概要

 土壌汚染による人の健康への対策の確立など、土壌汚染対策に関する法制度の制定についての社会的要請が強まり、土壌汚染対策法(以下「対策法」という。)が平成15年(2003年)に制定されました。

 対策法によれば、土壌汚染により健康被害が生ずるおそれがあり、土壌の汚染状態が指定基準を超過したと都道府県知事が認める場合(対策法5)は、汚染の除去等の措置が必要な区域を要措置区域として都道府県知事が指定・公示することになります(対策法6)。

 また、土地の所有者等による自主調査において土壌汚染が判明した場合には、土地の所有者等自身が都道府県知事に区域の指定を申請することもできます(対策法14)。

 そして、要措置区域内の土地の所有者等は、都道府県知事の指示に係る汚染除去等計画を作成し、確認を受けた汚染除去等計画に従った汚染の除去等の措置を実施し、報告を行います(対策法7)。

 なお、都道府県知事は、汚染除去等計画の提出をした者が当該汚染除去等計画に従って実施措置を講じていない場合は、その者に対し、当該実施措置を講ずべきことを命ずることができます。

 そのため、多額の汚染除去費用を要する場合には、当然、土地の価格にも影響を与えることになります。

 ところで、相続税法22条は、相続等によって取得した財産の価額を「時価」によることとしているが、この「時価」については、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常取引される価額」すなわち「客観的交換価値」であると一般的に解されています。

 しかし、「時価」といえ「客観的交換価値」とあるといっても、それらが一義的に明確でないため、課税の実務では、多くの判決が容認しているように、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)が定める評価方法(評価額)に合理性が求められる限り、当該評価方法(評価額)によって評価しても相続税法22条が許容するところと解されています。

 よって、相続財産の評価に当たっては、評価通達に定められた評価方法によって画一的に評価することが相当でありますが、評価通達1の(3)は、相続財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮する旨定めています。

 そして、土壌汚染地の評価に当たり、土壌汚染がないものとした場合の評価額から、浄化・改善費用相当額を控除することができるか否かについては、評価通達に特に定めはないものの、「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」(資産評価企画官情報第3号、資産課税課情報第13号。以下「本情報」という。)のとおり、課税実務においては、浄化・改善費用相当額(工事見積額の80%相当額)を控除して評価する取扱いが認められているところ、この課税実務における当該取扱いは、評価通達1の(3)の定めに照らし、合理的なものであると認められています。

 本情報では、土壌汚染地の評価方式については、「原価方式」・「比較方式」・「収益還元方式」の3つの評価方式を挙げていますが、比較方式・収益還元方式は、現段階では標準的な評価方法とすることは難しいとし、原価方式を基本的な評価法としています。

〇原価方式
(土壌汚染地の評価額)=(汚染がないものとした場合の評価額)-(浄化・改善費用に相当する金額)-(使用収益制限による減価に相当する金額)-(心理的要因による減価に相当する金額)

 「浄化・改善費用」とは、土壌汚染対策として、土壌汚染の除去等の措置を実施するための費用をいいます。汚染がないものとした場合の評価額が地価公示価格レベルの80%相当額(相続税評価額)となることから、控除すべき浄化・改善費用についても見積額の80%相当額を浄化・改善費用とするのが相当とされています。

 なお、浄化・改善方法については、現段階では、様々な手法、技術等が研究されている状態であり、標準的な手法、技術等が確立されていません。したがって、標準的な浄化・改善方法に基づき、これに要する費用相当額を定めることができないので、当面は、土壌汚染対策法5章に規定している指定調査機関の見積もった費用により計算せざるを得ない(複数の調査機関の見積もりをとることが望ましい。)と考えられています。

 指定調査機関は、土壌汚染状況調査等を実施することのできる唯一の機関(令和4年7月6日現在の指定調査機関数は全国で688件)ですが、その一方で、指定調査機関は、土壌汚染状況調査等を行うことを求められたときは、正当な理由がある場合を除き、遅滞なく、土壌汚染状況調査等を行わなければならない義務が課されています。

