概要
本記事は、個人の株式譲渡益が原則として非課税とされていた時代の制度と、その制度の下で争われた裁判例・裁決例を解説するものです。以下の売買回数・株数の基準は、現在の課税・非課税や所得区分を判定するための数値基準ではありません。
現在の取扱いについては、株式等の譲渡益は何所得?譲渡所得・雑所得・事業所得の違いをご参照ください。
株式譲渡益が原則非課税だったのはいつまでか
昭和28年の税制改正では、株式等の譲渡所得に対する課税が廃止され、株式譲渡益を原則として非課税とする制度が設けられました。もっとも、継続的な売買による事業所得・雑所得などまで、一律に非課税とされたわけではありません(金融庁資料「金融所得課税の経緯①」、昭和36年3月2日参議院大蔵委員会における政府説明)。
この非課税制度には、証券市場の健全な育成などの政策的な背景がありました。また、所得税が原則非課税であった時代にも、別の税である有価証券取引税は課されていました。「株式取引には何の税金もなかった」という意味ではありません(同政府説明、昭和28年法律102による有価証券取引税法1)。
本記事で扱う制度の変遷は、次のとおりです。
| 時期・対象年分 | 制度の概要 |
|---|---|
| 昭和28年の税制改正 | 株式等の譲渡所得を原則非課税とする制度を導入。継続的取引などには課税 |
| 後掲の事例が対象とする昭和60~62年分 | 継続的取引とする数値基準は、年間50回以上、かつ、売買株数20万株以上 |
| 昭和63年分 | 数値基準を年間30回以上、かつ、売買株数12万株以上へ引下げ |
| 平成元年4月1日以後の譲渡 | 株式等の譲渡益について、原則非課税から原則課税・分離課税へ移行 |
数値基準の引下げは、昭和62年度税制改正によるものですが、適用は昭和63年1月1日以後の譲渡からです。改正年度と適用開始年を区別する必要があります(昭和62年政令356による旧所令26②の改正、東京地裁平成7年4月24日判決)。
また、原則課税への移行は、昭和63年の税制改正によるものです。平成元年3月31日以前の譲渡には旧制度が残され、同年4月1日以後の譲渡から新制度が適用されました(昭和63年法律109附則1三イ・リ、3、同法による改正後の措法37の10①)。
旧制度の「継続的取引基準」とは
非課税の例外として課税するための基準だった
旧制度では、有価証券の譲渡による所得を原則非課税としながら、継続的な売買による所得などを非課税の対象から除いていました。そのため、株式の売買が営利を目的とする継続的な取引に当たるかどうかが、課税・非課税の境界として重要な意味を持っていました(旧所法9①十一イ、旧所令26)。
旧所令26①は、売買の回数・数量・金額、取引の種類、資金調達の方法、売買のための施設などの状況に照らして、営利を目的とした継続的行為と認められる取引を定めていました。これとは別に、同②は、一定の売買回数と株数を満たせば、継続的取引に該当するものとする数値基準を設けていました(旧所令26①②、大阪地裁平成8年8月28日判決)。
昭和60~62年分の事例に適用されたのは、「年間50回以上」と「売買株数20万株以上」の両方を満たす場合の基準です。どちらか一方だけを満たせばよいという規定ではありません。昭和63年分についても、「年間30回以上」と「売買株数12万株以上」の両方が必要でした(各年分に適用された旧所令26②、東京地裁平成7年4月24日判決)。
ただし、数値基準を下回れば、必ず非課税になるわけではありません。旧所令26①による実態判断や、継続的取引以外の課税対象に当たるかどうかも別途検討する必要がありました(旧所法9①十一、旧所令26①②)。
「売買回数」は売却回数だけではない
基準となるのは「売買」の回数であり、売却だけを数えるものではありません。証券会社を通じた通常の委託取引では、証券会社との委託契約の回数を基礎とし、売付けと買付けは区別して数えます(旧所基通9-15〔平成元年12月6日改正前〕、大阪地裁平成8年8月28日判決)。
例えば、一つの買付注文に基づく取引が、証券市場では何回かに分かれて成立することがあります。このような分割約定の回数を、そのまま投資家の売買回数にするのは相当ではないとされました。一方、別々の注文で買付けと売付けをすれば、通常、それぞれが回数に含まれます(同判決)。
実際の争いでは、注文伝票、注文伝票総括表、売買報告書、顧客勘定元帳などから、何個の委託契約があったのかを確認することが重要でした。
売買回数と非課税所得該当性を争った裁決例・裁判例
