廃業

概要

 会社の解散・清算と違い、個人事業の廃業は登記事項でないため、税務署は把握できません。そのため、廃業届出書を税務署に提出する必要があります。

 また、廃業するといっても、年中に廃業した場合、1月1日から廃業日まで所得が生ずる場合があるでしょう。その場合、確定申告が必要となります。

税務署への廃業届出

廃業届出書

 事業廃止の日から1月以内に、廃業届出書(個人事業の開業・廃業等届出書)を所轄の税務署に提出する必要があります(所法229)。提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。

 なお、1月以内の提出となっていますが、提出が遅れても問題となりません。

所得税の青色申告の取りやめ届出書

 事業廃止により青色申告書による所得税の申告を取りやめる場合は、取りやめようとする年の翌年3月15日までに「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を所轄の所轄税務署長に提出します。提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。

 翌年3月15日までとなっていますが、上記の廃業届出書と一緒に提出して問題ありません。

 注意点としては、廃業年も青色申告で提出したほうが、青色申告特別控除額の利用等メリットがあります。そのため、次年分の所得税から、青色申告書による申告を取りやめるように届け出ることです。

 例えば、令和2年10月20日に開業(令和2年分から青色)して、令和6年4月15日に廃業したとします。この場合、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」は、以下のように記載します。

 令和7年分の所得税から、青色申告書による申告を取りやめることとしたので届けます。

1 青色申告書提出の承認を受けていた年分
 令和2年分から令和6年分まで

 仮に、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出しなかった場合には、廃業したその年分については青色申告書によることができますが、その翌年分以後の年分については、青色申告書の提出の承認の効力は自動的に失われることになっています(所法151②)。

給与支払事務所等の廃止の届出

 個人が、事業を行う事務所等を廃止した場合には、上記の「個人事業の開業・廃業等届出書」を所轄税務署に提出する(所法229)ことになっていますので、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を提出する必要はありません(所法230)。

消費税に関する「事業廃止届出書」

 消費税の課税事業者の方及び課税事業者を選択されている方で、廃止する事業のほかに課税売上に当たる所得(不動産所得等)のない方は、消費税に関する「事業廃止届出書」を速やかに提出します。

確定申告

 廃業した翌年の3月15日までの確定申告において申告をします。廃業後にサラリーマンをして給与所得が生じた場合は、それを含めて申告をします。

 なお、廃業における確定申告の注意点は以下となります。

青色申告特別控除額

 事業所得の申告時に適用していた青色申告特別控除額の取扱いは年分の途中で廃業しても、満額適用となります。

 つまり、要件を満たしていて青色申告特別控除額65万円の適用を受けていた場合は、年中のいつ廃業となっても、1月1日から廃業日までの日数や月数で按分計算せずに、65万円の適用となります。

事業税の見込額

 事業を廃止した年の翌年に、廃止した年分の所得につき課税される事業税が賦課決定されます。本来は、翌年には事業を行っていないために、事業税を必要経費にするタイミングがないということになります(所基通37-6)。

 ただし、事業を廃止した年分の所得につき課税される事業税の見込額を、廃止した年分の必要経費とすることが認められています(所基通37-7)。

 この場合、その事業税の課税見込額は、次の算式によつて求めることとされています。

(A±B)×R÷(1+R)

A=事業税の課税見込額を控除する前のその年分のその事業に係る所得の金額
B=事業税の課税標準の計算上Aの金額に加算し、又は減算する金額
R=事業税の税率(業種により3~5%)

 事業を廃止した年分の所得税について課税される事業税の必要経費算入につき、上記の取扱いによらない場合には、その事業税の賦課決定があったときにおいて、更正の請求の手続により、事業を廃止した年分の所得を是正することになります(所基通37-7(注)、所法152)。

 ただし、手間がかかるので、見込み額であらかじめ必要経費とすることをお勧めします。

事業税

 以下は東京都での取り扱いとなりますが、自治体によって、若干、取り扱いが違いますので、お住いの自治体のHPで確認するのが間違いないです。

事業廃止の届け出

 事業廃止の日から10日以内(死亡による廃止の場合は30日以内)に「事業開始(廃止)等申告書」を所管の都税事務所等に提出します。

 ただし、申告書といっても、実際は届け出のようなものとなっています。実際の所得や事業税を申告するようなものではありません。

 また、10日以内の提出となっていますが、提出が遅れても問題となりません。

事業税の申告

 個人の事業税は、事業を廃止(事業者が死亡した場合を含む。)した場合、当該年の1月1日から事業の廃止の日までの期間の所得に基づいて課税されます。

 一応、東京都の場合、年の中途で事業を廃止した場合は、所得税の確定申告や住民税の申告とは別に、事業の廃止の日から1か月以内(死亡による廃止の場合は4か月以内)に個人の事業税の申告をすることになっています。

 ただし、実際は、所得税の確定申告書を提出した人は、個人住民税の申告書及び個人事業税の申告をしたものとみなされますので、別途、個人の事業税の申告書を提出する必要はありません。

 確定申告書の第二表の下にある事業税の「前年中の開(廃)業」の廃止に〇をし、廃業日を記載します。また、決算書や収支内訳書の「本年中における特殊事情」に廃業した旨と廃業日を記載します。

 つまり、廃業の翌年の確定申告時期に所得税の申告書を提出すれば、わざわざ、事業税の申告書を提出する必要はありません。

消費税

廃業して1年経過後に、新たな事業を開始した場合

 新規事業に係る基準期間における課税売上がないという考え方はしません。

 個人事業者における基準期間とは、その前々年をいうものとされており、新設法人とは異なり、基準期間は必ず存在します(消法2①十四)。

 したがって、個人事業者の納税義務は、事業の継続性や事業内容の変更の有無に関係なく、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えているか否かで判断することになります(消法9①)。