概要

 ブックメーカーから受け取ったスポーツ賭博(ベット)に係る払戻金は、基本、競馬の馬券の払戻金と一緒で一時所得に該当します。現状、雑所得と認められるのは、相当ハードルが高いといえます。

 「継続的かつ確実に利益を上げることができると客観的に評価し得る状況」「客観的にみて利益が上がると期待し得る状況」か、どうかがポイントとなります。

 つまり、高回数の取引を行いながら、回収率(賭け金の総額に対する払戻金の総額の割合)が100%を超え、年間を通じての収支で利益が出ている状況でないと、一時所得に該当すると課税庁にみなされる可能性が高いです。

 なお、払戻金に係る所得は一時所得に該当する場合、一時所得の金額の計算上総収入金額から控除することができるのは「的中べットの賭け金の額のみ」となります。つまり、「外れ賭け金の額」を総収入金額から控除することはできません。

 一方、雑所得に該当する場合には、総収入金額から「外れ賭け金を含む賭け金総額」を必要経費として控除することができます。

 東京地裁令和2年10月15日判決(税資270号-104(順号13464))・東京高裁令和3年8月25日判決(令和2年(行コ)226号)では、ブックメーカーから受け取ったスポーツ賭博に係る払戻金は一時所得に該当するとされましたが、判決文からはいろいろなことが読み取れます。

 争った納税者は年収500万円代のサラリーマンであり、突然、巨額の税金を払わないといけないことを知って、相当ビックリしたでしょう。

 この納税者は、スポーツ賭博を4年間やって、結局、儲かった年は1年もなく総額7,900万円の損失だったのですが、所得税について、4年分の納付すべき税額の総額(約2億1,000万円)及び無申告加算税(約2,700万円)・過少申告加算税(約1,000万円)となっています。その他に住民税がかかります。

 なお、課税庁の情報技術専門官(インターネット取引などの調査を行う)や電子商取引専門調査チーム(インターネット上の取引を監視する)は、インターネットを利用した取引をチェックしています。

 無申告の場合、突然、税務調査がやってきます。上述した東京地裁令和2年10月15日判決の認定事実として、以下の記載があります。

「本件調査担当者らは、本件調査の初日である平成27年8月18日午前9時頃、原告(納税者)の所得税に係る調査を行うため、事前通知をすることなく原告の自宅を訪れたが、原告は不在であった。原告の妻は、同日午前9時40分頃に再度訪れた本件調査担当者らの依頼を受けて、原告に電話をかけ、税務調査のための訪問があった旨を伝えた。
 同日午前10時頃に原告から電話を受けたH上席は、原告に対し、通則法74条の9第1項各号に規定する各事項を通知した上で、所得税の調査を行うため原告と面接したい旨を伝え、同日午後1時45分頃、本件調査担当者らは原告と面接した。
 本件調査担当者らは、原告に対し、『何か、インターネットで取引をしていませんか。』と尋ねたところ、原告から、ブックメーカーを利用してサッカー等の試合を対象とする賭けをしている旨の回答を受けたため、原告に対し、次回の面接時に、本件賭けの具体的内容が分かる資料を提示するよう依頼した。」

 今後、同様に、突然、税務調査が入り、申告・納税漏れを指摘される納税者は増えるでしょう。ただし、冒頭で書いた通り、争っても、納税者が勝てる可能性は極めて低いといえます。

情報技術専門官

その収入、申告の義務があります!~情報技術専門官の仕事~(国税庁動画チャンネル)https://www.youtube.com/watch?v=CRj0rhKOrJQ

ブックメーカーから受け取ったスポーツ賭博に係る払戻金は一時所得に該当するとされた事例-東京地裁令和2年10月15日判決(税資270号-104(順号13464))・東京高裁令和3年8月25日判決(令和2年(行コ)226号)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。

1 X(納税者)は、複数の海外ブックメーカー主催のスポーツ賭博(サッカーなどの試合が対象)にインターネットを介して賭け(本件賭け)を行い、その的中による払戻金(本件払戻金)を受領(平成24~平成27年の4年間)していたが、平成24年分から平成26年分は申告をせず、平成27年分は本件払戻金の一部を一時所得として申告していた。

 Y税務署所属のH上席国税調査官及び東京国税局所属のT情報技術専門官は、平成27年8月18日から平成28年3月3日までの間、Xの所得税に係る調査をしていた。その後、Xは、平成28年3月15日、平成27年分の所得税に係る確定申告をしたという経緯がある。

2 上記各ブックメーカーの回収率(賭け金に対する払戻金の割合)の平均は約94~98%であるとされているところ、本件賭けに係るXの回収率の平均は約97%で、外れ賭け金を含む収支では各年分とも損失が生じている。

3 Y(課税庁)は、本件払戻金に係る所得は一時所得に該当し、外れ賭け金は総収入金額から控除できないとして、上記各年分の更正・決定処分等を行ったところ、Xは、当該所得は雑所得に該当し、外れ賭け金も控除すべきとして、上記各処分の取消しを求めて訴を提起した。