平成3年2月18日裁決|売買回数を41回と認定
この裁決は、昭和60年分の株式売買による所得が非課税になるかどうかを争ったものです。原処分庁は、売買株数が20万株以上で、売買回数も50回以上であるとして課税しました。これに対し、請求人は、売買回数は50回未満であると主張しました(名裁〔所〕平2第77号)。
審判所は、証券会社に委託した売買について、原則として委託契約ごとに1回と数える考え方を示しました。また、一つの委託契約に基づく取引であることが資料から明らかな場合には、市場で複数回に分かれて成立していても、それをそのまま複数回とはしませんでした(同裁決)。
証拠資料を検討した結果、注文伝票総括表の交付を受けていた取引が32回、交付を受けていなかった取引が9回で、合計41回と認定されました。売買株数は20万株以上でしたが、売買回数は50回未満であったため、この事案の所得は非課税とされ、更正と過少申告加算税の賦課決定が全部取り消されました(同裁決)。
この裁決から分かるのは、回数の判定では、約定や報告書の件数だけでなく、注文の実態を確認する必要があるという点です。「年間49回までなら必ず非課税だった」という一般的な結論を示したものではありません。
大阪地裁平成8年8月28日判決・大阪高裁平成11年4月8日判決|控訴審で回数と結論が変わった
この事件は、昭和60~62年分の株式取引について、売買回数の数え方や、家族名義の取引による所得が誰に帰属するかなどを争ったものです。第一審は大阪地裁平成8年8月28日判決、控訴審は大阪高裁平成11年4月8日判決です(第一審・平成2年〔行ウ〕第59・60・61号、税資220号346頁、控訴審・平成8年〔行コ〕第42号、税資242号28頁)。
両判決は、証券会社が市場で取引を成立させた回数ではなく、投資家と証券会社との委託契約の回数を基礎としました。また、注文内容の変更などについては、次のように判断しています(同各判決)。
| 注文に関する事情 | 判決の考え方 |
|---|---|
| 銘柄の変更、売付け・買付けの区分の変更、株数の増加、指値の変更など | 重要な要素の変更として、別個の委託契約とみる |
| 信用取引か現金取引かという取引種別の変更 | 控訴審は、仕組みや取引意思が異なるため、重要な要素の変更に当たるとした |
| 注文株数の減少 | 当初の注文の一部取消しにすぎず、株数を減らしたことだけで別個の委託契約が成立したとはみない |
| 同一日時に複数銘柄の売付け又は買付けを一括して注文 | 一つの委託契約とみる |
ただし、各取引への当てはめについては、控訴審で認定が変わりました。大阪高裁は、注文伝票の記載だけでなく、注文伝票総括表や納税者が作成したノートなどを総合して、注文から取引成立までの経過を検討しています。家族名義の取引を含め、本人に帰属する売買回数と結論は、次のとおりです(大阪高裁平成11年4月8日判決)。
| 対象年分 | 第一審の認定回数 | 控訴審の認定回数 | 控訴審の課税判断 |
|---|---|---|---|
| 昭和60年分 | 50回 | 48回 | この事案の株式売買による所得は非課税 |
| 昭和61年分 | 53回 | 52回 | 株数の基準と併せて課税対象に該当 |
| 昭和62年分 | 92回 | 92回 | 株数の基準と併せて課税対象に該当 |
昭和60年分については、控訴審で株式売買による所得が非課税とされ、これに対応する更正の一部と過少申告加算税の賦課決定が取り消されています。一方、昭和61年分・昭和62年分については、課税対象に該当するとの結論が維持されました(同判決)。
その後、最高裁平成11年11月9日第三小法廷決定により、上告が棄却され、上告受理申立ても受理されず、控訴審判決が確定しています。この決定は、売買回数の一般的な算定方法について、最高裁が改めて実体判断を示したものではありません(平成11年〔行ツ〕第176号・同年〔行ヒ〕第134号、税資245号194頁)。
広島高裁昭和58年8月31日判決|非課税取引の損失も通算できない
この事件では、昭和44年分の株式取引による損失を、他の所得と損益通算できるかが争われました。年間の売買株数は24万6,000株でしたが、委託契約を基礎に数えた売買回数は47回と認定されています(第一審・広島地裁昭和56年12月17日判決、昭和49年〔行ウ〕第1号、控訴審・広島高裁昭和58年8月31日判決、昭和57年〔行コ〕第1号、税資133号583頁)。