 なお、法に基づいて調査の義務が生じるもの以外の調査を実施する場合は、必ずしも指定調査機関の指定を受けている必要はありません。

 次に、「使用収益制限による減価」とは、上記の措置のうち土壌汚染の除去以外の措置を実施した場合に、その措置の機能を維持するための利用制限に伴い生ずる減価をいい、また、「心理的要因による減価(「スティグマ」ともいう。)」とは、土壌汚染の存在(あるいは過去に存在した)に起因する心理的な嫌悪感から生ずる減価要因をいいます。

 ただし、「使用収益制限による減価」、「心理的要因による減価」とも、取引の実例はほとんどなく、当面は、個別に検討せざるを得ないと考えられており、令和元年11月12日裁決(裁事117集)や令和3年12月1日裁決(裁事125集)といった浄化・改善費用相当額を控除すべきとした事例において検討されていません。

 ですから、一般的に、「土壌汚染地の評価額」は、「汚染がないものとした場合の評価額」から「指定調査機関の見積もった浄化・改善費用に相当する金額」を控除した金額と考えられます。

 また、「指定調査機関の見積もった浄化・改善費用に相当する金額」が「汚染がないものとした場合の評価額」を超えるときには、その価額(汚染がないものとした場合の評価額)を限度とするのが相当となります。 

土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)-1土壌汚染地の評価(平成16年7月5日、資産評価企画官情報第3号、資産課税課情報第13号)

 土壌汚染対策法が平成15年2月15日から施行され、今後、土壌汚染地であることが判明し、相続税等の課税上、問題となる事例が生ずることが考えられることから、土壌汚染地の評価方法の基本的な考え方を取りまとめることとした。

1 土壌汚染対策法の施行及びその概要

 企業の工場跡地の再開発等に伴い、重金属、揮発性有機化合物等(特定有害物質)による土壌汚染が判明する場合が生じている。この土壌汚染を放置すれば、汚染された土壌を直接摂取したり、汚染された土壌から有害物質が地下水に溶け出し、その地下水を飲用することなどにより、人の健康に影響を及ぼすことが懸念される。

 このため、土壌汚染による人の健康への対策の確立など、土壌汚染対策に関する法制度の制定についての社会的要請が強まり、土壌汚染対策法(平成14年法律第53号、平成15年2月15日施行)が制定された。

 土壌汚染対策法の下では、次に掲げることなどの措置がとられることになる。
① 都道府県知事は、土壌の汚染状態が基準に適合しない土地について、その区域を指定区域として指定・公示するとともに、指定区域の台帳を調製し、閲覧に供する(土壌汚染対策法5、6)。
② 都道府県知事は、指定区域内の土地のうち、土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれがあると認めるときは、土地の所有者等に対し、有害物質の除去、拡散の防止その他の汚染の除去等の措置を命ずる(土壌汚染対策法7、参考1を参照)。

2 土壌汚染地の評価方法

(1) 土壌汚染地の評価方法(基本的な考え方)

 平成14年7月3日付の「不動産鑑定評価基準」の改正(平成15年1月1日施行)により、不動産鑑定士が鑑定評価を行う場合は、土壌汚染の状況を考慮すべきこととされているが、現在のところ、標準となる鑑定評価の方法は公表されていない。

 そこで、米国における土壌汚染地の鑑定評価を参考にすると、①原価方式、②比較方式及び③収益還元方式の3つの評価方式がある。これらのうち、②比較方式は、多数の売買実例が収集できるときには、評価上の基本的な方法であると考えられるが、土壌汚染地の売買実例の収集は困難であり、③収益還元方式についても、汚染等による影響を総合的に検討した上で純収益及び還元利回りを決定することは困難であるので、②及び③のいずれの方式についても現段階において標準的な評価方法とすることは難しいと考えられる。

 一方、①原価方式は「使用収益制限による減価」及び「心理的要因による減価」をどのようにみるかという問題はあるものの、「汚染がないものとした場合の評価額」及び「浄化・改善費用に相当する金額」が把握できることからすると、土壌汚染地の基本的な評価方法とすることが可能な方法であると考えられる。

 なお、相続税等の財産評価において、土壌汚染地として評価する土地は、「課税時期において、評価対象地の土壌汚染の状況が判明している土地」であり、土壌汚染の可能性があるなどの潜在的な段階では土壌汚染地として評価することはできない。

