概要

 令和4年1月1日から令和5年12月31日までに直系尊属から現金贈与を受けて、自宅不動産の新築や購入や増改築等を行い、一定の要件を満たす場合には、贈与金額のうち最大1,000万円まで贈与税が非課税となります。この制度のことを、「直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税非課税制度」といいます。

 この非課税制度により非課税とされた贈与金額は、たとえ相続開始前3年以内の贈与であっても、生前贈与加算の対象とはなりません。

 なお、住宅取得等「資金」の贈与税非課税制度は資金の贈与である必要があるため、父から居住用の「不動産」の贈与を受けたような場合は非課税制度の対象となりません。

 また、居住の用に供する家屋の新築等の対価に充てるための金銭の贈与を受けた場合に限られていますので、住宅ローンを返済するための金銭の贈与を受けた場合には非課税の特例の対象となりません。

 この非課税制度は、暦年課税の基礎控除額(110万円)、または相続時精算課税制度の特別控除額(2,500万円)と併用できます。よって、暦年課税の場合には、最高1,110万円まで、相続時精算課税制度の場合には、最高3,500万円までの贈与について贈与税をゼロとすることができます。

主な適用要件

贈与者父母、祖父母等の直系尊属
受贈者子、孫等の直系卑属
・贈与を受けた年の1月1日時点で18歳(令和4年3月31日以前の贈与の場合は20歳)以上
・贈与年の合計所得金額が2,000万円以下
・日本に住所があること
(日本に住所がない場合でも、一定の場合には適用可)
贈与財産次の用途に充てるための資金
・一定の住宅の新築
・一定の住宅(中古住宅を含む)の取得
・一定の増改築
新築等の時期贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること
居住時期贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること、または、遅滞なくその家屋に(翌年12月31日までに)居住することが確実であると見込まれること
住宅日本国内にある家屋であること
家屋の床面積が50㎡以上240㎡以下であること(増改築の場合は増改築後の床面積で判定。居住用以外の用に供されている部分がある場合は、居住用以外の用に供されている部分を含む床面積で判定)
※ 受贈者が贈与年の合計所得金額が1,000万円以下である場合に限り、床面積要件の下限を40平方メートル以上に引き下げされます。

非課税限度額

 令和4年度税制改正では消費税率10%が適用される住宅購入者のみを対象とした特別住宅資金非課税限度額が廃止されるとともに、特例適用の前提となる贈与が契約締結日基準から(平成27年度改正前と同様に)受贈日基準に見直されました。

 非課税限度額は、住宅用家屋の取得等に係る契約の締結時期にかかわらず、住宅取得等資金の贈与を受けて新築等をした次の住宅用家屋の区分に応じ、それぞれ次に定める金額となります。

耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋1,000万円
上記以外の住宅用家屋500万円

 受贈者1人について1,000万円が非課税の限度額となっています。つまり、贈与者が複数の場合には贈与を受けた金額を合計し、そのうち1,000万円までを非課税とすることができます。

 例えば、祖父と父の両方から住宅取得等資金の贈与を受けた場合には、贈与者それぞれごとに1,000万円まで非課税となるわけではありません。

 なお、誰からの贈与について、いくらの適用を受けるかは、受贈者の選択となります。

過去(令和2年4月〜令和3年12月)

 非課税限度額は、「契約日」と「消費税率10%が適用されるかどうか」により、次のとおり区分されていました。

契約日消費税率10%が適用される場合左記以外の場合(※)
省エネ・耐震・
バリアフリー住宅
一般住宅省エネ・耐震・
バリアフリー住宅
一般住宅
令和2年4月〜令和3年12月1,500万円1,000万円1,000万円500万円

※  個人間売買により中古住宅を取得等した場合等、消費税率10%が適用されていない場合

住宅取得等資金の範囲

 住宅取得等資金の範囲には、住宅用家屋の取得だけでなく、住宅用家屋の新築に先行してするその敷地の用に供される土地等の取得のための資金も含まれます。

 ただし、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、取得した土地等の上に住宅用家屋を新築・取得していない場合には、贈与により取得した金銭について住宅取得資金の贈与税の非課税及び相続時精算課税選択の特例の適用はありません。
 
 贈与を受けた金銭のうち、不動産仲介手数料や不動産取得税等の付随費用に充てられた部分については、「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けることはできません。