裁判所は、回数の数値基準を満たさないことに加え、取引や生活の実態も検討し、旧所令26①の営利目的の継続的取引に当たるとも認めませんでした。そのため、この取引による損失は非課税所得に係るものであり、所得税法上ないものとみなされ、事業所得の損失として他の所得から控除することはできないと判断しました。控訴審は第一審の判断を引用して控訴を棄却しています(同各判決、旧所法9②三)。
この事例が示すのは、旧制度では、非課税対象の取引について、利益が出れば非課税としながら、損失が出た場合だけ他の所得から控除するという扱いは認められなかったという点です。非課税取引の損失と、課税対象となる取引を雑所得に区分した場合の損失は、通算を認めない法的な理由が異なります。
継続的取引でも、必ず事業所得になるわけではなかった
旧制度では、「課税対象となる継続的取引か」と「その所得が事業所得か雑所得か」は、別の判断でした。売買回数・株数の数値基準は、継続的取引として課税するための基準であり、事業所得に該当するための基準ではありません(昭和55年11月3日裁決・裁事21集19頁)。
課税対象となる取引について事業所得と雑所得のどちらに区分するかは、損失の取扱いや青色申告に関わるため、別の争点となりました。
東京地裁昭和48年7月18日判決・最高裁昭和51年6月25日判決|所得区分は取引の実態で判断する
この事件では、昭和43年分の株式取引による損失が、事業所得の損失か雑所得の損失かが争われました。第一審は、旧所令26の継続的取引の課税要件を満たすことから、当然に事業所得になるわけではないとしました(東京地裁昭和48年7月18日判決・昭和46年〔行ウ〕第3号、税資70号637頁)。
事業性については、営利性・有償性、継続性・反復性、自己の責任と計算による企画遂行、投入した労力、人的・物的設備、取引の目的、職業や生活状況などを検討し、この事案の株式取引による損失は雑所得の計算上生じたものと判断しました(同判決)。
控訴審は、所得区分は当該年の取引実態から客観的に決まるのであり、納税者が後から自由に選択できるものではないとしました。最高裁も、雑所得の損失とした原審の判断を是認しています(東京高裁昭和49年8月29日判決・昭和48年〔行コ〕第43号、最高裁昭和51年6月25日第二小法廷判決・昭和49年〔行ツ〕第110号)。
大阪高裁昭和50年3月26日判決・最高裁昭和53年10月31日判決|設備等は総合判断の要素
会社経営を本務とし、その余暇に株式の信用取引を行っていた事案でも、取引の反復継続だけで事業所得になるかどうかが争われています。大阪高裁は、収益を継続して得られる可能性、会社経営と株式取引との関係、資金調達や設備、調査研究などの事情を総合し、この事案の取引は事業に当たらないと判断しました(大阪地裁昭和49年2月6日判決・昭和47年〔行ウ〕第52号、大阪高裁昭和50年3月26日判決・昭和49年〔行コ〕第8号)。
ただし、大阪高裁は、特別な資金調達手段、人的・物的設備、専門的な調査研究のそれぞれが、事業の成立に必ず必要となる要件であるとはしていません。これらは、事業としての社会的客観性を認められるかを総合判断するための要素とされています(同高裁判決)。
最高裁は、当該事実関係の下で事業に当たらないとした原審の判断を是認しました。「信用取引は常に事業にならない」「従業員や専用事務所がなければ必ず雑所得になる」と一般化することはできません(最高裁昭和53年10月31日第三小法廷判決・昭和50年〔行ツ〕第67号)。
昭和55年11月3日裁決|数値基準を満たすだけでは事業とはいえない
この裁決は、昭和51年分の株式取引が事業に当たるかどうか、また、その取引から生じた損失をどのように区分するかが問題となったものです(裁事21集19頁)。
審判所は、売買回数・株数について旧所令26②の基準を満たすことだけでは、事業と認めるには足りないとしました。取引の内容、人的・物的設備、資金の調達方法、取引に費やした労力、その人の社会的地位などを総合して判断し、この事案では事業に当たるとは認めませんでした(同裁決)。
その結果、株式取引による損失を、事業所得ではなく、雑所得を生ずる営利目的の継続的行為による損失とした原処分が適法とされました。「取引が多いこと」と「社会通念上の事業であること」を分けて判断した事例です(同裁決)。
東京地裁平成7年4月24日判決|多額の売買でも独立した事業経営とは認められなかった
この判決では、昭和61~63年分の株式等の売買について、非課税所得に当たるかどうかに加え、事業所得か雑所得かが争われました。納税者側は、多額・多数の取引を行っており、事業所得に該当すると主張しました(平成5年〔行ウ〕第129・130号、税資209号61頁)。