① 原価方式

土壌汚染地の評価方法

(注)1 「浄化・改善費用」とは、土壌汚染対策として、参考1に掲げる土壌汚染の除去、遮水工封じ込め等の措置を実施するための費用をいう。汚染がないものとした場合の評価額が地価公示価格レベルの80%相当額(相続税評価額)となることから、控除すべき浄化・改善費用についても見積額の80%相当額を浄化・改善費用とするのが相当である。
2 「使用収益制限による減価」とは、上記1の措置のうち土壌汚染の除去以外の措置を実施した場合に、その措置の機能を維持するための利用制限に伴い生ずる減価をいう。
3 「心理的要因による減価(「スティグマ」ともいう。)」とは、土壌汚染の存在(あるいは過去に存在した)に起因する心理的な嫌悪感から生ずる減価要因をいう。
4 汚染の浄化の措置等については、評価時期において最も合理的と認められる措置によることとする。なお、各控除額の合計額が汚染がないものとした場合の評価額を超えるときには、その価額(汚染がないものとした場合の評価額)を限度とするのが相当である。

② 比較方式
 対象地の土壌汚染と類似の汚染影響がある土地の売買実例を収集し、これに比較準拠する方式

③ 収益還元方式
 土壌汚染地の評価額=純収益÷還元利回り
(注) 土壌汚染地については、純収益の計算上、通常の賃料よりも低い賃料を想定せざるを得ず、また、汚染により一般の入居率が維持できないこと、環境モニタリング費用等の別途の経費が生ずる場合があることを考慮する。さらに、還元利回りの査定に当たり、土壌汚染による影響リスクをプレミアムとして利回りに反映させる必要があるとされている。

(2) 浄化・改善費用の取扱い

イ 土壌汚染地を評価する場合、どのような措置(除去、遮断封じ込め、遮水工封じ込めなど)を採るかによって負担する浄化・改善費用が大きく異なり、また、選択した措置に伴い生ずる使用収益制限の内容も変わることから、選択した措置により評価額に大きな影響を及ぼすことになる。

ロ 汚染の除去等の措置は、本来ならば、指定区域から解除される有害物質の除去措置を選択することが望ましいと考えられる。しかし、土壌汚染対策法に基づく汚染の除去等の措置については、
① 基準を超える汚染が確認された場合に、直ちにその土地所有者等に除去命令が出されるものではなく、都道府県知事が汚染状況や措置の技術的な実施可能性等を踏まえ、有害物質が他へ流出することがないよう適切に管理することが可能な措置を命じることになっていること(参考1)
② 除去措置を行わないと土壌汚染地が全く利用できないともいえないことから、合理的な経済人であれば、封じ込め等の措置費用とその措置後の使用収益制限等に伴う土地の減価の合計額が除去措置費用よりも安価である場合、封じ込め等の措置を選択するのが一般的であると考えられる。例えば、汚染の封じ込め措置を行う土地については、一定の使用収益制限があり、掘削工事を伴うマンション等の堅固な建物の建築はできないものの、駐車場や資材置き場等として使用することができる場合が多いと考えられる。

ハ しかし、封じ込め等の措置費用とその措置後の使用収益制限等に伴う土地の減価の合計額が除去措置費用を上回るような場合には、その選択する措置は、除去措置となるものと考えられる。
 以上のことからすると、土壌汚染地について行われる措置は、法令に基づく措置命令、浄化・改善費用とその措置により生ずる使用収益制限に伴う土地の減価とのバランスを考慮し、その上でその土地について最有効使用ができる最も合理的な措置を専門家の意見をも踏まえて決めることになると考えられる。

ニ なお、浄化・改善方法については、現段階では、様々な手法、技術等が研究されている状態であり、標準的な手法、技術等が確立されていない。したがって、標準的な浄化・改善方法に基づき、これに要する費用相当額を定めることができないので、当面は、土壌汚染対策法第13条に規定している指定調査機関の見積もった費用により計算せざるを得ない(複数の調査機関の見積もりをとることが望ましい。)と考えられる。
(注)1 環境大臣が指定する指定調査機関(平成16年5月17日現在、1,485機関を指定)の最新情報は、環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/water/dojo/kikan/index.html)にて公表されている。
2 上記(1)の算式を適用する場合において、除去措置済みであれば、使用収益制限がなくなるため、使用収益制限による減額はなく、心理的要因による減価のみとなる。

