株式会社と違い、合同会社では社員の死亡によって当然に社員の地位が相続人に引き継がれるものではありません(会社法607①三)。合同会社の場合は、死亡または合併による消滅は社員の法定退社の事由となります。そして、相続人その他の一般承継人は持分の払い戻しを受けます。なお、社員1名の合同会社の場合、社員が亡くなると法定解散事由となってしまいます。
ただし、社員が死亡した場合または合併により消滅した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができます。定款に記載する場合は、「社員及び出資」の章の中に記載するとよいでしょう。
社員1名の合同会社の場合は、必ず、定款で定めておいてください。また、合同会社の社員である経営者が亡くなったときでもスムーズに後継者に事業承継をしたいと思うなら、定款で定めることが必要です。
なお、「承継する旨」の定款の定めがある場合には、相続人その他の一般承継人(社員以外の者)は持分を承継したときに、その持分を有する社員となります。そして、その一般承継人にかかわる定款の変更がされたものとみなされます。
また、相続による一般承継人が2人以上ある場合には、各一般承継人は、承継した持分についての権利を行使する者1人を定めなければ、その持分についての権利を行使することができません。ただし、合同会社が各一般承継人が権利を行使することに同意したならば、かまいません。
定款の定め方
定款の定め方は、いろいろなパターンが考えられます。
「例えば、社員の死亡時に特定の相続人が持分を承継するという定めも可能である(省略)。また、①相続人が希望する場合に持分を承継する、②他の社員が同意をした場合に相続人が持分を承継する、③相続人は(他の社員の同意や相続人の意思表示などがなくとも)当然に持分を承継する、といった定めもいずれも可能である(省略)。合併の場合も、同様に他の社員の同意を条件としたりするなどの定め方が可能となろう」(神田秀樹(編)会社法コンメンタール第14巻239ページより引用)
なお、特定の相続人に持分を承継させる場合には、その旨についての定款の記載だけでなく遺言書の作成も必要になります。
(社員の相続)
第○条 社員山田太郎が死亡した場合には、当該社員の相続人山田花子は、社員山田太郎の持分を承継して社員となる。
(社員の相続)
第○条 社員が死亡した場合には、当該社員の相続人は、当該社員の持分を承継して社員となることができる。
(社員の相続)
第○条 社員が死亡した場合には、当該社員の相続人は、他の社員全員の承諾を得て、当該社員の持分を承継して社員となる。
(社員の相続)
第○条 社員が死亡した場合には、当該社員の相続人は、当該社員の持分を承継して社員となる。
(社員の相続及び合併)
第○条 社員が死亡し又は合併により消滅した場合には、その相続人その他の一般承継人は、他の社員の承諾を得て、持分を承継して社員となることができる。
社員の相続と相続税
1 持分の払戻しを受ける場合(「承継する旨」の定款の定めがない場合)
持分の払戻しについては、「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない。」(会社法611②)とされていることから、持分の払戻請求権として評価します。
そして、その価額は、評価すべき持分会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額に、持分を乗じて計算した金額となります。
2 持分を承継する場合(「承継する旨」の定款の定めがある場合)
出資持分を承継する場合には、取引相場のない株式の評価方法に準じて出資の価額を評価します(評基通194)。よって、出資一口当りの評価額を算出し、相続する口数を掛けて評価額を計算します。
ただし、合同会社の場合、通常、定款には出資口数の定めの記載がないことが多いので、その場合、実務上では1口1円、1口50円、1口500円等の仮の口数でいくつか計算してみて、端数処理で影響の出ない口数によって評価をします。
例えば、500万円の資本金の場合、500万円を1口1円として500万口という形で評価をし、仮に1口の価格が0.9円という評価額になると端数切捨てで0円評価になってしまうことになります。このような場合だと1口1円ではなく1口50円、または1口500円として計算することが望ましいということになります。
なお、経過措置型医療法人の場合も、通常、定款に出資口数の定めがありませんが、出資金を評価する場合には1口50円換算で評価計算を行っています。