裁判所は、注文の内容や資料から、各年の取引が売買回数・株数の基準を満たしており、課税対象となる継続的取引に当たると判断しました(同判決)。
そのうえで、事業性については、会社勤務や他の事業のかたわらで売買していたこと、売買業務のための使用人を置いていなかったこと、通常の事業用帳簿を作成していなかったことなどを検討しました。そして、人的・物的設備を整えた独立の事業経営として売買業務を行っていたとは認められず、売却益は雑所得に該当するとしました(同判決)。
これは、当該事案の業務の実態を総合判断した結果です。使用人や専用事務所がなければ、どのような取引でも必ず雑所得になるという一律の要件を示したものではありません。また、この判決で所得区分の対象となったのは売却益であり、損失の損益通算だけを争った事例ではありません。
この事件は、東京高裁平成8年6月26日判決を経て、最高裁平成9年9月12日第二小法廷判決で上告が棄却されています。最高裁は、当該事実関係の下で原審の認定・判断を是認しています(平成8年〔行ツ〕第215号、税資228号542頁)。
関連判例:絵画取引を扱った東京高裁平成10年12月17日判決
営利目的の継続的な譲渡かどうかの判断枠組み
東京高裁平成10年12月17日判決は、平成3・4年分の絵画取引による所得が、譲渡所得か雑所得かを争った事件です。納税者は借入金を用いて多数の絵画を購入・保有し、繰り返し売買していました(平成10年〔行コ〕第128号、税資239号528頁、第一審・東京地裁平成10年6月23日判決、税資232号698頁)。
裁判所は、営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に当たるかどうかは、資産の譲渡の客観的な態様・状況から、経常的・計画的に生じる所得かどうかを判断するとしました。具体的な判断要素は、次のとおりです(同各判決、所法33②一)。
- 過去からの売買の回数、数量、金額
- 売買のための資金繰り
- 資産を取得した経緯や保有の状況
また、広告・宣伝や相当規模の保管施設があることは、経常的・計画的な譲渡であると推認する事情になり得ますが、それらがないことだけで、臨時的・偶発的な譲渡になるわけではないとしました。この事案の絵画取引による所得は、譲渡所得ではなく雑所得と判断されています(同各判決)。
本判決は、『譲渡所得・山林所得・株式等の譲渡所得等関係租税特別措置法通達逐条解説』の、株式等の所得区分を説明する措通37の10・37の11共-2の解説でも、参考判例として取り上げられています。株式の非課税判定を直接扱った判決ではありませんが、譲渡所得と事業所得・雑所得との区分を考える際の判断枠組みを示す関連判例として重要です(同逐条解説・37の10・37の11共-2解説〈参考判例〉)。
旧「30回・12万株」基準の適用・類推適用も否定した
この控訴審では、納税者が、旧所令26②の「年間30回以上かつ12万株以上」という基準を、絵画の売買にも適用又は類推適用すべきであると主張しました(東京高裁平成10年12月17日判決)。
これに対し、東京高裁は、まず、問題となった平成3年当時には当該規定が既に存在していなかったと指摘しました。さらに、当該規定は有価証券の譲渡による所得が非課税所得に当たるかどうかの基準であり、譲渡所得に当たるかどうかの基準ではないとして、納税者の主張を退けています(同判決)。
この判断からも、旧制度の数値基準を、そのまま所得区分の判定基準に読み替えることは適切ではないと分かります。また、絵画取引の判断を株式に機械的に当てはめるのではなく、株式等についての法令・通達上の取扱いと併せて検討する必要があります(所法33②一、措通37の10・37の11共-2)。
平成元年4月1日以後は、原則課税・分離課税へ移行
昭和63年の税制改正によって、平成元年4月1日以後の株式等の譲渡については、旧制度の原則非課税が改められ、原則として分離課税の対象とされました。導入当初は、申告分離課税を基本としつつ、一定の上場株式等について源泉分離課税を選択できる仕組みが設けられました(昭和63年法律109による改正後の措法37の10・37の11、財務省掲載『平成財政史―平成元~12年度』第4巻「租税」第2章第3節)。
したがって、平成元年4月1日以後の制度を説明する際に、かつての「50回・20万株」や「30回・12万株」を使って、課税されるかどうかを判断することはできません。
