概要

 エンジェル税制とは、ベンチャー企業への投資を促進するためにベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度です。

 ベンチャー企業全てが対象となるわけでなく、特定中小会社及び特定新規中小会社(特定中小会社等)といった一定の要件を満たす株式会社が対象となります。

 特定中小会社等に対して、個人投資家が投資を行った場合、投資(入口)時点と、売却等(出口)時点のいずれの時点でも税制上の優遇措置を受けることができます。

個人投資家が税制優遇を受けるための手続きの流れ

 エンジェル税制を利用するための手続きの流れとしては、(1)投資を受けたベンチャー企業が、都道府県の窓口で税制適格の確認書の発行を受け、個人投資家に交付(事前確認制度あり)、そして、(2)個人投資家が、確定申告の際にその確認書を添付して申告することで税制優遇を受ける、という仕組みです。

個人投資家が税制優遇を受けるための要件

 投資(入口)時点と、売却等(出口)時点の税制優遇ともに共通の要件であり、次の要件をいずれも満たす必要があります。

①金銭の払込により、対象となるベンチャー企業の株式を取得していること
 他人から譲り受けた株式や、現物出資・相続により取得した株式は対象となりません。

②投資先ベンチャー企業が同族会社である場合には、持株割合が大きいものから第3位までの株主グループの持株割合を順に加算し、その割合が初めて50%超になる時における株主グループに属していないこと

投資(入口)時点の税制上の優遇措置

 投資(入口)時点では次の2つの優遇制度があります。同一年中に取得をした同一銘柄の株式については、いずれか1つの選択適用となります。

①優遇措置A(設立5年未満の企業が対象)
 特定新規中小会社が発行した株式の払込みによる取得に要した金額のうち一定の金額(800万円を限度)については、寄附金控除の適用を受けることができます。

②優遇措置B(設立10年未満の企業が対象)
 特定中小会社が発行した株式の払込みによる取得に要した金額の合計額のうち一定の金額を一般株式等に係る譲渡所得等の金額から控除することができます。控除しきれない場合は、その年の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除することができます。

売却等(出口)時点の税制上の優遇措置

 売却等(出口)時点では次の2つの優遇制度があります。なお、投資が不成功に終わったケースとなります。

①売却損の上場株式等の売却益との相殺と3年間繰越控除
 一定要件を満たす特定中小会社が発行した株式を公開前に売却(つまり、未上場ベンチャー企業株式の売却)して損失が生じた場合において、同一年の一般株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない部分の金額がある場合には、上場株式等に係る譲渡所得等の金額を限度として、上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除することができます。
 さらに通算後に残った売却損は、翌年以後3年間にわたり、翌年以降3年間に生じる一般株式等に係る譲渡所得等の金額および上場株式等に係る譲渡所得等の金額から繰越控除することができます。

②株式価値喪失損失
 一定要件を満たす特定中小会社が株式公開前に解散し清算結了等に至り株式の価値が喪失した場合には、その特定株式を譲渡したことと、その損失の金額はその特定株式を譲渡したことにより生じた損失の金額とそれぞれみなして、一般株式等に係る譲渡所得等の金額を計算します。一般株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除しきれない金額は、上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除できることになります。
 さらに通算後に残った売却損は、翌年以後3年間にわたり、翌年以降3年間に生じる一般株式等に係る譲渡所得等の金額および上場株式等に係る譲渡所得等の金額から繰越控除することができます。

確定申告の手続き

 所轄税務署に対して、個人投資家が次に掲げる書類を確定申告時に提出することにより、税制上の優遇措置を受けることができます。

〇都道府県知事の確認書又は認定投資事業有限責任組合が発行した確認書及び認定証の写し、若しくは認定少額電子募集取扱業者が発行した確認書及び認定証の写し
〇発行会社が交付する一定の株主に該当しない旨の確認書
〇株式投資契約書の写し
〇株式異動状況明細書
〇株式の譲渡等に関する書類
〇清算結了の登記事項証明書、破産手続開始の決定の公告等
〇株式等に係る譲渡所得税等の金額計算明細書
〇株式等に係る譲渡所得税等の金額計算明細書(特定権利行使株式及び特定投資株式分がある場合)
〇特定(新規)中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除の明細書
〇令和_年分の所得所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(特定投資株式に係る譲渡損失の計算及び繰越控除用)
〇特定新規中小会社が発行した株式の取得に要した金額の寄附金控除額の計算明細書

 上記の確認書などの書類は確定申告をする際に、忘れずに添付してください。

 中小企業庁が公開していた「エンジェル税制 Q&A集(2018年7月)」の「Q97.確定申告期間中にエンジェル税制の申告手続きが間に合わなかった時はどうなるのですか?」において、以下のような記載がされていました。

