財産分与に際して要した費用は譲渡所得の計算上取得費を構成しないものと解されています。

 分与する財産を現金で受けた場合は、譲渡所得は発生しません。

財産分与を受けた側の不動産取得税

 婚姻中の財産関係を清算する趣旨の財産分与による場合には、それが夫婦いずれに属するか明らかでないため夫婦の共有に属するものと推定される財産についてなされたものである場合は、実質的には夫婦の共有財産を離婚に伴って分別したと考えられるから、不動産取得税を課さないとする取り扱いがされています。

 ただし、夫婦の一方が、婚姻前から所有し、または婚姻中自己の名で取得した財産を財産分与に供したときは、特段の事情がない限り、離婚に対する慰藉または将来の扶養を目的としたものと認められるから、不動産取得税を課するとする取り扱いがされています。

東京地裁昭和45年9月22日判決(昭和44(ワ)3229)要旨

 離婚による慰藉料請求権は相手方の有責行為によつて離婚のやむなきにいたつたことによる精神上の損害の賠償を目的とするものであるが、これに対し、財産分与請求権は制度上、婚姻中の財産関係の清算、離婚後の扶養及び離婚に対する慰藉のいずれか、または、そのいくつかを目的とするものであると解される。

 従つて、離婚に際し配偶者の一方が他方から不動産を取得した場合、それが地方税法73条の2、1項所定の課税原因に該当するか否かは、その不動産取得の趣旨ないし目的如何にかかつている。

 すなわち、不動産の取得が婚姻中の財産関係を清算する趣旨の財産分与による場合には、それが夫婦いずれに属するか明らかでないため夫婦の共有に属するものと推定される財産(民法762条2項)についてなされたものである限り、形式的に財産権の移転が行なわれることはあつても、当然の所有権の帰属を確認する趣旨にすぎず、これによつて実質的に財産権の移転が生じるものではないと解するのが相当であるから、地方税法73条の2、1項所定の課税原因には該らないというべきである。

 これに対し、不動産の取得が離婚に対する慰藉または将来の扶養を目的とする財産分与による場合には、これによつて実質的にその不動産所有権の移転が生じるものと解するのが相当であるから、前記課税原因に該当するといつて妨げない。そして、夫婦の一方が、婚姻前から所有し、または婚姻中自己の名で取得した財産を財産分与に供したときは、特段の事情がない限り、離婚に対する慰藉または将来の扶養を目的としたものと認めるのが相当である。

財産分与を受けた側の住宅ローン控除

 離婚に伴う財産分与により前夫より住宅を取得した場合は、既に離婚していることから生計を一にする親族等からの既存住宅の取得にも該当しないことから、居住要件等その他の要件を満たしていれば、住宅を取得した者は住宅ローン控除を受けることができます(措法41①、措令26②)。

 なお、財産分与により取得した家屋が既に住宅ローン控除の適用を受けている共有家屋の持ち分である場合には、当初から保有していた共有部分と追加取得した共有部分(既存住宅の取得となります。)のいずれについても住宅ローン控除を受けることができます(平成21年2月20日裁決・裁事77集272頁)。

平成21年2月20日裁決(裁事77集272頁)判断要旨

 原処分庁は、妻と共有していた居住用の家屋に関し、住宅借入金等特別控除を適用して所得税の確定申告をしていた請求人が、その後離婚し、財産分与により取得した前妻の持分を含めて同控除を適用して所得税の申告をしたことについて、共有持分の追加取得は既存住宅の取得に当たり、租税特別措置法施行令第26条第2項が「居住の用に供する家屋を2以上有する場合」に住宅借入金等特別控除の重複適用を認めていないことから、請求人は当初の持分取得に係る控除と共有持分の追加取得に係る控除を重複して受けることはできないと主張する。

 しかしながら、既に居住の用に供する家屋の共有持分を有する者が他の共有持分を追加取得したとしても、それは、新たに別の家屋を有することとなるものではなく、既に居住の用に供する家屋の持分を追加取得したことにすぎず、共有持分の追加取得後の所有権の及ぶ対象は当該家屋の一個のみである。また、持分の取得後の前後を通じて、当該家屋を主としてその居住の用に供している実態に変わりはない。

 したがって、請求人の共有持分の追加取得は、租税特別措置法施行令26条2項の「居住の用に供する家屋を2以上有する場合」に該当しない。