現在の通常の株式等の譲渡による所得は、非課税の特例などが適用される場合を除き、上場株式等・一般株式等の区分に応じた申告分離課税の対象です。事業所得又は雑所得に該当する場合も、給与所得などとの総合課税に変わるわけではありません(措法37の10①、37の11①、国税庁タックスアンサーNo.1463)。
また、現在は、通常の株式等の譲渡損失を、事業所得に区分したという理由だけで給与所得などと損益通算することはできません。旧制度の裁判例・裁決例を読む際には、所得区分についての判断と、当時の非課税制度・課税方式を区別する必要があります(措法37の10①、37の11①)。
現在の所得区分、必要経費、損失の取扱いについては、株式等の譲渡益は何所得?譲渡所得・雑所得・事業所得の違いで解説しています。
主な根拠資料・参考資料
本記事の「旧所法」「旧所令」「旧所基通」は、それぞれの取引に適用された当時の所得税法・所得税法施行令・所得税基本通達を指します。現在の同じ条文番号・通達番号の規定を指すものではありません。
- 旧所法9①十一、旧所令26①②。各年分の適用関係は、本文掲記の裁判例・裁決例も参照。
- 所得税法等の一部を改正する法律(昭和63年法律109)。原則課税への移行と経過措置。
- 金融庁資料「金融所得課税の経緯①」。昭和28年改正などの沿革。
- 昭和36年3月2日参議院大蔵委員会会議録・塩崎潤説明員発言。原則非課税の趣旨と継続的取引の扱い。
- 昭和63年10月13日衆議院税制問題等に関する調査特別委員会会議録・伊藤博行政府委員発言。昭和62年分・昭和63年分の数値基準。
- 財務省掲載『平成財政史―平成元~12年度』第4巻「租税」第2章第3節「所得税その2」。昭和末期の改正と分離課税への移行。
- 国税不服審判所「有価証券の継続的売買による所得」。昭和55年11月3日裁決(裁事21集19頁)の公表要旨。
- 平成3年2月18日裁決(名裁〔所〕平2第77号)。
- 大阪地裁平成8年8月28日判決(税資220号346頁)、大阪高裁平成11年4月8日判決(税資242号28頁)、最高裁平成11年11月9日第三小法廷決定(税資245号194頁)。
- 東京地裁昭和48年7月18日判決(税資70号637頁)、東京高裁昭和49年8月29日判決、最高裁昭和51年6月25日第二小法廷判決。
- 大阪地裁昭和49年2月6日判決、大阪高裁昭和50年3月26日判決、最高裁昭和53年10月31日第三小法廷判決。
- 広島地裁昭和56年12月17日判決、広島高裁昭和58年8月31日判決(税資133号583頁)。
- 東京地裁平成10年6月23日判決(税資232号698頁)、東京高裁平成10年12月17日判決(税資239号528頁)。
- 『譲渡所得・山林所得・株式等の譲渡所得等関係租税特別措置法通達逐条解説』37の10・37の11共-2解説〈参考判例〉。東京高裁平成10年12月17日判決を掲載。
- 国税庁:株式等の所得区分に関する通達(措通37の10・37の11共-2)。
- 東京地裁平成7年4月24日判決(税資209号61頁)、東京高裁平成8年6月26日判決(税資216号680頁)、最高裁平成9年9月12日第二小法廷判決(税資228号542頁)。TAINS Z209-7504・Z216-7744・Z228-7982。
- 国税庁タックスアンサーNo.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」。現在の課税方式。
昔の所得税法9条、所得税法施行令26条
昭和63年度税制改正前(平成元年3月31日以前の株式譲渡について)の所得税法9条では「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」とし、同条1項11号で「有価証券の譲渡による所得のうち、次に掲げる所得以外のもの」とし、原則、株式譲渡による所得は非課税とし、同号イ「継続して有価証券を売買することによる所得として政令で定めるもの」等一定の取引に該当した場合には、課税すると規定されていました。
所得税法9条1項11号イを受けて、所得税法施行令26条では以下のように規定されていました。
1 法第9条第1項第11号イ(非課税所得)に規定する政令で定める所得は、有価証券の売買を行なう者の最近における有価証券の売買の回数、数量又は金額、その売買についての取引の種類及び資金の調達方法、その売買のための施設その他の状況に照らし、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得とする。