都道府県による確認書の発行が著しく遅延し確定申告の手続き期間に間に合わなかった場合など、「やむを得ない事情」に当たる場合は、(省略)、一度提出した確定申告書を訂正するために、「更正の請求書」を提出することができます。

 しかし、令和3年6月28日裁決(東裁(所)令2第100号)等による誤り指摘において、現在の「エンジェル税制 Q&A集(2021年8月)」では、その部分は削除されています。

令和3年6月28日裁決(東裁(所)令2第100号)(棄却)

(1)事案の概要

① 請求人Xは、平成30年11月1日、A社の株式916株を、1株当たり32,750円(総額29,999,000円)の払込金額で、払込みにより取得をした。
② Xは、法定申告期限内に、平成30年分の所得税等について、確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を提出し、確定申告をした。
 その際、Xは、上記①でXが取得をした株式の取得に要した金額を控除せずに一般株式等に係る譲渡所得等の金額を計算し、本件確定申告書には、本件特例の適用を受けようとする旨の記載はなく、措置法第37条の13第2項に規定する財務省令で定める書類である確認書などは添付されていなかった。
 租税特別措置法(以下「措置法」という。)第37条の13《特定中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除等》第1項は、平成15年4月1日以後に、同項各号に掲げる株式会社の区分に応じ当該各号に定める株式を払込みにより取得をした居住者が、当該株式を払込みにより取得をした場合における措置法第37条の10《一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》第1項の規定の適用については、政令で定めるところにより、その年分の一般株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、その年中に当該払込みにより取得をした株式(その年12月31日において有するものとして政令で定めるものに限る。以下「控除対象特定株式」という。)の取得に要した金額の合計額を控除する旨規定している(以下、措置法第37条の13第1項の規定による特例を「本件特例」という。)。
③ Xは、令和元年10月28日、平成30年分の所得税等について、本件特例の適用を求めて、更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をした。
④ 原処分庁は、令和2年3月27日付で、本件更正請求に対し、本件確定申告書には、本件特例の適用を受けようとする旨の記載はなく、措置法第37条の13第2項に規定する財務省令で定める書類も添付されていないことから、Xは本件特例の適用を受けることができないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
⑤ Xが、手続をしなかったことにつきXに瑕疵はないから、本件特例の適用が認められるべきであるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
 なお、確認書自体が令和元年8月22日付で発行されており、Xが申告期限までにそれを添付して確定申告をしようと思っても、できる状況ではなかった。そして、確認書発行に関する担当者からの教示や中小企業庁の作成に係るQ&A集の記載では、確認書を添付なしでの当初申告をしたとしても、その後の更正の請求により救われるということであったため、それをXは信じた。

(2)本件の主な争点

 本件更正請求により、本件特例の適用を受けることができるか否かである。

(3)裁決要旨(棄却)

① 本件特例は、その適用を受けようとする年分の確定申告書に、本件特例の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、措置法37条の13第2項に規定する財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用されるものであり、これらの記載や添付のない確定申告書の提出があった場合において、更正の請求書にこれらの記載や添付がされたときに本件特例を適用できることとする規定や税務署長が確定申告書にこれらの記載や添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときに本件特例を適用できることとする規定は設けられていない。
② 本件においては、確定申告書には、本件特例の適用を受けようとする旨の記載はなく、措置法37条の13第2項に規定する財務省令で定める書類である確認書などが添付されていなかったのであるから、Xは、更正請求により本件特例の適用を受けることはできない。
③ Xは、確認書の発行が申告期限に間に合わなかったこと、担当者からの教示や中小企業庁の作成に係るQ&A集の記載に従ったものであることから、本件においてXに瑕疵はなく、救済されるべきであり、更正請求において本件特例の適用を受けることができる旨主張する。
④ 確かに、(イ)本件特例の適用を受けるために必要な確認書は令和元年8月22日付で発行されており、(ロ)担当者が平成31年2月8日付で送信した電子メールには、申告期限までに同確認書の交付が間に合わない場合の対応方法の一つとして、本件特例の適用を受けない確定申告をしておき、同確認書を受領後に更正の請求を行う方法が示されている上、(ハ)Q&A集には、都道府県による確認書の発行が著しく遅延し確定申告の手続期間に間に合わなかった場合など「やむを得ない事情」に当たる場合は、更正の請求書を提出することができる旨の記載がある。
⑤ しかしながら、更正の請求書に本件特例の適用を受けようとする旨の記載及び措置法37条の13第2項に規定する財務省令で定める書類の添付がされたときに本件特例を適用できることとする規定や、税務署長が確定申告書にこれらの記載や添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときに本件特例を適用できることとする規定が設けられていない以上、Xが主張する事情のいかんによっても、本件特例を適用できることにはならない。