概要

 自営業をしている方の中には、英会話の勉強をしている場合もあるでしょう。その、英会話の勉強をしている際にかかる費用は、事業所得の必要経費になるのかという問題があります。

 結論から言うと、自己啓発の範疇であるならば経費にはできません。経費とする(できる)ためには、客観的にみて、業務の遂行上直接必要な経費であるという必要があります。

平成13年3月30日裁決(裁事61集129頁)判断要旨

 請求人は、英会話能力の保持は請求人の業務の遂行上必要不可欠であるから、英会話研修の費用は業務の遂行上必要な経費である旨主張し、それに沿う答述をする。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、請求人が歯科診療業務、特に歯周病に関する治療を行う上で、英会話の技能を有することは有用であり、その意味で請求人の業務との関連があるといえるものの、英会話能力の保持のために継続して研修を受けることが歯科診療の業務の遂行上不可欠なものとまでは認められないし、平成8年から平成10年までの間、診療の上で英会話の能力を必要とする外国人患者の受診は平成9年の1名であり、外国人患者の来院や問い合わせにいつでも対応できるよう、長期に渡り継続して研修を受け、英会話能力を保持しておく必要があるということだけでは、請求人の歯科診療の業務の遂行上直接必要な費用とはいいがたい。
 さらに、最新の歯周病に関する医療知識を修得するために海外における学会のビデオを購入し、それを講師と共に視聴して教授を受けることや海外の学会における活動のために自己の発表する原稿の英文表現の内容等のチェックを受けることは、請求人の業務の遂行上の必要があるとみることはできるものの、英会話研修費のすべてが所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められない。
 また、英会話研修費が家事関連費であるとしても、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。
 なお、請求人は、英会話研修費について、過去の税務調査において、必要経費に該当しないとの指摘を受けることなく、容認されてきたものであるから、それを変更してなされた本件各更正処分は不当である旨も主張するが、過去の税務調査において是正が求められなかったからといって、当該英会話研修費が必要経費に該当しないことが明らかになった段階で是正を求めることは何ら不当なものとはいえない。

平成31年3月28日裁決(裁事114集)判断要旨

 請求人は、本件教材購入費(ラジオ英会話教材の購入費用)は、本件結婚紹介ビジネスのために必要な語学を習得する目的でラジオ英会話教材を購入した際に支出したものであるから、必要経費に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件教材購入費により購入されたラジオ英会話教材は、一般的には、英会話という自己啓発のための教材であるから、本件教材購入費は、家事費というべきである。仮に、請求人にとって英会話を学ぶことが業務の遂行上何かしら必要であったとしても、英会話を学ぶことの自己啓発としての側面があることは否定し難いことから、本件教材購入費は、家事関連費に該当するところ、そのうち業務上必要な部分の金額を明確に特定することは困難であるといわざるを得ない。
 したがって、本件教材購入費は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。