2 前項の場合において、同項に規定する者のその年中における株式又は出資の売買が次の各号に掲げる要件に該当するときは、その他の同項に規定する取引に関する状況がどうかであるかを問わず、その者の有価証券の売買による所得は、同項の規定に該当する所得とする。
一 その売買の回数が50回(昭和63年以後は、30回)以上であること。
二 その売買をした株数又は口数の合計が20万(昭和63年以後は、12万)以上であること。
3、4項は省略
裁判例等の要旨
大阪地裁平成8年8月28日判決(税資220号346頁)要旨
所得税法9条1項11号イ(昭和62年法律第96号による改正前のもの)、同法施行令26条1項(昭和62年10月政令第356号による改正前のもの)によると、有価証券の譲渡による所得は、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得のみを課税の対象とし、営利を目的とした継続的行為か否かは、有価証券の売買の回数、数量、金額、取引の種類、資金の調達方法、売買のための施設その他の状況に照らして判断するものとされている。そして、同法施行令26条2項によると、当該年中における株式又は出資の売買の回数が50回以上であり、かつ、売買をした株数又は口数の合計が20万以上である場合には、その他の同条1項に規定する取引に関する状況がどうであるかを問わず、右売買による所得は、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得に該当するものとされている。
平成3年2月18日裁決(名裁(所)平2第77号)要旨(昭和60年分所得税)
証券会社に委託して株式の売買を行った場合における株式の売買回数は、証券会社との間の委託契約ごとに1回と計算するのが相当であり、当該委託契約の内容につき、値段の変更など重要な要素の変更が行われたときは、当該変更の時において別個の委託契約が締結されたものとして売買回数を計算する。
証券会社に委託して行う株式の売買が証券会社との間の一の委託契約に基づいて行われたものであるかどうか明らかでない場合には、証券会社から交付を受けた売買報告書に記載されている取引ごとに1回とすることとする。ただし、同一銘柄につき同一日付で交付を受けた売買報告書が2以上ある場合においては、その日の当該銘柄に係る取引は、売買報告書の数のいかんにかかわらず、売付け又は買付けの別にそれぞれ1回と計算することが相当である。
証券会社との間の一の委託契約に基づいて行われたことが明らかな売買、例えば、委託の際に証券会社が交付した総括表に記載されている内容に従って行われた売買は、証券会社との間の一の委託契約に基づいて行われた売買であることが明らかであるから、当該総括表により売買回数を計算することとなる。この場合、当該総括表に記載されている同一銘柄に係る取引が2回以上にわたって行われた場合には、当該銘柄に係る売買報告書に、その内出来である旨の表示がされることになっており、この表示がされているものについては、当該総括表に基づく売買回数を1回と計算するのが相当である。
当審判所の調査したところに基づき判断すると、総括表の交付を受けている株式の売買回数は計32回、総括表の交付を受けていない株式の売買回数は計9回となり、請求人の株式売買回数は計41回と認められる。したがって、請求人の売買株数は20万株以上であるが、売買回数は50回未満となるので、請求人の株式の売買による所得は所得税法施行令第26条第2項の規定の要件に該当せず、所得税法第9条第1項第11号イの規定により非課税所得となり、更正は違法であるから、その全部を取り消すべきである。
東京高裁平成10年12月17日判決(税資料239号528頁)要旨
ある資産の譲渡による所得が「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得」に当たるか否かの判断に当たつては、その者の行っている資産の譲渡の客観的な態様・状況からみて経常的、計画的に発生する所得か否かを判断すべきであり、具体的には、①譲渡人の既往における資産の売買回数、数量又は金額、②売買のための資金繰り、③当該譲渡に係る資産の取得及び保有の状況等を総合して判断するのが相当である。
各事実を総合的に判断すれば、納税者Xは、多数の絵画を銀行からの借入金によつて購入、保有し、多数回にわたつて売買し、また、現実にも、多額の譲渡益を生じていることからして、本件絵画の売買は、「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」に該当するものというべきである。したがつて、本件絵画の売買による所得は法33条2項1号に定める「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得」に該当し、譲渡所得には該当しないというべきである。