〇本件賭けの収支の状況及び回収率は下図のとおりである。

平成24年平成25年平成26年平成27年
日数(及び回数)45日(323回)328日(3,734回)335日(4,009回)326日(4,433回)
賭け金総額約4,326万円約6億5,371万円約9億3,915万円約8億6,122万円
的中賭け金総額約1,896万円約3億6,487万円約5億2,742万円約4億7,960万円
払戻金総額約3,506万円約6億4,442万円約9億2,097万円約8億1,794万円
差引金額(的中べット
の掛け金との関係で)
約1,609万円約2億7,954万円約3億9,355万円約3億3,833万円
回収率(賭け金の総額に
対する払戻金の総額の割合)
約81.0%約98.5%約98.0%約94.9%
損益(払戻金総額-賭け金総額
(外れ賭け金を含む))
▲約819万円▲約929万円▲約1,817万円▲約4,328万円

(2)本件の主な争点

1 本件払戻金に係る所得は、一時所得又は雑所得のいずれに該当するか。
2 本件払戻金に係る所得の金額の計算上、外れ賭け金の額を総収入金額から控除することができるか否か。

(3)一審判決要旨(棄却)(控訴)

1 一般に、スポーツの試合の結果は、チームの強さや選手の能力のほか、試合当日の天候、チームの状態、出場選手の体調・調子、対戦チームとの相性、試合中のアクシデント、監督の采配及び審判の判定等の諸状況による影響を受けるため、多分に不確定で不確実な要素に左右されるものであるから、スポーツの試合の結果に関して賭けが的中するか否かについては、偶然の要素が強く働く。すなわち、スポーツの試合を対象とした賭けから得られる利益は、本来的に偶発的、単発的な性質を有するものであり、それゆえに、継続的かつ確実に利益を上げることが困難なものといえる。そして、賭けの参加者がこのような賭けを大量かつ継続的に行ったとしても、それだけでは、偶発的、単発的な利益が積み重ねられるにすぎないから、これをもって直ちに「営利を目的とする継続的行為」に当たると解することはできない。
 もっとも、賭けの参加者において、単に賭けを大量かつ継続的に行うにとどまらず、例えば、回収率が総体として100%を超え、年間を通じての収支で利益が得られるなど、継続的かつ確実に利益を上げることができると客観的に評価し得る状況に至った場合には、もはや、偶発的、単発的な利益の積み重ねにとどまるものではなく、利益の獲得を目指した目的的行為の性質を有するものとして、「営利を目的とする継続的行為」に当たるというべきである。

2 本件賭けは、①3年以上にわたり大量かつ継続的に行われ、賭けの回数及び賭け金額が増大したにもかかわらず、回収率の低下及び損失の増大が生じ、また、回収率が高いときでも平均的な回収率を若干上回る程度にとどまっていたこと、②賭けの方法については、相応の理論的根拠に基づくものでもなく、確実に利益を得ることができるものでもないことに照らせば、継続的かつ確実に利益を上げることができると客観的に評価し得る状況にないことからすると、「営利を目的とする継続的行為」とは認められず、本件払戻金に係る所得は、一時所得に該当する。

3 本件賭けは、年間を通じての収支で利益が得られるような方法で行われたものではないから、本件払戻金に係る収入を得るために外れ賭け金の支出が不可避であったということはできないことからすると、本件払戻金に関して「その収入を生じた行為をするため直接要した金額」又は「その収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」は、本件払戻金に個別的に対応する的中した賭け金というしかないから、本件払戻金に係る所得の金額の計算上、外れ賭け金を総収入金額から控除することは許されない。

(4)控訴審判決要旨(棄却)(上告受理申立て)

 控訴審は、一審判決の判断を引用及び補正し、要旨次のとおり判断して、Xの控訴を棄却した。

1 スポーツの試合の結果を対象とする賭けから得られる利益は、本来的に偶発的、単発的な性質を有するものであり、賭けの参加者が大量かつ継続的に賭けを行ったとしても、直ちに「営利を目的とする継続的な行為」には当たらない(一時所得)が、当該賭け行為が、客観的にみて利益が上がると期待し得る状況に至った場合には、その賭け行為は、利益の獲得を目指した目的的行為の性質を有するものとして「営利を目的とする継続的行為」に当たる(雑所得)といえる。

2 本件賭けは、①賭けの回数及び金額が増大したにもかかわらず、回収率の低下及び損失の増大が生じ、回収率が高いときもブックメーカーの平均回収率を若干上回る程度であったこと、②賭けの方法が具体的根拠に基づくものではないことからすれば、客観的にみて利益が上がると期待し得る状況であったとは認められず、「営利を目的とする継続的行為」(雑所得)には該当しない。

3 本件賭けは、年間を通じての収支で利益が得られるような一体の経済活動と評価できる方法で行われたものとはいえないから、本件払戻金に係る収入を得るために外れ賭け金の支出が必要であったということはできない。