概要

 例えば、売上として110万円(消費税10万円)を請求するが、その際に、旅費が11万円(消費税1万円)かかったので、その分も得意先に請求するとします。

 この場合、以下の2つの処理が考えられます。

(1)立替処理

(旅費を払った時)
立替金 11万円   現金預金 11万円

(売上時)
現金預金 121万円   売上高 110万円
            立替金 11万円

(2)売上処理

(旅費を払った時)
旅費交通費 11万円   現金預金 11万円

(売上時)
現金預金 121万円   売上高 121万円

 どちらも、この取引による正味の利益は110万円となるので、法人税については、(1)、(2)ともに同じとなります。

 ただし、消費税の簡易課税を選択すると、売上に応じて消費税の金額が決まるため、(1)の売上100万円(税抜き)と、(2)の売上110万円(税抜き)では、(2)の方が、消費税の納税額が大きくなるということです。

 インボイス制度が始まり、簡易課税を選択する納税者は増えるでしょうから、このことは大変重要な論点となります。

質疑応答事例

 国税庁の質疑応答事例で、以下の2つが記載されています。

実費弁償金の課税

【照会要旨】
 弁護士の収入の中には実費弁償たる宿泊費又は交通費が含まれていますが、これらの宿泊費や交通費は、立替金として処理していれば、課税の対象外として取り扱ってよいでしょうか。

【回答要旨】
 弁護士の業務に関する報酬又は料金は、弁護士がその業務の遂行に関連して依頼者から支払を受ける一切の金銭をいうものと解されています。
 したがって、実費弁償たる宿泊費及び交通費であっても、ホテルや交通機関等への支払が実質的に依頼者による直接払と認められるものでない限り、弁護士の報酬又は料金に含まれ課税の対象となります。
 なお、依頼者が本来納付すべきものとされている登録免許税や手数料等に充てるものとして受け取った金銭については、それを報酬又は料金と明確に区分経理している場合は、課税の対象となりません(基通10-1-4(注))。
ホテルの客のタクシー代の立替払

【照会要旨】
 ホテルにおいて客のタクシー代や宴会のコンパニオン派遣料等を立替払した場合の課税関係はどうなるのでしょうか。

【回答要旨】
 ホテル等が客の依頼を受けて、又は客が自らタクシーや宴会のコンパニオンを呼んだ場合においては、本来それらの役務の提供の対価は客が直接役務の提供者に支払うべきものですから、ホテルが当該対価を客に代わって立替払をし、その旨を明確に区分している場合には、その代金を客から領収しても課税の対象とはなりません。また、その支払はホテルの課税仕入れにも該当しません。
 なお、タクシー代やコンパニオン代の実費にホテル等のマージンを上乗せして客から領収する場合には、単なる立替えとは異なりますので、その全額が課税の対象となります。

 2つの質疑応答事例から読み取れることは、旅費交通費の場合、「ホテルや交通機関等への支払が実質的に依頼者による直接払と認められるもの」や「本来それらの役務の提供の対価は客が直接役務の提供者に支払うべきもの」で、その旨を明確に区分している場合には、立替え処理が認められるということになります。

 つまり、得意先側が直接払したと認められる場合や、本来それらの役務の提供の対価は客が直接役務の提供者に支払うべき場合には、立替え処理が認められるということになります。

 得意先側が直接払したと認められる場合とは、具体的には、得意先宛の領収書が発行されている場合のことと考えられています。そして、得意先に請求書を出すときに、領収書を添付するということになります。

 なお、質疑応答事例の実費弁償金の課税の最後に、「依頼者が本来納付すべきものとされている登録免許税や手数料等に充てるものとして受け取った金銭については、それを報酬又は料金と明確に区分経理している場合は、課税の対象となりません(基通10-1-4(注))。」と記載されていますが、これを拡大解釈して、得意先が負担すべきものだとして、全て「立替金」処理するのはリスクがあるといえます。

経費の実費相当額の場合

 あくまでも、得意先側が直接払したと認められる場合や、本来それらの役務の提供の対価は客が直接役務の提供者に支払うべき場合のみに、立替え処理が認められると考えておいた方がいいでしょう。

 したがって、仮に、一定のマ-ジンを上乗せしていなく、経費の実費相当額として得意先から収受し、立替金として処理していたとしても、消費税の課税の対象外として取り扱われることは認められないと思います。

 つまり、経費を含めた金額が売上高となると思います。この辺は、今後の税務裁判例に注目したいと思います。

インボイス通達4-2

(立替払に係る適格請求書)

4-2課税仕入れに係る支払対価の額につき、例えば、複数の事業者が一の事務所を借り受け、複数の事業者が支払うべき賃料を一の事業者が立替払を行った場合のように、当該課税仕入れに係る適格請求書(以下「立替払に係る適格請求書」という。)が当該一の事業者のみに交付され、当該一の事業者以外の各事業者が当該課税仕入れに係る適格請求書の交付を受けることができない場合には、当該一の事業者から立替払に係る適格請求書の写しの交付を受けるとともに、当該各事業者の課税仕入れに係る仕入税額控除に必要な事項が記載された明細書等(以下「明細書等」という。)の交付を受け、これらを併せて保存することにより、当該各事業者の課税仕入れに係る適格請求書の保存があるものとして取り扱う。
 なお、一の事業者が、多数の事業者の課税仕入れに係る支払対価の額につき一括して立替払を行ったことにより、当該一の事業者において立替払に係る適格請求書の写しの作成が大量となり、その写しを交付することが困難であることを理由に、当該一の事業者が立替払に係る適格請求書を保存し、かつ、当該一の事業者以外の各事業者の課税仕入れが適格請求書発行事業者から受けたものかどうかを当該各事業者が確認できるための措置を講じた上で、明細書等のみを交付した場合には、当該各事業者が交付を受けた当該明細書等を保存することにより、当該各事業者の課税仕入れに係る適格請求書の保存があるものとする。
(注)1 当該明細書等の書類に記載する法第57条の4第1項第4号及び第5号《適格請求書発行事業者の義務》に掲げる事項については、課税仕入れを行った事業者ごとに合理的に区分する必要がある。
(注)2 当該各事業者の課税仕入れが適格請求書発行事業者から受けたものかどうかを当事者間で確認できるための措置としては、例えば、当該明細書等に当該各事業者の課税仕入れに係る相手方の氏名又は名称及び登録番号を記載する方法のほか、これらの事項について当該各事業者へ別途書面等により通知する方法又は立替払に関する基本契約書等で明らかにする方法がある。