Xは、前記の①ないし③の要素に加え、④広告と宣伝の有無、⑤諸施設の規模等も判断要素として考慮すべきであり、これらの要素を検討すれば、本件絵画の売買が「営利を目的」とするものでないことは明らかであり、右売買による所得は譲渡所得に該当する旨主張する。しかしながら、広告・宣伝を行い、又は相当規模な保管施設等を設けて行われた資産の譲渡は、経常的・計画的に行われたものであることを推認する事実となり得るが、広告・宣伝を行わず又は保管施設等を設けていないからといつて、直ちに資産の譲渡が臨時的・偶発的に行われたものであるということにはならないというべきである。
東京地裁昭和48年7月18日判決(税資70号637頁)要旨
本件株式取引における売買回数や売買株数は所得税法施行令26条2項に定める要件を大きく上廻つており、営利性有償性および継続性・反覆性が認められるけれども、原告は訴外会社の代表取締役として生活の資のほとんど大部分を同会社より得ていること、株式取引のための人的物的設備を設けておらず、証券会社の外務員の勧奨によつてこれを開始し、その助言によつて投機的目的のために行なつたものであり、自らの責任において企画をたてこれを遂行したり、あるいは相当程度の精神的ないし肉体的労力を用いたものとは思われないことなどの点から考えれば、本件株式取引は社会通念上いまだ事業と認めるに足りない。したがつて、本件株式取引によつて生じた損失は事業所得金額の計算上生じたものとは認められず、雑所得金額の計算上生じたものというべきであるから、その損益通算は許されない。
大阪高裁昭和50年3月26日判決(昭和49年(行コ)8号)要旨
株式等の取引行為が、所得税法上の事業に該当するか否かは、結局、一般社会通念に照らしてきめるほかないと思われるが、その判断に際しては、営利性・有償性の有無、継続性・反覆性の有無のほかに事業としての社会的客観性の有無が問われなければならず、この観点からは、当然にその取引の種類、取引における自己の役割、取引のための人的・物的設備の有無、資金の調達方法、取引に費した精神的、肉体的労力の程度、その者の職業・社会的地位などの諸点が、検討されなければならない。そして、事業としての社会的客観性が認められうるというためには、相当程度安定した収益を得られる可能性がなければならないと解される。
昭和55年11月3日裁決(裁事21集19頁)要旨
株式の取引が事業に当たるか否かは、一般社会通念に照らして判断するほかはないが、そのためには事業としての社会的客観性が問われるべきであり、この観点からすれば、その取引の種類、取引におけるその者の役割、取引のための人的、物的設備の有無、資金の調達方法その他諸般の状況等を総合勘案して判断すべきものであり、単に所得税法施行令第26条第2項各号に規定する株式の売買回数及び売買株数を充足しているだけでは足りず、株式のために投下若しくは動員された資金の額及び人的物的設備等が相当程度の規模によっていることを要すると解されるところ、請求人の株式取引のために費やした精神的、肉体的労力の程度、取引のための資金調達の方法、その人的、物的設備の組織的な利用状況、請求人の社会的地位等から判断して、本件の株式取引は事業に当たるとする社会的客観性を有しているものとは認められないので、当該株式取引から生じた損失の額を、雑所得を生ずべき営利を目的とした継続的行為から生じた損失の額と認定した原処分は適法である。
広島高裁昭和58年8月31日判決(税資133号583頁)要旨
本件有価証券の取引については、イ)年間売買回数は47回であること、ロ)従業員、事務所等の設備は設けていないこと、ハ)納税者1人でもつぱら投機的目的のために、日経新聞や証券会社のパンフレツトを参考にし、取引の注文は電話又は証券会社のセールスマンを通じて行つていたという程度のものであること、ニ)前2年分には、有価証券売買による所得の申告はしなかつたこと、ホ)納税者は、その生活の資を給与所得、事業所得及び不動産所得から経常的に得ていたこと、ヘ)青色申告の承認を得ていたが、有価証券取引について帳簿は備付けていなかつたことが認められ、右事実に照らすと、右有価証券取引によつて生じた損失は、非課税所得に係るものであつて、少くとも事業所得に係るものではないから、他の所得と損益通算することはできない。

