歯科医院

概要

 歯科医院・歯科技工所の運営上、通常、歯科金属スクラップ(金、白金、銀、パラジウム等)が生じます。

 その金属スクラップの売却収入(所得)金額が確定申告において計上されていない、または、規模感からして金額が少ない場合、収入(所得)の申告漏れがあるのではないかと、税務調査が誘発される傾向にあります。

 なお、税務調査が入る前に、課税庁は事前に金属スクラップ買取業者から情報を手に入れている場合もあります。ですから、申告漏れはないように絶対に注意をすべきといえます。

 もう一点、注意をしないといけない点は、収入を計上する年分となります。間違った年分に収入計上をしても意味がないからです。

消費税における簡易課税制度の適用の場合

 簡易課税制度(第五種事業)を適用している歯科医師が、患者から取り外した金冠を売却する行為は、診療の過程で生じた不要物の譲渡を行う事業であり、「他の者から購入した商品をその性質及び計上を変更しないで」販売する事業には該当しないことから、第一種事業(卸売業)には該当せず、第四種事業に該当することになります(消令57⑤六)。

 なお、2以上の事業を営む事業者が、課税資産の譲渡等について事業ごとの区分をしていない場合には、その者が営む事業のうち最も低いみなし仕入率を適用することとなります。

 よって、簡易課税制度(第五種事業)を適用している歯科医師で、金冠の売却代金が他の収入と区分されていない場合には、金冠の売却代金の事業区分は第五種事業に該当することになります(消法37①一、消令57④四、消基通13-3-1)。

歯科医師が平成12年から平成26年までの間に患者から無償で譲り受け、保管していた使用済金冠等を平成26年に買取業者に売却した場合、その収入金額は、各年分ごとではなく平成26年分に計上すべきとされた事例-令和元年7月16日裁決(仙裁(所)令元第1号)(棄却)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人Xは歯科医業を営んでいるところ、その歯科治療に付随して発生した使用済金冠等(以下「本件使用済金冠等」という。)を患者から無償で取得し、これを保管していた。
② Xは、平成26年6月、平成12年4月から平成26年5月までの本件使用済金冠等を買取業者2社(以下「本件買取業者」という。)に売却し、当該売却代金は、それぞれ同年6月6日及び同月10日にX名義の普通預金口座に振り込まれた(以下、当該売却に係る収入金額の合計額を「本件収入金額」という)。
 なお、Xは、平成17年分から平成25年分までの各年分の事業所得の金額の計算上、本件使用済金冠等の取得時の価額として、それぞれを総収入金額(雑収入)に算入していた。
③ Xは、平成26年分の所得税等について確定申告書を原処分庁に提出し、法定申告期限までに確定申告(以下「本件申告」という。)をした。
 なお、Xは、本件申告において、本件収入金額を事業所得の金額の計算上総収入金額に算入していなかった。
④ 原処分庁は、平成30年6月21日付で、Xの平成26年分の所得税等について、本件収入金額を事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきであるなどとして更正処分等(以下「本件更正処分等」という。)をした。
 なお、原処分庁は、本件更正処分等において、本件使用済金冠等をXの営む歯科医業に係る棚卸資産と認定した上で、その売却に係る事業所得の金額の計算上、Xが平成17年分から平成25年分までの各年分の所得税等の申告において雑収入として計上した金額の累計額を本件使用済金冠等の取得価額とみなして控除した。
⑤ Xが、当該収入は、使用済金冠等を患者から無償で取得した各年分の総収入金額に算入されるべきであり、実際に売却した平成26年分の総収入金額に算入すべきではないとして、原処分の一部の取消しを求めた。

(2)本件の主な争点

 本件収入金額は、Xの平成26年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきか否かである。

(3)裁決要旨(棄却)