 「住宅取得等資金の非課税」の適用を受ける金額が非課税限度額以下であれば、上記付随費用に充てられた部分について基礎控除額を適用することができます。

住宅取得等資金の贈与を受ける時期

 贈与を受けてからその贈与による資金をもって取得等するのであれば、住宅取得等資金の贈与を受ける時期は、契約時、中間金支払時、完成引き渡し時(直前)などのいずれでもよいとされています。

 なお、すでに引き渡しを受けて住んでしまっている場合には、この特例を受けれません。あくまでも、贈与を受けてからその贈与による資金をもって取得等する必要があるからです。

 また、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすることが要件になるので、贈与を受けるのは住宅取得と同じ年にしたほうが無難です。

 契約しても、住宅取得に時間がかかるようであれば、契約時(着手金払い時)において贈与を受けるようなことは避けた方が良いでしょう。

新築等の時期

 この特例を受けるためには、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすることとなっています。

 請負契約による「新築」の場合には、翌年3月15日において屋根(その骨組みを含みます。)を有し、土地に定着した建造物として認められる時以後の状態にあるものが含まれることとされています。

 よって、完成した住宅用家屋を同日後遅滞なく受贈者の居住者の用に供することが確実であると見込まれる場合には、一定の書類の添付により特例の適用が可能です。

 ただし、贈与を受けた年の翌年の12月31日までに受贈者の居住者の用に供されていない場合は、特例の適用ができないため、修正申告書の提出が必要となります。

 分譲マンションや建売住宅の「取得」の場合は、これらの状態にあるものが含まれないため、贈与を受け金銭を建売住宅又は分譲マンションの取得の対価に充てている場合には、翌年3月15日までにその引渡しを受けていなければ、特例の適用を受けることはできません。

「住宅ローン控除」と「直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税の非課税特例」の併用の場合

 「直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税の非課税特例」の適用を受ける人が「住宅ローン控除」の適用を受ける場合において、次の①の金額が②の金額を超えるときには、その超える部分に相当する金額については「住宅ローン控除」の適用はありません。

① 住宅借入金等の年末残高の合計額
② 住宅用の家屋の新築等の対価の額又は費用の額から、「直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税の非課税特例」の適用を受けた部分の金額を差し引いた額

計算例

(計算例)
家屋の取得対価の額 3,000万円
単独名義での銀行からの住宅借入金 2,500万円
住宅取得資金の贈与を受けた金額 800万円

(答え)
① 2,500万円
② 3,000万円-800万円=2,200万円
①>②のため、2,200万円が「住宅ローン控除」の計算の基礎となる家屋等の取得対価の額等となります。

「贈与税の配偶者控除」と「直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税の非課税特例」の併用は可能なのか?

 例えば、家屋の所有者である夫(婚姻期間20年以上)から妻が居住用家屋の贈与を受けた後に、妻の父から住宅取得等資金の贈与を受けて増改築等をした場合、妻の贈与税の申告に当たり、要件を満たせば、贈与税の配偶者控除(相法21の6)と直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税の非課税特例(措法70条の2)を併用して適用することができると思われます。

 なぜなら、それぞれの条文上において、それらの特例の併用を制限する規定はありませんので、受贈者となる妻が、各々の特例に係る要件をいずれも満たしている場合は、夫からの贈与については贈与税の配偶者控除を適用し、妻の父からの贈与については、住宅取得等資金の贈与税の非課税特例を適用することができるということになります。

過去に住宅取得資金の贈与の特例を受けている場合

 平成21年分から令和3年分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けたことがないこと(一定の場合を除きます。)が要件となっています。

申告等の方法

 非課税の特例の適用を受けるためには、税額がゼロでも、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、非課税の特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書に戸籍の謄本、新築や取得の契約書の写しなど一定の書類を添付して、納税地の所轄税務署に提出する必要があります。

住宅取得等のための金銭の贈与の特例(共通)関係の誤りやすい事例

大阪国税局資産課税課、資産課税関係誤りやすい事例(贈与税関係 令和3年分用)より

住宅取得等資金の贈与を受けて、翌年3月15日までに居住しない場合の誤りやすい事例

(誤った取扱い)
 令和3年中に親から住宅取得等資金の贈与を受け、翌年3月15日までに、贈与を受けた住宅取得等資金の全額を住宅用家屋の取得のための対価に充てたが、令和4年3月15日までに居住しない予定であるため、特例の適用はないとした。