(3) 使用収益制限による減価の取扱い

 土壌汚染地に対する措置が、例えば、遮水工封じ込め措置(汚染土壌をその土地から掘削し、地下水の浸出を防止するための構造物を設置し、その構造物の内部に掘削した汚染土壌を埋め戻す措置)である場合には、その措置の効果を維持するために遮水機能等を損ねない範囲の土地利用しかできないことになる。

 このため、封じ込め等の措置後の土地には、一般に使用収益制限が生ずることになると考えられるが、この使用収益制限については、取引の実例がほとんどない中で一定の減価割合(減価に相当する金額)を定めることができないことから、当面は、個別に検討せざるを得ないと考えられる。

(4) 心理的要因による減価の取扱い

 心理的要因による減価(スティグマ)については、これまで、その減価の割合等が公表されたことはなく、一般に数値化することも困難であり、取引の実例もほとんどないことから、それを基に標準化することも困難である。

 また、措置の内容(除去措置済み、又は封じ込め等の措置済み)に加えて措置前か措置後かによっても減価の程度が異なり、さらに、措置後の期間の経過によっても減価の程度が逓減していくとも考えられていることから、一律に減価率を定めることも相当ではない。したがって、当面は、個別に検討せざるを得ないと考えられる。

3 その他

(1) 浄化・改善費用の額が確定している場合の取扱い

 課税時期において、①評価対象地について都道府県知事から汚染の除去等の命令が出され、それに要する費用の額が確定している場合や②浄化・改善の措置中の土地で既に浄化・改善費用の額が確定している場合には、その浄化・改善費用の額(課税時期において未払いになっている金額に限る。)は、その土地の評価額から控除するのではなく、相続税法第14条に規定する「確実な債務」として、課税価格から控除すべき債務に計上し、他方、評価対象地は浄化・改善措置を了したものとして評価するのが相当である。

 これは、課税時期において既に浄化・改善措置を実施することが確実であることから、その確実な債務に該当する金額を相続税における債務控除額とし、また、土地の価額は、課税時期において土壌汚染地ではあるものの、いずれ浄化・改善措置後の土地となることが確実と見込まれることから、その復帰価値により評価するのが相当であるとの考え方によるものである。

 なお、都道府県知事から汚染の除去等の命令が出された場合は、指定支援法人(平成16年2月末時点では、財団法人日本環境協会が指定支援法人に指定されている。)から、汚染の除去等の措置を講ずる者に対して助成金が交付される場合がある(土壌汚染対策法21一、助成金を受けようとする基準については、参考2を参照)。この場合には、課税価格から控除する確実な債務の金額は、債務控除の対象となる浄化・改善費用の金額から助成金の額を控除した金額となるのが相当と考えられる。

(2) 措置費用を汚染原因者に求償できる場合の取扱い

 土地所有者以外の者が汚染原因者である場合において、土地所有者がその汚染の除去等の措置を行ったときには、その汚染の除去等の措置に要した費用を汚染原因者に請求することができることとされている(土壌汚染対策法8①)。

 このため、被相続人が土壌汚染地の浄化・改善措置を行い、汚染原因者に除去費用等の立替金相当額を請求している場合には、その土地は浄化・改善措置後の土地として評価し、他方、その求償権は相続財産として計上することに留意することが必要である。

 なお、求償権の評価に当たっては、除去費用等の立替金相当額を回収できない場合も想定され、その回収可能性を適正に見積もる必要があることから、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)204(貸付金債権の評価)、205(貸付金債権等の元本価額の範囲)に準じて評価するのが相当と考えられる。

(注) 別途、土地所有者が汚染原因者に対して損害賠償請求を行っている場合には、その損害賠償請求権も相続財産に該当することに留意する(民709、評基通210)。

(3) 土壌汚染地の評価方法の準用

 土壌汚染対策法のほかに、条例等により土壌汚染の調査・対策を義務付けている地方公共団体も存在する。

 例えば、東京都においては、平成12年に都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年東京都条例第215号、平成13年4月1日施行)を制定することにより、平成13年10月から有害物質取扱事業者や土地開発事業者に対して、次のような場合に土壌汚染の調査を行うこととし、基準値を超える土壌汚染が判明した土地には、汚染拡散防止措置(除去もしくは封じ込め)を行うことを義務付けている。

