概要
ひとり親控除と寡婦控除は、婚姻の状況、子や扶養親族の有無、本人の所得などによって適用を判定する所得税の所得控除です。令和2年分から、婚姻歴や性別を問わないひとり親控除が設けられ、従来の寡夫控除は廃止されました。その後も所得要件と控除額が改正されているため、適用する年分に注意が必要です。
ひとり親控除の対象者と控除額
ひとり親控除の対象となるのは、原則としてその年の12月31日の現況で、婚姻をしていない人又は配偶者の生死が明らかでない一定の人のうち、次の要件をすべて満たす人です。未婚、離婚、死別といった婚姻歴や性別による区別はありません(所法2①三十一、81、85)。
- 本人の合計所得金額が500万円以下であること。
- 生計を一にする子がいること。その子のその年分の総所得金額等は、令和8年分では62万円以下であり、他の人の同一生計配偶者又は扶養親族とされていないこと。
- 本人と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいないこと。
ひとり親控除における子には年齢制限がありません。16歳未満で扶養控除を受けられない子も、上記の要件を満たせば判定の対象になります。また、「生計を一にする」ことは、必ずしも同居を意味しません(所令11の2②、所基通2-47)。
子の所得要件と控除額の改正
| 所得税の年分 | 子の総所得金額等 | ひとり親控除額 |
|---|---|---|
| 令和2~6年分 | 48万円以下 | 35万円 |
| 令和7年分 | 58万円以下 | 35万円 |
| 令和8年分 | 62万円以下 | 35万円 |
| 令和9年分以後 | 62万円以下 | 38万円 |
子の所得要件を62万円以下とする改正は令和8年12月1日に施行され、令和8年分の所得税から適用されます。一方、ひとり親控除額を38万円に引き上げる改正は令和9年分からです。令和8年分の控除額は35万円のままです。
寡婦控除の対象者と控除額
寡婦控除は、ひとり親に該当しない女性で、原則としてその年の12月31日の現況において、次のいずれかに該当する人が対象です。いずれも本人の合計所得金額が500万円以下であり、事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいないことが必要です。控除額は27万円です(所法2①三十、80、85)。
- 夫と離婚した後、婚姻をしておらず、扶養親族がいる人。
- 夫と死別した後、婚姻をしていない人、又は夫の生死が明らかでない一定の人。この場合、扶養親族の有無は問いません。
離婚後の寡婦については、その人の扶養親族がいるかを確認します。扶養控除の対象とならない16歳未満の子でも、税法上の扶養親族に該当する場合があります。一方、結婚したことがない人は寡婦控除の対象にはなりません。要件を満たす子がいる場合は、ひとり親控除を検討します(所基通2-40)。
令和8年分の主な違い
| 区分 | 婚姻・扶養親族等の要件 | 本人の合計所得金額 | 控除額 |
|---|---|---|---|
| ひとり親控除 | 婚姻歴・性別を問わず、総所得金額等62万円以下の生計を一にする子がいる | 500万円以下 | 35万円 |
| 寡婦控除〈離婚〉 | 夫と離婚後、婚姻をしておらず、扶養親族がいる | 500万円以下 | 27万円 |
| 寡婦控除〈死別等〉 | 夫と死別後、婚姻をしていない、又は夫の生死が明らかでない一定の場合。扶養親族は不要 | 500万円以下 | 27万円 |
この表のいずれの区分でも、事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいないことが必要です。また、寡婦控除はひとり親に該当しない場合に判定します。
事実婚の判定で注意すること
ひとり親控除・寡婦控除でいう「事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人」は、住民票に世帯主との続柄が「夫(未届)」「妻(未届)」などと記載されている人などを指します。本人が世帯主の場合は、そのように記載された相手方の有無を確認します(所規1の3、1の4)。
旧制度の寡婦控除・寡夫控除
令和元年分以前の寡婦控除には、27万円の「一般の寡婦」と35万円の「特別の寡婦」がありました。特別の寡婦には、扶養親族である子がいることと、本人の合計所得金額が500万円以下であることなどが必要でした。他方、旧寡夫控除には本人の合計所得金額500万円以下という要件がありました。