① 本件収入金額は、Xが、平成12年4月から平成26年5月までの間に患者から無償で譲り受け、保管していた使用済金冠等を平成26年6月に買取業者に売却したことにより生じたものであると認められるところ、その売却価額は、買取業者が使用済金冠等を溶解・分析し、そこに含まれている種々の金属を検量することによって決定されたものであり、しかも、Xは、当該売却代金をそれぞれ同年6月6日及び同月10日に受領していることからすると、本件収入金額の収入すべき時期(当該収入の原因となる権利が確定した時期)の属する年分が平成26年分であることは明らかというべきである。したがって、本件収入金額は、Xの平成26年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきものと認められる。
② 原処分庁は、更正処分において、使用済金冠等の売却に係る事業所得の金額の計算上、Xが平成17年分から平成25年分までの各年分の所得税等の申告において、事業所得に係る雑収入として計上した金額の累計額を本件使用済金冠等の取得価額とみなして控除している。
③ この点、本件において、Xが使用済金冠等をその患者から無償で譲り受け、これを他に売却する目的で保管していたこと、そして、平成26年6月、それまでの間に患者から取得し、保管していた使用済金冠等を買取業者に売却することによって収入金額を得たことからすると、Xによる使用済金冠等の取得及びその売却がXの営む歯科医業に密接に関連し、これに付随するものであることは明らかというべきである。
④ そして、使用済金冠等そのものが売買取引の対象物と認められることに加え、Xが、使用済金冠等を患者から無償で譲り受けた際の経済的利益の価額を平成17年分から平成25年分まで各年分の事業所得の金額の計算上、雑収入として計上し、総収入金額に算入していたという事情を考慮すると、これらの事実関係の下、原処分庁が、使用済金冠等をXが営む歯科医業における棚卸資産と認め、所得税法40条《たな卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入》2項1号の規定を適用し、Xが平成17年分から平成25年分までの各年分において雑収入として計上していた金額の累計額を平成26年6月に売却した本件使用済金冠等の取得価額とみなして所得金額を算定したことに、不合理な点があるとは認められない。

歯科医師が除去冠等の合金を回収業者に売却していたにもかかわらず、売却代金を除外して日計表を作成した上、回収業者から交付された支払報告書を廃棄した行為は、通則法68条1項に規定する「事実を隠蔽」したことに該当するとされた事例-令和元年7月25日裁決(大裁(所・諸)令元第6号)(棄却)

(1)事案の概要

 本件は、歯科医師である審査請求人Xが、治療の過程で収集した除去冠等の売却代金を事業所得に係る総収入金額及び消費税の課税売上げに算入せずに確定申告をしたところ、原処分庁が、上記売却代金の不算入に関してXには事実の隠蔽があるなどとして、所得税等及び消費税等の更正処分並びに重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、Xが、事実の隠蔽はないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2)裁決要旨(棄却)

① Xは、治療の過程で発生した撤去冠や除去冠等の歯科用金属スクラップ(本件合金等)の回収を回収業者に依頼していた。本件合金等の売却回数は多くないものの、取引金額は相応の額であり、取引明細書の控えには歯科医院のゴム印が押印され、支払報告書のうち直近のものは医院内に保管されていた。そして、Xは、本件合金等の売却と共に事業上発生した産業廃棄物の処理も回収業者に依頼しており、当該処理費用を事業所得の計算上必要経費に算入していたことが認められる。
② 他方、Xにおいて本件各売却代金が事業収入に当たらないなどと考える合理的根拠もうかがわれない。加えて、Xは、本件調査の1回目の臨場調査の際に、治療の際に発生する除去冠等は患者本人から返却の申出があるためXが取り扱うことはない旨申述したのであって、かかる申述は明らかに事実に反するものであり、記憶違い等が生じるような事項でもないことからすると、Xは、意図的に虚偽の申述をしたものと認められる。
③ これらの事実を併せ考慮すると、Xは、本件各売却代金が事業収入であることを認識していたと推認される。更に、Xは、20年以上もの間、事業を行っており、関与税理士に確定申告書の作成を依頼するに当たっては、従来から日計表やその他の収支に関する資料を渡していたことからすると、日計表に日々の収入を記載しないと申告額に反映されないことも当然に認識していたと認めるのが相当である。
④ Xは、上記の認識のもと、本件合金等を回収業者に売却し、本件各売却代金を現金で受領していたにもかかわらず、本件各売却代金を除外して日計表を作成した上、回収業者から交付された支払報告書を廃棄したのであり、このようなXの行為は、国税通則法68条1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し」たことに該当するというべきである。