① 工場若しくは指定作業場を廃止し、又は当該工場若しくは指定作業場の全部若しくは主要な部分を除却しようとする場合(条例116)
② 3,000平方メートル以上の土地の改変(土地の切盛り、掘削、その他土地の造成又は建築物又はその他の工作物の建設その他の行為に伴なう土地の形質の変更)を行う場合(条例117)

 また、ダイオキシン類対策特別措置法により、ダイオキシンが一定基準を超えて存在することが判明した場合にも、除去を義務付けている。

 このような条例等により土壌汚染の調査・対策が義務付けられている場合において、土壌汚染が判明した土地についても、これまで述べた土壌汚染地の評価方法に準じて評価して差し支えないと考えられる。

(注) 土壌汚染対策法の施行後、土壌汚染対策法と条例等がともに適用される場合のほか、条例等のみの適用となる場合も考えられる。

東京国税局課税第一部 資産課税課 資産評価官「資産税審理研修資料(産業廃棄物が存する土地の評価)」(平成17年7月作成)

質問

 相続により取得した土地(以下「本件土地」という。)について、相続税納付のため不動産業者に売却したところ、本件土地中に産業廃棄物が存することが判明した。
 そこで、不動産業者からの要求により、除去費用(3,000万円)を負担したが、当該除去費用を本件土地の評価額から減額できるか。

 本件土地については、課税時期において、産業廃棄物が地中に埋まっていたのは明らかであるから、土壌汚染地の評価方法に準じて(平成16年7月5日付「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」)評価するのが相当である。

【理由】
 産業廃棄物が埋設されている土地の評価方法については、これまで、財産評価基本通達又は質疑応答事例集において、この取扱いを明らかにしたものはない。
 しかしながら、産業廃棄物が埋設されている土地は、地中に物が埋まっていることにより利用制限が生じることやこの利用制限をなくすには一定の除去措置が必要である点において、土壌汚染地と状況が類似していると考えられることから、土壌汚染地の評価方法に準じて評価するのが相当である。
 したがって、本件土地の評価額は、産業廃棄物がないものとした場合の評価額から産業廃棄物除去費用を控除して求めることになるが、その除去費用は、相続税評価額の評価水準が公示価格の80%相当額であることから、実際の支出額の80%相当額(3,000万円×80%=2,400万円)とするのが相当である。
 なお、相続税等の財産評価において、産業廃棄物が埋設されている土地とは、「課税時期において、産業廃棄物が埋設されていることが判明している土地」であり、埋もれている可能性があるなどの潜在的な段階では、個別に斟酌することはできない。
 また、産業廃棄物除去費用については、原則として、実際の除去費用相当額とし、見積書等によったものについては、その内容について吟味するとともに、近隣の産廃業者から聴取等を行い、合理的な除去費用を算定する必要がある。

令和元年11月12日裁決(裁事117集)判断要旨

 原処分庁は、本件土地の評価につき控除すべき土壌汚染の浄化費用に相当する金額は、請求人らが実際に負担した土壌汚染対策工事費用の金額の80%相当額とすべきであり、実額が明らかである以上、請求人らが主張する土壌汚染対策工事費用の見積金額の80%相当額を減額することは相当でない旨主張する。

 しかしながら、当該実額は本件土地に新築する建物の建築業者に同建物の建築工事と本件土地の土壌汚染対策工事を並行して行わせることにより、重複工事部分の費用を節減させて行うという事情の下における土壌汚染対策工事費用の金額であるから、本件土地の評価につき、減額する金額として相当でない。そして、請求人らの主張する土壌汚染対策工事費用の見積金額は公正に算出された適正なものと認められるから、本件土地を評価するに際し減額すべき土壌汚染の浄化費用の金額は当該見積金額の80%相当額とすることが相当であって、原処分の一部を取消すべきである。