令和2年分からは、一般の寡婦・特別の寡婦という区分と寡夫控除が廃止されました。現在、要件を満たす人にはひとり親控除又は寡婦控除が適用されます。寡婦控除についても、本人の合計所得金額500万円以下という要件があります。
旧寡夫控除の所得要件が争われた裁判例
東京地裁令和3年5月27日判決(令和元年〔行ウ〕第236号)、東京高裁令和4年1月12日判決(令和3年〔行コ〕第166号)は、令和2年の改正前における寡夫控除の所得要件をめぐる事件です。
父子世帯の父親である納税者は、平成24~26年分について寡夫控除を適用して申告しましたが、本人の合計所得金額が500万円を超えるとして更正処分と過少申告加算税の賦課決定を受けました。平成27~29年分については、寡夫控除を適用せずに申告した後、同控除の適用を求めて更正の請求を行い、更正すべき理由がない旨の通知を受けました。
納税者は、旧法の寡夫控除に寡婦控除とは異なる所得要件を設けたことが憲法14条1項及び24条2項に違反すると主張しました。第一審は請求を棄却し、東京高裁も控訴を棄却しました。東京高裁は、当時の制度設計について立法府の政策的・技術的判断を踏まえ、当該所得要件が憲法に違反するとはいえないと判断しています。
この判決が扱ったのは令和2年改正前の制度です。令和2年分以後の控除の適用は、現在のひとり親控除・寡婦控除の要件に基づいて判定します。
主な根拠資料
- 国税庁「No.1171 ひとり親控除」
- 国税庁「No.1170 寡婦控除」
- 国税庁「No.1172 寡夫控除」
- 国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」
- 東京高裁令和4年1月12日判決・裁判所公表判決文
寡夫について寡婦にはない所得要件を定めた規定は憲法14条1項及び24条2項に違反するとはいえないとされた東京高裁令和4年1月12日判決(棄却)(確定)
(1)事件の概要
① 給与所得者であるX(納税者)は、離婚後婚姻をしておらず、3人の子の親権者として、その子らと生計を一にしていることから、寡夫控除の適用があるとして、平成24年分ないし平成29年分(本件各年分)の確定申告等をした。
② 本件各年分におけるXの合計所得金額は、いずれの年分も500万円を超えていた。
③ Y(課税庁)は、寡夫控除の適用に当たり、合計所得金額が500万円を超える年分は同控除の適用はできないとして、本件各年分の更正処分等(本件各処分)を行ったところ、Xは、寡夫について寡婦にはない所得要件を定めた所得税法の規定(本件規定)及びその区別(本件区別)は、法の下の平等を定めた憲法14条1項並びに離婚及び婚姻に関する両性の本質的平等を定めた同法24条2項に違反し無効であるとして、本件各処分の取消しを求めて本訴を提起した。
(2)本件の主な争点
寡夫について寡婦にはない所得要件を定めた規定が憲法14条1項及び24条2項に違反するか否か。
(3)判決要旨
第一審判決(東京地裁令和3年5月27日判決・令和元年(行ウ)236号)を引用及び補正するほか、控訴審でのXの補充主張(本件区別が憲法24条2項に反するとの主張等)に対して要旨次のとおり判断し、Xの控訴を棄却した。
① 憲法24条2項は、婚姻及び家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第一次的には立法府の合理的な裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画した規定である(最高裁平成27年12月16日判決参照)。そして、寡夫についての所得要件が離婚時の親権や養育権の決定に影響を及ぼしていると認めることは困難であり、本件規定は、婚姻及び家族に関する事項を定めたものとはいえないので、本件区別は、憲法24条2項に違反するということはできない。
② 寡夫と寡婦を比較すると、収入が同じであっても、寡婦については、結婚や出産のために一度離職をせざるを得ない状況が生じていることや、子を育てながら就業を継続することの困難性といった構造的担税力減殺要因があるところ、当該減殺要因につき、どの種のものをどの程度まで考慮し、制度設計に反映させるかという点は、まさに立法府の裁量に属する事項であって、その政策的・技術的判断を尊重すべき事項であることなどを踏まえると、本件各年分当時において、寡夫控除につき寡婦にはない所得要件を設けていたことについて、著しく不合理であることが明らかであったということはできない。