(正しい取扱い)
 贈与を受けた年の翌年の3月15日までに居住しない場合であっても、取得した住宅用家屋を同日後遅滞なく受贈者の居住者の用に供することが確実であると見込まれる場合には、一定の書類の添付により特例の適用が可能である(措法70の2①、70の3①)。
 ただし、贈与を受けた年の翌年の12月31日(以下「居住期限」という。)までに受贈者の居住者の用に供されていない場合は、特例の適用ができないため、修正申告書の提出が必要となる(措法70の2④、70の3④)。

※ 新型コロナウイルス感染症に関し、感染拡大防止の取組に伴う工期の見直し、資機材等の調達が困難なことや感染症の発生などにより工期が延長されるなど、自己の責めに帰さない事由により居住期限までに居住できなかった場合は、「災害に基因するやむを得ない事情」に該当するものとして、居住期限の1年の延長が認められる(措法70の2⑩、70の3⑩)。

住宅取得等資金の贈与を受けて、翌年3月15日までに新築家屋が完成しない場合の誤りやすい事例

(誤った取扱い)
 令和3年中に親から住宅取得等資金の贈与を受け、翌年3月15日までに、贈与を受けた住宅取得等資金の全額を住宅用家屋の新築のための対価に充てたが、家の完成が令和4年3月16日以降の予定であるので、特例の適用はないとした。

(正しい取扱い)
 請負契約により住宅用家屋を新築する場合、贈与の年の翌年の3月15日において屋根を有し、土地に定着した建造物と認められる時以降の状態にある場合(新築に準ずる場合)で、完成した住宅用家屋を同日後遅滞なく受贈者の居住者の用に供することが確実であると見込まれる場合には、一定の書類の添付により特例の適用が可能である(措法70の2①一、70の3①一、措規23の5の2①、23の6①)。
 ただし、贈与を受けた年の翌年の12月31日までに受贈者の居住者の用に供されていない場合は、特例の適用ができないため、修正申告書の提出が必要となる(措法70の2④、70の3④)。

※ 新型コロナウイルス感染症に関し、自己の責めに帰さない事由により、贈与を受けた年の翌年の3月15日(以下「取得期限という。」)までに家屋の新築又は取得ができなかった場合は、取得期限について、1年の延長が認められている(措法70の2⑪、70の3⑪)。

住宅取得等資金の贈与を受けて、翌年3月15日までに分譲マンションの引渡しがない場合の誤りやすい事例

(誤った取扱い)
 令和3年中に親からの住宅取得等資金の贈与を受け、分譲マンションを購入することとした。マンションの完成は令和4年4月の予定であるが、令和4年3月15日において屋根を有し、土地に定着した建造物と認められる時以降の状態にあるので、特例の適用があるとした。

(正しい取扱い)
 請負契約による「新築」には、新築に準ずる場合も含まれるが、分譲マンションや建売住宅の「取得」は売主から引渡しを受けたことをいうとされており、贈与の年の翌年3月15日において、その住宅用家屋が屋根を有し土地に定着した建造物と認められる時以降の状態にある場合であっても、引渡しを受けていなければ、特例を適用することはできない(措通70の2-8、70の3-8)。

※上記のようにコロナ期限延長はある。

住宅取得等資金の非課税制度関係の誤りやすい事例 

大阪国税局資産課税課、資産課税関係誤りやすい事例(贈与税関係 令和3年分用)より

曽祖父から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の誤りやすい事例

(誤った取扱い)
 令和3年中に曽祖父から住宅取得等資金の贈与を受けたが、曽祖父の推定相続人ではなく、孫でもないため、特例の適用を受けることができないとした。

(正しい取扱い)
 受贈者は贈与を受けた時において、贈与者の直系卑属であればよく、推定相続人又は孫である必要はない(措法70の2①)。
 したがって、曽祖父からの住宅取得等資金の贈与について特例の適用を受けることができる。
 なお、相続時精算課税の選択をする場合は、贈与者の推定相続人又は孫である必要があるので留意する(措法70の3③一)。

妻の父から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の誤りやすい事例

(誤った取扱い)
 令和3年中に妻の父から住宅を購入するための資金の贈与を受け、特例の適用を受けて申告を行った。

(正しい取扱い)
 贈与者の要件である受贈者の「直系尊属」には、受贈者の配偶者の直系尊属は含まれない(措通70の2-1(1))。
 ただし、受贈者とその配偶者の直系尊属が養子縁組をしている場合には、受贈者の直系尊属に含まれる。