土壌汚染のある土地と認められ、当該評価対象地の評価に当たり、浄化・改善費用相当額を控除すべきとされた事例-令和3年12月1日裁決(裁事125集)判断要旨

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① L(以下「本件被相続人」という。)は、平成28年1月某日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の長男である請求人X及び長女であるMの2名である。
② X及びMは、平成23年12月16日付の遺言公正証書に基づき、Lが所有していた別表の順号1ないし3の土地(以下、順に「本件1土地」ないし「本件3土地」という。)をXが、同表の順号4の土地(以下「本件4土地」といい、本件1土地ないし本件4土地を併せて「本件各土地」という。)をMが、それぞれ本件相続により取得した。
③ 本件各土地は、いずれも、土壌汚染対策法6条1項に規定する要措置区域に存しない。
④ L又はXは、本件各土地に係る土地区画整理事業が施行された際に、土壌汚染が懸念される土砂によって埋め立てられたと想定されたことなどから、本件各土地の土壌汚染の状況等を把握する目的で、指定調査機関であるN社に対して、調査を依頼した。その結果、本件各土地の全てから土壌汚染対策法所定の基準を超える特定有害物質が検出された。
⑤ L又はXは、本件各土地について、土壌汚染対策法14条1項の規定による都道府県知事に対する要措置区域の指定の申請を行っていない。
⑥ Xは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁Yに提出して、期限内申告をした。
 なお、Xは、本件申告書において、本件1土地及び本件2土地を8億3,931万円余、本件3土地を1億8,578万円余、本件4土地を1億6,997万円余と評価し(いずれも土壌汚染がないものとした価額)、X及びMの取得財産の価額の合計額の算出において、「土壌汚染控除」として、Xからは3億8,361万円余を、Mからは1億1,473万円余を、それぞれ控除した。
⑦ Yが、土壌汚染対策法に規定する汚染の除去等の措置を講ずることが必要な区域に指定等がされていないため、浄化・改善費用の負担が確実に発生するとはいえないとして令和2年5月29日付で更正処分等を行ったことに対し、Xが、当該更正処分等の全部の取消しを求めた。
⑧ Xは、Q社、R社に対して土壌汚染対策工事の見積依頼をしていたが、その金額(以下「本件各見積額」という。)は以下であった。
 令和3年4月6日付のQ社作成の本件1土地及び本件2土地に係る見積書には、4億656万円(消費税等抜き)が記載されていた。なお、令和2年12月25日付のXの審査請求の後の見積もりである。
 また、平成28年3月14日付の指定調査機関であるR社作成の本件3土地に係る見積書には6,750万円(消費税等抜き)、本件4土地に係る見積書には1億6,600万円(消費税等抜き)が記載されていた。
 本件各見積額を算定したQ社及びR社は、いずれも土壌汚染対策工事の分野に精通した業者であり、Xと人的又は資本的関係はない。
 本件各見積額は、いずれも、指定調査機関であるN社による土壌汚染の調査結果を踏まえて、汚染土壌を掘削除去する方法を前提として算出された金額である。

(2)争点

 本件各土地の価額はいくらかであるかだが、具体的には、本件各土地の評価に当たり、土壌汚染がないものとした場合の評価額から、浄化・改善費用相当額を控除することができるか否かである。

(3)裁決要旨(全部取消し)

① Yは、評価対象地(本件各土地)は法令等により土壌汚染の除去等の措置を講ずる義務が生じておらず、本件各土地の価格形成に影響を及ぼすような土壌汚染は認められないから、本件各土地の評価に当たり、土壌汚染がないものとした場合の評価額から浄化・改善費用相当額を控除する必要はない旨主張する。
 しかしながら、本件各土地には、本件相続開始日において、いずれも土壌汚染対策法所定の基準を超える特定有害物質が地中に含有されていたことが認められ、土壌汚染のある土地と認めるのが相当であることから、本件各土地の評価に当たり、浄化・改善費用相当額を考慮すべきである。
② 本件各見積額は、土壌汚染対策工事の実績を有し、その分野に精通しているQ社及びR社により見積もられたもので、汚染の掘削除去を前提としたものであるところ、当審判所の調査の結果によっても、その前提となる浄化・改善方法の選定及び各見積額の算定過程のいずれについても特段不合理なところは見当たらない。
 そうすると、本件各見積額は、本件各土地について最有効使用ができる最も合理的な措置における浄化・改善費用の金額として、いずれも相当であると認められる。
③ 以上から、本件各土地の価額は、土壌汚染がないものとした場合の本件各土地の評価額から、本件各見積額(本件1土地及び本件2土地に係る見積額については、本件相続開始日に時点修正した金額)の80%相当額をそれぞれ控除して評価するのが相当である。